060842 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

株式会社SEES.ii

全9件 (9件中 1-9件目)

1

短編 04 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』

2018.10.31
XML

ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。


―――――

 6月3日。午前1時――。

 大須にあるローズコートホテル。岩渕はホテルのロビーにあるロングチェアの端に腰を下
ろし、両手で《カーバンクルの箱》を握り締めていた。
 今、ホテルのロビーにいるのは岩渕と川澄と高瀬瑠美と高瀬順子、鮫島恭平と……その
知人の6人だけだった。高瀬瑠美は岩渕がオークションで支払った2億5000万の札束が
詰まったトローリーバックの柄を握り――高瀬順子は岩渕の近くのロビーチェアに腰を下し
――鮫島とその知人は、まるで自分たちは無関係と言わんばかりに、ロビーの柱の影に隠れ
て様子を伺ったいた――そして、川澄は……

「……どういうことです? 岩渕さん……」
 岩渕と同じチェアの端に腰を下ろしながら川澄が言う。「《箱》を僕に譲渡してくれる、
気はない……と?」
 川澄は微笑んだ。それは昨日今日何度も見た子供っぽい微笑みではなく、明確な敵意を
感じさせるものだった。
「ああ。これは俺のものだ……」
 川澄が深く息を吸い、舌打ちと共に息を吐く。「どいつもこいつもっ……岩渕、アンタ、
死にたいのか?」
「ああ……そうだ……そうだと思う」
「……? どうする気だ?」
「まずはこの《箱》の正体だが……瑠美さん、教えてくれるかい?」
 しばらくの沈黙の後――岩渕は目の前に立つ瑠美を見つめた。彼女は指先で下唇を触り
ながら、何かを深く考え込んでいるように見える。
「……ダメよ。私からは何も答えられない」
「……ここからは俺の推測だが……簡単に言うなら税金対策。もっと素直に言うのなら……
外資の洗浄、マネーロンダダリング……だろ?」
 瞬間――高瀬順子の顔から生気が失せた。おそらくは図星なのだろう……本当、巧妙な
やり口だと思う。

「……この《箱》を競り落とそうとした中国人との密約、アンタたちは《箱》の中に《R》
の海外口座番号、入金・出金・送金方法なんかを忍ばせて取引する計画だった……」
 高瀬順子は顔をブルブルと震わせ、娘である瑠美の顔を見た。瑠美は岩渕の目をじっと
見つめ、ほんの少しだけ、誰にもわからないくらいほんの少しだけ――微笑んだ。

「……オークションという手間のかかる方法を用いたのは、不特定多数の買い手から選ぶと
いう偶然性を演出するためと――ある意味の"オーディション"『アンタら中国人の中で誰が
ウチと取引するにふさわしいカネを用意できるか?』の選出、てトコだな……まぁ、今回は
例外だったからこそ、俺が競り落とせるチャンスだったワケだが……」

「ねえ……」
 そこまで黙っていた瑠美が岩渕に声をかけた。「……オークションで《箱》が第三者……
例えば岩渕さんのような……他人の手に渡るリスクに関しては? どう説明するの?」
「そんなもん関係ないよ」
 岩渕よりも先に川澄が口を開いた。「《箱》の中身を正確に確認するには《鍵》が必要
不可欠だからね。お前も持っているんだろ? 《鍵》をさ」
 川澄が胸のポケットから《鍵》をつまみ出し、プラプラと揺らした。
 そう。
《鍵》がなければ《箱》に意味はない。おそらく――過去、高瀬親子は似たような手法を
用いて海外からのマネーロンダリングを引き受けていたのだ。……自分たちに都合の良い
顧客にだけ、パスワードや暗号や《鍵》のようなアイテムを渡し……情報の漏洩を防いで
きた……。

「はぁ――……疲れた」
 瑠美は本当に疲れたような声を出し……やがて――岩渕の目を優しく見つめ、ぎこちなく
微笑んだ。

「……アンタはいい女だ」
 無意識のうち岩渕は呟いた。
 そう。高瀬瑠美はとても上品な顔をした美しい女性だった。京子に負けないほど大きな
瞳で岩渕を見つめ、少し恥ずかしそうに、少し寂しそうに笑っている。
 彼女の人生に何があったのか? 何が彼女の人生に影響を与えたのか? 彼女の未来に
は何が待っているのか? 岩渕は何も知らなかったし、知ろうとも思わなかった。彼女の
人生は彼女のものであり、岩渕の知るところではなかった。
 だが――……
 もう――……
 うんざりだ。そう思う。
 
 たぶん……川澄も、瑠美も、そんなに悪いヤツではない。少なくとも、過去の自分――
世界のすべてに束縛されていた自分よりはよっぽど人間らしい。自分に正直で、自由で、
心のあるがままに生きることができる……それが犯罪行為であろうとしても、だ。
 もう、嫌だ。
 もう、うんざりだった。
 ……丸山佳奈は命を捨ててまで澤社長や俺の命を救った。なら、俺が彼女にしてやれる
最大限の譲歩案とは?
 
 答えはひとつだった。

「俺がアンタたちに提案する取引はひとつ。川澄、瑠美さん、お前ら……仲直りしろ。
そう約束してくれるのなら、《箱》はお前ら二人にやる。互いに《鍵》を使い、互いの
"私物"を取り戻せばいい……」 
 

 ……これでいい。これで、いいんだ。
 本気でも嘘でもいい、嘘でもいいから、お前らが本当の家族に戻れるのなら――俺は、
俺だけが、地獄に落ちても……構わない。

―――――

 ――瞬間、全身が燃えるように熱くなり、凄まじい怒りに脚が震えた。この男に、この
岩渕という男に対して、こんなにも怒りを露わにするのは初めてだった。
「……――ふざけんなっ!」
 そう叫ぶと、僕は岩渕の胸倉を掴みかかった。
 意外なことに、岩渕は逃げようとはしなかった。身をよじろうとさえしなかった。 
「岩渕っ、僕がっ、そんな提案受けるワケがねえだろうがっ!」
 岩渕は顔を背けず、無言で僕の目をじっと見つめた。
「僕は……奴隷のように命令を受けたり、浮浪者のように施しを受けたり、王様のように
自由を縛られるのが――大っ嫌いっなんだよっ!」
 岩渕を背もたれに押し倒し、首を絞めるかのように力を両手に込めていく。だが、岩渕の
顔は微笑んでいるかのように見える。
「……畜生っ! 僕の言うことだけを……僕の思う通りに動かないのなら……殺すぞっ!」
 僕は力を込める。両手で岩渕の襟元を強烈に締め上げ、更に力を込めた。

「うぐぅ……」
 くぐもった声を漏らし、岩渕の顔がみるみる赤みを帯びていく。抵抗すればいいのに、と
いう思いはあった。なぜ、こんなにも簡単に?
 理由はひとつだった。岩渕は両手で《箱》を大事そうに抱え続けていたからだ。

 殺す。そう思った。背後から制止を呼び掛けられるが、関係ない。
 僕は盗賊だ。犯罪者だ。人を殺すくらいワケはない。

 殺す。僕はこの男を許さない……。
 僕はそうやって生きてきた。だってそうだろ? 社会は僕の存在を知らない。血液型、
戸籍、顔、指紋、歯型、病院歴、ありとあらゆる個人情報を何も知らないのだ。

 殺す。殺して《箱》を奪って逃げる。
 奪い、盗み、必要とあれば殺す。そうやって生きてきた。死ぬまでだ。僕は死ぬまで
そうやって生きていく。……ん? 死ぬまで? 

 ――さあっ、殺すぞっ!
 ……死ぬまで? 僕は、死ぬまで、僕自身を知らない? ……誰も……誰も?

 ――殺す? 死ぬ? 死……。
《箱》の中身を手に入れたところで……僕は、僕のことは……誰も? ……知らない?
 誰も知らず、誰からも知られず、誰にも言えず、誰にも言われず……永遠に?
 永遠に僕は……ひとり?
 そんなことは考えたことがなかった。昔から、遥か昔から――僕が物事を思案する時、
僕の脳はすぐに答えを導き出してくれたし、それが万能であると信じていた。
 そのハズだった。
 
 ……わからない。
 ……何をどうすりゃいいんだよ……わからねえ……僕は……誰だ?
「……岩渕さん……僕は、誰だ? ……僕は……何?」
 視線が錯綜し、考えがまとまらず、脳がパニック寸前となり、岩渕を殺そうと力を込めた
その時だった。その時、突然、川澄の脳の中が声を上げた。

『カッコ悪い』
 声――そう。それは子供の声だった。子供の頃の川澄自身の声だった。
 声――そう。それは岩渕の腰のあたりから聞こえた。そこにあるのは、《箱》……。
《カーバンクルの箱》は川澄を制止し、自らの完全な解放を願う……?
『半分じゃダメ。だから……ヤメよう?』
 子供の声に、川澄の心はわなないた。

『本当は《箱》の中身を知るのが怖いんでしょ? イライラして……だからアンタは、
それを岩渕さんに八つ当たりしているだけなんだ。……違う?』
 川澄の知らなかった、もうひとりの自分がそう言ってケラケラと笑った。


 ――結局、僕はできなかった。どうしても、力が抜けてしまう。
「どうした? 川澄?」
 背もたれに沈む岩渕が低く言った。「俺を殺して《箱》を奪えよ。元々はお前のもの
だしな……」
 僕は完全に力を抜き、ロビーチェアに座り直した。ゆっくりと視線を横に向け、岩渕の
顔を眺める。咳き込む岩渕は未だ両手に《箱》を握っている。

「おい……岩渕さんよ……ひとつ、教えて欲しい」
「何だ? 何が聞きたい?」
 岩渕が僕のほうに、咳き込んでかすれた声を向けた。

「僕がアンタの……そんなくだらない取引に応じると、本気で思っているのか?」
 利用するだけ利用して見捨てる予定だった男の顔を見つめて僕は質問した。「僕をコケ
にした女と手を取り合い、二人仲良くゴールイン、なんて妄想――本気か?」
 その時、見捨てる予定であった男の顔が呆れたように微笑んだ。
「川澄……俺は、ただ――」
 僕を見つめ、岩渕はまた微笑んだ。「お前のことを誰かに伝えたい。お前の性格の悪さ、
駅弁食うだけの趣味、他人を徹底的に見下す自意識の高さ……溜りに溜まった俺の愚痴や
文句を……瑠美さんや、他のみんなに伝えたい……それだけだ」

「何だよ、それ」
 僕は笑った。盛大に笑った。こんなにもくだらなくて、こんなにも馬鹿な理由で大金を
用意した馬鹿は、僕と一緒になって笑っていた。
 笑いながら、川澄は目元を袖で拭った。
 ……どうやら、笑いながら泣いていたらしい。困ったね……まったく。
 
 今回だけ、折れてやるか。
 川澄奈央人は首を縦に振り、「了解……」と静かに呟いた。

―――――

「あんた……どうする気なの?」
 目の前の娘に向かって、喘ぐように母は言った。
 そう。母――高瀬順子は恐れていた。私が岩渕との取引に応じ、川澄と手を結び、いつか
は自分を裏切って《R》を乗っ取ろうと画策することを。そして、まるで過去の不幸を繰り
返すかのように、ひとり孤独に生きる自分の姿を。
「……《箱》の中身が世間に知られれば、どの道《R》は終わります。なら、別に拒否する
理由はないわ」
 考えるまでもない結論を、瑠美は母に向かって堂々と告げた。
「冗談じゃないっ!」
 母はヒステリックな叫びを上げ、瑠美が持っていたトローリーバックの柄を強引にひった
くった。けれど、彼女の娘は動じなかった。ジリジリと後ずさる母親を冷静に見つめ、ゆっ
くりと、自分のうなじに手を伸ばした。
 
 終わり、だね。
 そうだ。自分を生んだ女と決別し、自由を得るのだ。……兄のように。

「……お前……誰が育てたと思って……」
 ドラマや映画でよく聞くセリフを吐きながら、母は両手で必死にバックを引きずり後ず
さった。本当、どこまでも強欲な人だ。
「……お前は、クビだ……二度とウチの家には入れない。このカネだって……一銭だって
くれてやらない……このカネは私のものだ……」
 まるでうわ言のように、母は似たような言葉を繰り返した。

 ……母、か。
 自由を欲した娘には、もはやそんな言葉は意味をなさなかった。
 そう。今では母でもなければ、娘でもなかった。
 母親を見つめる娘の目の中には、もはや愛情などひとかけらもなかった。親密さもなけ
れば、恨みも憎しみもなかった。彼女を見つめる娘の目の中にあったのは、少しの同情と、
深い憐憫の情だけだった。

「……受けるわ。私の持つ《カーバンクルの鍵》、これを兄さんと使う……約束も、する。
兄と仲直りする。……最後の親孝行として、《箱》の中身は焼却処分しとく……それでいい
かな? 母さん?」

 瑠美はうなじから取り外したチェーンネックレスから《鍵》をつまみ、岩渕の眼前に差し
出した。そして、母――高瀬順子は、激しい怒りに顔を歪めた。
「……畜生っ! お前ら全員、のたれ死にやがれっ!」
 そう怒鳴ると、母は怒りに引きつった顔でバックを引きずり、やがて……ホテルのロビー
から出て行った。

 母がロビーから出たところで視線を外し、私は大きく息を吐き出して……微笑んだ。
 ……さようなら、母さん。会社の経営ごっこ……楽しかったよ。
 ……兄さん、とりあえず――今後ともよろしく。
 そして岩渕さん、とりあえず――私を……。

―――――

「さぁて……御開帳といきますか」
 川澄が楽しそうに言う。「瑠美、鍵穴はどこだっけ? 昔のことで覚えてない」
 瑠美と呼ばれた娘は「……いきなり下の名前で呼び捨て?」と眉間にシワを寄せたが、
すぐに気を取り直し、岩渕から《箱》を受け取った。

「……ちょっと待て、お前ら」
 ここまで無言を貫いてきた鮫島恭平が口を開いた。「岩渕よ。お前自分の状況わかって
んのか? あのカネっ! 2億5000万っ! 高瀬の女社長に持ってかれちまったじゃ
ねえかっ! どうすんだよっ!」
 激しく息を喘がせて鮫島が怒鳴った。これだけは……言っておかなければならない。
「……はぁ」
「気の抜けた返事すんじゃねえっ! 返済できなきゃ……拉致られて死ぬぞっ!」
「……いやぁ、心配してくれるのは嬉しいんですが……」
 鮫島からの視線を外し、呆けたように岩渕が呟いた。

 続けざまに怒鳴ろうとした鮫島の横から、川澄の声が笑った。睨みつけると、さらには
女社長の娘の瑠美も笑っていた。
「いいスか? 鮫島先輩。よく考えてくださいよ。あのね……この僕ですら、半日で億の
カネを用意するのに四苦八苦してるんです。……鮫島さんの連れて来た、そちらの奥の方?
そちらさんが僕以上に頭がキレて、しかも未来予知までできているのなら話は別ですが……」
「……はぁ?」
「俺は……死ぬ覚悟で偽装屋からカネを借りようとしたのは本当です。ですが……」
「このオジさん、頭は大丈夫? 紹介とは言え、いきなり他人に3億も"本物"渡すバカが
いるわけないじゃない」
「えっ?……じゃあ、あのトローリーバックの中身……は?」
 わけのわからない兄妹が同時に口を開いた。
「ニセ金に決まっているじゃあないスか」
「ニセ金よ。私は持った瞬間にわかったわ。札帯は本物だけど、中身はカラーコピー。
底にあるのはほぼ白紙。……母の致命的ミスは中身の検分を私に任せたこと、ね」

「……嘘だろ?」
 鮫島は勢いよく顔を横に向け、今度は偽装屋に向けて睨みつけた。「おいっ! コイツら
とそんなやりとりがあったなんて聞いてねえぞっ! お前……たばかりやがったのかっ!」
 訊きたくはなかったが、鮫島は訊いた。自分の心配は何だったのか、やり場のない怒り
すら込み上げた。

「……やりとりなんてない。あれは潰れた暴力団からの払い下げで手に入れた、賭博用の
見せ金だ。鮫島よ、消費者金融だって最低限、ATMぐらいは通す。まぁ一応、億の小切手と
契約書の用意はしていたし貸付もする予定ではあった。……まぁ、それも徒労に終わったが
……《D》の岩渕、だったか? 名前ぐらいは覚えておくが……必要経費は頂くぞ」
 偽装屋の男は紳士然とした声で、楽しそうに笑った。

「そういうこと」
 川澄の声が背後から言う。「ルールを守るとかどうとか言っておいて、ルールをあっけなく
反故にする。今回はさすがに僕もショックですよ……鮫島先輩」
「畜生っ!」
 鮫島恭平は叫び、自身の頬を両手で思い切りビンタした。ヒリヒリと痛み始める頬を撫で
ながら、鮫島は思った。
 ……これも伏見宮京子――神の加護ってヤツか? ……まったく、悪運の強い野郎だ。

―――――

 3日後――。
「……京子。もう、いいか? ……少し恥ずかしい」
 愛しい岩渕の声がすぐ頭上で聞こえたが、京子は顔を上げなかった。そう、岩渕を抱き
締めたまま離れたくはなかったのだ。

 家族にも知らせなかった突然の帰国だったため、出迎えは岩渕ひとりだ。そう考えると
気分も高揚して視野が狭まり、空港で再会を喜ぶ恋人たちと似たような行為をしたくなる。
本当に、本当に今日という日を待ちわびていたと思う。その証に、数分以上も岩渕の背を
抱き締めていても羞恥心は感じない。出発前に聞いた騒動の顛末も関係しているのだろう。
男への愛おしさが無性に込み上げ、呼吸もままならなかった。いつもなら周囲の動向にも
意識を向けなければならないのに、その余裕すら――今の京子にはなかった。

「俺も嬉しいんだが……少し、落ち着いてくれ……」
 京子の肩を押し返そうとしながら岩渕が言った。「セントレアは人も多くて目立ちはしな
いかもだが……さすがにもう、いいだろ?」
 岩渕の言葉に京子はようやく顔を見上げた。
「……本当に、大丈夫なんだよね?」
 京子は何度何度も聞いたはずの質問をまた聞いた。空気を思い切り吸い、今度は吠える
ように、「……解決っ、したんだよね?」と叫んだ。
「……ああ。もう、心配いらない」
 岩渕が微笑んだ。「……川澄も、高瀬瑠美さんと仲直りしたよ……たぶん」
「それじゃあ、例の……《カーバンクルの箱》も?」
「ああ、中身は川澄が回収して、《箱》は……俺が貰った」
「結局……《箱》の中身って……何? 岩渕さんがそこまでして協力して……手に入れた
ものって……」
「……ああ、それは――……」


「……ふぅん。私にはちょっとよくわからないけど……あの人にとっては、大事なものな
のかもね」
 背と腰に伸ばした両手を離すと、岩渕は安堵したかのように微笑んだ。次の瞬間、京子は、
岩渕の話に出た高瀬瑠美という女のことを思い出した。川澄の妹で、所属する会社を解雇
された女……彼女はこれからどうするつもりなのだろう? ……まぁ、私と岩渕さんには
関係ないのかもしれないけど……新しい人生を謳歌してくれたら、それでいい……。
 京子は瑠美のことを頭から打ち消した。いや、打ち消したのではなかった。

