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《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから
登場人物一覧はこちらから
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遥か階下で人の動く気配を感じて、男は目を覚ました。
昨日植えたゼラニウム・菜の花・フリージアは……無事に土と馴染んだのだろうか?
反射的に目を細める。
いっぱいに開け放った窓の向こう――乱立するビル群の間に燦然と輝く田園が、柔らか
な春の陽を浴びて輝き、シルクのバスローブ姿で立つ男の全身を包み込んでいる。その光
の中で、誰かが庭園の中でホースを伸ばしているのが見える。
庭園? そう。ここは私の所有する高層オフィス兼集合住宅タワー《Z》、その屋上に
施工された"空中庭園"。私の、私が築いた――楽園なのだ。
逆光のために、ホースを伸ばしているのが誰なのかははっきりしない。けれど、気にす
る必要はない。男にはわかっていた。そこに誰かいようと関係はなかった。
「……おはよう」
屋上に建設されたログハウス調の館の窓から男は、庭園に立つ者の背中に笑顔で呼びか
けた。
そして……彼から「おはようございます…会長…」と抑揚のない返事が返って来た。
そう。彼の言葉には本当に抑揚がなく、感情というものすら感じられない、まるで機械
のような声だった。
飼い猫に頬を引っ掻かれた時のように、男の胸の中でほんの少し、ほんの少しだけ――
ほんのただ少しだけ……苛立った。
「……水はもういい。お前はクビだ。そのまま落ちて死ね」
言い終えると、男はサンダルを履いて彼の手からシャワーのホースをひったくるように
奪った。「目ざわりだ。さっさと消えろ」
男の言葉に彼は何か反応を示すことなく、どこか遠くを見つめて歩き始め――庭園を囲む
白い柵をよじ登り――さらに落下防止の長大なフェンスをよじ登り――躊躇することなく、
その身を空中に投げ出した。
「……空中庭園に、"機械"はふさわしくないな」
呟いた直後に、男の耳は、グチャッという鈍い音をとらえた。
グチャッーーそれは柔らかな人間の肉体が、硬いアスファルトに叩きつけられて命を失っ
た瞬間の音だった。
「……Z・О・C、Z・О・C、Z・О・C、ズィーオーシィー……」
同じ言葉を呟きながら男はログハウスの中に戻った。玄関脇に置いてある携帯電話を手に
取り、秘書室へと繋ぐ。
「……東側に落ちた死体を片付けろ。警察が来たら追い返せ。以上」
通話を切り、また庭園に入り、ホースのノズルをシャワーにセットし、水の蛇口を捻る。
庭園に生きる全ての植物たちが、嬉しそうに葉や花を震わせる……。
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愛知県名古屋市中村区にある、ブランド・貴金属のリサイクルショップ《D》グループ
本社3階の社長室のデスクの前で、代表取締役社長の澤光太郎は、広げられた封筒の中身
に考えを巡らせた。
『招待状 《D》澤光太郎様』
内容はいたって"マトモ"な物だ。リニューアルオープンする高層複合商社ビル《Z》の
プレオープンパーティの招待状……。
考える。
考えて、考えて、考えてから――社長室に置いてある応接セットのソファの傍らに立つ
少女の姿をした"何か"に目をやる。澤の視線を感じた少女は、口をパクパクを動かしなが
ら、イヤイヤと首を振った。
『行かないほうがいい』
少女がそう言っているように見え、澤はデスクの上で俯いた。
"それ"はいつからいたのかはわからない。
たぶん、つい最近のことだったようにも、昔からいたのかもしれないとも思える。話し
かける澤に少女はよく笑い、仕事に忙しい時には消える。どうしてそうなのか、どうして
そうなってしまったのかは、わからない。ただ、澤は今も昔も、少女は今も昔も――お互
いに深く愛し合っていたという事実だけはわかっていた。
「……商売の邪魔だけはすンじゃあねえっ、て言ってもわからねえか? 佳奈……?」
黒いスーツを身に纏い、幼さの残る顔を歪ませて、佳奈と呼ばれた少女のような"何か"
、は再び顔を横に振った……。
その時――社長室の扉がノックされた。瞬間、佳奈の姿が消える。
息をひとつ吐き、澤は「入れ」とだけ静かに言う。
「……失礼します。社長、何か用事でも?」
《D》執行役員の男――岩渕誠が疲れたように聞いた。
「……失礼、しま…す」
《D》営業部新卒社員の女――伏見宮京子がおそるおそる姿を見せる。
「何スか? また"せどり"ですか? それとも転売? 社長も荒稼ぎしますねえ」
《D》大須支店支店長のクソ野郎――川澄奈央人が頬を指で掻きながら入る。
「……次の土曜、《Z》のビルでプレオープンと立食パーティだ。名刺を大量に持ってい
け。それと、姫様はドレスコードだ……ドレスなンざいくつも持っているとは思うが……
必要なら経費も払ってやる……」
「えっ? このメンバーで、ですか?」
意外な人選なのだろう、声をうわずらせて岩渕が聞いた。
「……俺様と岩渕はテナント契約の商談と挨拶。姫様は広報係、適当に愛想笑いしてりゃ
あええが。……川澄、てめーはゼニになりそうなヤツを嗅ぎ回れや……」
「参ったな…」と困惑する男と、「……ちょっと楽しみかも」となぜか嬉しそうな女と、
「最高じゃないスか、社長っ!」とヤル気に満ちた男――三者の姿を交互に眺めながら、
また――澤はソファの上に視線を流した。
そこには、誰もいなかった。
当たり前のように、誰の姿も形もなかった。
何もないとは、思う。
危険なことなど何もない、何もないとは思う。
けど、
けれど、佳奈の助言通り、何かあれば、俺は……
迷わず――伏見宮と川澄は切り捨てる。そのつもりの人選だ。
だから……わかってくれよ、佳奈。これも商売なンだよ。
誰もいないソファに向かって、澤は静かに微笑んだ……。
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ZOC(ゾック)とは、Zone of Controlの略であり、ゲーム用語。あるユニットについて、そのユニットが存在していることによる周囲のユニットへの影響範囲や、その影響の内容を表したルールのこと。日本語に訳して「支配領域」などの言い方もある。
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『支配領域の悪魔と、D!』 aに続きます。
久しぶりのオススメ音楽コーナーです。
えー今回は岸田教団&the明星ロケッツ様です。
説明不要、とりあえず一曲聞いてください……。
最新のベストアルバム、最高です。
HIGHSCHOOL OF THE DEAD[2021]
動画の共有方法が以前と異なるようで、貼り付けに苦戦。
また次回までには勉強・修正しておきます。
今話はプロローグということで短め。
オマケや雑談等は次回にします。
(というより、seesの文章作成能力のリハビリ的な意味合いもあり、あまり
長文作ってしまうと疲れちゃう)
現代風の空想科学オカルト短編と思っていただければ幸いです。
ちなみに今回の話の主人公は澤さんです!!
ではまた。
次回の更新は。早く思ったより近日イケます。たぶん💦
こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。
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