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| 短編 01 『愛されし者』
| 短編 02 『姫君のD!』
| 短編 03 『激昂するD!』
| 短編 04 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』
| 短編 05 『聖女のFと、姫君のD!』
| 《D》登場人物 一覧
| 短編 06 『支配領域の悪魔と、D!』
ss一覧 短編01 短編02 短編03
《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。 ――――― 6月1日――。 群馬県高崎駅で購入した弁当の袋を片手に下げて、高崎駅近くのルートイン高崎駅 西口のフロントでチェックインをする。もちろん、1泊だ。料金を現金で支払う。急ぐ 心を懸命に抑えて、真っすぐに部屋へ向かう。 弁当の袋をテーブルに置き、ポール・スミスのスーツのジャケットをハンガーに掛け、 グッチのネクタイを緩め、テレビの電源をそっと入れる。 ……良かった。放送には間に合いそうだ。 名古屋市の金持ちを特集したバラエティ番組が見える。リポーターらしき若い女と、 資産家らしき年配の女、そして――ひとりの男が見える。クリスタルのシャンデリアの 下、海外の絵画や美術品が並ぶ中――絢爛豪華な一室で、リポーターの女が楽しそうに はしゃいでいるのが見える。画面の奥のガラスケースの前では、グレーのスーツを着た 男が嘘くさい笑みを浮かべている。 男がズームアップされる(正しくは、男が見ていたガラスケースなのだけど)。少し 顔色が悪いですね……緊張でもしてますか? 高崎駅名物、だるま弁当の箱を開け――僕は唇をなめながら、笑う。 僕? 僕のことなんてどうでもいい。今、テレビの液晶画面に映るのは、僕ではなく、 彼なのだから。 彼――もちろん、僕は彼のことを知っている。 彼の名は岩渕誠、32歳。岩渕さんは今、宝石・貴金属鑑定士としてテレビ局に出演 依頼され、名古屋の著名な資産家女性の宝石コレクションの数々を――適当に見学し、 適当な値段をつける仕事をしているところだ。白い手袋をはめ、わざとらしく驚いたり、 冗談を言ったり、それなりに役を演じている風に見える。 今度は資産家女性の顔がズームアップされる。あらら……有名ホテルチェーンの女性 社長は満面の笑みを浮かべている。『自分は人生の成功者』と言わんばかりの表情は、 確かに……テレビ番組向きなのかもしれない。だけど、しかしまぁ……笑ってしまう。 本当、あまりにも知性と品性に欠けていて。 次に、若い女のリポーターがズームアップされる。 「岩渕さんっ! これはこれはっ、何ですか? いくらぐらいしそうですかっ?」 女はカン高い声で岩渕を呼び、興奮した様子でガラスケースの中を指でさす。岩渕は 微笑んではいる。だが……少しだけ、ほんの少しだけ、目を見開いた。何です? 何を 見たんです? 僕にも早く教えてくださいよ。 僕の心臓が高鳴り始めたのがわかる。岩渕と同じ気持ちになったのがわかる。そんな 岩渕を嬉しそうに見つめ、僕は弁当を食う箸を止めた。 岩渕がガラスケースの扉を開ける。そこへ、両手を差し伸べて、持ち上げる。それは ……――《箱》だった。 ……まさか……いや、本当に、あの《箱》なのか……? テレビの中の岩渕はそっと《箱》を取り出して、フェルトの盆の上に置いた。 《箱》。そう。それはルービック・キューブにとても良く似た大きさと形をし、正方形の 1面にはルービック・キューブのパズルような9個の赤い宝石が埋め込まれていた。9個の 石はそれぞれが別の種類の宝石であるものの、カッティングは全てアッシャー(正四方形)の 形状をしている。 石の種類はルビー、ガーネット、パイロープ、コーラル、ジャスパー、スピネル、コラン ダム、ベリル、カーネリアンの9種9石。美しい。どの石も1級品だろう。 台座として使われている6面の板はショール(黒いトルマリン)だ。 ……知っている。 ……僕は、この《箱》を知っているっ! 3~6カラットの宝石54個(9個×6面)が埋め込まれたトルマリンの《箱》を。 ――瞬間、僕の脳裏を遠い記憶の断片が横切った。決して忘れ得ぬ何か……遠い遠い 昔に消えてしまったはずの何か、失ってしまったはずの何かを……大切だと思っていた のに、捨ててしまった何かを……僕は、思い出した。 「カーバンクル……」 赤き宝玉を額に持つ幻の獣の名を――……僕はそっと呟いた。 「カーバンクルの箱……」 かつてその《箱》に命名された名を――……僕はそっと呟いた。 