「……岩渕さん、これは?」
 岩渕は優しげに微笑みながら、京子の右手と指に触れた。「あっ……」
 京子は顔から笑みを消し、岩渕の言葉を待った。
「《カーバンクル》は伝説の獣の名、らしい……せっかくだから、《箱》から出してやる
ことにしたよ……」
 岩渕がちょっと不安そうな面持ちで言う。「……《D》の依頼でブルガリの職人たちに
大至急作らせたエタニティ・ルビーリング……名前は《カーバンクルの指輪》……好みに
合えば……俺も嬉しい」
 
 岩渕の手が離れると同時に、京子の右手薬指が紅の光を放った。
「……嬉しい」
 瞬間――京子の目に涙が溢れ、キラキラと輝く指輪に落ちる。
「……本当に、本当に嬉しいです。生まれ変わった《指輪》、一生大切にします……」


《箱》の経緯などどうでもいい。
《箱》は生まれ変わり、転成し――《指輪》となって、京子の宝物となった。
 それがすべて。それがすべてなのだ。
 岩渕がプレゼントしてくれた。それが重要であり、《箱》であった過去は関係ない。

 ふたりで腕を組んでセントレアの出口へと歩きながら、岩渕とこれからの未来をぼんやり
と想像する。
 岩渕とこれからもずっと……ずっと一緒に生きるためには、私が想像もできないような
苦労や苦痛や苦悩が待っているのだろう。だが、それらもすべて――排除してしまえばいい、
殲滅してしまえばいい、焼き払ってしまえばいい……。
 そんな汚らわしく、おぞましい言葉が胸に湧くことにも……抵抗はない。まったく、ない。
 それぐらいなのだ。それぐらい、私――伏見宮京子は岩渕を愛している。

―――――
















本日のオススメ!!! ずっと真夜中でいいのに。 氏……。

 ずっと真夜中でいいのに。氏は歌系動画では現在、それなりに有名になりつつある状況
です。元々は複数のクリエイター集団と有名バンドの演奏者たちがボーカル、《ACAね》
(あかね)氏を迎えて――爆発的な再生数です。

 広瀬香美やaikoを彷彿とさせる力強いボーカル力に加え、幻想的かつノスタルジックな
動画アニメ……11月にニミアルバムが出るとかで……seesもかなり注目しております。
 発表曲は少ないですが、正直――すげーっす。



 
ずっと真夜中でいいのに。の予約はこちらから……。



雑記

 お疲れ様です。seesです。

 いかがでしたかね?
 今回の主人公はふたりの男を軸に、これまでの《D》を回顧しつつ、新たな(平和的な)
問題に立ち向かう、みたいな内容。
 派手さもグロさもないストーリーに少々困惑しながらの完結……。
 消化不良感がぬぐえませんが、それはそれは……スイマセン<(_ _)>
 
 今後は…ショートショートをいくつか作るいつもの路線に戻ります。
 曲の宣伝は控えめにします。あまり意味がないのかもだし💦
 ちょくちょく更新はする予定ではありますし、構想のストックもあるので……数少ない
訪問者の方々、見捨てないでくれると嬉しいな……。

 誤字脱字、理解不能な部分の修正はちょくちょくします。重ねてスイマセンm(__)m

 もうひとつ、今回の話、どいつもこいつも笑いすぎ。少し自粛しろ。

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓



 好評?のオマケショート 『思えばこの時、会社ではとある陰謀が……後編』

 次長  『――てことで、松阪のY田が故郷の北海道に帰るそうや」
 sees  『……』
 次長  『――てことで、行け』
 sees  『……はい』

      数日後……。

 総務女子『……seesさん、社宅の件ですが――』
 sees  『……はい』

      数日後……。

 sees  『……しばらく本社を留守にします。皆様、ありがとうございました』
 みんな 『バイビー』

      数日後……。ていうか、現在。

 sees  「……何でワシがこんなメに……🍶グビグビ日本酒ビール
      そう。seesは飲んだくれていた……。
 sees  「出世はしたかもしれないけれど、結局は社宅の家賃とほぼ相殺。手元に残る
      カネはいつもと変わらない額……」
      そう。しかも生活用品はほぼ自腹で用意。結局、引っ越しにかかった経費は
      10万……慣れぬ職場で疲れ果て、耳に届くは訛った三重弁。
      そう。『なんやんやん~やんやんやんやで~』て、何やねん。

 sees  「ああ。また酒でも飲むか。しかし……」
      そうだ。希望はある。この地に来て、初めて知った、出張ではわからなかった
      魅力……それは、やはり――アレだ。

      賃貸する月5万の1LDKマンション(地価安いっ!)のすぐ近くにあるスーパー
      『コスモス』(隠す気もない)の肉コーナー……。

      安い……。そう。肉が圧倒的に安い。冷凍松阪肉が普通にスーパーで買える?
      松阪牛焼き肉用ロースが300gで800円? ホルモン200gが650円? 
      ……爆安ではないのかもしれないが……それが毎日のように安い……。さすが
      は肉の都市……ウマすぎる。海外の肉だとさらに爆安……。なんてこった。
      (高いのはA5ランクとかのブランド肉だけってことか?)

 sees  「……何でワシがこんなメに(>ω<)モグモグ……畜生が……グビグビィ……こん
      な街……さっと抜けて帰るぞ(´~`)モグモグ……🍶グビグビ……」
      今度、自宅用の焼き肉コンロ、買うか……♬


                                    了🍖





こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

人気ブログランキング        


















































































―――――

 玄関の扉を開けると、奥のリビングで若い男女が楽しそうに談笑しているのが見える。
考えるまでもなく、あの兄妹だ。全身に深い倦怠感が走り抜ける。やはり、川澄を自宅に
迎え入れたのが間違いだったのだ。合鍵か? クソ野郎……。

 川澄の妹である瑠美が先に岩渕の帰宅を察し、「ああ、岩渕さん、おかえりなさい」と
微笑む。……何かの冗談か?
 イラ立ちが込み上げる。全身が熱を帯び、今すぐにこの兄妹を叩き出そうかと考える。
こいつらは疫病神だ。関わるとロクなことにならないのは、火を見るよるも明らか。正直、
しばらくは顔も見たくはない……そんなことを思う。

「……何の用だ?」
 怒りとイラ立ちを抑えて岩渕は訊く。
 川澄は岩渕を見つめてニヤリと笑い、ペラペラと喋り始めた……。

「……《D》に職場復帰しようかと思います。澤社長にも了承済みです。瑠美も《D》の
採用試験、受かりました。しかし僕も瑠美も家が無いホームレスです。ですからしばらく
の間、岩渕さんの家で寝泊まりしますね。家賃は適当に払います。食事は適当に作ります。
睡眠は適当に取ります。仕事の邪魔はしません。とりあえず、現時点での報告は以上です」

 その瞬間、岩渕の世界が静止した。静止……静止……静止……。

―――――

 ……そんなに驚くようなことなのかな? 
 時間が止まったかのように呆然とする岩渕を見る。
 これでも感謝してるんですよ?
 短く小さいお辞儀をする。
 瑠美も岩渕に向かって何か言っている。
 惚れたのかい? 僕は応援するよ。……応援だけだけど。
 
 僕はリビングのテーブルの上に置いたノートパソコンに目をやる。
 ノートパソコンにはマイクロSDカードが挿入されている。
 そう。
 僕の《鍵》で開いた《箱》の中には、この小さなマイクロSDカード1枚が入っていた。
 中身は見せましたよね?
 あまり感動してはくれませんでしたよね?
 しょうもない、と内心では思いましたよね?
 でもOKです。
 これは僕だけにしか価値はないですから。
 えっ? もう一度見たい?
 しょうがないですね……。
 ほら……どうぞ。
 ああ……実に可愛らしい、笑顔がステキな『家族写真』ですね。
『写真』の数は20枚。そのほとんどが、『家族写真』です。
 ちゃんとタイトルもありますよ? ほら……これが僕の本名です。普通でしょ? 
 被写体はもちろん、僕と父と母です。
 父も笑い、母も笑い……僕も、笑っています。
 
 岩渕さん――アンタ、もしかして……カンが悪い?
 それに……いつまでボーッとしてるんですか?
 しかたがないですねえ……ちょっと大声でも出してみますか。
 よーく聞いてくださいよ?

「――見ろっ! 岩渕っ!
 これは家族の写真だっ! これがどういう意味か、わかるかっ?
 この子供は僕だっ! 僕の顔だっ! 僕のものだっ! 僕だけのものだっ!
 僕は僕を取り戻したっ! もう一度言うぞっ、僕は僕を取り戻したんだっ!」

 僕は両手を掲げてバンザイをした。
 瑠美は笑っていたし、僕も笑った。
 岩渕だけは未だに呆けている。……いったいいつまで静止しているつもりなのだろう?
 僕は笑う。
 笑い続ける……。
 ああ……。
 世界がより一層美しく見える。
 そう。
 そうなのだ。
 僕はやっと、僕はようやく、岩渕と同じ――同格に至ったのだ。
 それがわかる。
 僕の脳裏に映像が広がる。……幼かった僕……父や周りの大人たちの命令で、整形手術を
受けるために手術台で眠る僕。苦痛。薄れていく意識。そして、もう元には戻れないという
喪失感……でも、僕は僕を取り戻した。
 
 大きく息をつく。
 結論。
 僕は、生まれ変わったのだ。岩渕や《D》と同じように……変わった、そう思うことにする。

 世界は変わった。無論――地球の何かが変質したとか、そういうわけではなく……単に僕の
意識が改革されたというだけだ。ただ、そう思う。

『これまでの川澄奈央人』の世界は消滅し、『僕』の世界に上書きされた。
 つまり……僕が今、世界を消滅させている。
 そう思うと、笑いが止まらなかった。





『…………次は、どうする?』
 僕は子供の声で僕に訊く。
 僕は答える。
『……火事場泥棒とか、オモシロそうだと思わない? 災害や災難に便乗して被害者をさらに
被害者せしめる……鬼畜、外道の犯罪……』
 ――いいね。
 ――最高だ。
 僕と僕は喜んで共感する………。
                                     了
 
 
  







Last updated  2018.10.31 20:38:15
コメント(5) | コメントを書く


2018.10.08
ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。


―――――

 6月2日。午後23時――。

 ……気に入らねえ残業だ。……吐き気がしやがる……クソッ、岩渕の野郎……。
《D》名駅前支店の支店長である鮫島恭平は自家用車であるシーマの運転席からイライラと
しながら外の様子をうかがった。
 鮫島は岩渕の命令――というか頼みをきき、とある人物を大須駅まで呼び出し、そのま
ま岩渕の待つローズコートホテルまで案内する依頼を引き受けていた。大須駅は若い男女
や外国人でごった返している。鮫島のいる駅前のターミナルも、商店街へと繋がる道も、
大通りも、幹線道路も、人々の群れでいっぱいだった。
 
 シーマのすぐ近くで口論をしている若いサラリーマンたちがいる。会社を辞める、とか
辞めない、だとかの押し問答をしているらしかった。そいつらはそれぞれに不安げな視線
を交わし、周囲を気にせず語り合い、しきりに何かを互いに訴えていた。
 鮫島も何度か岩渕を説得しようと訴えた。一般論を説明し、川澄のことは放っておけ、
考え直せ、と言った。けれど夕方に外で会った岩渕は――『もう決めたことなので考えは
変わらないから、鮫島さんは例の知人を呼んでください』という意味の言葉を繰り返すだけ
だった。

「……断る、べきなんだろうな……断り切れなかった俺様も同罪か……岩渕の野郎……」
 鮫島は声に出して呟いた。もしこれが澤社長にバレたら、俺はクビになる可能性が高い。
伏見の姫様を利用して成り上がろうとしている社長にとって、岩渕は死ぬまで手放せない
金脈だ。そんな男を、男自身の願いだからと言って葬る手伝いをしたとあっては、鮫島も
タダでは済まない。

『……お願いします、鮫島さん』
 困惑する鮫島にそう訴えた岩渕の目は真剣だった。そんなにも真剣に自分に何かを語る
者の目を、鮫島は彼女以来――伏見宮京子の出現以来ぶりに見たような気がした。B型
肝炎で生活のほとんどを病室で過ごす息子に『必ず治ります』『必ず良くなります』と
訴え続けた姫君の目。それを思い出した。

「……善人ヅラしやがって……どうなっても知らねえぞっ……」
 吐き捨てるかのように言い放ち、薄く笑い、また思う――。
 ……俺も同罪、同類、か。
 心の中で本音を呟く。そこに――シーマの助手席のドアをコンコンと叩く、黒縁の眼鏡を
かけた男が現れた。左手には巨大なトローリーケースの取っ手を握っている。
 鮫島が何らかの反応や態度を示すよりも早く、男は助手席のドアを素早く開き、「久し
ぶりだな、鮫島」と低く言った。
「ああ……久しぶりだな……《偽装屋》」

 鮫島は助手席に座る男と目を合わせた。鮫島はこの男についてほぼ何も知らない。せい
ぜいが自分と同年代であるとか、請け負う仕事の内容ぐらいしか知らない。
「……電話で話した通りだ。今のところ、変更はない」
 できるだけ穏やかな口調で鮫島は言った。特に恐怖や緊張などはしていない。けれど、
かつて、この男の仕事の手伝いをしていた時のことを思い出すと、背筋が凍りつくような
思いがする。……できることなら、できることであるならば、生涯、もう二度と、会いた
くはなかったが……。

「……契約書の内容なんだが……できれば……そのう……」
 岩渕への情が抑え切れず、奥歯を噛み締めながら鮫島は言った。「……頼む。少しだけ
手加減して欲しい」

「……ダメだ。3億のカネだぞ? 返済能力が低下した瞬間、カンボジアに連れて行く。 
健康体のうちにバラさないと価値が下がる。それぐらい、お前も知っているだろ?」
 男の声には何も無かった。
 感情も、抑揚も、憐れみも――何も感じられはしなかった。
 
 ……やはり、社長に一言相談するべきだった。
 闇の商人――日本各地の地下で暗躍するそいつらの商売道具は多種多様であり、全容は
公安組織でも解明されていないとされる。ある商人は銃火器を扱い、別のある商人は違法
薬物を売買し、またある商人は若い女と子供を売買する。
 そして、《偽装屋》の扱う商品はふたつ――保険金詐欺の斡旋と、臓器の売買――。

 ……岩渕も何らかの策は用意しているとは思うが……大丈夫か? まさか、何のアテも
なく《偽装屋》からカネを借りるってワケじゃあ……ないよな?
 汗ばんだ手でシーマのハンドルを握り締め、鮫島はゆっくりとアクセルを踏んだ。
 後悔していた。どうしようもないくらいに、後悔していた。

―――――
 
 ……茶番だ。

 ホスト役の男が「――では、《カーバンクルの箱》っ! スタートは100万円からで
ございます」と言って頭を下げた瞬間――……茶番劇は始まった。

 母の順子が私を伴って川澄の席のすぐ隣に立つと、それを合図に待ってましたと言わん
ばかりに、人民服の男が「1億4千万っ! 8番っ!」と叫んだ。
 そう。茶番なのだ。川澄の限界額などとうに調べがついている。私は小さな息をひとつ
吐き、母の様子を伺った。
 母は驚いたように目を見開く川澄の顔を見つめ、しばらくニヤニヤと笑っていた。それ
から、川澄の席の脇にしゃがんで、「気分はどうだい? アンタの父親と母親は、こうい
うふうにアタシから大事なものを奪い続けたんだよ?」と訊いた。
「……時間もチャンスもくれないってワケか?」
「ええ。悪いけど、兄さんの負けね」
 瑠美の返答を聞いた順子が、突然、「ざまあみろっ!」と叫んで笑い出した。隣にいた
瑠美も母につられて笑みがこぼれた。

「……はじめから、僕をコケにするためだけに?」
 川澄は声を震わせ、殺意すら感じられる目で順子を睨みつけた。けれど、母は笑うのを
やめない。だから私は母に、「……母さん、あとは警察の方々に任せましょう? そこの
バッグに詰まっている現金はどうやって集めたのか? キチンと通報しないとね……」と
言った。「……一生、刑務所から出て来られないように、ね?」と。
 
 母は、笑い続けている。
 瑠美の合図で駆けつけた何人もの警備員が、川澄の腕や肩を取り抑えている瞬間も――
 血の気が引き、顔が青ざめ、頬がピクピクと痙攣しだす川澄の顔を見ている瞬間も――
「やめろ……手を離せ……」力なく呟く川澄の瞳に、強い恐怖が浮かびかけた瞬間も―― 
 母は、笑い続けていた。

 ねえ……どうするの? 岩渕さん。
 瑠美は心の中で、川澄の隣に座り、そっと目を閉じた岩渕の顔を見つめて訊いた。
 そして――……
 ……えっ?
 ……ええっ? ……何?
 次の瞬間――岩渕の行動に、瑠美は驚きの声を上げた。
「……嘘だ。そんなワケがない……そんなこと、あっちゃいけない……ありえない……
ありえないんだよ……岩渕……」
 岩渕は右手を握り締め、拳を天に掲げ――チャペル全体に響き渡るかのように、叫んだ。

「――1億5000万っ! 14番だっ!」

 信じられない。あまりにも、信じ難い行動だった。
 チャペル内がどよめき、招待客がザワザワと騒ぎ始めた。
 よくよく凝視すると、岩渕の背後の席に見知らぬ男がふたりいる。ふたりは列に並んで
座り、背後から巨大なバッグを手渡しした。……片方の男の正体は知らないが、もう片方の
男は知っている。《D》名駅前支店長の鮫島恭平だ。
 
 掲げた拳を下げた岩渕に、鮫島は、「……悪いがよ、招待状がねえもんだから、ワイロに
お前のゼニ、少しだけ拝借したぜ……恨むなよ」と、背後から囁いた。
 ワイロを貰って不審者を通したクズの話など、今となってはもう、どうでもいい。

 やはり、彼は普通の……今まで私が出会ってきたどの男たちよりも、違う……。正論だけ
を言い放ち、緊急事では糞の役にも立たない若い社員……私や会社を騙してカネを奪おうと
した投資詐欺の男……私に対してセクハラとパワハラを繰り返し、私が社長の娘とわかると
とたんに掌を返して媚を売る執行役員の男……経営能力も無いくせに私に求婚し、《R》を
乗っ取ろうと画策した子会社の社長息子……私の脚や胸や顔を、まるで品定めするかのよう
に見つめる成金のIT企業の社長たち……記憶力に乏しく、自意識だけが肥大し、下劣で、
下品で、愚かで、たいした努力もせず、たいした能力もなく、ただただ毎日の性欲と食欲を
満たすためだけに生きているような――そんな無数の、そんな無限に湧いて出てくるゴミの
ようなカスどもとは――……
「……違う。明らかに、違う」
 瑠美は声に出して呟いた。間違いはなかった。
 

 動揺する警備員の腕を振りほどいた川澄が叫ぶ――笑いながら、叫ぶ。
「――あははははっ! 愛しているよっ! 岩渕さんっ!」

 あっ、何?

 突然――瑠美の胸が猛烈にときめいた。
 そう。川澄の歓喜の叫びと同時に、瑠美は確信した……いや、確信しかけていた。
 もしかして私は……岩渕さんのことが……好き、なの? なぜ? ……愛している?
そんなハズはない……でも……かもしれない……この気持ちは、何? ……これは? 
この胸が張り裂けそうな気持ち…………これは……何?
 高瀬瑠美は理解しようとしていた。
 何かが――女として何か大切なものが、今にも生まれ落ち、産声を上げそうだった。

 ……兄は、愛されていた。父に、その母親に。そして、岩渕も兄を助けた。……私は?
私も……私のことは? 私を……助けてくれる人は? ……いるの?

