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株式会社SEES.ii

2018.03.08
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カテゴリ:ショートショート
ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
―――――

 50年ほど前、私は名古屋市に生を受けた。名古屋市と言っても広く、名駅から地下鉄に
乗って何駅か行った、商業ビルやマンションがゴチャゴチャと軒を連ねる一角だった。
 私は、桜通という道路に面した横長のビルの1階で、朝から夜まで、一日中、コーヒーを
飲む人々の話し声や笑い声が聞こえて来るような、木とレンガとオレンジ色で彩られた――
ひとつの喫茶店だった。

 それは――今思えば、無数の人々が私を利用し、私の前を通り過ぎ、やがて私の前から
消えていった証拠なのだろう。店内のテーブルやイスや廊下や壁には、いつのものかも
わからない、古いキズやシミが残っている。何度か繰り返された改装でも決して消えない、
それは……確かな記憶の財産なのだ。
 従業員は毎日、その木製のテーブルにコーヒーを置き続け、客はそれを飲み続けた。
朝にはモーニング・サービスとしてパンと卵を提供し、メニューが増え、ココアやコーラ
を飲む客もいた。そして誰も彼もが皆――……喜んだ。喜んでくれた。
 私には商売のことはわからなかったけれど、それでも、その1杯のコーヒーやパンが、
誰かの役に立ち、私を支えてくれるものだということはわかっていた。

 ……なぜ、人々は私の元へ足を運んでくれるのだろうか? 意味がわからなかった。
「どうしてコメダに来るのかって?」
 ある日、私は客同士の会話を聞いた。
 60代、70代はあろうかという高齢者の男は、躊躇わらずに言い切った。
「落ち着くし、居心地がイイからな」
 どうして落ち着くのか? どうして居心地がイイのか?
 私は心の中でもう一度だけ聞いた。
 けれど、当然ながら、もう客は答えなかった。私もそれ以上は聞かなかった。聞けば答え
を得られるわけではないし、もそもそ私の声など聞こえてもいないのだから。
 私は何も聞かなかった。聞くこともできなかった。けれど、直感した。
 ――私の元へ足を運ぶお客さんは、私に心の安寧を求めているのだ。だから、その手段の
ひとつとして、私は1杯のコーヒーを提供する……。
 きっとそうだ。だから毎日、私の中で働く従業員はコーヒーを淹れ続けているのだろう。
他とは違う、私だけが持つ価値を求めて……。


 ――しかし、それも永遠ではない。
 10年店に通った者が、ある日を境に突然いなくなることがある。頻繁に、ある。
 引っ越したのだろうか? 病に倒れたのだろうか? それとも、死んでしまったのだろうか?
 それも……まぁ、いい。一瞬でも、誰かに安寧を与えることができたのなら……。

 営業は続く――。

―――――

 episode01《ミルクコーヒー》

「……誰も引き受けてくれないの。それで、というわけでもないんだけど……加藤君、
引き受けてくれないかしら?」
 ある日、禁煙席の2人用テーブルで、グレーのパンツスーツを着た女性は対面する男の
目を見つめて言った。口元には薄い微笑みが浮かんではいたものの、その口調は事務的で、
やや高圧的な印象だった。
「……北京への長期出張、ですよね……」
 加藤と呼ばれた男は女性の大きな目を見つめ返した。女性の年齢は50代半ばであり、
加藤の年齢は30代前半、という印象だった。
「引き受けるのはかまいません。ただし……」
「ただし?」
 女性の顔から笑みが消えた。
「ひとつ、条件があります」
 加藤は淡いルージュの引かれた女性の唇や、いくつか白髪の混じった女性の長い髪を
見つめて言った。
「……条件て、何?」
 女性はやや眉間にシワを寄せ、厳しい視線で加藤を見つめ返した。「……教えなさい」
 加藤は真っすぐに女性の目を見つめ、笑わずに言った。
「……そのミルクコーヒー。僕に奢らせてください」
 一瞬、女性は驚いたように目を見開いた。それから――女性の顔に、さっきまでとは違う、
優しい微笑みが広がった。


 そんなやりとりがあってから、女性と加藤は頻繁に私の元を訪れるようになり、やがて
恋人同士になり……結婚の約束をした。縁談を取り持つのが私の仕事ではない。だが――
悪い気分ではない。

