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株式会社SEES.ii

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2018.09.14
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ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。


―――――

 6月2日。午後21時――。

 送迎に用意したレクサス・LSハイブリッドのルームミラーに目をやる。注視すると、
2人の男が相反して顔を背け、2人して夜の大須の街を眺めているのが見える。

「……何か、僕の顔についてます?」
 爽やかな――それでいて警戒心の強い口調で川澄の声が応えた。
「いいえ。……オークションの場所は、ご存知ですか?」
「……中区大須のローズコートホテル。会場はホテルのチャペル。……うまく考えたとは
思うよ? 夜の結婚式場を貸し切っての非合法オークション……参加したことは無かった
ケド、本当――頭の狂った連中だよ、華僑は……まぁ、僕ほどじゃあないだろうが、ね」
 瑠美は何も答えることができず、もう1人の男――岩渕の方を見た。数時間前に会って
話しをした時には感じなかった何か……何か深い疲労感のようなものが感じられた。窓際
で頬杖をつき、目を細めて外の景色を眺めていた。

 レクサスが停車する。運転手の男が「到着しました」と告げ、降車する。しばらく待つ
と、助手席と後部座席のドアが同時に開かれ、支配人らしき紺のスーツを着た男が現れた。
「いらっしゃいませ。高瀬様」
「こんばんは。川澄さん、岩渕さん、着きましたよ? 降りてください」
 瑠美は、降車する2人の男を見つめていつものように――子供っぽく微笑んだ。
 ――その時だった。
 目の前に立った岩渕が自分を見つめ返したその瞬間、まるで正面から誰かに強く抱き締め
られたかのような肉体的な感触とともに、胸や下腹部を強い熱気が通り抜けた。
 それはたぶん、突撃を命令された瞬間に兵士が感じるような、すべてを犠牲にしてでも
何かを守りたい……強い覚悟を秘めた熱だった。
 
 体が先に理解した。そして次の瞬間には、頭でも理解した。フィクションでしか見たこと
の無かった非現実的な挑戦を、この男は成し遂げようとしていると、完全に理解した。

 そうだ。間違いない。岩渕は川澄を助けようとしている。この臆病で陰湿な、どこにでも
いるようにさえ見える32歳の男が、あの意地汚く、泥棒で、嘘つきで、無法者の兄を助け、
自身の身を破滅させようとしていた。

 ……なぜ? いったい……どうして? わからない……わからないよ……。

「どうかしましたか? 高瀬……瑠美さん」
「いいえ……別に……」
 瑠美は岩渕を見上げ、反射的に微笑んだ。喉の声帯が今すぐにオークションへの出品停止
を訴えようと震えているのがわかった。今すぐ岩渕と川澄を丸め込み、勝負から逃げ出そう
としているのがわかった。

 だが瑠美はそうしなかった。
 数億のカネを用意できるワケがない。川澄の悲鳴を聞かなければ、母の心は癒せない。
ほんの一瞬間の間に、瑠美はそれを思い出した。
「さっさとオークションのルールを教えてもらえませんか? さっさと入札して、さっさ
と帰りたいですから、ねえ?」
 川澄が軽やかな口調で言い、瑠美は無言で頷いた。下腹部の奥に溜まった強い熱気が、
体の中で渦を巻いているのがわかった。

―――――

 1.形式は『ファーストプライス・オークション』方式とする。
  (最終的に最も高い価格を入札した買い手に販売され、支払額も最も高い価格に設定
される。一般的な形式)
 2.参加者間(買い手)での資金の共有は厳禁とする。
 3.落札成立時、支払いは現金のみとする。

 他にも『口外禁止』だとか、『携帯電話・パソコン・カメラの持ち込み禁止』だとかの
適当な文言の書かれた書類を読まされ、手渡され、サインをさせられ――オークションの
会場であるチャペルに案内される。誓約書の複写を渡されるが、僕はそれを拳の中で握り
潰してポケットに入れる。……どうでもいい。スマホはチャペルの前の受付に預けたが――
こんなもん、本当にどうでもいい。