「――1億5500万っ! 8番っ!」
 取引先の筆頭候補である華僑の実業家が叫んだ。だが、それだけだ。何の感情も、何の
思いも、湧かない。湧きやしない。
「……1億6000万。14番」
 岩渕がゆっくりと挙手をし、宣言した。
 彼に……助けて欲しい?
 彼に……守って欲しい?
 もしかして……私は、誰かに……例えば――岩渕さんに……愛され、たい?
 心の奥底で――私は私に、何度も何度も同じことを問いかけた。


「别调戏! 没听这样的展开的!(ふざけるなっ! こんな展開は聞いてないぞっ!)
……1億7000万っ! 8番だっ!」
「……1億8000万。14番」
 瞬時に岩渕が値を上げた。
 岩渕が鮫島に持参させた現金はいくらなのだろう? 2億? 3億? よくわからない。
何にしても相当なリスクで……命の危険さえ感じる額だ。つまり……。
 ああっ。
 再び心臓が飛び上がった。
 川澄が何事かを騒ぎ、母が不安げな表情で私のスーツの袖を掴み、チャペルの会場が異様な
雰囲気に呑まれようともしていたが――気にはならなかった。
 私の心臓は息苦しいほどに高鳴り、全身の毛穴が汗を噴き出す。眩暈がする。口内が渇き、
唾を飲み込む。
 ……死ぬ気なんだ。……この人は死ぬ気で、あの兄を助けようとしているんだ。
 死ぬ? 死んで、消える? 岩渕が死んでしまったら? 消えてしまったら?
 もし、そんなことになったら……この気持ちは、この気持ちの正体は永遠に謎のままだ。
 瑠美は思った。そんなことを思うのは、考えるのは、生まれてはじめてのことだった。 


「……1億9000万だ。8番。……もう諦めろよ、日本人」
「2億。14番」
 オークションは続いている……。

―――――

 6月3日。午前0時――。

 オークション会場に招待された客たちの腕時計の針が午前0時を指すと同時に、とある
伝説上の獣の名を冠した宝石箱の落札者が決定した。
 オークション開始とともに《箱》の値は億を超えたが、その後は中国人の富豪と日本人
サラリーマンの一騎討ちとなる展開を見せた。値段の吊り上げは500万から1000万
単位で進行し、値が2億となってからは500万以下の入札が続いた。
 招待客たちは驚いた。なぜなら、競りの対象である《箱》は、主催者側から『せいぜい
1000万円程度の品』と紹介されたからだ。
 正体不明の《箱》が、どうして億を超える価値があるのか? それは値を競る中国人と
日本人と出品者しかわからない。招待された客たちは、その異様なやりとりが繰り返され
る光景を呆然と見つめるだけだった。

 中国人の声が次第に小さくなり、比例して競る単位も減り続けた。もはや闘志などあり
得なかった。たとえ落札に成功しようが、何らかの損害を被るのは避けられそうにないの
だろう。死ぬ気で《箱》を競り落とす気も、最初から無かったのかもしれない。

 招待客たちは、どこからともなく莫大な現金を用意した日本人のサラリーマンを見た。
「……番のお客様、最終落札額は2億5000万でございます」
ホスト役の男が落札を決定する鐘の音を鳴らす。まばらだが、会場からは小さい拍手と、
感嘆の息が漏れた。
 そこで初めて、その日本人がカネの単位以外の言葉を口にした。招待客の多くは日本語に
精通してはおらず、男が何を言っているのかがわかりずらかった。しかし、別に自分たちに
対して無礼なことを言っているわけでないことは理解できる。
 
 落札したのは、日本人のサラリーマンだ。その男は、こう言った。


「……高瀬社長、瑠美さん。そして……川澄。《カーバンクルの箱》を手に入れたのは、
俺だ。お前らじゃない……この俺だ。ルールは守るんだろ? なら……最後の取引だ」

―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 i(最終話)に続きます。















本日のオススメ!!!  Guiano(ぐいあの)氏……。

 Guiano(ぐいあの)氏。以前もツイやブログで紹介させていただいたと思いますが……
元々はニコ動でボカロ作曲のP。flower(子供のような声)使いの中ではトップクラスのP、
だと思う。
 抒情的な歌詞であり、洋楽風、かつエモい。ボカロでは難しいバラードも抵抗なく聴かせる
力がある。…歌詞がワンパターン化しているフシも見られるが、メロディと歌詞が常に斬新で
あるため、気にならない。間奏も長いな……作詞にはあまり時間をかけたくないのかも? 



 Guiano氏参加の楽曲……。





 雑記

 お疲れ様です。seesです。

 実は……引っ越します。
 かねてより会社から打診があったものの、この度、ついに決定してしまいました。
 行き先は……三重県、松阪市デス。
 元々よく出張に行っていたのですが、この際だから「異動しろ」と命令されて💦
 その引っ越し準備やら何やらで時間を食ってしまい、更新も遅れ、SMSなど何も手に
つかない状況でした。少しですが、更新がまた遅れそうです。ネット環境も整えなければ
ならず、生活用品も買い揃えなければ……。(家具家電つきの家ではなく、単純に何もない
マンションを社宅として賃貸します。……めんどい。

 てことで、次回が最終回です。なるべく早く作りますので……。
(最終回前だからかもだけど、ちょっとつまんない。最終回はずっと構想考えていたもので
変更はないけれど……)。箱の正体は? 瑠美さんと川澄は――どうなる? まて、次回。

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓





 好評?のオマケショート 『思えばこの時、会社ではとある陰謀が……前編』


 sees 「次――運転交代しろよ」
 後輩 「……俺~高速の運転苦手なんすよね~……」
 sees 「……知るかい。せめて鈴鹿まで走れや(何でこいつ、営業に就職した?)』

     そう。松阪へ出張だ。
     しかし、seesは知らなかった。これが本社勤務最後の出張になろうとは……。

 後輩 「seesさん、眠くなっちゃいました~……交代してくらは~い……わからん
 sees 「……まだ四日市じゃねえかよ。(松阪まであと2時間くらいか……クソッ)」

     ヘタれな後輩を助手席に乗せ換え、seesはハンドルを握った。
     しかし、seesは知らなかった。これが愛するバネットとの最後の旅になろうとは。

 後輩 「でも~、seesさんて結構、松阪に出張行ってますよね……何でスか?」
 sees 「……(そういえば、そうだな。最近になってなぜ?)」

     命令、だから。と納得するのは簡単だ。しかし……確かに回数が増えている気は
     する。……まさか。

     2日後。

 後輩 「いんや~ダルかったすね~seesさん。手伝いやら研修やら、最悪すよ。早く
     帰りたいっすほえー
 sees 「……ああ(いつも通りの出張内容だ。もしかして、とは思ったが、やはりワシの
     カン違いやったか……)」

     だが――……。
     帰り際――……。

 所長 「ああ~……sees君、来月も(から?)ヨロシクねピンクハート
 sees 「……?」

     松阪事業所の所長、最後の言葉はいったい――?
     ま・さ・か?

     ………
     ………
     ………

  後輩 「……あ゛ー運転ダルいすわ。パイセン~、運転お願いしますぅ~あっかんべー
     まさか、まさか、まさかね……。

 後輩     「seesさ~ん、聞いてますぅ?」
 sees   「うるせぇぞっ!!怒ってる 運転の練習やっ!失敗 愛知入るまで運転せぇやっ!!ぷー
 後輩   「ひぇ~~ショック

     まさかね……。
 

                            つまんねー話、でも、続く。



こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

人気ブログランキング        






Last updated  2018.10.08 08:33:20
コメント(3) | コメントを書く
2018.09.14

ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。


―――――

 6月2日。午後21時――。

 送迎に用意したレクサス・LSハイブリッドのルームミラーに目をやる。注視すると、
2人の男が相反して顔を背け、2人して夜の大須の街を眺めているのが見える。

「……何か、僕の顔についてます?」
 爽やかな――それでいて警戒心の強い口調で川澄の声が応えた。
「いいえ。……オークションの場所は、ご存知ですか?」
「……中区大須のローズコートホテル。会場はホテルのチャペル。……うまく考えたとは
思うよ? 夜の結婚式場を貸し切っての非合法オークション……参加したことは無かった
ケド、本当――頭の狂った連中だよ、華僑は……まぁ、僕ほどじゃあないだろうが、ね」
 瑠美は何も答えることができず、もう1人の男――岩渕の方を見た。数時間前に会って
話しをした時には感じなかった何か……何か深い疲労感のようなものが感じられた。窓際
で頬杖をつき、目を細めて外の景色を眺めていた。

 レクサスが停車する。運転手の男が「到着しました」と告げ、降車する。しばらく待つ
と、助手席と後部座席のドアが同時に開かれ、支配人らしき紺のスーツを着た男が現れた。
「いらっしゃいませ。高瀬様」
「こんばんは。川澄さん、岩渕さん、着きましたよ? 降りてください」
 瑠美は、降車する2人の男を見つめていつものように――子供っぽく微笑んだ。
 ――その時だった。
 目の前に立った岩渕が自分を見つめ返したその瞬間、まるで正面から誰かに強く抱き締め
られたかのような肉体的な感触とともに、胸や下腹部を強い熱気が通り抜けた。
 それはたぶん、突撃を命令された瞬間に兵士が感じるような、すべてを犠牲にしてでも
何かを守りたい……強い覚悟を秘めた熱だった。
 
 体が先に理解した。そして次の瞬間には、頭でも理解した。フィクションでしか見たこと
の無かった非現実的な挑戦を、この男は成し遂げようとしていると、完全に理解した。

 そうだ。間違いない。岩渕は川澄を助けようとしている。この臆病で陰湿な、どこにでも
いるようにさえ見える32歳の男が、あの意地汚く、泥棒で、嘘つきで、無法者の兄を助け、
自身の身を破滅させようとしていた。

 ……なぜ? いったい……どうして? わからない……わからないよ……。

「どうかしましたか? 高瀬……瑠美さん」
「いいえ……別に……」
 瑠美は岩渕を見上げ、反射的に微笑んだ。喉の声帯が今すぐにオークションへの出品停止
を訴えようと震えているのがわかった。今すぐ岩渕と川澄を丸め込み、勝負から逃げ出そう
としているのがわかった。

 だが瑠美はそうしなかった。
 数億のカネを用意できるワケがない。川澄の悲鳴を聞かなければ、母の心は癒せない。
ほんの一瞬間の間に、瑠美はそれを思い出した。
「さっさとオークションのルールを教えてもらえませんか? さっさと入札して、さっさ
と帰りたいですから、ねえ?」
 川澄が軽やかな口調で言い、瑠美は無言で頷いた。下腹部の奥に溜まった強い熱気が、
体の中で渦を巻いているのがわかった。

―――――

 1.形式は『ファーストプライス・オークション』方式とする。
  (最終的に最も高い価格を入札した買い手に販売され、支払額も最も高い価格に設定
される。一般的な形式)
 2.参加者間(買い手)での資金の共有は厳禁とする。
 3.落札成立時、支払いは現金のみとする。

 他にも『口外禁止』だとか、『携帯電話・パソコン・カメラの持ち込み禁止』だとかの
適当な文言の書かれた書類を読まされ、手渡され、サインをさせられ――オークションの
会場であるチャペルに案内される。誓約書の複写を渡されるが、僕はそれを拳の中で握り
潰してポケットに入れる。……どうでもいい。スマホはチャペルの前の受付に預けたが――
こんなもん、本当にどうでもいい。

 一般的な西洋風チャペルの中に通されると、既にそれらしい客たちが礼拝用のベンチに
腰を下ろしていた。人民服を着た中年の男、普通のサラリーマン風の男、革ジャンを着た
若い男と付き添うチャイナドレスの女、全身に貴金属を纏った婦人、西洋人らしき金髪の
紳士、幼い子供を連れた大柄な黒人、ホスト風の若い日本人、若い女を2人連れた白髪の
老人……国籍も性別も年齢も違う人々は、新たに入室した僕と岩渕を睨むかのように凝視
する。……値踏みでもしてやがるのか? ……豚どもが。

 そんなヤツらが佇むベンチのひとつに、僕と岩渕が案内される。席に座っても、岩渕は
ずっと黙ったままだ。緊張してやがるのか? ……だけど、まぁ、ここまで来たら覚悟は
決めているのだろう。……期待してますよ。


「……《箱》を手に入れても、《鍵》はひとつ、か……」
 川澄は誰にともなく呟く。
 自分が欲しているのは、あくまで自分の《鍵》で開く部分だけ。瑠美の《鍵》で開く
中身の確認はできない。興味はない……興味はないが、完成形での《箱》は諦めるしか
なさそうだった。……最終的には1度破壊して元に戻すのがてっとり早いのだが、資産的
価値は相当に落ちるだろうな。まぁ、いいか。瑠美を脅迫して《鍵》を手に入れるのは
簡単だし――それはそれで面白そうだ。

 薄ら笑いを心の中で浮かべながら、川澄は隣に座るひとりの男――岩渕の心理と心情に
思いを巡らせた。滑稽なほどに美しく、悲しいくらいに慈悲深い、生涯唯一の友と呼んで
もいい男の優しさを――笑った。
 岩渕さん。あなたは僕が持っていないものを持っている……。知りたいですか? それ
はね……簡単なものですよ。ものすごく簡単で、ものすごく得るのが難しいもの。そう。
あなたは――自分を棄てることができる人間だ。自殺願望なんて言う逃げ道の話じゃあない。
困った友人や恋人がいれば、最後の最後には必ず手を差し伸べてしまう……例え、自分が
地獄に落ちると知っていても――あなたは手を差し伸べる。差し伸べてしまう……。
 そんなことが、そんな非現実なことが、あなたはできてしまう。そんな人間は僕の知る
限り――あなただけだ。

 あなたが京子様を連れて《D》大須店を訪れた時、僕は確信しました。コイツを仲間に
すれば、最後の最後まで決して裏切らない。裏切れない。踏み台にしようが、肉の盾にし
てしまおうが、あなたは――最後の最後で必ず、僕を助けてくれる。
 ……すいませんねえ、あなたの休日を潰してしまって。ついでに……そう、僕を助けて
死んでください。100円ショップの線香くらいはあげますよ……。
 
 現金は持参していないようですが、あなたがどんな方法でカネを用意したか? それも
見当はついています。ですが……まぁまぁまぁ――僕が用意した1億3000万で勝負が
決まれば御の字です、よ?

 そこまで思った時、背後から誰かが川澄の肩をポンと叩いた。
 反射的に振り返る。そこに、妹の瑠美の顔があった。
「もうまもなく始まります。 ……《箱》を諦めるのなら、今の内ですよ?」
 挑発するかのように瑠美は言った。僕は彼女を睨みつけたつもりだったのだが――……
やはり、ダメだ……。

 笑みが浮かぶのを抑えられそうにない。

―――――

 入札の方法は簡単だった。
「……こちらの商品は日本を代表する日本画家、東山魁夷の作で――」
 商品説明が終わると、ホスト役の男がチャペル中央奥の祭壇の上で鐘を鳴らす。
『……3000万。18』
 参加者はベンチに収納されているマイクで希望落札額と参加者番号を言う。
『3500万。5』
『3600万。18』
 競い合う。それだけだ。参加者は希望額以外何も言わない。何も言い合わない。何も言い
争わない。それだけの、実にシンプルなこと……。

 くだらない、とは思わない。くだらないとは思わないが、こんな世界に自分が足を突っ
込む日が来るとは思いもしなかった。こんなことはカネ持ちだけに許された娯楽であり、
自分には生涯関係のないもの……。
 ぐったりとベンチにもたれたまま、岩渕はそう思った。


「岩渕さん。アレ、知ってます? ……ジャン・ミシェル・バスキア?」
 しばらくして、川澄が聞いてきた。
「……ヤク中で死んだグラフィティ・アート作家だ。確か、日本の何とかいう企業の社長が
収集してるって聞いた気がするが……」
 次の瞬間――岩渕の斜め前の席から、日本人が大きな声で『10億っ! 1番っ!』と
言った。それはマイクを通して、というより、怒鳴っているというような口調だった。
「10億? アレが?」
 川澄が感心したかのように訊き、岩渕は「『アート』の世界はわからない。あのカネ持ち
がそう思うのなら、それでいいんじゃないか?」と言った。
 マイクの音を切り忘れたのか、その日本人の席からは『……さん、すご~い』と媚びる
若い女の声が漏れ聞こえた。チャペルが失笑に包まれる中、しばらくして、鐘の音が鳴り
響く。
「……バスキアの絵画、1番様が落札」とホストが宣言すると、もう用は無いと言わんば
かりに、その日本人のカップルはチャペルを出て消えた。


「……なるほど。希望額を発言してからのインターバルは……1分てとこスか……」
 "不安げ"な表情で川澄が呟く。……嘘くさい。本当に。


「岩渕さん」
 また、川澄が岩渕の名を呼んだ。
「……何だ?」
「もしかして、緊張してます?」
 川澄が"優しげ"な眼差しで見つめて訊き、岩渕は急に背筋に冷気を感じた。
「ああ……少しだけな」
「別に緊張しなくても大丈夫ですよ。これは"僕が"招いたトラブルなんですから……でも、
今日のことは本当に"感謝"しています……」
 川澄はそう言って微笑んだ。整ったその顔には、相変わらず、幼い子供のような"笑み"
が浮かんでいた。
 
 ……嘘だ。
 ……わかっちゃいるんだよ。
 ……それが全部、何もかもが全て嘘、演技だってことは、わかってんだ。
 
「……お前が礼を言うなんて、珍しいな」
「そうスか? まぁ、もう別に、先輩は"何もしなくてイイ"ですから……後は"僕が"決着を
つけて見せますよ……」
 そう言って笑うと、川澄はチャペルの祭壇を凝視した。


「……続いての商品はホテル《R》の高瀬社長提供の一品となります。寄木細工の技術を
応用し、希少なルビーをメインに組み上げた紅き宝石の箱――《カーバンクルの箱》、で
ございます……」
 ホスト役の男が仰々しく説明する……これまで口にしなかった出品者の情報まで流して。
 
  
 岩渕は思った。
 ……わかっちゃいるんだ――
 ……何もかもわかったうえで、わかったうえで――
 ……お前のために……お前のような外道のために――
 ……死んでやるよ。俺の人生は、今夜で終わりだ。
 ……こんなことを思うのは……こんなことを本気で思うのは、2度目か……。
 

 岩渕は強く思った。
 ……それぐらい、お前が俺にしてくれたことは、嬉しかったから。

―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 gに続きます。















本日のオススメ!!! 鬼束ちひろ氏……。




 学生時代に最もよく聴いた方のひとり。
 ……正直、《歌手》という職業の方々の中でもかなり異質な女性。事務所の命令に
逆らえずキャラを作り、素の状態を晒したと思ったらまさかのハーレイ・クイン。
「主食はスイカバー」などの珍言、放言、恋人からのDVなどなどなど……。
 最近はようやく精神が落ち着いたのとの言もあり、新曲も披露。seesも一安心で
ございます。
 歌手としては超一流、その存在感、魅力、歌詞の力を120%引き出す表現力……。
 本当なら、もっともっともっと頂点を目指せた方だというのに……人生はわからない。



 seesは……《Beautiful Fighter》が好きスね。

   

 左が新曲と新DVD……。

 雑記

 お疲れ様です。seesです。
 夏も終わりかけ、仕事も一段落しそうでしてないseesです。
 今年の夏はいろいろあったなぁ……。慢性的な体調不良にケガ、ものもらい、寒暖
差による連続夏バテ。……母校の甲子園出場、ああ、応援に大阪、行きたかったなぁ、
クッソ熱いだろうけど……それが悔やまれるな。
 9月からも仕事キツイ……社員旅行、行けるのかなぁ? 私……。自慢じゃないが、
社内での成績は良いほうなのだが……逆に縛られることも多い。困ったものだ。
 ああ……映画見たい、旅行行きたい、ずっとPCの前にいたい、ゲームしたい……
どっか遠くに行って、流行りの?ソロキャンプや車中泊したい……。
 前話で近鉄百貨店のくだりを書きましたが、実はアソコ、夜はビアガーデンなんす。
行きてえなぁ……思い切りソーセージ食いたい……。はぁぁ……。

 さて、今話はストーリー上、進展ず少ないようにも思えますが、役者が揃うのは次回
ですので……期待は、してもしなくても――みたいな感じ。《箱》を手にする者は誰か、
その中身とは? 順次、公開する予定ス。そして、川澄氏と瑠美嬢は……。
 ちょっと色気が足りない気もするけど、まぁいいかw

 オークションのくだりは…まぁ、半分ギャグですわねww

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓





 好評?のオマケショート 『誕生日プレゼント……』

 sees  「ぶひぶひ(今日、誕生日だけど……何か、自分に欲しいなぁ……)」
 友   「……ほらsees、コレ、やるわ」
 sees  「え? ありがとう~友よっ!!」

      seesは、ブルースウィルス主演映画、『アクト・オブ・バイオレンス』の
      DVDをてにいれたっ!
     