 ふたりが注文したミルクコーヒーの湯気を見つめる。
 できることならば、この先何年も何年も、見つめ続けていたいと思う。

 営業は続く――。

―――――

 episode02《クリームソーダ》

 ――午後22時30分。
 オーダーストップ間際に客が来る。客は中年の男で、噴水のあるカウンターに座り、
始めに出された冷水を一気に飲み干した。観察してみると男の風貌はかなりやつれていて、
髪はボサボサ、無精ヒゲがだらしなく生えていた。
「23時に閉店しますがよろしいですか?」と従業員が聞く。だが男は、「構わない」と
言う。注文を聞くと、男は《クリームソーダ》を注文した。
「クリームソーダ……で、よろしいですね?」
 再度、従業員が確認すると、男はムッとしたように「はいっ」と応えた。
「……少々、お待ちください」
 吐くように言い残し、従業員は席を離れた。
 そう……こういう客もいる、そういうことだ。

 
 ――雨が降り出した。風に運ばれた細かい水滴が禁煙席のガラスに、まるで水鉄砲を撃た
れたように付着し、雫になって流れ落ちていく。明日の朝までに止んでくれるといいのだが。
 従業員たちは閉店の準備を進めている。店外の照明を消し、新聞を片付ける。ゴミを捨て、
明日のため、テーブルの備品を整理する。店長がいつものようにレジの前でシメの作業を
進めていると、男の低い呻き声が聞こえたような気がした。
 カウンターでクリームソーダを飲む男を見る。
 そこには、ロングスプーンでクリームをすくい、涙を流しながら口に運ぶ、中年の男がいた。
「……なぜだ? ……なぜ? ……なぜ、俺が? ……俺が、いったい、何をした?」
 男は自問を繰り返し、大粒の涙を流し、ひたすらクリームを口に運び続けていた。

「……ちくしょう……ちくしょう…………甘いな……甘すぎるな……コレは……俺は……」
 この、容貌風采共に卑しそうな、一見すると浮浪者にも見えるようなこの男に、いったい、
何があったというのだろう? 男は……杞憂ではあるが、決して店内で暴れたり、大声で
号泣したりすることはなさそうだった。

 料金を頂戴したのち、私はしばらくの間、玄関から雨の降りしきる街の闇へ、消えゆく
男の背を見つめ続けた。その時、男がこちらを振り向いた。意識はしていないのだろうが、
私と目が合う。男の目は私に助けを求めているようにも見えるし、志を新たに覚悟を決めた、
そんな目をしているようにも見える。
 
 私にできることなど何もない。
 ――ただ、男がほんの少しだけ……ほんの少しだけの時間、ささやかな甘みを口に含むこと
ができたのなら……この出会いに感謝する意味が、あると私は信じたい。

 営業は続く――。

―――――

 episode03《ウインナーコーヒー》

 モーニング・サービスが終了した午前11時過ぎ、以前、この時間帯によく来店していた
老婆のことを思い出した。
 ――あれは確か、ウインナーコーヒーをいつも注文していたな。
 老婆はひとりでの客だった。腰が曲がり、ツバの広い帽子をかぶっていた。私より少し、
いや……かなり年上のように見えた。老婆は、月に何回か、週に一度は来店し、注文は
必ずウインナーコーヒーの一択……。それだけなら、別にいい。別にどうということは
ない。普通の客として歓迎し、もてなし、料金を頂戴するだけだ。けれど、老婆には他の
客とは違う、決定的に違う点があったのだ。

 ウインナーコーヒーを一口も飲まない。それどころか、カップを自らの体から離し、
拒否するかのように決して口をつけない。
 従業員が一度だけ、老婆の前で膝をおろし、訝しげに顔を傾ける老婆に、「お口に合い
ませんか?」と言ってみた。だが、老婆は敵愾心を剥き出しにした目で従業員を睨みつけ、
「うるさいっ、放っておいてくれっ!」と怒鳴っただけだった。

 私はおよそ7年間、老婆を見つめ続けた。雨の日も、雪の日も、老婆は毎週のように来店
し、ウインナーコーヒーを注文し、眼下に供されたカップを自分から遠ざけ――特に何かを
するわけでもなく、ただ……ただ黙って空を見つめ続け……私はその光景を見つめ続けた。

 7年間、老婆が何を考え、何をしようとしているのかは知らない。私が覚えていること
は、最後に老婆を見かけたあの日――……テーブルに座る彼女がポツリと呟いた言葉と、
シワだらけの顔で作った小さな微笑み……それだけだ。たった、それだけのことであるはず
なのに……私は、あの老婆、彼女のことを……決して忘れない。
 
 彼女は言った。
「……あなた。また、口にクリームがついてますよ……ふふふ……」

 その後、彼女を見ることはなかった。いや、あれからすでに、何年もの歳月が流れたが、
今でも私は時折、ウインナーコーヒーをすする年老いた夫婦の幻を見ることがある……。