 一般的な西洋風チャペルの中に通されると、既にそれらしい客たちが礼拝用のベンチに
腰を下ろしていた。人民服を着た中年の男、普通のサラリーマン風の男、革ジャンを着た
若い男と付き添うチャイナドレスの女、全身に貴金属を纏った婦人、西洋人らしき金髪の
紳士、幼い子供を連れた大柄な黒人、ホスト風の若い日本人、若い女を2人連れた白髪の
老人……国籍も性別も年齢も違う人々は、新たに入室した僕と岩渕を睨むかのように凝視
する。……値踏みでもしてやがるのか? ……豚どもが。

 そんなヤツらが佇むベンチのひとつに、僕と岩渕が案内される。席に座っても、岩渕は
ずっと黙ったままだ。緊張してやがるのか? ……だけど、まぁ、ここまで来たら覚悟は
決めているのだろう。……期待してますよ。


「……《箱》を手に入れても、《鍵》はひとつ、か……」
 川澄は誰にともなく呟く。
 自分が欲しているのは、あくまで自分の《鍵》で開く部分だけ。瑠美の《鍵》で開く
中身の確認はできない。興味はない……興味はないが、完成形での《箱》は諦めるしか
なさそうだった。……最終的には1度破壊して元に戻すのがてっとり早いのだが、資産的
価値は相当に落ちるだろうな。まぁ、いいか。瑠美を脅迫して《鍵》を手に入れるのは
簡単だし――それはそれで面白そうだ。

 薄ら笑いを心の中で浮かべながら、川澄は隣に座るひとりの男――岩渕の心理と心情に
思いを巡らせた。滑稽なほどに美しく、悲しいくらいに慈悲深い、生涯唯一の友と呼んで
もいい男の優しさを――笑った。
 岩渕さん。あなたは僕が持っていないものを持っている……。知りたいですか? それ
はね……簡単なものですよ。ものすごく簡単で、ものすごく得るのが難しいもの。そう。
あなたは――自分を棄てることができる人間だ。自殺願望なんて言う逃げ道の話じゃあない。
困った友人や恋人がいれば、最後の最後には必ず手を差し伸べてしまう……例え、自分が
地獄に落ちると知っていても――あなたは手を差し伸べる。差し伸べてしまう……。
 そんなことが、そんな非現実なことが、あなたはできてしまう。そんな人間は僕の知る
限り――あなただけだ。

 あなたが京子様を連れて《D》大須店を訪れた時、僕は確信しました。コイツを仲間に
すれば、最後の最後まで決して裏切らない。裏切れない。踏み台にしようが、肉の盾にし
てしまおうが、あなたは――最後の最後で必ず、僕を助けてくれる。
 ……すいませんねえ、あなたの休日を潰してしまって。ついでに……そう、僕を助けて
死んでください。100円ショップの線香くらいはあげますよ……。
 
 現金は持参していないようですが、あなたがどんな方法でカネを用意したか? それも
見当はついています。ですが……まぁまぁまぁ――僕が用意した1億3000万で勝負が
決まれば御の字です、よ?

 そこまで思った時、背後から誰かが川澄の肩をポンと叩いた。
 反射的に振り返る。そこに、妹の瑠美の顔があった。
「もうまもなく始まります。 ……《箱》を諦めるのなら、今の内ですよ?」
 挑発するかのように瑠美は言った。僕は彼女を睨みつけたつもりだったのだが――……
やはり、ダメだ……。

 笑みが浮かぶのを抑えられそうにない。

―――――

 入札の方法は簡単だった。
「……こちらの商品は日本を代表する日本画家、東山魁夷の作で――」
 商品説明が終わると、ホスト役の男がチャペル中央奥の祭壇の上で鐘を鳴らす。
『……3000万。18』
 参加者はベンチに収納されているマイクで希望落札額と参加者番号を言う。
『3500万。5』
『3600万。18』
 競い合う。それだけだ。参加者は希望額以外何も言わない。何も言い合わない。何も言い
争わない。それだけの、実にシンプルなこと……。