     ―――――

 sees  「……今日の夜、とらのあな、行こうかな……」
 次長  「おいっ、sees、お前、確か誕生日近いんやったな? これ、飲めや」
 sees  「えっ~? すいません~ジチョ~、マジでありがとうございます(^^)/スリスリ」

      seesは、『霧島5本飲み比べセット』をてにいれたっ! (茜・黒・白・プレーン
      ・ゴールドの霧島焼酎セット……豪華なワリに安価ス💦)

     ―――――

 sees  「……やっぱプラモかな……それとも、完品塗装済みでもエエが……」
 総務部長「sees君、ハイこれ。あげるから、読んで頂戴。とっても楽しいお話だから、
      あなたにも買ってあげたわ」
 sees  「――っ! えっ、本すか? ありがとうございます。次の休みにでも読みますねっ」

      seesは、東野圭吾の『魔力の胎動』をてにいれた。……東野圭吾かよ。中学生
      じゃあるまいし……こんなの読んでも時間のムダやな……。どうせなら、横山
      秀夫とかがよかったが……。

      ―――――

      seesは街を彷徨いながら、錦や栄の街を彷徨い歩いた。そして――自分のために、
      自分のためだけに、自分が欲しいものを――買った。
      MG1/100 RX-78-2ガンダムver.3 ソリッドクリア……要は、半透明のスケルトン
      ガンプラ……。一番くじのラストワン賞。とらのあなで7500円……。

 sees  「…………」
      考えてみると、周りと自分の価値観て、本当に、本当に相違がある。
      周りが気を遣ってくれるのは素直に嬉しいが――本当に欲しいものは自分だけしか
      わからない……う~ん。ワシがただ単に頭がおかしいだけなのか?
      わからん……涙ぽろり



                                      ??



こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

人気ブログランキング        







Last updated  2018.09.14 03:08:37
コメント(2) | コメントを書く
2018.08.24
ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。

―――――

 6月2日。午後16時――。

 耳に押し当てた電話の向こうで呼び出し音が始まると、岩渕の心臓は体全体を絞った
かのように縮こまった。……アナハイムは深夜0時、くらいか? いたたまれなくなり
電話を切ろうとした時、相手か出た。
『はい……もしもし? どうしたの? ……岩渕さん」
 岩渕は言葉に詰まった。何を何から話せばいいかがわからなかった。相談したいこと
があるのに、心配をかけたくないという気持ちも働いて、自分が何を伝えたいのかが
わからなくなりそうだった。

『もしもし……何かあったの? 今、大丈夫?』
 正義と愛に満ちた伏見宮京子の声を頭の片隅で聞きながら、岩渕は噛み締めるかの
ように声を出した。
「……川澄の野郎が……声には出さねえが……助けを求めてやがる……嘘かも、ホント
かも……何もかもわからないが……」
 それはさっきからずっと考えてきた、考えて、考えて、いくら考えてもわからない。
しかし、絞り出すように声を出した瞬間、頭の中に広がっていた霧が少しだけ晴れた
気がした。
『……川澄、さんが? そう……』
 どこかホッとしたかのように京子が言う。『……放っておけばいいんじゃない? 
こんなことは言いたくないのですが……彼は、信用できません……』
「――違うっ! ……信用とか、信頼とか、そんなんじゃあないっ!」
 自分の声の大きさに岩渕は驚いた。頭の中の血管を血液が無尽に駆け巡り、白い、
モヤモヤとした霧が完全に消えた。自分が何をしたいのか? 答えがわかりかけた。

「……あの野郎は……アイツは……京子、キミと同じなのかもしれない……」
『……? 何があったのか、教えてもらっても……いい、かな?』
 京子の声が優しげに響いた。たぶん、いろんなことを憂いているのだろうな、岩渕は
思った。眠ろうとしていた京子の、美しい姿と顔を思い浮かべた。
 
 何を思うのか、何をしたいのか、何が自分らしいのか、答えはもう、決まりかけていた。

 
 事情を説明し終えた後で、京子が真剣な口調で聞いた。『……《カーバンクルの箱》
を手に入れて、川澄さんに渡せたとして……その後、あなたはどうなるの? 川澄さん
が岩渕さんを裏切らない保障は……あるの?』
 そんな保障はどこにもない。そんな保障など必要ない。そんな理由じゃあ、ない。
「……わからない。けど……あの兄妹を出し抜いて《箱》を手に入れるには……この
方法しか思い浮かばない……もしかすると、キミとの関係も終わりになるのかもしれ
ない……ごめん……」
 途端に、京子の口調から優しさが消えた。『ちょっと待ってっ! どうしてそこまで
する必要があるの? 《D》とは本来関係のない話じゃないの? 放っておけばいいん
じゃないの? ……どうして?』
「……別に死にに行くわけじゃない。これは……単に俺のワガママなんだ……」
『ワガママ? ……どうして? ……どうしてなの?』
 京子は、どうして、を繰り返した。
「どうしても、だよ。アイツが何を考えているのか、《箱》の中身が何であろうが、
そんなことは関係ない。アイツは――……キミと同じことを、俺にした……」

 沈黙があった。京子は泣いているらしかった。沈黙の中に時折、鼻水をすするよう
な音が混じった。罪悪感が込み上げる……情けない……。
「京子が戻って来たら、俺はどうなっているかわからないけど……就活のレクチャー
くらいはしてやるよ。……こっちの業界で働きたいんだろ?」
 岩渕は冗談めかして言ってみた。しかし京子は黙ったままだった。
「大丈夫。まだ何も決まったワケじゃない。もしかしたら俺のこの計画も、全部、単に
空想で終わるだけかもしれないしな……」
 岩渕はつとめて明るい声で言った。
 
 受話器からようやく京子の声が聞こえた。
『……やめなさい。あの男は信用してはいけない。……お願い』
 毅然とした京子の言葉に岩渕の心は揺らいだ。そして同時に、京子の、美しき姫君の
願いを無下にする男など――この世の中にいるのだろうか? とも思った。
『……あの男があなたに何をしたのかは知らないけれど……行かないで……私たちの
ためにも……やめて……』
 電話の向こうで京子は繰り返した。

「アイツとキミだけなんだ。……川澄は、俺の……俺の心に触れた。ひとりぼっちの
俺に、カネのことしか考えてないような俺に、『一緒に来てくれ』と言ってくれた。
……打算もあるのかもしれない。……使い捨てにするつもりだったのかもしれない。
……将来、俺や《D》を裏切るのかもしれない。――だけど……放ってはおけない、
アイツを。できることなら、アイツの妹も……」

 そう言うと、岩渕は受話器を置いた。それ以上、京子の声を聞いていられなかった。
行きたくはなかった。誰でもいい、誰か俺を殴ってでも止めてくれ、とさえ思ってい
た。それでも、岩渕は行くと決めていた。

 変わっちまった。京子に出会ってから、生活も、性格も、何もかも変わっちまった。
ひたすらにカネを稼ぎ、いつか澤社長を地獄に叩き込む野心も……見つけ出し、いつか
復讐すると誓った両親への怒りも……変わっちまった。それなら……それでいい。それ
なら、俺は俺自身の選択に付き合ってもらうだけだ……。
 岩渕は窓の外を眺めた。太陽は傾き、ゆっくりと沈み始めていた。

―――――

 一度だけ岩渕に電話を掛けなおした。その呼び出し音を聞きながら、伏見宮京子は
どうやって岩渕を説得しようかと考えていた。……呼び出し音は鳴り続けた。岩渕が
出る気配はなかった。……こんなことは初めてだ。

 閉め切ったカーテンの隙間からアナハイムの街の光が漏れ入り、広い寝室をぼんや
りと照らしていた。明かりはつけていなかった。ついさっき、使っていたパソコンを
閉じた時点でスイッチを切っていた。就寝する直前だった。

「……泣きマネじゃ、ダメか……」
 京子は声に出して呟いた。「……私が……どこにでもいる、普通の、ごく普通の女で
あったのならば……この体ごと岩渕に捧げてでも……構わないのに……それで彼が思い
留まってくれるのならば……構わない……構わないのに……」

 ベッドに潜り込み、京子は神に祈った。
 天照大御神様……また《D》に関わる者たちに危険が迫っております……どうか……
御身の御力により、守り給え……」
 岩渕と《D》のためだけに祈ることに、躊躇いはない。それが不敬だと感じていた
としても、躊躇いはない。
 
 それから京子は、明後日には日本に戻ろうと決めてから――目を閉じて泣いた。

―――――

 6月2日。午後19時――。

 巨大な南京錠の鍵穴に無骨な鍵を差し込み、左回転に向けて力を込める。U字型の
鋼鉄の棒が勢いよく飛び出すガキンッという音が、僕の耳に届く。
 24時間営業の、新栄にある貸倉庫ビルの5階に、人の気配はない。……月極4万の
4畳スペースだ。さすがに利用者は少ないからね……。
 扉を開ける。監視カメラの角度に注意し、そっと入る。一息吸い、電灯のスイッチを
入れる。……微かにカビ臭い。

「こんにちは……迎えに来ましたよ」
 ……何に挨拶? ――いやいや、挨拶ぐらいしますよ。何せ……彼らの所有権は本来
僕ではなく、父なのだから。「どれぐらいの金額かまでは、知らないんですけど……」
 
 ――現金。
 100万円の束が縦横に積み重なった大量のカネ――そう。カネは何も語らない。
無表情で、無言で、次に手にする者の命令に従う、世界の根底を支えるモノ――そう。
それでいい。それでこそ、ここに来た意味がある。

 父が生前、盗品を現金化した際の隠し倉庫で――僕は持参したLOUIS VUITTONの
バックパック・エクリプスをふたつを開き――現金の束を無造作に詰め込む。50万
円以上するバックパックは瞬く間に膨らむ。……かなりの重量だが、しかたない。


 腕時計で時間を確かめる。スーツのポケットに入れてある《カーバンクルの鍵》を
握り締める。それから――4畳の倉庫の真ん中で横になり、大の字に脚を広げる。
 ……これで集まったのは1億3000万、てところか。そう。それは川澄奈央人に
とって、たった半日で搔き集められる金額の限界だった。勝負になるのか不確定な、
おそらくは足りないであろうカネの詰まったバックパックを両脇に――川澄は打ちっ
ぱなしの鉄筋コンクリートの天井を仰ぎ見た。

 新栄の街を歩く、家族連れらしき親子の笑い声が微かに聞こえる。
 目を閉じる。おそらくはジェスチャーであるだけなのかもしれないが、母を思う妹
――瑠美の心情を想い――思う。
 思うのは、『母』を失った息子――……。


 ……そしてまた、僕の脳裏を遠い記憶の断片が横切った。決して忘れ得ぬ何か……
遠い遠い昔に消えてしまったはずの何か、失ってしまったはずの何かを……大切だと
思っていたのに、捨ててしまった何かを……僕は、思い出した。


 ――……ねえ、聞いて。
 いつ? どこで? そんなことは覚えていない。ただ、誰かに話しかけられたこと
だけは覚えている。おぼろげな姿ではあるが……母であることは間違いなかった。
 
 ――……あなたは、とても賢いわ。
 返事はできない。言葉が喋れないようだ。
 
 ――……あなたは、とても強いわ。
 体もうまく動かせない。手が短く、脚も短いようだった。
 
 ――……あなたは、誰よりも賢く、誰よりも強い……。
 ――そんなことはわかっているっ! 僕が知りたいのは……母さん、アンタの……。
 
 ――……ん? コレに興味があるの?
《カーバンクルの箱》とは何だっ? 《箱》の中には何が詰まっているっ?
 
 ――……そうねえ、まだ中身は決めていないのだけど……今、決めたわ。
 どうして《鍵》はふたつある? どういうつもりだっ?
 
 ――……気になる? じゃあ、片方だけ教えるけど……いつか思い出しても、パパ
には絶対内緒だからね?
 
 そうだ。
 思い出した。僕は昔、赤ん坊の時――《箱》の中身を、母に聞いていた。確かに、
聞いた。それを今――思い出す。ようやく、思い出す。

 ――……あなたが将来お金に困らないように、脱税・詐欺・密売・密輸の錬金術を
メモにして置いておくね。もう片方は、今度、ね? ……愛している。


 
 記憶の断片で、母が、僕の頬にキスをした瞬間――……僕は目を見開いた。
 そうか……そういう経緯で、高瀬母娘は《R》を築いたのか。
「ということは……残っているってコトか……僕にもまだ、勝機が……」
 川澄が嬉しそうに微笑んだ、その時――内ポケットに入れたままのスマホが軽やかな
メロディを奏でた。
 直感的に川澄は笑みを強くした。
 直感。そう。脳と感覚が直結し、意識が一致した。スマホの液晶に表示されていた
のは、川澄が最も必要とする男からのものだったからだ。
 躊躇なくスマホを手に取り、通話パネルを操作する。また笑みが強くなる。

『……今どこだ? 迎えに行ってやるよ……俺も大須に行くことにした。最後まで
見届けてやるよ……』
 岩渕の声と内容を聞いた、その瞬間――確信する。

 ――僕の勝ちだ。
 そう。《カーバンクル》に愛されていたのは、僕だけだっ!

―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 gに続きます。















本日のオススメ!!! カンザキイオリ……氏。



  カンザキイオリ氏。
 元々はニコ生で楽曲配信するP。CD登録、所属はなし。年齢もわからんし、ツイは
謎だらけ。ミク・レン・リンちゃん以外は使わないみたいだし……。
 だけど……何だろう、それでいいのかもしれないな……。
 この方の歌詞には力があり、魂を震わせる力があると、seesは断言いたします。
 この方の動画で涙したのは1回ではありません。むしろ聞くたびに涙腺が緩くなった
感さえ、ある。動画の構成もシンプルかつ、『歌詞』を強調した作り、非常にわかりや
すい内容……(下手なアニメよりもずっとイイ)。
 新曲でも泣いた。同時に過去作も聞くからまた泣いた。
 ホント……すげー方だと思いますよ。しいて頼むのは……もっと欲を出されても、
良いのでは? くらいかな……。


 カンザキ氏はCD未発表なので……最近seesが買ったモノを少し紹介……。
    

 イアさん。ブトゥームの最終巻(マルチエンドッ!)。泣ける野球マンガ。


 雑記

 お疲れ様です。seesです。
 夏も終わりかけ、仕事も一段落しそうでしてないseesです。
 今年の夏はいろいろあったなぁ……。慢性的な体調不良にケガ、ものもらい、寒暖
差による連続夏バテ。……母校の甲子園出場、ああ、応援に大阪、行きたかったなぁ、
クッソ熱いだろうけど……それが悔やまれるな。
 9月からも仕事キツイ……社員旅行、行けるのかなぁ? 私……。自慢じゃないが、
社内での成績は良いほうなのだが……逆に縛られることも多い。困ったものだ。
 ああ……映画見たい、旅行行きたい、ずっとPCの前にいたい、ゲームしたい……
どっか遠くに行って、流行りの?ソロキャンプや車中泊したい……。
 前話で近鉄百貨店のくだりを書きましたが、実はアソコ、夜はビアガーデンなんす。
行きてえなぁ……思い切りソーセージ食いたい……。はぁぁ……。

 さて、今話はストーリー上、進展ず少ないようにも思えますが、役者が揃うのは次回
ですので……期待は、してもしなくても――みたいな感じ。《箱》を手にする者は誰か、
その中身とは? 順次、公開する予定ス。そして、川澄氏と瑠美嬢は……。
 ちょっと色気が足りない気もするけど、まぁいいかw

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓





 好評?のオマケショート 『フィアットとストーカー』

     とある営業帰り――……。
 sees 「あ゛ーフィアット欲しいな……」
 課長 「また同じこと言ってるどー」
 sees 「いや、ね……やっぱり…500もイイけど……新型の500X?、最高ですね、アレ」
 課長 「さっさと買えどー。頭金100で5年ローン? お前ならイケるど?」
 sees 「……簡単に言うスけどね~……今の車も好きだし……(めっちゃ内装イジったし、
     スピーカーも一番高いの装備したし……イキナリ外車は、正直怖い)」
 課長 「おっ、噂をすればだどーびっくり

     そう。我々が車で走っている場所は現在――フィアット守山店前……。
     すると――……。

 課長 「おっおっおっ目……今――販売店から出た車、お前の欲しい車種だど?」
 sees 「――っ! マジか、フィアット500X……しかもイエロー……」
 課長 「sees、見るだどっ!! 運転してるの、でら美人だどー」
 sees 「なにぃっ!!」

     2車線でバネットと並走するフィアットの運転席をチラりと見ると……。
 sees 「……うわっ、北川景子(通称セーラーマーズ)みたいや……やべえなぽっ
 課長 「……sees、久しぶりに、ヤルかど?」
 sees 「………」
     欲しい車、セーラーマーズ、これはもう……ヤルしかねえっ、いや……
     やらいでかっ!うっしっし
 sees 「……粘着走行、イキまーすwww」
     
            【粘着走行とは、決して煽り運転ではない。あくまで自然を装い、並走し、
     横に並び、背後にゆっくりとテイルトゥノーズする、seesの特殊運転スキル
     であるっ!】

 sees 「……フィアット……マーズぅ……ふふふ、ふふふのふ……都合の許す限り、
     じっくり観察させてもらうでぇ……へへへww目がハート

     だが――……変態たちの幸せな時間は、ものの5分と持たなかった……。

 マーズ?『ムカッ……火星に代わって折檻よっ!
     そんな北川景子風セーラー戦士の声がseesの脳裏に流れた次の瞬間、キモい
     上司の叫び声が耳元で轟いた。
 課長 「――っ! seesっ、危ないど――っ! 信号《赤》だどぉ――っ!スピーカ
 sees 「うわわわわっ!」
     急ブレーキ……停止線大幅超え……フィアットは左折専用レーンの先に消え、
     取り残されたバネットは、往来する車両たちの視線を一身に浴び、社名を晒し、
     恥を……赤っ恥を……数分晒し続けた……号泣

 sees 「……わしゃ妖魔かっ! (反省はしている)」
     何度目だ? こういう話……もう、ヤメよう……ショック


                                 了炎炎炎



こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

人気ブログランキング        






Last updated  2018.09.04 22:53:03
コメント(5) | コメントを書く
2018.08.11

ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。

―――――

 6月2日。午後14時――。
 北海道函館本線森駅名物――イカめし弁当を噛む音を聞く。聞き続ける。その音に、
川澄奈央人のイラ立ちは募った。10回、11回、12回……川澄はイカめしを噛み
続けた。味はしなかった。13回、14回、15回……。クソっ……この僕が……。