そして――駅弁と旅が好きで全国を放浪する、どこかの浮浪者からカネで買った名前を 名乗る、犯罪者で、狡猾で、意地悪で、手先が器用で、頭の回転が良くて、あらゆる知識が 深くて、賢くて、それらを自分で完全に理解でき――だからこそ、だからこそ自分の欲望を 叶えるのが大好きな、とてもとても大好きな――…… ……――かつて、《D》という企業に勤めていた、川澄奈央人は―― 「……とりあえず、話を聞きに行きますか……岩渕さん」 今度は微笑みながら、そっと呟き――今も《D》で働く岩渕に会いに行くため、ホテルの 部屋を飛び出した。 川澄の心臓は今も高鳴り続けていた。こんなことは、本当に久しぶりのことだった。 ――――― 「……おはようございます」 大きな受話器を握り締めて言う。すぐ隣のベッドで横たわるルームメイトの女の子が、 ニヤニヤと顔を緩めて伏見宮京子の顔を見ている。 数秒の沈黙があった。それから……低く眠たそうな男の声が届いた。 『……ああ、京子か。おはよう……もう朝か……そっちは……昼過ぎ、くらいか?』 男の声。そう。それは岩渕の声だった。 「……アナハイムは午後2時ですよ。あの……そのう……」 微かに手を震わせて言う。少しだけ緊張し、少しだけ心臓の鼓動が早くなる。岩渕と 電話で話すときはいつもそうだ。 岩渕は未だ眠気が取れぬのだろう、小さなあくびを繰り返していた。 『……ところで、どうした? んあぁ……帰国は、もうすぐだろ?』 「うん……語学留学っていっても、60日じゃあっという間だね……朝早くに電話して ごめんなさい……あのね……実は、さ……」 『実は……?』 「……ううん、何でもないの」 ……会いたい。会って話がしたい。 喉まで出かかったその言葉を、京子は息を止めて飲み込んだ。 ……帰りたい。帰ってあなたに会いたい。あなただけじゃない、《D》のみんなにも 会いたいし、父や祖父とも会って話がしたい。 それらの言葉を、どれほど口にしたかったかわからない。その言葉を口にさえすれば、 今すぐにでも、アメリカから日本へ帰国することができるはずだった。それらの言葉さえ 言ってしまいさえすれば、京子は日本に帰って岩渕と抱き合うことができるはずだった。 けれど……京子はそれらの言葉を口にしなかった。 もし京子が身勝手な言葉ひとつで帰国したとしても、岩渕は何も言わないだろう。例え 京子がどんなワガママを言ったとしても、責めることはしないだろう。だとしたら…… 私はきっとダメになる。一歩も前に進めなくなる。何の役にも立たない、何も守ることの できない――グズで愚かな女になるだけだ。それだけは、絶対にイヤだ。この短期留学は、 いわばそのための第一歩、意識を変えるために決めたのだ。 『……まぁ、あと数日だ。帰国したらメシでも食いに行こう。名古屋コーチンの専門店が 名駅前店の近くにできてさ……』 「……八丁味噌の味、強くない? 私でも大丈夫?」 『大丈夫だよ。水炊きの鍋とか刺身とか、なるべくヘルシーな料理頼むからさ』 「さ……刺身? ニワトリ、の?」 『結構イケるぞ。鮫島さんなんてさ、それ5人前とか食うしな』 「ふぅん……なら、大丈夫かな……それじゃ、お仕事がんばってね」 『京子も、あんまり無理するなよ』 「わかった……それから、岩渕さん……」 『……どうした?』 「……愛してる……またね……」 受話器を置きながら、京子はこんなやりとりがずっと続けばいいと思う。これからも 毎日こんな会話が彼とできるのなら……そうしたらもう、私は何も望まない。 ――――― 京子との通話を切り、オーディオのリモコンを手に取る。Aimerの歌声がスピーカー から流れるのを確認してからソファに腰を下ろし、この休日は何をしようかと考える。 すると――インターフォンが鳴った。 朝早いが……誰だ? 「……どちら様ですか?」警戒心を隠さずに言うと、相手は笑った。笑いやがった。 『川澄です。川澄奈央人』 「はあっ!? お前……川澄かっ!?」 思わず仰天し、立ちながら目が眩む。考えたことはなく、夢で見たこともない来客に、 岩渕の意識は一気に覚醒した。 『お久しぶりですね、先輩。ちょっとお話があるんですケド……エントランス、開けて もらえませんかね? ちなみに僕ひとりですから』 少しだけ考え、少しだけ逡巡してから、岩渕はロックを解除した。急いで金目のもの を隠し、仕事用のアタッシュケースやビジネスバックやフィアットの鍵をクローゼットに 放り込んだ。そんなみっともないマネはしたくなかったが、これから何が起こるのか俺に もわからないので、しかたない。……別にヤツが嫌い、というわけじゃないんだが……。 しばらくしてドアフォンが鳴る。のぞき穴から川澄の様子をうかがう。朝日に照らされ た、ピースサインをする男が立っている……。 玄関の扉を開ける。 ……イヤな予感がする。猛烈に、する。 「おはようございます、岩渕さん……」 いいや、違う……イヤな予感、などではない。