 くだらない、とは思わない。くだらないとは思わないが、こんな世界に自分が足を突っ
込む日が来るとは思いもしなかった。こんなことはカネ持ちだけに許された娯楽であり、
自分には生涯関係のないもの……。
 ぐったりとベンチにもたれたまま、岩渕はそう思った。


「岩渕さん。アレ、知ってます? ……ジャン・ミシェル・バスキア?」
 しばらくして、川澄が聞いてきた。
「……ヤク中で死んだグラフィティ・アート作家だ。確か、日本の何とかいう企業の社長が
収集してるって聞いた気がするが……」
 次の瞬間――岩渕の斜め前の席から、日本人が大きな声で『10億っ! 1番っ!』と
言った。それはマイクを通して、というより、怒鳴っているというような口調だった。
「10億? アレが?」
 川澄が感心したかのように訊き、岩渕は「『アート』の世界はわからない。あのカネ持ち
がそう思うのなら、それでいいんじゃないか?」と言った。
 マイクの音を切り忘れたのか、その日本人の席からは『……さん、すご~い』と媚びる
若い女の声が漏れ聞こえた。チャペルが失笑に包まれる中、しばらくして、鐘の音が鳴り
響く。
「……バスキアの絵画、1番様が落札」とホストが宣言すると、もう用は無いと言わんば
かりに、その日本人のカップルはチャペルを出て消えた。


「……なるほど。希望額を発言してからのインターバルは……1分てとこスか……」
 "不安げ"な表情で川澄が呟く。……嘘くさい。本当に。


「岩渕さん」
 また、川澄が岩渕の名を呼んだ。
「……何だ?」
「もしかして、緊張してます?」
 川澄が"優しげ"な眼差しで見つめて訊き、岩渕は急に背筋に冷気を感じた。
「ああ……少しだけな」
「別に緊張しなくても大丈夫ですよ。これは"僕が"招いたトラブルなんですから……でも、
今日のことは本当に"感謝"しています……」
 川澄はそう言って微笑んだ。整ったその顔には、相変わらず、幼い子供のような"笑み"
が浮かんでいた。
 
 ……嘘だ。
 ……わかっちゃいるんだよ。
 ……それが全部、何もかもが全て嘘、演技だってことは、わかってんだ。
 
「……お前が礼を言うなんて、珍しいな」
「そうスか? まぁ、もう別に、先輩は"何もしなくてイイ"ですから……後は"僕が"決着を
つけて見せますよ……」
 そう言って笑うと、川澄はチャペルの祭壇を凝視した。


「……続いての商品はホテル《R》の高瀬社長提供の一品となります。寄木細工の技術を
応用し、希少なルビーをメインに組み上げた紅き宝石の箱――《カーバンクルの箱》、で
ございます……」
 ホスト役の男が仰々しく説明する……これまで口にしなかった出品者の情報まで流して。
 
  
 岩渕は思った。
 ……わかっちゃいるんだ――
 ……何もかもわかったうえで、わかったうえで――
 ……お前のために……お前のような外道のために――
 ……死んでやるよ。俺の人生は、今夜で終わりだ。
 ……こんなことを思うのは……こんなことを本気で思うのは、2度目か……。
 

 岩渕は強く思った。
 ……それぐらい、お前が俺にしてくれたことは、嬉しかったから。

―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 gに続きます。















本日のオススメ!!! 鬼束ちひろ氏……。




 学生時代に最もよく聴いた方のひとり。
 ……正直、《歌手》という職業の方々の中でもかなり異質な女性。事務所の命令に
逆らえずキャラを作り、素の状態を晒したと思ったらまさかのハーレイ・クイン。
「主食はスイカバー」などの珍言、放言、恋人からのDVなどなどなど……。
 最近はようやく精神が落ち着いたのとの言もあり、新曲も披露。seesも一安心で
ございます。
 歌手としては超一流、その存在感、魅力、歌詞の力を120%引き出す表現力……。
 本当なら、もっともっともっと頂点を目指せた方だというのに……人生はわからない。



 seesは……《Beautiful Fighter》が好きスね。

   