 曇り空の隙間から太陽光が漏れ射し、名鉄百貨店の屋上庭園のベンチに座る男2人を
チラチラと照らしていた。ついさっき、偶然、名鉄百貨店で開催されていた駅弁フェアで
岩渕がイカめし弁当を買ってきてくれた。「……いただきます」とだけ言い――ふたり
して遅い昼食を食べた。簡単な情報交換は済ませていた。

「……高瀬母娘は、なぜ、今さらお前を探して呼び出すようなマネを?」
 弁当を食べ終えた岩渕が缶コーヒーの蓋を開けながら言うのが聞こえた。
 16回、17回、18回……。そこまで咀嚼して、ようやくイカの味が口内に広がる。

 カネの力でも解決できないことは多々、ある。そんなことはわかっている。過去との
決別、もそのひとつだ。人は思い出を忘れても、記憶は脳に残っている。それが悪しき
ものであるならば、消し去りたいと思うのが人間だ。特に……ああいう新興企業のトップ
であれば、過去のスキャンダルは一掃したいと考えるのも……理解できる。おそらく、
高瀬母娘は僕を挑発し、僕のミスを誘うのが目的だ。万が一、億を超えるカネを用意した
としても、その後……僕を警察に売るつもりなのだろう。『あのカネは犯罪によって集め
られたもの』とでも言って……落札できなかったとしても、その後、高瀬は僕のことを
徹底的に追い詰めるつもりなのだろう(何せ、今日まで顔も名前もわからない状態だった
のだから)。有り余るカネを使い……全国のホテルに網をしかけ……ネットで情報を集め
……僕を、必ず、破滅させるのだろう……な。

 最善策として最もベターなのは……軍門に下ること。奴隷になること。謝り、土下座し、
慰謝料を払い、人生を捧げて尽くすこと――もしくは、逃げること。敗走と言ってもいい。
高瀬とも、岩渕とも、《箱》とも縁を切り、海外にでも逃げることだ……。
 何もかも諦めて? ……すべてを忘れたフリをして? ……逃げる、ただ、逃げるだけ?
 ……そんな人生は……僕じゃない。僕であってたまるものか。

 
 噛み続けたイカめしを、ようやく飲み込む。
「……私怨、スよ。私怨。恨み、つらみ、積年の怨念……みたいなものっス」と、笑い
ながら言った。
 岩渕は缶コーヒーの中身を一口すすり――目元に幼さを残し、困ったかのように笑う
川澄の顔を見た。
 川澄は岩渕の目を見つめ返した。そして、ずっと思っていたことをついに言った。
「岩渕さんはここまでです。オークションへは僕ひとりで行きます」
『あっそ、じゃあな』と岩渕が言うわけがないことはわかっていた。そう。そんな自己
犠牲的なことは言いたくなかった。しかし、言わないわけにはいかなかった。それも、
川澄にとっては……。

「今日のことはありがとうございました。この謝礼はまた後日……」
 無表情であった岩渕の口元が一瞬、悔しそうに歪んだ。ゴクリと何かを飲み込む音が
聞こえた。それからゆっくりとひとつ、息を吐いた。
「……バカ言うな。乗りかかった船だぞ? 最後まで見届けさせろ」
 岩渕の声は震えても上ずってもいなかった。一緒に仕事をしていた時のような、いつ
もと変わらぬ口調だった。

「3億、5億なんて金額はハッタリだ。何かしらのトリックがあるハズだ。それに……
《鍵》はお前が持っているんだろう? ……カネが用意できなくとも、中身を見せてもら
うくらい可能なんじゃないか?」
「あの連中の目的は僕の破滅です。僕が喜びそうな取引に応じるとは思えません。……
いいですか? 《R》も、おそらくは大小様々な犯罪により成長を続けた企業です。特に
あの高瀬瑠美……彼女は危険です。目的のためには手段を選ばないでしょう。《D》や
姫様、アンタの弱点や負い目も、ヤツらは完全に把握しているハズです」​
 川澄は"必死"だった。岩渕の存在こそ、今の川澄にとってもっとも重要である可能性が
高いのだから……。

「それは、そうだが……。お前らしくないな……泣きでも入ったのか?」
 "優しげな目"で岩渕を見つめ、まるで自分自身に言い聞かせるかのように川澄は言う。
「……これは僕自身の問題です。たとえ最後、僕がどうなろうと、どんな結末を迎えよう
と岩渕さんにこれ以上の迷惑はかけられません。因果応報、それが僕の運命なら……僕は
それを歓迎します。父や、おそらくは母もそうしてきたように……僕は自分の過去や罪か
ら逃げたりはしません……そうやって生きてきたつもりです……だから、もう、あなたの
助けは借りません」
「……カネのアテは、あるのか?」
 岩渕は声を震わせながら言った。その様子に嘘は見えない。心から川澄を心配し、心配
してくれているのに――自分の心の中には少しだけ……ほんの少しだけ――"罪悪感"が
残った。申し訳ないな、とは思う。
「それは言えません。ただ、可能性はゼロじゃない。僕は……とにかく僕を信じるだけ
のことですから……信じるだけ……信じるだけ……っスよ……」
 川澄は強い口調で繰り返し、それから少し微笑んだ。「……まぁ、そんなに気にする
ことないですよ。別に命まで取られるワケじゃないですから。また明日、名駅前店に顔、
見せますよ。結果は報告します……先輩……」

 岩渕を口をつぐんだ。それ以上、言葉が思いつかないようだった。……たとえ岩渕が
何を言ったとしても……この――僕の決断が変わることはない。

「……じゃあ、今日はここまでですね。イカめし弁当、ご馳走様でした。じゃあ、"また"」
 僕はひとり歩き出す。これから夜の9時までに、なんとかしてカネを工面する"努力"を
しなければならない。当然、この会話と行動には理由がある。
 
 だが……しかし……本当に、本当に――……自分で省みればみるほど――……
 ……すごく、すごく、ものすごーく……
 
 ――不愉快、だね。

 川澄奈央人らしくない、こんな"最低な会話"を僕にさせ、こんな行動を僕にさせたこと
……まったく、賞賛に値するよ。ハラ違い、とは言え僕の妹だけあるね。……拍手すら贈り
たい気分だ。

 だけどね……。

―――――

 岩渕は屋上庭園のベンチに座ったまま、ヒラヒラと手を振って立ち去る川澄の後ろ姿を
見つめていた。寂しそうな雰囲気はなかった。ふたり同時に仕事を終え、簡単な別れの
挨拶を互いに交わすかのような、そんなごくごく普通の別れだった。

 解放はされたはずだった。川澄との仕事は終わったはずだった。だが、今も、何も、この
仕事は解決してはいない。川澄と、ヤツの欲する《カーバンクルの箱》がどうなってしまう
のかは……わからないままだ。それは本意ではなかったが、必要ないとヤツに言われれば
同意するしかなかった。

 岩渕は曇り空に隠れる太陽の明かりをじっと見つめた。少し疲れてはいたが、それは
嫌な疲労ではなく……どこか、懐かしいものだった。
 そう。
 あの日――……
 あの時――……川澄の運転する車の後部座席で、こんな空を、見た。

『岩渕さん、僕と一緒に来ます? 僕と一緒に、新しい人生を始めませんか?』
 かつて、岩渕は川澄にこんな言葉で誘われたことを思い出した。『生に未練はないの
でしょう? なら、決まりですよね?』
 打算もあるのかもしれない。すべてがヤツの計画なのかもしれない……けど、けれど。

『……岩渕さん、あなたは、僕のために、泣いてくれますか?』
 泣いていた。そうだ。あの時、川澄は……泣いていた。なぜかはわからない……なぜ
かはわからないけれど――あの時、確かに、川澄は涙を流していた。
 それは岩渕が、生まれてはじめて見た男の涙だった。

―――――

 オーク材の重厚なドアを開ける。
 その微かな音に、高瀬順子が顔を上げた。母はCassinaのカウチソファの上で横になり、
赤ワインの注がれたグラスを右手に持っていた。リビングテーブルの上のワインの瓶は
ほぼ空であり、ギャッベの絨毯の上には食べカスのカシューナッツが散乱している。
「……クソッ……クソッ……クソがっ……」
 ソファの上で体を起こした母は、歯を食いしばり、怒りと憎しみの入り交じった凄ま
じい形相で、娘である瑠美を睨みつけた。

「……どいつも、こいつも、許せねえ……アタシを……コケにしやがって……」
 敵意を剥き出しにした母の態度に関して、別に驚きはない。元々が尊大な性格である
母は、その人生の大半を『媚びる、詫びる、へつらう』に使い続けたのだ。その影響なの
か、私の成長と反比例して、母の精神は年々歪みを増していた……。別にどうでもいいが。

「……あの外道を海に沈めてっ……あの腐れ女の顔を引き裂いてやりたいっ」
 ……母の《R》での役職は確かに社長だが、実質――取引にも経営にも参加しないデク
人形だ。テレビ番組やメディアに出演させるのはあくまで瑠美による演出であり、戦略の
ひとつだった。私はいわゆる……宰相、てやつだね。

「畜生……殺してやるっ……殺してやるぞっ……畜生……」
 私は母の持つ――ワイングラスを取り上げ、ついでにテーブルの上に置かれたワインの
瓶を持ち上げて、キッチンへ運ぼうとする。瞬間、母がソファから腕を素早く伸ばして
瑠美のスーツの裾を掴もうとする。瑠美は慌ててその場から離れる。
「……お酒はほどほどにして。それよりも、今夜のことでも考えて頂戴」
 そう言い残し、ワイングラスの残りと瓶の中身をキッチンに運んで流しに捨てる。
そう。今夜は大事な取引も控えているのだ。川澄奈央人――兄と遊ぶのは、その余興に
過ぎないのだから……。
 兄が苦しみ、悶え、必死に哀願する姿でも見せれば、母の精神も少しは和らぐのかも
しれない。もう何の価値も無い母親だが――もう少しだけ人形の役をしてもらわないと、
今夜の取引に差し障る。

「ほら、ソファで横にならないで、ベッドで寝よう? 夜になったら起こすから、ね?」
 私はそう言って膝を屈し、母の肩を掴みかける。もちろん、母の健康状態など気に
してはいない。
「……ねえ、瑠美」
 母が言う。「瑠美……あのね」
 母の口調が優しげに変わり、私は顔をのぞき込む。
「……アタシは、ゴミじゃないよね?」
 さらに母は媚びるかのように言う。「……アタシは『使えない女』じゃ、ないよね?」
 だが――
 私は無視して母の肩を持ち上げる。寝室へ向かう。
「……どうして? ……どうして? ……アタシの何が悪いの?」
『……何もかも。無能で無知で無意識で、嫉妬深くて、嘘つきで、こざかしく、汚らわ
しく、おぞましい。美意識のカケラもない、最低の女。だから、捨てられる。だから、
私も、いつかあなたを捨てる。これは摂理だ。これは真理だ。父がそうしたように……
兄さんも、そう思うでしょう?』
 別に口に出しても問題ないケド、一応、心の中でだけ呟いた。

 
 ふと、思う。
 私は『愛』というものの意味がわからない。
 そんなものは父も母も教えてはくれなかった。
 兄は『愛』というものが何なのか、知っているのだろうか? 
 それとも……誰か……例えば――……岩渕さん? 
 
 ……あなたなら、私に、『愛』を教えてくれる?
 
―――――

 乗り込んだタクシーの後部座席で、川澄は流れる人々の群れ、形を変えるビルの影を
見つめ続けていた。もちろん、カネを集めるための奔走は続けていた。しかし、いまだ
億を超える金額は集まってはいない。――そもそも、"集まるとは思っていない"。

 岩渕と別れた時のことをもう1度、思う。

 川澄奈央人らしくない、こんな"最低な会話"を僕にさせ、こんな行動を僕にさせたこと
……まったく、賞賛に値するよ。ハラ違い、とは言え僕の妹だけあるね。拍手すら贈りた
い気分だ。
 だけどね……最後に勝利するのは僕だ。
 なぜかって?
 僕は知っているからさ。
 なにを?
 最後に勝利するのは『善』でも『悪』でも『カネ』でもない……。
 僕の考えが正しければ……必ず……。
 
 僕は目を閉じる。頭の中で、もう1度考えを反芻する――。
 すると――……
 ……――邪悪で、いびつな笑みが自然とこぼれる……。

―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 fに続きます。















本日のオススメ!!! Reol……さん。

 Reolさん……。
 去年?解散したReolのれをるさん。心機一転?でシンガーソングライターのReolに……。
いや……ね? seesはあまりこの方存じ上げないのでアレなんですが……知人にこの人
のことすっげー好きなヒトがいて……まぁ、ニコ動で知名度上げたアーティストの中じゃ
かなりの勝ち組でしょーからね……熱狂的ファンが多くいても納得……。
 sees的には……う~ん……ハスキーな歌唱(酒やけ?)、世界観丸出しの歌詞、美意識
高い系衣装……嫌いじゃあないけれど……アクが強いなw




 それまではサイコーだったのに、商業目的が先行したヤツって……本当、劣化も早い
よね。例えば、まぁ……最近アニメやドラマのタイアップ楽曲作りまくってるあの野郎、
とか?w れをる氏はそうではないと思いたいが……。
  

 雑記

 お疲れ様です。seesです。
 熱いす。ツイでも日常でも何度もつぶやいてしまうほど、ゲキ熱い年です。今年。
 外回りの仕事もするseesですが、いつまでも車の中に引きこもっていることなどできず、
完全に野外での仕事やミーティングもあり、脳がクラクラ、熱中症寸前の毎日です。
 体は丈夫なほうですが、内臓が寒暖差に弱く、常に風邪ひいたような感覚にも陥ります。
最悪……。モチベーション下がりまくりで更新頻度激オチ君でもうしわけない……。

 さて……今回は、というよりお話全体の構図がようやく判明できた回でした。
あと3話程度の完結……ラストは衝撃の……、てのは無い。それぐらい、この短編は丁寧に
考えたつもりです。90分の地上波ドラマでも放送可能な内容というのが、今回の基本姿勢
でしたからw それにしても淡々とした文章……抑揚なくて、なんかゴメン。

  それにしても……映画でも何でもそうですが、seesは『悪対悪』の構図の話って本当、
好きだな~🎵 アメコミ的な勧善懲悪も好きだけど。

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓




 好評?のオマケショート 『ラーメンとサウナ』

 同僚 「seesさん、今日アガったらラーメン行きましょう」
 sees 「イイっすよ。どこ行きます? 『はなび』『武蔵』?」
 同僚 「……くねくね」
 sees 「はぁっ?(知らんわそんな店)」
 同僚 「栄にあるラーメン屋『くねくね』です。知りません?」
   sees 「……ウマイの? 『はなび』より?」
 同僚 「いや……さすがにあんな有名店よりかは……しかしですね、ここのベトコン
     ラーメン(名古屋名物、飲み後の〆用ラーメン)はマジでうまいっス」の
 sees 「栄か……(どうせならショットバー行きたいが……)、ついでに『湯の城』
     (名古屋ドーム近くにある温泉施設)行っていい?」
 同僚 「オッケーす」
     ………
     ………
     ………
 くね 「へい、ベトコンラーメンチャーシューましまし、です」
 sees 「……存じない方にも説明すると、ベトコンラーメンとはニンニクとトウガラシ
     を大量に使った台湾ラーメン。『くねくね』さんでは豚骨かミソかを選べる。
     特にニンニク、ニラ、トウガラシは大量に使用されており、辛い。次郎系の
     ような背脂ごってりのものではなく、どちらかと言えば脂は控えめ。チャー
     シューをましましでスタミナアップ、夏バテ防止のラーメン。……見た目は
     かなりマズそうだが(笑) ちなみにベトコンとは、ベトナム解放戦線の意味の
     他に『ベストコンディション』の意味もある(らしい)」

 同僚 「……誰に何言ってんの?」
 sees 「……さあね。……しかし、辛いな。ウマいけど、辛い……」
 同僚 「ウマウマ、カラカラ、ズルズル……」
 sees 「……(ラーメン大好き小泉さんじゃあないが、やっぱ《麺屋はなび》に行きた
     かったなぁ……ちなみにseesは塩ラーメンの味玉と炙りチャーシューのトッピング)
     がオススメです。行列を回避できるなら毎日食べれるウマさです。セントレア
     や桑名にも支店があるみたいなので、今度行ったら写真撮りますっ!)」
 同僚 「早く食べないと麺がのびますよ~」
 sees 「……『くねくね』さんか、何だかんだ……辛い、が、うまいね~」

     ………
     ………
     ………
 同僚 「いや~サウナに入るの久しぶりです。……どれどれ、注意書きを見て、と…」
     
     seesは知らなかった。
     満腹状態でサウナに入るのは健康上オススメできないことを……。
     seesは忘れていた。
     自分でも思っていた以上に身体が疲労していたこと、ここまで同僚の運転で
     案内され、自身の肉体には多少のアルコールが入っていたことも……。(大
     好きなハイボール2杯、度数は約10度程度?)
 sees 「…………」
     サウナに入って約10分後。
 同僚 「そろそろ出ますか?」
 sees 「……ん…………」
     そして――……ふたりがすぐ近くの水風呂に浸かった次の瞬間――……
     事件が起きた。
 sees 「ドボンッ!  ………ブクブクブク.。o○.。o○(水風呂内でブラックアウト!)」
 
     ワシの名を叫ぶ同僚、頬をビンタされるワシ。痛みで現世に戻るワシ……。
     (同僚いわく、かなりやばい顔をしていたらしい……)
     
     銭湯もサウナも暑い季節には最高やけど……使い方ひとつで変わるなぁ……
     しみじみとそう思う、今日このごろです……反省。

                                  了



こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

人気ブログランキング        







Last updated  2018.08.14 01:12:04
コメント(4) | コメントを書く
2018.07.22
ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。

―――――

 6月2日。午後12時――。

「すみません。ちょっと……ワケありだったみたいでして……」
「本当ですね。さっきの母は……社長は、少し、怖かったです」
 不安げな顔を浮かべる高瀬瑠美を隣に、岩渕は左手のTAG HEUERカレラの針を見つ
めて小さな舌打ちをした。針は12時を回っていた。

 そう。川澄の話だけを信用し想像するならば、まさにあの《カーバンクル》を、盗んで
逃げた犯人が目の前にいるのだ。良くも悪くも――自分と自分の父親の運命を変えた、
強引に変えられてしまった相手と、今――まさに対峙しているのだ。

「廊下ではなんですので……」と瑠美に通された社長室では、応接室のような絢爛さや
豪華な室内装飾はない。だが、壁の上方にはいくつもの額縁が掲げられ、中身には様々な
表彰状・各種許可証が見えていた。
 風俗営業・大衆浴場・民間運輸・衛生管理――保健所関係各種の営業許可証……。掲げ
られた額縁はこまめに拭き清掃がされていて、ホコリや手アカはまったく見えない。他に
は関係企業からの表彰状がズラリと並ぶ……。『モンドセレクション』『グッドデザイン賞』
『トラベラーズチョイス賞』『BEST SALES OF THE YEAR』……。
 そう――。
 ……どれもこれも、カネを積めば受賞できるものばかり……だな。
 それらの表彰状の額縁を見て岩渕は、権威や権力を掴もうと必死にもがき、苦しみ、
葛藤に涙を流す中年の女社長の姿を思い浮かべた。女性が故に苦しみ、女性が故に男に
媚を売り、必要あらば犯罪にも手を染める――染めざるをえない事情……。