 そういう客もいていいのかもしれない、私はそう思う。

 営業は続く――。

―――――



                                 了











 
 本日のオススメ!!!
 moumoon(ムームーン)氏。

 ブックオフで処分しようとした雑貨を漁っていたら偶然CDを発見(大変失礼な話では
ありますが……)。今聴いてみても……やはり気持ちがイィ…。
 KOUSUKE MASAKI(まさき こうすけ)氏。各種演奏、作詞作曲編曲担当。
 YUKA(ユカ)氏。 ボーカル。作詞作曲担当。
 ――の二人組。柔らかいボーカルと流れるようなリズム、自然体の歌詞、抵抗感のない
演奏……癒し、ですな。結構頻繁に新曲出されていて驚愕。シーデー放置し、誠に申し訳
ない💦 これからは定期的に聴き、配信もあれば購入しますデス、はい。
 元々は、CM主題歌で有名になったのかな? 遊戯王でも歌っていたような……。
 皆様も、ぜひぜひ、どーぞ……。
          上から1.2.はお気に入り。3.は最新曲すね。しかし…BONNIE PINK様と似てるような気も(笑)




 リリースも結構……かなり精力的に活動されてますね……さすがっス。紹介しきれん。
   



 お疲れ様です。seesです。
 上司とケンカ退職した同僚が出てしまい……タダでさえ多い仕事が増加💦更新予定を
大幅に遅延、まいったす。

 SNS的なものもほとんど手がつかず……お手上げ。
 日々の眠気が先行し、疲労が回復しきれない状況。お話の練りもままならない、が……
何とか形に。コメダ珈琲店、葵店でお茶しながら制作。ほぼ一気に書き殴り、自宅で調整。
形にして半日……。明日もまた仕事と残業……まぁ、いっか🎵

 今回のお話はsees的にかなりリアルな部分が多いです。限りなくノンフィクションに近い
フィクション。まぁまぁ、要は商品別に勝手なイメージ上塗りしただけの3本仕立てですが
……好評でしたらepisode増やしてバンバン作りますので。内容も、可もなく不可もなく。

 コメダ珈琲店、葵支店様、
 本当、すみません<(_ _)>。
 また行きます。美味しいスよね……金のアイスとか、ミニシロとか、個人的にはミニカツ
復活して欲しいすケド……。本当、すみませんでした。削除要請あれば、すぐにでも消します。

 
 次回は前後半、のショート予定。その次の『~D』の短編もほぼ構想はできあがり。
 まぁ……適当にがんばって作ります……。

  seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓

 あんま関係ないけど――
 愛知県瀬戸市の誇り、東海の希望、中京にタイトルを、
 藤井聡太先生っ! 応援してますっ!




 好評?のオマケショート 『理不尽』

 sees   「身長体重血液検査……視力聴力血圧か……」
       そう。この季節と言えば、健康診断、である。
 タメ同僚 「お前、去年より太ったんじゃね?」
 sees   「んなこたーねーワイww」
       ……しかし、最近ハラが出て来たような💦……。
       ……気のせいだよね。
 看護師  「seesさ~ん、じゃあ、この機械の上に乗ってくださ~い」
       ……気のせい。
       ……気のせい。
       ……気のせい、じゃないっ!!(ホラー映画調)
 看護師  「……あっ(察し)」
 sees   「そんな……嘘だろ……ありえない。……こんなこと、ありえないっ!」
       ………
       ………
       ………
 ドクターA 「……去年より5キロも増えてますねえ……血圧も高めだし……seesさん、
       あなた、わかってます?怒ってる
 sees   「……はい」
 ドクターA 「お仕事も大事でしょうケド……もっと健康管理を……食事も……運動も……
       あなた、わかってます?(2度目)」
 sees   「……はい。……はい。……すみません……すみません……」
       ………
       ………
       ………
       しこたま説教を食らい、診察室を出る。すると、隣の診察室からも退室する
       者が……当然、一緒に来ていた同僚だ。コイツも……ワシと似た生活やから
       な……相当体イッとるやろww

 sees   「ワシ、最悪やった。お前、どうやった?」
 タメ同僚 「ん? 別に?(笑) 何? 何かあった? 明日死ぬとか? うけるーwww」
       そして――……
       seesは――……
       ブチキレ――……
       同僚の首を絞めた。
 sees   「てめーーーっ! ワシと似たような生活しとるんちゃうんかいっ! 健康児
       ヅラしくさって……殺すぞっ!ムカッ
       ギューー。首を、ギューー。
 タメ同僚 「……ヤメテ……シヌ……メシオゴルカラ……ユルヒテ……ラメェ……」
 sees   「焼肉や、焼肉行くぞっ!」
 タメ同僚 「……リョーカイ……チヌ……オテテ……ハナヒテ……」

       ふー……健康管理って難しいねっ上向き矢印ハート(手書き)


                                  了食事ビール

こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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Last updated  2018.03.08 21:51:58
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