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《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。
―――――
10月3日――。
東区のコメダ珈琲店葵店の店内は閑散としていたが、分煙されている喫煙席にはかなり
の人数が席に座っていた。岩渕誠を含む6人は禁煙席の広いテーブルに座り、もう30分
ものあいだ雑談を交わしていた。
そこには岩渕がいて、伏見宮京子がいて、川澄奈央人がいて、鮫島恭平がいて、宮間
有希がいて、高瀬瑠美がいた。男性陣3人は全員がホットコーヒーを注文し、女性陣3人
は宮間と京子がミルクティー、高瀬がアイスティーを注文していた。――いや、京子は
他の飲み物を注文したがっていたようにも見える。時折、隣のテーブルの上や、店員たち
が運ぶ盆の上に視線を走らせていた。
岩渕がコーヒーを半分ほど飲み終えた時、川澄と高瀬のあいだにざわめきが走った。
「兄さん、また私に黙って『バイト』してたでしょう?」「……知らないし、瑠美に言う
必要ないし、関係ないし」という声が聞こえた。川澄は顔を窓に向けて頬を膨らませてい
た。宮間は「はぁ……」と深い溜め息をつき、鮫島は「うるせぇな」と吐き捨てた。京子
は両手を挙げて揺らし「お、落ち着いて……」とたしなめる仕草をした。自然な流れとは
思いたくもなかったが、京子の視線が自分へ向かう。
……こいつら。
何を話し合うために来たのかを思い出させるため、しかたなく岩渕は言う。
「……『社長の誕生日に何を贈るか』、いいアイデアは浮かんだのか?」
発案者は岩渕のすぐ隣にいる――京子だ。《D》社員一同からの、ではない。京子本人
が個人的に澤社長へのプレゼントを考えるため……相談相手にと声をかけたのがこの――
5人だった。
いや、あの強欲社長に何か贈るなど考えたこともない……。最初、京子に相談を持ちか
けられた時、彼女の正気を疑った。欲するモノは何もかもすべて、自分の腕とカネで手に
入れてきたような野郎だ……何を贈ったところで喜ぶとは思えない。
「皇居での食事会に招待、とかでイイんじゃねえか? 京子サマなら余裕だろ?」
鮫島がそう言うと、対面の宮間が口を開いた。「黙れ、鮫島」
冷淡な口調と言葉に不意をつかれたのか、鮫島が宮間を睨む。一瞬で目付きが鋭くなり、
頬が痙攣したかのようにピクピクとわなないていた。
「てめえっ、またっ……先輩に向かって何て口ききやがる」
「……それよりもさ」
今度は川澄が言った。「京子様の指輪、《カーバンクルの指輪》、あげちゃえばイイん
じゃない? ……いろいろ喜びそうだと思うよ? ……いろいろ勘違いもしそうだし」
おいおい――。
岩渕が声を上げようとする前に、京子の声がした。「これは私のものです……よ?」
ニコニコと笑いかける川澄に対し、京子は微笑み返すものの……目は笑ってはいない。
場の空気を察したのか、高瀬が呆れたかのように笑った。
「あーあ……くだらないヤツばっかりね《D》って。《D》でまともなのは私と岩渕さん
だけなのかしら? ……姫様も、就職するなら別の企業にしたら?」
「――うるさいね、瑠美、ブス、親不孝者」
「――高瀬さん、"女の格"を教えてあげましょうか?」
「――俺は先輩だぞ? ……どいつもこいつも」
「――黙りなさい」
4人の声が重なった。
空気が弛緩するのを待ち、岩渕は低い口調で言う。
「……鮫島さんの案はイイと思うが、ハードルも高い。けど、まぁ――"食事"ってのは無難
だしイイと思う。ついでに高い酒でも用意できれば最高なんだが……」
鮫島は黙って頷き、京子と宮間と高瀬は顔を見合わせ、小さく何かを囁き合った。
「……京子、悪いな。たいした意見も出せなくて」
岩渕がそう言うと、京子は岩渕のスーツの袖を掴んで首を振った。「……ううん、全然
大丈夫。それに……私も、たまにはみんなとお喋りしたかったし……」
「今日は……本当にありがとうございますっ」
テーブルに向き直り、京子が屈託のない笑顔を向けた。髪が揺れ、彼女が飲んでいた
紅茶の香りがふわりと宙を舞う。
瞬間――岩渕はそこに漂う空気が浄化されていくような感覚に驚いた。