『努力して、苦労しました』のアピール、か?
 数億は軽く超えるだろう豪華な自宅に、並べられた無数の宝石たち……1度も使われる
ことなく売りに出されるブランド品に、巨大な金庫に詰まった多額の現金……そして――
集めたカネに、さらにカネを生ませるシステムの構築……岩渕が見たものは、岩渕が高瀬
社長に見たものとは――そんな……汲めども尽きぬ欲の塊、そんなふうにも見えた。
 
 普通の――まともな努力と苦労にはとても見えねえが……まぁいい。そこまでだ。俺の
憶測や興味の範疇はそこで終わりだ。関係ない。この《R》がどういう企業でどういう
末路を迎えるのかは……本当に、どうでもいいことだ。


「失礼します……よろしければ、どうぞ」
 ソファに座る岩渕の前にコーヒーが置かれ、「ありがとうございます」と軽く頷いた。
「……あの、川澄、という方は……社長とどういったご関係なのでしょうか?」
 向かいのソファに瑠美が座り、真剣な眼差しで岩渕を見つめた。「社長はこれまで、
お客様に対してあんな不躾な……無礼な態度を取ったことはありません。例え――どん
なに悪質な方だとしても、です」
「川澄は……弊社でも優秀な人材でありまして……」
「ええ。もちろん岩渕さんと《D》のことは信用しております。問題は……」
 岩渕は息を飲んだ。
「うちの社長の態度の悪さです。今回のことは、改めてお詫び申し上げます」
「そんな……気にしないでください」
 岩渕は瑠美に苦笑いして見せる。「今回のことは……こちらとしても、穏便に……」
 そこまで言うと、ようやく安堵の表情が瑠美の顔に浮かんだ。そして、アッチ側の話し
合いは大丈夫だろうか、と思った。
「後ほど、社長にはキツく注意しておきます。《D》さんとは、今後とも仲良くさせて
いただきたいものですので……」

「……一応、確認させていただきたいのですが……高瀬瑠美さんは、高瀬社長のお嬢様、
ですか?」
 岩渕は聞きながら、自身の口の中がカラカラに渇いていたことを知った。コーヒーを
飲むためにカップを手に持つと、エアコンは効いているはずなのに、手の中は汗ばんで
濡れている。
「ええ。社長の順子は私の母です。父親とは私が幼い頃に別れたと聞いています。……
お酒が好きで、母に暴力も……それから――母はシングルマザーとして働いて、今の《R》
を創業しました。立派な母だと思います」
「……酒……か」
 瞬間、岩渕はかつて――自分が殺されかけた中年男の姿を思い浮かべた。

「……笑っちゃう話があるんですけど――私、母と仕事のことで口論になると、ついつい
父親の言葉を口にしちゃうんですよぉ~……」
 幼く整った顔で岩渕を見つめて瑠美が笑った。

「《仏に逢うては仏を殺せ。祖に逢うては祖を殺せ。羅漢に逢うては羅漢を殺せ。父母に
逢うては父母を殺せ。親眷に逢うては親眷殺せ。始めて解脱を得ん》……だよ? ママ。
いついかなる時でも冷静に、臨機応変に……て感じです……ふふふ……」

 ――瞬間、《天使》のオーナーの声が頭の中に蘇る。

……見誤りましたね。常識に囚われるのは日本人の悪いクセです……臨済宗の言葉で、
《仏に逢うては仏を殺せ。祖に逢うては祖を殺せ。羅漢に逢うては羅漢を殺せ。父母に
逢うては父母を殺せ。親眷に逢うては親眷殺せ。始めて解脱を得ん》、というのがあり
ますが……どう思います? 倫理や常識に囚われることなく臨機応変に、ですよ
 
 強い吐き気とともに、ドス黒い負の感情が体の中いっぱいに溢れ出て、岩渕はパニック
に陥りかけた。
 
 ……最悪だ。嘘、だろう? この、クソ女……いや……コイツ……。

「ん? ……ちょっと難しかったかな? 岩渕さぁん……うふふ……」
 瑠美が子供っぽい仕草で微笑む。
 それは岩渕の知る、川澄奈央人が微笑むそれと――似ていた。似すぎていた。


 ――川澄と同族か? 親戚? いや……そんなことは問題じゃない。問題があるとすれば、
ひとつだけ、たったひとつだけ注意すべきことがある。
 ――あの野郎と同類か? 否か?
 ……もし、そうだとしたら――さっきまで考えていた感想はほぼすべて間違いだ。高瀬
順子は娘の操り人形でしかない? 《R》の成長と発展はこいつの才能? 商才? そして、
間違いなく、知っている。知っていやがった。俺と川澄が訪ねて来ることも、はじめから
わかっていやがった。もしかすると、あのテレビ番組の出演依頼から? あの《カーバンクル
の箱》を俺に見せたのも、わざとか? 俺を、川澄を釣るためのエサにした? しかし、なぜ?

 疑惑が疑問を次々と呼び、ほんの少しだけ頭痛がしたが、どうすることもできなかった。
今はただ、瑠美が普通の、一般的な思考の持ち主で、川澄とは何の関係もないことを祈る
だけだった。

「ねえ……岩渕さぁん」
 唐突に、馴れ馴れしい口調で瑠美が聞いた。「そのスーツ、ステキですね? オーダー
メイドですか? それとも――どこかの高級ブランドですか? 教えてくれません?」
 息を弾ませて微笑む瑠美に、岩渕は微笑み返した。けれど――口元や眉がヒクヒクと引き
つってしまうのは、どうしても止められなかった。止められるワケがなかった……。

―――――

 川澄と名乗った男は順子の正面のソファに脚を広げて座り、見下げるような視線を送る
順子の姿をじっと見つめていた。
「《カーバンクルの箱》が欲しいんでしょう? そのために来たのでしょう?」
 男は答えなかった。
 この男は何かに思案を巡らせ、意識を研ぎ澄ませているように見えた。考えている姿は
石像のように硬く、およそプロの犯罪者のそれではなかった。にもかかわらず――順子は
男の姿をつくづく――懐かしいと思った。


 ゆすり、たかり、詐欺、窃盗、強盗、殺人、違法な取引……数えるのも無意味なくらい
犯した、何度も何度も繰り返した犯罪行為の数々の――犯行前、順子のかつての恋人は、
収集した膨大な資料の前でこういうふうに――石像のように――よく考え込んでいた。

 もちろん、その恋人との婚姻関係はない。そんな話が出たこともない。だがおかげで、
順子は犯罪組織との関係を疑われることなく生活ができた。
 恋人の口から別れ話が出た時も、順子は黙って従った。そう。少なくとも、その時、
その瞬間は――その男に対して別に恨みも憎しみも湧かなかった。幼い娘の養育費として
多額の現金を受け取ってもいたし、娘の将来を考えると……しかたのない部分もあった。


「…………ふぅ」
 川澄の息遣いが聞こえる――それはかつての恋人の息子の息遣いではなく、かつて愛し
愛された私に向けて吐き出すそれそのものだった。
 ああ。順子は思った。
 愛し、愛され?
 違う。愛していたのは……私だけだった……。この男の父親は私を裏切り、私の娘を
あっけなく捨てた。食べ終えたカップメンの容器をゴミ箱に捨てるように、何の考えも、
何の躊躇も、何の情もなく――捨てやがった。
「……あなたの父親、最後は酔っぱらってビルから落ちて死んだ、らしいわね――本当、
あの外道らしい、最低な最後で……笑っちゃった……」
 男は答えなかった。
 金銭での取引話が事実上破綻している今、たぶん他の手を考えているのだろう。今は
ただ、どうやって《カーバンクルの箱》を奪えばいいか? それだけにすべての神経を
注いでいるのかがわかる。だが順子は男の声が聞きたかった。殺したいほどに憎んだ男の
子供が、自分に慈悲を乞う姿を想像し、見て、聞きたかった。

「……実は、今夜、大須の地下オークションに《箱》を出品する予定なの」
 そう言うと順子は、スーツのポケットからハンカチを取り出して口元を覆い、微笑んだ。
それはほんの小さな笑みに過ぎなかったが、とたんに男の顔色が赤く火照り、奥歯を噛み
締める音がした。
「……なん、だと?」
 仰天したかのような声を男が出した。「……どういうつもりだっ?」
 順子は歓喜し、さらに言った。「主催者は華僑です」
 その一言が、男の呼吸をさらに乱した。
「華僑っ? ……中国に渡ったら、もう2度と……」
 明らかに動揺した声に――私はさらに歓喜した。

 いい気分だ。あの男と、あの女――……大勢の人間の前で私のことをバカにして、私の
ことを無能で無価値だと罵りやがった、あのクソ女……。ヤツら2人に対する積年の恨み
を、ヤツら2人の息子に返している……そう思うと、最高に気分が良かった。

「……華僑の大富豪、もしくは中国系の企業相手に、オークション勝負をしろと?」
「……さすがに理解が早いわね。ちなみに上限は青天井。事前情報として、落札者には
《R》との業務提携の優先権もつけてるわ……どいつもこいつも、目の色を変えて吊り
上げるでしょうねえ……あなたに用意できる? 5億とか、10億とか……あははっ!」
「……ムリですね。半日で億のカネは……不可能だ」
 カン高くなりつつ声を必死に抑えながら、順子は笑った。
「じゃあ、ムリですね。あなたの母親の形見は、どこぞの――でっぷりと太った中国人の
クズ男に、ブッ壊されるまでオモチャにされるだけだからあっ、ねえ?」
「…………」

 静かな応接室に響く男の乱れた呼吸音をしばらく聞いてから、順子は満足して話を補足
する。……逆上されても、つまらない。
「運否天賦ですよ、こんなものはね。もしかすると、《カーバンクル》や《R》に興味を
示さない方も多いでしょうから。だから……希望を捨てないで頂戴、ルールは守ります」
 その言葉に男は拳を握りながら立ち上がり、順子の目を強く見つめた。その目は――
本当に憎らしいほどに、コイツの母親の目にそっくりだった。
「…………ハメられたってことか……この、僕が……」
 深く、長い息を吐いて男が言った。「……アンタたち母娘とは面識があったはずなのに、
テレビを見た時に思い出すことができなかった。……これは僕のミスだ。反省は、する。
後悔も、少ししている……だけどね……」
「……だけど?」
「……《カーバンクルの箱》は僕のものだ。父親や母親のためじゃあない。そもそも、
僕の中に母親の記憶はほとんどないからね。……アンタがオークションのルールを守り、
それ以上の干渉をしないのであれば……僕も、強引な方法で《箱》を奪うことはしない」
 今度は順子が沈黙した。
「僕の両親にアンタが何をされたのはか想像がつく。だから……これは同情さ、アンタら
母娘に対する憐れみの気持ちを持って……ルールに従ってやる。僕の家から《箱》を盗っ
たことも、くだらない自己満足のために僕を呼び出したことも……チャラにしてやる」
 
 ……? ああ、そうか。この男は、誤解している。
 しかたない。あの子には悪いけど、しかたがない。

「……地下鉄大須観音駅、今夜9時よ。迎えを出すわ……それと――」
 平静さを取り戻しつつあった川澄奈央人の顔を見つめて高瀬順子は笑った。「あなたの
家から《箱》を盗んだのは私じゃなくて……。あと、オークションに《箱》を出品しよう
として、その下準備と宣伝のために岩渕さん……《D》を呼んだのは……娘の瑠美よ。
……わたしはただ、いろんなことを思い出しかけただけで――」

 川澄は何も答えなかった。ただ――応接室を出て行く瞬間、誰にも聞こえないくらい
の小さな声で、「……『妹』っていうのはもっと可愛げのある生き物だと思ってたけど、
笑えないね……笑えない……」と呟いた。

―――――

 ――そんなこと、考えてる? 
 わかっちゃうんだよね……私……。
 ところで、どうする? 
 オークションに放るカネのアテはあるの?
 澤社長に土下座でもして、《D》のカネを借りる?
 伏見の姫様に何とかしてもらう?

 自信があるんでしょ? 
 自称天才で、万能で、優秀なんでしょ?
 駅弁ばっかり食べてないでさぁ、何とかしてよ……兄さん……。

 そうそう――……。
 わかんないのは、岩渕さん。
 兄さん。何であんな普通の人を連れて来たの? あとで教えて。
 教えてくれたなら、もうひとつの《カーバンクルの鍵》、あげちゃうね。

 高瀬瑠美の顔に、無邪気に遊ぶ子供のような笑みが浮かぶ……。

 ――その時、瑠美の胸の奥で、赤い光を放つ石が小さく揺れた……。

―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 eに続きます。















本日のオススメ!!!  リョクシャカッ!!! (緑黄色社会)

Vocal長屋晴子(ピンク)……透明かつ、愛らしい。
キーボードpeppe(峰岸ぽい娘)……可愛らしい指先。
Guitar小林壱誓(特徴なし)……柔らかい演奏。
Bass穴見真吾(モジャモジャ)……たぶん、音楽センスはこの中一番。

 ツイでもブログでも何度か紹介させていただきましたが……やはり知名度は相変わら
ずの低空飛行。フェスの参加も良いですが、やはりメディア露出が……欲しい。かなり
の実力があるだけに残念です。Mステにでも、一発、ねじ込んで欲しいけどなぁ……。
 この際、アニメのタイアップでも良い気がするが……やはり必要なのは『個性』です
かね~? リョクシャカはぱっと見、『優等生』すぎるイメージがある感が……。 



 苦労されている……とは思いますよ。ホント……。
 



雑記

 お疲れ様です。seesです。
 
 はい。体調悪いです。ものもらい。風邪。寒暖差による体調不良債権……最悪す。

 今回のお話はストーリーを進めるためのものと……ちょっと話が川澄氏によりすぎでしたね。
ちょつとずつの微調整をしつつ、路線をまた戻す、他に寄り道する。繰り返しです。

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓




 好評?のオマケショート 『酷暑、酷暑、酷暑……そして……』

 なぜ、私がこんなメにあわなければならないのだろう? seesは思った。
 仕事も適当にし、遊びも適当にし、付き合いも適当にこなす私に……なぜ、天はこれ
ほどの苦痛を与えるのだろう? マジで怒ってる

 seesものもらい完全完治から数日、名古屋の地を――猛暑が襲った。あの、未曽有の
大雨災害からの酷暑……生まれつき体が繊細かつピュアなseesは、「あっ」と言う間に
体調を崩し、大好きな相撲も野球も見れないカラダになってもーたのだっ!!しょんぼりほえー涙ぽろり

 営業をゼハゼハ叫びながらこなし、デスクワークを同僚にぶん投げ、残業を減らして
薬を飲み、早めの就寝眠い..眠い..……なんてこった……。
 世間には誘惑が満ちていた。
 野球、相撲、ネット、読書、アニメ、映画……何とか気力をふりしぼり、行けたのは
『ハン・ソロ』の映画のみ……畜生っ!ムカッ 畜生っ!ムカッ

 味気ない野球と相撲のダイジェスト映像……届いたはいいが見れていないマンガ……
触れも見れもできないネット関係……ブルレイに、まるでヘドロのように溜まるアニメ
たち……結局、見に行けなかった『メイズ・ランナー最終章』……クソッ……体がっ…
…動かないっ!号泣

 予定も大幅に狂った。ささしまにある109シネマ(丸山佳奈嬢が爆死した場所)で酒
飲みまくりながら楽しもうと……プレミアシートで大暴れしてやろーと思ってたのにぃ
ぃぃぃぃぃっ!! はぁはぁ下向き矢印……ぜーぜー下向き矢印


 次長  「――で、結局、具体的に、お前、なんなん? なんやの?ムカッ
 sees  「……寒暖差による体調不良……風邪のような……」
 次長  「早めの夏バテやろ? カス。氷やらコーラやらファンタばっか飲んでるからや」
 sees  「いや~……んっん……やはり人通りの多い場所とか行くと……」
 次長  「――言い訳すなっ! たわけがっ! 殺すぞっ!怒ってるぐー
 sees  「……うっううぅぅ号泣号泣号泣号泣
      最悪や。この夏は最悪や。なんとか、浅めのキズで逃げ切らねば……。


                                   了



こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

人気ブログランキング    






Last updated  2018.07.24 22:57:48
コメント(4) | コメントを書く
2018.07.06
ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。

―――――

 6月2日。午前10時――。
 フィアットのスピーカーから、『愛のダ・カーポ』が流れている。
 僕は右手の親指で自分の唇をさわり、膝の上には現金の詰まったカーボンのアタッシュ
ケースを載せ、サイドミラーに映る後続車や、窓の外の名古屋の市街地や、その中を歩く
人々の群れを見つめている。そして、左ハンドルの運転席――僕の隣には岩渕が真剣な
顔つきで、器用に片手でハンドルを握っている。

 ついさっき、岩渕が高瀬社長のオフィスにアポイントを取り、「……11時に会って
くれるそうだ。……個人的な商談、ということも伝えたぞ」と言った。僕は満面の笑み
で拍手をし、「いや~、素晴らしいです。さすがは岩渕さん」とわざとらしく喜んだ、
だけだ。せっかくだし……最低限の仕事はしてもらわないと。

「……見せ金は持ってんのか?」
 岩渕が少しだけキツイ口調で聞いた。だから僕は微笑んで言う。「見せ金? そんな
失礼なマネしませんよ。……名古屋銀行に寄ってください。外貨預金をおろします」
 少しだけ考えてから、言う。「……5000万ほど」
 岩渕は僕の目をじっと見つめたあと、無言で着替えを始めた。

 フィアットに装備されたAlpineのスピーカーから、『炎のたからもの』が流れている
のが聞こえる。
 ……カリオストロの城、か。岩渕さん……本当にルパン三世、好きですねえ……。
 目を閉じる。クラリス姫を救い助けようと、カリオストロ伯爵に戦いを挑むルパンの
心情を想い――思う。
 思うのは、『たからもの』を奪われた哀れな男とその息子――……。

 ……そしてまた、僕の脳裏を遠い記憶の断片が横切った。決して忘れ得ぬ何か……遠い
遠い昔に消えてしまったはずの何か、失ってしまったはずの何かを……大切だと思っていた
のに、捨ててしまった何かを……僕は、思い出した。



「……父さん、何しているの?」
 そう。自宅に戻った僕に一瞥もすることなく、一心不乱に、父は母の名を叫び散らし、
家の壁やドアや家具を破壊し尽くしていた。何が原因かはすぐに察しがついた。
 ――畜生っ! 畜生っ! アイツの……アイツの《カーバンクル》が……アイツの、
形見が……クソッ! クソがっ!
 怒鳴るように叫びながら、父は両手の拳を握り締めた。
 そう。
 盗まれたのだ。何者かが家に侵入し、亡くなった母の形見の《カーバンクルの箱》を
盗み出し……それに気がついた父は、狂ったかのように家で暴れた。今――思えばあの
頃から……だったのかな?
 父親の人間性が壊れてしまったのは。

 ――殺してやるっ! 殺してやるぞっ!
 大声で叫びながら、父は狭いマンションの中で暴れまくった。台所の鍋やフライパン
を叩き落とし、テレビをテレビ台ごとひっくり返し、テーブルやイスを窓ガラスに向け
て放り投げ、ドアを拳で力いっぱいに殴り続け、冷蔵庫や洗濯機や掃除機を引き倒し、
力任せに襖を蹴り倒し、抜けるほど強く床の板を踏み鳴らした。