これはもう、確信だ。少なくとも…… そう。そうなのだ。 「……俺の休日をどうするつもりだ? ……川澄」 せっかく与えられた貴重な休日を、確実に捻り潰すであろう目の前の男は――無垢で 幼い子供のように、ニコニコと笑っていた……。 ――――― 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 bに続きます。 本日のオススメ!!! LiSAさん。 某アニメの「剣の芸術とネット通信」はあまり興味が湧かなくて見ていなかったが、 LiSA氏の歌が流れているのは知っていた。正味、ビジュアルはあまり良くなく、体形も 日本人そのもの、外見に何か特徴があるわけでもないのだが……――それがかえって 良いのかもしれないな……。 パワフルな中~低音域の歌、アニソン丸出しの中二歌詞。場所を問わず聞ける汎用性も 魅力的。群れない、媚びない、背伸びもしない、そんな不変的な印象をseesは彼女に 抱きました。う~む……不思議な魅力がある。ただキンキン叫ぶだけのボーカルには それほど興味もなかったのだが……。 LiSA氏のアルバム……まぁ一応のせときますね……。 雑記 お疲れ様です。seesです。 個人的にかもですが、PCの調子が悪いです。正確には『楽天ブログ』の作成がうまく いきません😢 この間のOSのアプデからブログのプレビューと保存の機能が著しく低下。 うまく編集ができません……。文章だけならできるかもだけど……。それだと味気ないし なぁ……悩む……。保留案件やなぁ……改善されているとイイんだけど……。 今回からは新しい短編がスタートです。以前から告知していた川澄氏と岩渕氏ふたりの メイン話です。一応は最後までのプロット的なものは作りましたが……。段取りうまくいか なくなりそうな予感……。8~10話、(もう少し短くてもいいが)予定。京子様登場回は 未定……。細かい設定や情報は次回に出します。特には何もないですがww 仕事休みなくて断続的な制作過程……誤字脱字訂正は後ほど……まったく、ネット見る 暇もロクになかったぜい。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『ひよったsees』 sees 「……こわい……こわい……いやだ……」 伊勢への出張帰り。深夜2時。伊勢自動車道。疲労大。眠気大。トラック 多数。渋滞無し。吐き気あり。温度計は23度。つまり……。 sees 「おいおいおい……何でどいつもこいつも130キロ以上のスピード出しやがる んや……殺す気かワイを……」 ビュンビュンとseesのバネットを抜き去るアメエキのトラック……背後から ピタリとテイルするクラウン……轟音響かせる10トン車……揺れるseesの 肉体……限界を超える眠気……。 sees 「死ぬ……死ぬ……ヤベぇ……幻覚が」 ブレるハンドル……尽きたブラックブラックガム……普段は飲まない、買い もしない黒コーヒー……震える脚……。 sees 「名古屋のインターまで……残りは何キロ? これは……」 ふと思う。声に出して、思う。 sees 「……なぜワシは生きているのだろうか? いったい、何のために生きている のだろう? なぜ……ワシはこんなメに遭っているのだろうか? どうして、 ワシだけがこんなメに……諸行無常……南無……」 ワケのわからないような呪いの文言を吐き散らし、さらに考え、思う。 5時間前、社から届いたメールの内容を思い出して、思う。また口に 出す。 sees 「『sees主幹 お疲れ様です。先日提出されました業務報告書に一部誤り がございましたので、明日昼までに確認と訂正をお願いします』……」 経理部の、ちょっとぽっちゃりした女の顔を思い出す。そして吐く。心の 内に秘めていた毒を、思い切り、車内で、わめく。 sees 「――テメェッ! メスブタァッ! 殺すっ! 殺すっ! 殺すどっ!」 叫ぶ。高速の上で、ワシはカラオケのように、叫ぶ。 sees 「――アイツだけじゃないっ! どいつも、こいつもっ、ブチ殺してやるどーっ!」 赤い86がバネットを抜き去るも、seesは叫ぶ、レイのように、叫ぶ。 sees 「クソォッ! てめえらの血は……何色だーっ(# ゚Д゚)!!!!」 ……… ……… …………眠気、覚めました。でも怖いので、久居インターで高速降りましたw 皆様も、深夜の高速には注意してね。眠いのなら、叫び散らすと効果的かもね (∀`*ゞ)テヘペロ 了🐽了 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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