暖かくて、優しくて、愛おしくて……どこまでも、どこまでも澄んだ空気――。それが、
6人の座るテーブルを覆い囲んでいるような感覚――。
「……姫様、明日は暇? 良かったら夜、POLAのエステに行かない? 会員制だけど、
私の紹介なら全然OKだから」
《D》総務課長の宮間有希はニッコリと微笑んだ。
「――あっ、私もご一緒しますっ。代わりに、最近通っているマツエクのサロンも紹介し
ますよ」
《D》大須店副支店長の高瀬瑠美は宮間と顔を合わせ、大きな目を輝かせた。
「……化粧もイイけどよ。そろそろ時計なんてどうよ? どんなハイブランドでも姫サマ
なら8割引きで譲ってやるよ」
《D》名駅前店支店長の鮫島恭介はカカと笑い、手持ちのカタログを鞄から取り出した。
「……何ていうか、最近、ちょっと退屈だね……なぁ、岩渕さん? 何かカネ儲けのネタ
とか……ないっスか?」
《D》大須店支店長の川澄奈央人は人差し指で頬をかきながら、照れたように微笑み――
そして……少しだけ、ほんの少しだけ……楽しそうに笑った。
「……いいんだよ。これで……これでいいんだよ」
《D》名古屋地区統括マネージャーである岩渕誠は、隣に座る麗しき姫君を見つめた。
「……どうか、したの? 岩渕さん……」
京子が心配そうに声をかけ――岩渕は思った。唐突に、思った。
ああ……すべて、なんだろうな。
彼女のすべて――何もかもすべてを、愛している。
険悪な雰囲気からの好転劇。
どうでもいい、ありふれた、くだらない、そんな会話。
《D》の社員ども、及び、伏見宮京子の言動や性格。
隣のテーブルにひとりで座る女は、それらをずっと見ていた。
隣のテーブルにひとりで座る女は、それらをずっと聞いていた。
隣のテーブルにひとりで座る女は、それらをずっと見続けて、聞き続けていた――……。
"5人"は知らなかった。気づいてもいなかった。
隣のテーブルに座る女の視線と、感情と、そして――おぞましい何かに……。
―――――
――来ることはわかっていた。
――あの6人がここに来ることはわかっていた。
――偶然ではない。計算でもない。
楢本ヒカルはコメダ珈琲葵店の玄関を見つめ続けた。何時に《D》の連中が来るのかは
わかっていた。
風除室を抜けて現れたのは、ずんぐりとした体つきの男を先頭に、スーツを着た5人の
男女だった。その3番目に、品の良いスカートと千鳥柄のコートを着た伏見宮京子も並んで
いた。
……田中をハメたのは誰かしら?
昨日、泣きながら『スズキイチロー』の特徴を告げた田中の証言を思い出す。……アイツか。
ヒカルは息を飲み、思わず背筋を正した。
……京子様……あれが、伏見の……皇女様……本物の……。
話したことはおろか、会ったことすら一度もないはずだった。だがヒカルは、これまで何度も
京子の姿をテレビの外から見つめ続け――それが本物の京子だと、すぐに理解した。心臓がイヤ
というほど高鳴った。
注文したメロンソーダを飲み込みながら、ヒカルはぼんやりと京子の横顔を見つめてい
た。時々視線を下ろし、ソーダのグラスを見る。反射したヒカルの華奢な指と、地味な髪型
をした自身の髪が見える。
《D》のヤツらの笑い声が聞こえた。言い争いをしていた雰囲気もあったが、それもすぐに
収まった。腹部がキリキリと疼いた。
「……楽しそうだな」
無意識のうちにそう呟いた。
最初は――少なくとも、今日の朝までは、ヒカルには明確な目的があった。
『田中を脅迫したヤツを特定し、逆にお金を取り戻す』
という"思い"を、神に請い願い、結果――"奇跡"は起きた。それだけだ。ヒカルがした
ことはそれだけだ。それだけなのに関わらず、ヒカルには"奇跡"が起きた。
「……幸せそうだな」
無意識のうちにまた呟いた。
6人は本当に楽しそうで、幸せそうだった。くだらない内容で話し合い、些細なことで
口論し、何気ない仕草で笑い合っていた。
……自分には何もない。そう思った。
……何で? どうして? とも思った。
……自分にはフィラーハ様がいる。《F》のみんなもいる。とも思った。
ヒカルは呆然と、自分と、自分の人生について考えた。もう、『ススギイチロー』こと
川澄奈央人のことなどどうでもいいとさえ思った。
……どうして? ……どうして? ……どうして、私は、なに?