 目茶苦茶になったそんな家の中で、鬼のような形相に変わった父に対し――なおも暴れ
続ける父に対し――……僕は聞いた。聞いてみずにはいられなかった。
「《カーバンクルの箱》の中には、何が入っているの?」

 声を上げた僕と目が合った瞬間、父は叫んだり暴れるのをやめた。息を喘がせ、体を
震わせ、呟くように父は教えてくれた。顔を歪めるようにして笑いながら……。

―――――

 ――午前11時。
 川澄と一緒に待機していた――名古屋市中区にあるホテルグループ《R》本社ビルの
応接室に入ってきたのは、シックな夏物のスーツを着た中年女性と、スカートスーツ姿
の髪の長い若い女性だ。ふたりとも面識はあった。テレビ番組の打ち合わせの際、名刺
交換程度の挨拶は済ませている。中年女性は高瀬順子社長。若い女性は社長の娘で……
名前は高瀬瑠美……《R》での役職は不明だが……。

「お忙しいところをすみません。本日は突然の訪問を許していただき……」
 まだ幼さを残した瑠美の顔と、気の強そうな笑みを浮かべる社長の顔を交互に見つめ、
穏やかな口調で岩渕は言う。
「先日は大変お世話になりました、岩渕さん。今日は……例の……《赤い宝石箱》を、
その……譲渡してもらいたい……というお話で……」
 社長に向けて喋ったつもりなのに、幼く可愛らしい顔をした娘が答えた。おそらく歳
は京子と同じくらいなのかもしれない。錦や栄の街を歩けば、何人ものスカウトに声を
かけられることだろう。

「はい。こちら――私の同僚の川澄がですね。そちらの《箱》をいたく気に入り……」
 岩渕は説明しながら、隣に座る川澄の様子を探る。『同僚』は岩渕のアドリブだ。まぁ
この際だ、多少の嘘もやむを得ない。
「……川澄、と申します。はじめまし……て」
 抑揚がない口調で川澄が話し出す。……違和感がある。何かを心の中で懸命に抑え込ん
でいるかのような……そんな口調だった。「……あの――どこかで、お会いしたこと、
ありませんでした、か?」
「いいえ。《D》の方々とは、岩渕さん以外、お会いしたことはありません」
 川澄の言葉に瑠美が1度だけ顔を振る。社長のほうは目線をわずかに下げただけだ。
 思い返せば――社長の微笑みは最初だけで、ソファに座ってからはずっと、川澄の挙動を
無表情に見つめている……。

「……いかがでしょうか? 相応の金額を川澄は現金で支払うと申しておりますが……」
 岩渕は社長に聞くが、社長は岩渕の顔を見ようともしない。瑠美は眉間にシワを寄せ、
母でもある社長に、「社長、いかがいたしますか?」と問いた。だが、社長は相変わらず
岩渕の隣の男を見つめるばかりで何も喋らない。
「あの……すみません……社長……?」
 社長の肩に手を当てて、困惑げに瑠美が言う。彼女が体を動かした瞬間、ストレートの
髪の隙間から甘い香りが漂って来る。

「……ご希望の金額があれば、可能な限り融通できると、川澄も申しております。その他
にも、《D》名駅前店ご来店の際には、VIP待遇での査定をお約束いたしますが……」
 これも、社長は無言のままで、代わりに瑠美が答える。
「……すみません、今日は何だか、社長の具合が悪いみたいで……お客様が来ているのに
……こんな……こういう態度で……すみません……」
「いーえー……。とんでもなーい……社長は何か、体調でも悪く?」
 川澄が口を開いて瑠美に言う。だがもちろん、社長は何も答えない。今度は瑠美も答え
ない。ただ、困ったかのように岩渕と川澄と社長を順に見つめるだけだ。
 
 つまりは……こいつら、知り合いかよ。
 猛烈にイヤな予感は、これか。聞いてねえぞ……クソッ。
 
 岩渕も困ったかのような顔をして、少しだけ笑ったフリをみせる。
「……どうでしょう。当事者の方々だけで少しお話をされては? ……えー、瑠美さん。
私たちは少し外に出ましょうか? 少ししたら戻りますので……」
 ……露払いなんて俺のガラじゃあないんだが、しかたない。ここでの俺の出番はもう
なさそうだ……。
 ああ……俺の休日が……タダ働きにならなきゃいいが……。

―――――

 そうそう――……。
 記憶の断片で、父が、僕に教えてくれたことは――……。
 
「――《カーバンクルの箱》の中身は、お前自身だ」

 あの時の父の言葉の意味は、今もまったくわからない。ただひとつ、ただひとつ今、
思うことがあるとすれば……そうだな。
 僕は僕自身を取り戻すため――コイツに、コイツらに奪われた僕を奪い返すため――
僕は来た。これは運命だ。これは宿命なのだ。
《カーバンクル》が昔も、今も、奪われずにずっと手元に置いてあれば、父や、僕や、
もしかしたら世界中の人々の未来は変わっていたのかもしれないのだ……。

 もう1度、考える。
『僕は僕自身を取り戻す』
 いいね。いい響きだ。何が何でも成し遂げたくなる。いや……少し、違うな。
 悔しいのだ。憎らしいのだ。僕が知らない僕自身が、自由を奪われて閉じ込められて
いる。その事実は、その事実だけは、絶対にあってはならない。絶対だっ!
 自由と欲望は、僕にとってすべてなのだ。

―――――

 岩渕と瑠美が応接室から出て行くと、それまで無表情であった高瀬順子社長の顔に感情が
宿った。それは怒りと、憎しみと、蔑みが混ざり合ったような、下卑た中年女の顔だった。

「……生きてやがったのか……ゴロツキ……顔と名前を変えても、雰囲気はあの外道と同じ
だね……通報してやろうか?」
「……上等だよ」
 川澄奈央人の顔に――
 もう自分の本当の顔と名前も忘れてしまった男の顔に――
 もう誰からも、自分の本当の顔と名前を教えてもらえない男の顔に――
 無邪気に遊ぶ子供のような笑みが浮かぶ……。
 
―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 dに続きます。



















  本日のオススメ!!!  ナナヲアカリさん。

 seesのブログでは何度も紹介させていただいておりますが……先日、動画で衝撃の…
「YouTuber、はじめてみました」発言……。誠に勝手ながら……心配しかありません。
 何かとんでもないことやらかさないか……できればヤメて欲しい……。



 えー……似た人なら、川本真琴サン? 本当、ハマる人なので……どぞ。
  



 雑記

 お疲れ様です。seesです。
 仕事……仕事……薄給……休みは寝てオワリ……。音声認識でPCに打ち込み、して
みようかな? と本気で考えてますが……やはり誤字が多い。本当――最近は体が動かん
ぜよ。また風呂屋に行こっと。

 某大手小説投稿サイトで既存の品を投稿してみたが……ダメかも。投稿者は世間知らず
の子供たちばかり……小生、ついていけません💦(所詮はフォロワー間同士で☆のやり
とりするだけのままごと)……いろいろ考えさせられるseesですw

 さて、今回のお話は……ノーコメント。特筆すべきコトはないです。お話が大きく動く
のは次回からですね……。短くてゴメンゴ。

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓


 好評?のオマケショート 『飛翔する野口英世サンと、眠る石川遼クン』

 1日目。
 少しだけ左まぶたが熱い。
 2日目。
 何となく……左まぶたが重い。
 3日目。
 鏡を凝視。左まぶたに腫れモノを確認。衝撃、走る。放置。
 4日目
 次長に軽く叱責され――同僚たちに「普段と変わらんやん」などとからかわれる。
 5日目。
 休日。某、名駅前眼科クリニックへ。初診料2200円。薬代2500円。一週間分。
 ものもらい、確定。凹む下向き矢印
 ちなみにブログ更新と映画鑑賞の予定だった。全放棄。何をとち狂ったのか、6980円
のサングラス購入。セール品の石川遼くんモデルの国産メガネ。似合わないクール
 6日目。
 社内での強制業務。朝から恥ずかしい思いをする。ニヤニヤされながら「エンガチョ」
と罵られる。後輩女性(ブリ子)から「えぇ~手術(整形)でまぶた切り取っちゃえば
イイのに~🎵」と笑えない天然ジョークを食らう。
 7日目。
 ここにきてようやく、改善の兆し目
 しかし……しかし、まぁ……薬はまだまだ残っている……。
 さようなら、幾多の星空へ散った野口サンたち。
 さようなら、クローゼットの奥で眠る遼クン。

 ……最低な1週間だったな……最悪や。風邪のほうがまだ良かった……。


                                了ほえーほえー



こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

人気ブログランキング    






Last updated  2018.07.06 04:43:34
コメント(4) | コメントを書く
2018.06.14

ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。

―――――

 6月2日――。
 ありがとう、岩渕さん。本当に、ありがとう。
 僕は本当に感謝している。あなたのおかげで、僕は《カーバンクル》と再会できる。
もう一度、アレをこの手に取り戻せる。お姫様が《菊花紋章――十四裏菊》を取り戻し
たように、僕も、《彼》とまた、再会できる。
 僕はそう思いながらBALLYの靴を脱ぎ、困った顔をする岩渕さんを見つめた。
 
 ――そしてまた、僕の脳裏を遠い記憶の断片が横切った。決して忘れ得ぬ何か……遠い
遠い昔に消えてしまったはずの何か、失ってしまったはずの何かを……大切だと思っていた
のに、捨ててしまった何かを……僕は、思い出した。


「ねえ、僕の兄さんとか、弟とか、妹って、どこに行ったの?」
 焼酎をビンごとラッパ飲みし、札束のカネを指で丁寧に数える短髪の男に、幼い僕は
そう言って話しかけた。……あれは7歳か、8歳のころ? よくわからないな。小さな
体。サラリとした髪。細い手足。人懐こそうな、それでいてどこか冷たく、落ち着いた
雰囲気の細い目をしている。子供用のジーンズに無地のTシャツ。ジーンズもシャツも
スニーカーもピカピカで、汚れひとつなかった。
 ――どうでもいいな。お前さえおりゃええワ。
 男がそう答えると、僕は「何で?」と言って笑った。おかしかったから。
 数え終えた札束を机に置き、ニヤニヤと笑いながら新しい札束を手に取り、また数え
始め――僕の顔を見つめる。
「何で僕だけなの? みんな、どこに行ったの?」
 ――アイツらと、アイツらの母親は使えない。何の役にも立たない。だから、捨てた。
「僕と……僕の母さんは?」
 ――お前は特別だ。
「特別……? 何で……?」
 ――……一度しか言わないから、よく聞けよ……。
 
 記憶の断片には他に誰もいない。父親の男と、幼い僕が会話する姿だけ。僕が頷くと、
父親の男はニヤリと微笑んだ。僕も微笑んだ。父が、僕に言ってくれたことは――……。

―――――

「お邪魔しまーす」
 ドアを開いたトレーナー姿の岩渕に、昔の同僚、川澄奈央人は笑いかけて靴を脱いだ。
キョロキョロとわざとらしく家の中をのぞき込むフリをする。ポールスミスのスーツ。
BALLYの靴。腕時計はHUBLOTの……ビック・バンか。左手にはカーボンのアタッシュ
ケースを持っている。指や首にアクセサリーはつけておらず、スーツや靴に汚れは一切
ついていない。髪は綺麗に整えられ、髭も剃られている。

「ちょっとしたお願いがあるんです」
 川澄はそう言ってリビングのソファに腰を下ろした。
「……早朝にいきなり来て、何言ってやがる……」
 岩渕は舌を打って唇を尖らせた。……冗談だろ。勘弁してくれ。
「このウチ、他に誰かいます? 例えば――……」
「やめろ。俺たちはそんな関係じゃない。……そういう生活はヤメたんだ」
「……以前の岩渕さんなら、しょっちゅうキャバ嬢とか連れ込んでたんですけどねえ……」
「……今すぐ、叩き出されたいのか?」
「ごめんなさーい」

 岩渕はレギュラーのコーヒーを淹れながら、嬉々としてリビングを眺める川渕の背中
に目をやる。その背中に隠された狂気や性質のことを考える。……カネのために《D》
や俺を裏切りかけたこと……自分の自由のために父親を裏切り、見殺しにしたこと……
俺を仲間に誘い、俺を殺そうとし、俺を見逃した……最後は《D》に協力し、父親の財
と情報と知識を担保に澤社長と示談成立……出自不明……経歴詐称……神出鬼没……。
 確実に犯罪者……父親も、おそらくは母親も、重度軽度関係なく罪人……さらにこの
男は、罪の意識なんて感覚はこれっぽっちもなく、血も涙もないクズ。自分のことを棚に
あげても、そう思う。そう思わざるをえないヤツ……。
 ……だが、俺は、どうしても……コイツが……嫌いになれそうにない……。

 岩渕は食器棚からコーヒーカップを2セットと、黒糖の入った瓶と、クリープの瓶を
出してソファの前のテーブルに並べる。この男が砂糖とクリープを使うかは覚えていな
いが、とりあえず出しておく。コポコポとサーバーに落ちるコーヒーをカップに注ぐ。
「コーヒーでいいか?」などとは聞いていない。拒否するのなら、別にいい。俺が飲む
だけだ。
「広くて綺麗で家具が少なくて、岩渕さんらしい家ですねえ」部屋の中を見回しながら
川澄が言う。「家賃は20万てとこですか? 大変じゃないですか?」
「……《D》の不動産投資の物件だ。一部の人間だけだが、社員割引で住んでいる」
「社割? いいっすね」
「……川澄、お前、何しに来た?」
 そうだ。俺が気にするべきことはコイツの来訪目的だ。
「……単刀直入に申しますと――」

 まるで道端に転がる石を拾い上げるかのような――そんなごくごく当たり前の口調で、
川澄は話し始めた。爽やかに微笑み、薄ら笑いをし、ふざけながら――岩渕を誘った。
無理難題ではない……無理難題ではないが――そう。

 川澄という男は単なる自信過剰か、それとも単なる狂人か。そんな男の頼みを断るか、
否か――……。 まただ。また、俺は決断を迫られている。そんな気がした。

―――――

 熱いコーヒーカップを両手で持ちながら、僕は落ち着いた口調で言った。「――先日、
岩渕さんがテレビ番組で共演した、ホテルグループ《R》の高瀬順子社長の宝石コレクシ
ョンのひとつ……《カーバンクルの箱》を僕に譲渡してもらうよう、取引を代行してもら
えませんか?」

 言いながら、僕はそんな自分を不思議に思った。これまでの人生で、僕は誰かを頼ったり
したことはほとんどなかったから。
 目の前にいる男は、僕を訝しげに見つめていた。だが、僕の話を真摯に聞いてくれては
いる。僕は、それが嬉しかった。
「……信じてはくれないかもしれませんが……岩渕さんも見た、あの赤を基調とした宝石
54個で形成された箱……あれは元々、父が母に贈った唯一の品なんです……だからアレ
は……僕のものなんです……」
 こんなことは他人に、まして自分がかつて殺そうとした相手に話すべきことではない
とわかっていた。けれど、やめられなかった。まるで心に巣食っていた蜘蛛の糸をほど
いて解くかのように、僕は話を続けた。
「……どんな経緯かは僕にもわかりませんが……父は収集した赤色系の宝石たちを箱の
形に埋め込んで造らせた……母はそれをとても気に入っていた、と思います……僕がまだ
小さかった頃に母は病で他界しましたが……いつしか――《箱》は行方知れずになり、
僕も正直、忘れかけていました……」
 嘘ではない。
 そう。少なくとも今、この瞬間だけは、彼に嘘を言いたくないと思う。
「……《カーバンクル》? 高瀬社長はアレを《赤い宝石箱》と呼んでいたが……」
「ふっ」あまりにも陳腐なネーミングに、僕はつい鼻で笑ってしまう。
「……カーバンクル、ラテン語で《赤い宝石》を意味します。他にも《赤い石を持つ獣》
の意味もありますね」
 説明しているうちに、また僕の心臓が高鳴った。冷静でいられない自分を見るのは、
本当に久しぶりのことだった。

「……その《カーバンクル》がお前のものだという証拠は?」
 当然だ。当然の質問だ。当然――僕はその問いに応えられる。
「はい。もちろんありますよ。……ええっと、どこにあったかな?」
 そう言うと、僕は持参したカーボンのアタッシュケースからひとつの《鍵》を取り
出した。僕はそれを指でつまみ、岩渕の眼前に見せつけた。
「……こいつ、軸は象牙……? ブレード部分の先端は……ルビーかっ? マジかよ…
…3カラット以上はあるな……」
 それから、岩渕は両目を見開いたまま呆然とした。頭の中で思案を巡らせているよう
だけど……どうやら、少しは信用してもらったようだ。まっ、本当は無条件に信用して
欲しかったけど。

 ぐったりとソファにもたれたまま、岩渕が口を開いた。
「《鍵》って……あれ、密閉された箱、じゃないのか?」
 実際に手に取り、見たクセに、岩渕は何もわかっていない。……まぁ、それも無理は
ないのだけど。
「……箱根の寄木細工の技術を応用した造りらしいです。この《鍵》がなければ、あの
《カーバンクル》の真の姿は拝めません。……番組での査定価格は900万でしたっけ?
流石にアレをバラす勇気は、あの社長も持ち合わせていないでしょうからね……」


 しばらくの沈黙があった。けれど、それは重苦しい沈黙ではなく、何かが氷解するよ
うな、優しくて、嬉しくもなる沈黙だった。
 沈黙が続くうちに、僕は自身の胸の内が少しだけ軽くなっていくのを感じた。
「川澄……」
 やがて、岩渕が僕の名を呼んだ。
「なんです?」
「……面白そうだな。俺への報酬は?」
 岩渕が楽しそうに微笑んで聞き、僕ももちろん、笑って言う。
「僕が欲しいのは《カーバンクルの箱》の中身だけです。外面の石も鍵も全部、先輩に
あげますよ」

「了解……それと、もうひとつ――」
 岩渕はそう言って立ち上がった。顔からは笑みが消えている。「お前、まだ俺を殺し
たいと、思うか?」
「……あの時の自殺願望は消えましたか? 残っているのなら、今すぐにでも殺して
さしあげますよ?」
「……勘弁してくれ……マジで……」
「冗談スよ……」
 僕が言うと、岩渕はほっとしたように微笑んだ。僕も微笑む。そう――最初の問題は
クリアした。


 僕は立ち上がりながら、岩渕にも聞こえないくらいの小さな声で呟く。「……アンタ
は僕の持っていないものを持っている……アンタを生かす理由はそれだけさ……」
 それに……――
――……《鍵》はひとつではない。
 それの所在が確認できないことには、あまりムチャなことはできないしね……。

―――――

 そうそう――……。
 記憶の断片で、父が、僕に言ってくれたことは――……。
 
「――俺が本当に愛していたのは、お前の母親だけだからだ」

 あの時の父の言葉の意味は、今もまったくわからない。ただひとつ、ただひとつ今、
思うことがあるとすれば……そうだな。
 どこぞの社長か、金持ちか、資産家だか何だか知らねえが……僕の《カーバンクル》
を奪った罪は重い。何も知らなかった、としてもだ。許されることではない。決してだ。
 大きな罪には、盛大な罰を与えなければなりませんねえ……。
 そんな権利、お前にはない?
 いいや――だって、僕は天才なんだよ? 優秀なんだよ?
 そんな権利、あるに決まっているじゃあないか。
 川澄奈央人は強く思った。