 左が新曲と新DVD……。

 雑記

 お疲れ様です。seesです。
 夏も終わりかけ、仕事も一段落しそうでしてないseesです。
 今年の夏はいろいろあったなぁ……。慢性的な体調不良にケガ、ものもらい、寒暖
差による連続夏バテ。……母校の甲子園出場、ああ、応援に大阪、行きたかったなぁ、
クッソ熱いだろうけど……それが悔やまれるな。
 9月からも仕事キツイ……社員旅行、行けるのかなぁ? 私……。自慢じゃないが、
社内での成績は良いほうなのだが……逆に縛られることも多い。困ったものだ。
 ああ……映画見たい、旅行行きたい、ずっとPCの前にいたい、ゲームしたい……
どっか遠くに行って、流行りの?ソロキャンプや車中泊したい……。
 前話で近鉄百貨店のくだりを書きましたが、実はアソコ、夜はビアガーデンなんす。
行きてえなぁ……思い切りソーセージ食いたい……。はぁぁ……。

 さて、今話はストーリー上、進展ず少ないようにも思えますが、役者が揃うのは次回
ですので……期待は、してもしなくても――みたいな感じ。《箱》を手にする者は誰か、
その中身とは? 順次、公開する予定ス。そして、川澄氏と瑠美嬢は……。
 ちょっと色気が足りない気もするけど、まぁいいかw

 オークションのくだりは…まぁ、半分ギャグですわねww

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓





 好評?のオマケショート 『誕生日プレゼント……』

 sees  「ぶひぶひ(今日、誕生日だけど……何か、自分に欲しいなぁ……)」
 友   「……ほらsees、コレ、やるわ」
 sees  「え? ありがとう~友よっ!!」

      seesは、ブルースウィルス主演映画、『アクト・オブ・バイオレンス』の
      DVDをてにいれたっ!
     
     ―――――

 sees  「……今日の夜、とらのあな、行こうかな……」
 次長  「おいっ、sees、お前、確か誕生日近いんやったな? これ、飲めや」
 sees  「えっ~? すいません~ジチョ~、マジでありがとうございます(^^)/スリスリ」

      seesは、『霧島5本飲み比べセット』をてにいれたっ! (茜・黒・白・プレーン
      ・ゴールドの霧島焼酎セット……豪華なワリに安価ス💦)

     ―――――

 sees  「……やっぱプラモかな……それとも、完品塗装済みでもエエが……」
 総務部長「sees君、ハイこれ。あげるから、読んで頂戴。とっても楽しいお話だから、
      あなたにも買ってあげたわ」
 sees  「――っ! えっ、本すか? ありがとうございます。次の休みにでも読みますねっ」

      seesは、東野圭吾の『魔力の胎動』をてにいれた。……東野圭吾かよ。中学生
      じゃあるまいし……こんなの読んでも時間のムダやな……。どうせなら、横山
      秀夫とかがよかったが……。

      ―――――

      seesは街を彷徨いながら、錦や栄の街を彷徨い歩いた。そして――自分のために、
      自分のためだけに、自分が欲しいものを――買った。
      MG1/100 RX-78-2ガンダムver.3 ソリッドクリア……要は、半透明のスケルトン
      ガンプラ……。一番くじのラストワン賞。とらのあなで7500円……。

 sees  「…………」
      考えてみると、周りと自分の価値観て、本当に、本当に相違がある。
      周りが気を遣ってくれるのは素直に嬉しいが――本当に欲しいものは自分だけしか
      わからない……う~ん。ワシがただ単に頭がおかしいだけなのか?
      わからん……涙ぽろり



                                      ??



こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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Last updated  2018.09.14 03:08:37
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