フィラーハという"神"と出会い、"聖女"となり、《F》を立ち上げた女は考えた。考え
続けた。膨らみを続ける葛藤の中で、ヒカルは、かつて自分が憧れた京子の顔をチラりと
見た。かつて自分がどれほど彼女を見つめ、羨望し、自分の未来像と重ねて夢を見てきた
ことか……。
そして、
突然に、
――ヒカルの頭の中に声が響いた…………。
『お前が孤独を味わい、飢えと戦い、差別に苦しんでいたあいだ……この女はずっと幸せ
だったんだ……生まれた瞬間に大勢の人々から祝福され、頭が良くて、顔もキレイで、スタ
イルが良くて……両親から愛されて、男たちからチヤホヤされて……健康で、正直で、頼り
になりそりそうな恋人がいて……そういうヤツに、お前は憧れていたのか?』
自分の中の何か大切なものが、ヒビ割れて砕けるような感覚が襲った。けれどヒカルに
は、それを守ろうとする意識は起こらなかった。それどころか、破壊を待ち望んでいるか
のような意思すら感じられた。崩れ落ちる何かと一緒に、肉体から感情の一部が消えてい
くのがわかった。
『無視され、ひとりにされ、不要だと言われ続けたお前の苦しみが、この女に理解できる
のか? わかるのか?』
また声が聞こえた。声の主の正体はわかっている……わかっているのだ……。
『お前がどんなに辛かったのか、お前がどんなに惨めだったのか……わからせてやれ。思い
知らせろっ! 思い知らせるんだっ!』
それは――絶対神、フィラーハの声だった。
『お前に"奇跡"をくれてやったのはこのためだっ! お前の辛さを思い知らせろっ! あの
女と、あの女たちの信仰する"神"を殺せっ!』
ヒカルは力強く目を開いた。
そう。フィラーハ様から"神託"を受けたのは、これが初めてのことだった。
『殺せっ!』
そうだ。フィラーハ様以外の神など神ではない。
ヒカルにはそれがわかった。
でも……どうして――?
いや、理由など最初からわかっていた。フィラーハ様は"絶対神"なのだ。この世界に存在
するすべての神々は敵なのだ……そのために、私は"奇跡"を与えられ、《F》を与えられた。
そうだ……フィラーハ様以外に、この世界で私に手を差し伸べてくれた者などいない……だ
から……だからこそ、フィラーハ様の敵は、私の敵に決まっていた。
そう。京子は間違いなくヒカルの敵だった。敵ならば……ヒカルのすべきことは、ひとつ
しかなかった。"奇跡"はこのために与えられたのだから……。
―――――
――チラチラとこちらを伺う視線はずっと感じていた。
隣のテーブルに座る女だ。間違いない。なぜかはわからないが、あの女からは明確な敵意を
感じる……。京子にはそれがわかった。わかってはいたが、放置した。その場で岩渕や宮間や
鮫島に相談することもできるのだが……そうすべき理由も思いつかなかったから。
いったいこの女は……どこの誰――?