―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 cに続きます。



















  本日のオススメ!!!  SHISHAMOさん。

 SHISHAMO。
 左から松岡 彩(まつおか あや)。担当はベース。
 宮崎 朝子(みやざき あさこ)。担当はボーカル・ギター。
 吉川 美冴貴(よしかわ みさき)担当はドラム。リーダー。

 女性バンドらしい女性目線の歌詞大半。恋愛だったり仕事だったり、日常的な生活を
歌詞にしたイメージ。キンキンシャンシャン鳴らすだけの野郎バンドとは違い、ドラム
音がやや強く、ボーカルを食い気味。ベースはベースらしく一歩引いた演奏で好感。
 うむむ――aikoに若干似た歌い方をする傾向があるかも……若いし。
 しかし……何ていうのかな……飽きないんだよね、この人たち。
 バリエーションが豊富で引き出しが多いワ。リスナーに対して自分たちに「飽き」が
来ないように工夫している感じ。ヨソからいろんなものオマージュして使っている感は
残るけど、そのたびに新鮮な気分になれる。……一度、聞いてみてください。




 SHISHAMO、のCDす。まぁ……一応。
   






 雑記

 お疲れ様です。seesです。
 更新遅くてすんませ~ん。最近、勤める会社のオフィスや玄関の改装(改築?)工事が
決定しまして……seesはいろんなところに出張させられてる次第でありんす。元々営業
メインの仕事ではありますが、こう他県に行かされると……流石に疲れるほえー
 まぁ、また落ち着いたら更新も頻度あげられると思うので、あしからず。

 今回のお話は、ざっくりと今後の流れを説明する回に終始しました。本格的に動くのは、
Cパート~ですね。川澄氏の性格を掘り下げるのは疲れる……まぁ、よく海外映画やドラマ
で散見される、天才型犯罪者のそれを踏襲しています。天使の面、悪魔の面、ふたつを交互
に使い、自身の精神を維持……多面性のある性格ではあるけれど、別に多重人格者でもない、
そんな性格です(?) 最終回までには、どうなることやらwww

 文節の作りは、はい、甘いです。適当です。手抜きです。
 だから……ごめん。変な表現多用しているけど、深い意味はないからw時間的余裕があれば
もう少しなんとかなったかもだけど……。

 しかし……川澄氏、出ずっぱり。淡々としていて、正直スピード感はない。新キャラ出して、
ペース配分考えよう……っと。

 次回は移動――行動――新キャラ登場、の流れ予定。よろしくっす。

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓




 好評?のオマケショート 『嬉しい?』 (手抜き)

 sees   「え~、ついにヤッちゃったの?」
 男友   「……買っちゃって、飼っちゃったピンクハートミニチュアダックス……しかも2人」
 sees   「あ゛ー……ええな~ペット飼うのって……」
 男友   「いっぴー(seesのあだ名)は、猫飼いたいんだっけ?」
 いっぴー 「……いや~やっぱ世話とか餌とか、大変じゃね?」
 男友   「そりゃそうやで~……ワンコ2人なんて初めてやし……」
 いっぴー 「白騎士さん(男友の彼女、同棲中)も忙しそうやもんね……」
 男友   「いっぴーさ、いっぺんウチ来なよ……ウチの子紹介するわ~」
 いっぴー 「マジで? 行く行くぅぅ✌('ω'✌ )三~」
       ……
       ……
       ……
 白騎士  「あらら、いっぴーじゃん。久しぶりぶり~~」
 いつぴー 「白騎士さん、おつかれ~…………」

       ポポロクロイスの白騎士さんに似た、大学同期の女に案内され、seesは
       リビングに腰を下ろすと――
 wダックス  「キャンッ! キャンッ!」
       2人のカワイイ子犬が突進してきた。
 いっぴー 「っ! やっべっ! カワエエッ!」
 wダックス「キャイ~ン……ク~ン……ペロペロレロレロ犬犬……」
       seesの腕や肩や腹に縋りついて離れなくてジャレる2人を見て、思わず
       seesもニンマリ。ナデナデナデナデバイバイバイバイ
 男友   「いや~…お客さんなんて珍しいから2人とも興奮してるね~ww」
 白騎士  「ホント~すげー嬉しそう……」
 いっぴー 「いやはや……ちょっと驚いたけど、イヌ様もエエなーウィンク

       イヌ様たちと抱き合い、じゃれ合い、舐めあい、時間も忘れて遊んでいる
       と――……ふと――……

       イオンで買ったコシノヒロコのスーツに違和感が……。3000円もした
       ミチコロンドンのワイシャツに何か……生温かい……何か液体が……。
 wタックス「シャァーー…シャアーー……犬プルプル犬いっぴーさん大好きだワン!!」
       シャワワワワ……シャワワワワ……。

 いっぴー 「…………ま、さ、か」
 白騎士  「あー……やっちゃったかぁ(*‘∀‘)テヘペロ」
 男友   「ウレションだね。いっぴー……ご愁傷様」
 いっぴー 「NOOOOOOOOOOOOッ!!! NOO、NOO、NOOOOOOOooooん…」

       半笑いでウェットティッシュを用意する男友。
       苦笑いでwダックスをゲージに入れる白騎士。そして、
       半泣きでスーツとシャツをウェットティッシュで拭くsees。
       
       まー……何だな……それでも、まぁ、やっぱりカワイイね。子犬って。
       ……ペット欲しいな。
       最近よくそう思う、seesでした。

                                  🐩了🐕


こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

人気ブログランキング    







Last updated  2018.06.14 01:15:13
コメント(5) | コメントを書く
2018.06.03
ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。

―――――

 6月1日――。
 群馬県高崎駅で購入した弁当の袋を片手に下げて、高崎駅近くのルートイン高崎駅
西口のフロントでチェックインをする。もちろん、1泊だ。料金を現金で支払う。急ぐ
心を懸命に抑えて、真っすぐに部屋へ向かう。
 弁当の袋をテーブルに置き、ポール・スミスのスーツのジャケットをハンガーに掛け、
グッチのネクタイを緩め、テレビの電源をそっと入れる。
 ……良かった。放送には間に合いそうだ。
 名古屋市の金持ちを特集したバラエティ番組が見える。リポーターらしき若い女と、
資産家らしき年配の女、そして――ひとりの男が見える。クリスタルのシャンデリアの
下、海外の絵画や美術品が並ぶ中――絢爛豪華な一室で、リポーターの女が楽しそうに
はしゃいでいるのが見える。画面の奥のガラスケースの前では、グレーのスーツを着た
男が嘘くさい笑みを浮かべている。
 男がズームアップされる(正しくは、男が見ていたガラスケースなのだけど)。少し
顔色が悪いですね……緊張でもしてますか?
 高崎駅名物、だるま弁当の箱を開け――僕は唇をなめながら、笑う。
 
 僕? 僕のことなんてどうでもいい。今、テレビの液晶画面に映るのは、僕ではなく、
彼なのだから。

 彼――もちろん、僕は彼のことを知っている。
 彼の名は岩渕誠、32歳。岩渕さんは今、宝石・貴金属鑑定士としてテレビ局に出演
依頼され、名古屋の著名な資産家女性の宝石コレクションの数々を――適当に見学し、
適当な値段をつける仕事をしているところだ。白い手袋をはめ、わざとらしく驚いたり、
冗談を言ったり、それなりに役を演じている風に見える。
 今度は資産家女性の顔がズームアップされる。あらら……有名ホテルチェーンの女性
社長は満面の笑みを浮かべている。『自分は人生の成功者』と言わんばかりの表情は、
確かに……テレビ番組向きなのかもしれない。だけど、しかしまぁ……笑ってしまう。
本当、あまりにも知性と品性に欠けていて。

 次に、若い女のリポーターがズームアップされる。
「岩渕さんっ! これはこれはっ、何ですか? いくらぐらいしそうですかっ?」
 女はカン高い声で岩渕を呼び、興奮した様子でガラスケースの中を指でさす。岩渕は
微笑んではいる。だが……少しだけ、ほんの少しだけ、目を見開いた。何です? 何を
見たんです? 僕にも早く教えてくださいよ。
 僕の心臓が高鳴り始めたのがわかる。岩渕と同じ気持ちになったのがわかる。そんな
岩渕を嬉しそうに見つめ、僕は弁当を食う箸を止めた。 

 岩渕がガラスケースの扉を開ける。そこへ、両手を差し伸べて、持ち上げる。それは
……――《箱》だった。
 ……まさか……いや、本当に、あの《箱》なのか……?

 テレビの中の岩渕はそっと《箱》を取り出して、フェルトの盆の上に置いた。
《箱》。そう。それはルービック・キューブにとても良く似た大きさと形をし、正方形の
1面にはルービック・キューブのパズルような9個の赤い宝石が埋め込まれていた。9個の
石はそれぞれが別の種類の宝石であるものの、カッティングは全てアッシャー(正四方形)の
形状をしている。

 石の種類はルビー、ガーネット、パイロープ、コーラル、ジャスパー、スピネル、コラン
ダム、ベリル、カーネリアンの9種9石。美しい。どの石も1級品だろう。
 台座として使われている6面の板はショール(黒いトルマリン)だ。
 
 ……知っている。
 ……僕は、この《箱》を知っているっ!
 3~6カラットの宝石54個(9個×6面)が埋め込まれたトルマリンの《箱》を。
 ――瞬間、僕の脳裏を遠い記憶の断片が横切った。決して忘れ得ぬ何か……遠い遠い
昔に消えてしまったはずの何か、失ってしまったはずの何かを……大切だと思っていた
のに、捨ててしまった何かを……僕は、思い出した。

「カーバンクル……」
 赤き宝玉を額に持つ幻の獣の名を――……僕はそっと呟いた。
「カーバンクルの箱……」
 かつてその《箱》に命名された名を――……僕はそっと呟いた。
 そして――駅弁と旅が好きで全国を放浪する、どこかの浮浪者からカネで買った名前を
名乗る、犯罪者で、狡猾で、意地悪で、手先が器用で、頭の回転が良くて、あらゆる知識が
深くて、賢くて、それらを自分で完全に理解でき――だからこそ、だからこそ自分の欲望を
叶えるのが大好きな、とてもとても大好きな――……
 ……――かつて、《D》という企業に勤めていた、川澄奈央人は――
「……とりあえず、話を聞きに行きますか……岩渕さん」
 今度は微笑みながら、そっと呟き――今も《D》で働く岩渕に会いに行くため、ホテルの
部屋を飛び出した。
 川澄の心臓は今も高鳴り続けていた。こんなことは、本当に久しぶりのことだった。

―――――

「……おはようございます」
 大きな受話器を握り締めて言う。すぐ隣のベッドで横たわるルームメイトの女の子が、
ニヤニヤと顔を緩めて伏見宮京子の顔を見ている。
 数秒の沈黙があった。それから……低く眠たそうな男の声が届いた。
『……ああ、京子か。おはよう……もう朝か……そっちは……昼過ぎ、くらいか?』
 男の声。そう。それは岩渕の声だった。
「……アナハイムは午後2時ですよ。あの……そのう……」
 微かに手を震わせて言う。少しだけ緊張し、少しだけ心臓の鼓動が早くなる。岩渕と
電話で話すときはいつもそうだ。
 岩渕は未だ眠気が取れぬのだろう、小さなあくびを繰り返していた。
『……ところで、どうした? んあぁ……帰国は、もうすぐだろ?』
「うん……語学留学っていっても、60日じゃあっという間だね……朝早くに電話して
ごめんなさい……あのね……実は、さ……」
『実は……?』
「……ううん、何でもないの」
 ……会いたい。会って話がしたい。
 喉まで出かかったその言葉を、京子は息を止めて飲み込んだ。
 ……帰りたい。帰ってあなたに会いたい。あなただけじゃない、《D》のみんなにも
会いたいし、父や祖父とも会って話がしたい。
 それらの言葉を、どれほど口にしたかったかわからない。その言葉を口にさえすれば、
今すぐにでも、アメリカから日本へ帰国することができるはずだった。それらの言葉さえ
言ってしまいさえすれば、京子は日本に帰って岩渕と抱き合うことができるはずだった。
けれど……京子はそれらの言葉を口にしなかった。
 もし京子が身勝手な言葉ひとつで帰国したとしても、岩渕は何も言わないだろう。例え
京子がどんなワガママを言ったとしても、責めることはしないだろう。だとしたら……
私はきっとダメになる。一歩も前に進めなくなる。何の役にも立たない、何も守ることの
できない――グズで愚かな女になるだけだ。それだけは、絶対にイヤだ。この短期留学は、
いわばそのための第一歩、意識を変えるために決めたのだ。
『……まぁ、あと数日だ。帰国したらメシでも食いに行こう。名古屋コーチンの専門店が
名駅前店の近くにできてさ……』
「……八丁味噌の味、強くない? 私でも大丈夫?」
『大丈夫だよ。水炊きの鍋とか刺身とか、なるべくヘルシーな料理頼むからさ』
「さ……刺身? ニワトリ、の?」
『結構イケるぞ。鮫島さんなんてさ、それ5人前とか食うしな』
「ふぅん……なら、大丈夫かな……それじゃ、お仕事がんばってね」
『京子も、あんまり無理するなよ』
「わかった……それから、岩渕さん……」
『……どうした?』
「……愛してる……またね……」

 受話器を置きながら、京子はこんなやりとりがずっと続けばいいと思う。これからも
毎日こんな会話が彼とできるのなら……そうしたらもう、私は何も望まない。

―――――

 京子との通話を切り、オーディオのリモコンを手に取る。Aimerの歌声がスピーカー
から流れるのを確認してからソファに腰を下ろし、この休日は何をしようかと考える。
 すると――インターフォンが鳴った。
 朝早いが……誰だ?
「……どちら様ですか?」警戒心を隠さずに言うと、相手は笑った。笑いやがった。
『川澄です。川澄奈央人』
「はあっ!? お前……川澄かっ!?」
 思わず仰天し、立ちながら目が眩む。考えたことはなく、夢で見たこともない来客に、
岩渕の意識は一気に覚醒した。
『お久しぶりですね、先輩。ちょっとお話があるんですケド……エントランス、開けて
もらえませんかね? ちなみに僕ひとりですから』
 少しだけ考え、少しだけ逡巡してから、岩渕はロックを解除した。急いで金目のもの
を隠し、仕事用のアタッシュケースやビジネスバックやフィアットの鍵をクローゼットに
放り込んだ。そんなみっともないマネはしたくなかったが、これから何が起こるのか俺に
もわからないので、しかたない。……別にヤツが嫌い、というわけじゃないんだが……。

 しばらくしてドアフォンが鳴る。のぞき穴から川澄の様子をうかがう。朝日に照らされ
た、ピースサインをする男が立っている……。
 玄関の扉を開ける。
 ……イヤな予感がする。猛烈に、する。
「おはようございます、岩渕さん……」

 いいや、違う……イヤな予感、などではない。これはもう、確信だ。少なくとも……
そう。そうなのだ。
「……俺の休日をどうするつもりだ? ……川澄」
 せっかく与えられた貴重な休日を、確実に捻り潰すであろう目の前の男は――無垢で
幼い子供のように、ニコニコと笑っていた……。

―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 bに続きます。
















  本日のオススメ!!!  LiSAさん。
 
 某アニメの「剣の芸術とネット通信」はあまり興味が湧かなくて見ていなかったが、
LiSA氏の歌が流れているのは知っていた。正味、ビジュアルはあまり良くなく、体形も
日本人そのもの、外見に何か特徴があるわけでもないのだが……――それがかえって
良いのかもしれないな……。
 パワフルな中~低音域の歌、アニソン丸出しの中二歌詞。場所を問わず聞ける汎用性も
魅力的。群れない、媚びない、背伸びもしない、そんな不変的な印象をseesは彼女に
抱きました。う~む……不思議な魅力がある。ただキンキン叫ぶだけのボーカルには
それほど興味もなかったのだが……。


 LiSA氏のアルバム……まぁ一応のせときますね……。
   


 雑記

 お疲れ様です。seesです。
 個人的にかもですが、PCの調子が悪いです。正確には『楽天ブログ』の作成がうまく
いきません😢 この間のOSのアプデからブログのプレビューと保存の機能が著しく低下。
うまく編集ができません……。文章だけならできるかもだけど……。それだと味気ないし
なぁ……悩む……。保留案件やなぁ……改善されているとイイんだけど……。

 今回からは新しい短編がスタートです。以前から告知していた川澄氏と岩渕氏ふたりの
メイン話です。一応は最後までのプロット的なものは作りましたが……。段取りうまくいか
なくなりそうな予感……。8~10話、(もう少し短くてもいいが)予定。京子様登場回は
未定……。細かい設定や情報は次回に出します。特には何もないですがww

 仕事休みなくて断続的な制作過程……誤字脱字訂正は後ほど……まったく、ネット見る
暇もロクになかったぜい。

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓




 好評?のオマケショート 『ひよったsees』

 sees   「……こわいほえー……こわいほえー……いやだほえー……」

       伊勢への出張帰り。深夜2時。伊勢自動車道。疲労大。眠気大。トラック
       多数。渋滞無し。吐き気あり。温度計は23度。つまり……。

 sees   「おいおいおい……何でどいつもこいつも130キロ以上のスピード出しやがる
       んや……殺す気かワイを……」

       ビュンビュンとseesのバネットを抜き去るアメエキのトラック……背後から
       ピタリとテイルするクラウン……轟音響かせる10トン車……揺れるseesの
       肉体……限界を超える眠気……。

 sees   「死ぬ下向き矢印……死ぬ下向き矢印……ヤベぇ……幻覚が下向き矢印

       ブレるハンドル……尽きたブラックブラックガム……普段は飲まない、買い
       もしない黒コーヒー……震える脚……。

 sees   「名古屋のインターまで……残りは何キロ? これは……」

       ふと思う。声に出して、思う。

 sees   「……なぜワシは生きているのだろうか? いったい、何のために生きている
       のだろう? なぜ……ワシはこんなメに遭っているのだろうか? どうして、
       ワシだけがこんなメに……諸行無常……南無……」

       ワケのわからないような呪いの文言を吐き散らし、さらに考え、思う。
       5時間前、社から届いたメールの内容を思い出して、思う。また口に
       出す。

 sees   「『sees主幹 お疲れ様です。先日提出されました業務報告書に一部誤り
        がございましたので、明日昼までに確認と訂正をお願いします』……」

       経理部の、ちょっとぽっちゃりした女の顔を思い出す。そして吐く。心の
       内に秘めていた毒を、思い切り、車内で、わめく。

 sees   「――テメェッ! メスブタァッ! 殺すっ! 殺すっ! 殺すどっ!」
  
       叫ぶ。高速の上で、ワシはカラオケのように、叫ぶ。

 sees   「――アイツだけじゃないっ! どいつも、こいつもっ、ブチ殺してやるどーっ!」

       赤い86がバネットを抜き去るも、seesは叫ぶ、レイのように、叫ぶ。

 sees   「クソォッ! てめえらの血は……何色だーっ(# ゚Д゚)!!!!」

       ………
       ………

       …………眠気、覚めました。でも怖いので、久居インターで高速降りましたw
       皆様も、深夜の高速には注意してね。眠いのなら、叫び散らすと効果的かもね
       (∀`*ゞ)テヘペロ


                                了🐽了






Last updated  2018.06.08 00:11:29
コメント(6) | コメントを書く

全9件 (9件中 1-9件目)

1


Copyright (c) 1997-2020 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.