いや、別に誰でも構わなかった。《D》以外の人物で、京子が本当に信頼している者など
この世界にはいなかった。それは父や祖父でも例外ではない。……だから、たとえどこの誰
であろうと、それは京子の敵に決まっていた。
そう。この女は間違いなく京子の敵だった。敵ならば……京子のすべきことは、ひとつ
しかなかった。何をしても、何がなんでも、どんな手を使ってでも、《D》を守るだけだ。
そう。
岩渕と、岩渕と同じくらい、《D》を愛しているのだ。
岩渕も、《D》も、私のものだ。私だけのものなのだ。
理由も、理屈も、それだけで十分だった。
京子は隣に座る岩渕のスーツの袖を掴みながら、目を細めた。
"敵"の女が、メロンソーダをすする音が聞こえる……。
―――――
『聖女の《F》と姫君の《D》!』 cに続きます。
今回オススメはもちろん? seesも大好き『ナナヲアカリ』様……。
アルバムもライブも好調、アニメの主題歌にも起用されるなど注目度はsees目線から
見ても最高潮のナナヲ様。……ライブ行きたかった。
相変わらずのアニメ声と毒のある歌詞、可愛らしい容姿と天然ぶり……。いや~……
控えめに見ても思う……。
『もっと評価されてもいい』と(;´Д`)
ちなみにYouTubeのチャンネルは……ノーコメントww
全部購入済みw
雑記
お久しぶりです。seesです。
イキナリですが、増税、ですねw
seesも増税前に何か買い物することにしますた。seesも欲しいものがひとつだけありま
して……。そう。そうなんです。『腕時計』が欲しいス💦💦
今まではフェンディの安く地味な時計ハメてたんすけど……この度《飽き》を迎えまして
……新たに購入する決意となりました
ですが、やはり購入するならば条件というものもございまして……。スバリ《自動巻き、
スケルトン、ビジネス用、そこそこの高級感》というものが必須となります。いや~、昔
っから憧れだったスわ……自動巻きのスケルトンw 買ったらツイで報告しますw
今話は……特になし。あえて説明するならヒカル様の紹介話ですね。グダグタです。
岩渕氏は変わらず。京子様は性格に難が出てきました。……まぁまぁ、時系列的にも、
シリーズ的にも、いろいろと成長と変化があればオモロイのかな?と勝手に考えました。
ヒカル様の紹介の詳細は次回で終わりです。"奇跡"と《F》の全容です。3話もかける
なんてseesの力もまだまだス( ´艸`)
今回も文章の作りは甘いです。時間があれば……と言い訳するのは簡単ですが、いかん
せん、だいぶ脳が幼くなってまいましたwwこれまでのような納得できる作りではないです
が、まあまあ、大目に見てやってくだせえ🙇
seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。
でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
seesより、愛を込めて💓
適当ショートショート劇場 『魔除け』
sees ……松阪事業所の社用車《初期型セレナ》はマジでナイわ……。ダセェし、
ノロイし、ヤニ臭ェし、ラジオの感度悪ぃし……(あくまでseesの私見💦)。
seesはイライラしながらも、信号にさしかかった。停車し、ウィンカーを灯す。
sees 帰社したら報告と書類整理とPC業務か……タリぃな。名古屋帰りてぇ。ナポ
リタン食いてえ。ここらじゃウマい菓子すらねぇしよ……うぜ。
信号待ちするsees(右折)に、同じく信号待ちする対向車がやってきた。
ウィンカーはなし。……直進か。そう思った。
sees 「何ぃぃ(# ゚Д゚)!!!!」
信号が青に変わった瞬間、対向車は何と、何と、何とぉぉ――!
何と、対向車は左折しやがった。
sees、激おこ!
sees 「……このガキャァ(想像)、交通ルールも守れんのきゃぁ(汚い名古屋弁)
殺すが……」
seesの中の小さなミニデーモンがイオナズンと唱えようとヤリを構える。
sees 「……煽ったるか( ・´ー・`)ドヤヤ」
決断、即行動、理性ゼロ、アクセル踏む、AT(オートマチック)フィールド
全開ぃぃ!!
許せん、この国の平和は、ワシが守るぅ!!
そう思い、大いなる決意と正義の鉄槌を下し――かけた時……《敵》のバリア
が発動した。(本当に、夢かと思った……)
そう。
右折した先を走る軽自動車(タント、だったかな?)のリアガラスに、とんで
ない『魔除け』のデカールが施されていたのだっ!!
『 I💓 E.YAZAWA 』
sees 「うわーーーっ!!」
急ブレーキ、開ける車間距離、高鳴る心臓……。
それは禁断のデカール、危険を知らせるサイン、絶対に関わってはいけない、
そんな気にさせる……まさに『魔除け』でした……。
sees 「……はぁはぁ(;´Д`)💦💦、危ない危ない、あやうく死ぬところだった」
九死に一生を得たseesでした……。
皆さんも、交通ルールは大切ですが、それよりも大切な、守るべきルールっ
てありますよね?(意味不明)そう考えさせるくらい、seesにとっては脅威
かつ戦慄のデカールでした。
(ちなみにこれはノンフィクションではありますが、seesの偏見と独断のみの文章です)
了😢
こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。
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