元・経営コンサルタントの投資日記

2008/05/16(金)02:30

ヤフー VS マイクロソフト ついに登場! カール・アイカーン

敵対的買収防衛(76)

  5月14日、日経新聞夕刊、ブルームバーグ等で、あの「米国著名投資家」(日経新聞の枕詞)カール・アイカーンがヤフーの4%弱の株式取得が判明、明日に迫ったヤフーの定時株主総会の株主提案提出期限に独自の取締役候補案を提出する、プロキシーファイトになる可能性がある、との報道が一斉にされた。マイクロソフトが今月上旬にヤフーへの買収提案を取り下げたことはご存知のとおりです。米国では、マイクロソフトが引き下がるはずがなく、一旦株価を下げてから、最アタックするのだろうといわれていました。ヤフーの株価推移(直近3ヶ月)マイクロソフトが買収提案を引っ込めた5月初旬に株価が急落していますが、株価はマクロソフトが提案前の19ドル以上にとどまっています。これが、市場で「マイクロソフトは帰ってくる」といううわさ裏付けています。アイカーン氏率いるアイカーンパートナーズ(米国でトップクラスのアクティビスト・ファンド)が、10人の取締役メンバーのうち、3人程度を送り込み、会社の売却をヤフー経営陣に迫るものであろうと考えられている。アイカーン側は、このニュースにノーコメントを貫いています。米国では、この記事に騒然となっていまして、CNBCなどでは、マイクロソフトが去ったとき、ルパードマードック(ダウジョーンズを買収した豪州の新聞王)、グーグル、AOLなど提携や買収のうわさがあった企業は結局誰も手を挙げなかった、アイカーンがリスクをとって手を挙げたことは、投資家にとってwelcomeで、ジェリー・ヤン、ヤフーCEOにとって悪夢だ、というのが一般的な見解となっています。アイカーン氏は米国で微妙な評価を得ていまして、肯定派と否定派がいますが、利回りのパフォーマンスのみならず、その言動や行動といったパフォーマンスでも物議を醸し出すことが多く、TCIなど欧州系とはちがって、派手でアメリカンな物言う株主ぶりを発揮しています。彼は2005年に投資銀行ラザードフレールを雇い、あのタイムワーナーをけちょんけちょんに論破して、大幅な自社株買いを成功させました。07年に入っては、11月にオラクルがBEAシステムズを敵対的買収に成功したときの、BEA側の大株主としてオラクルに立ちはだかりました。そして、12月、今度はあのモトローラの携帯電話部門を分社化させるのに成功しました。この時は、約1年前から、モトローラ株を買い集め、やはり役員を送り込むぞ、携帯事業はお荷物なんだから何とかしろ、と散々経営陣に迫りました。モトローラ側は07年度決算、通期で携帯電話部門が大赤字を計上したこともあり、分社化を決断しました。アイカーン側は役員を送り込むことに成功しています。モトローラは08年中に携帯事業の分社化を株主に通告しました。彼はこういった投資ファンドでは珍しく、ハイテク業界で実績を挙げていています。逆に米ハイテク業界がもはやハイテクではなくなってきているのかもしれません。昨年夏、「バリュー株投資セミナー」というものに参加したとき、あのインテルが「バリュー銘柄」といわれていたのにはびっくりしました。 さて、肝心の「あの人」は帰ってくるのでしょうか?これも様々に言われていまして、帰ってくると信じる人は、バルマーCEOの威厳にかかわるという説(敵対的TOBも辞さないといってやらなかったら、名折れとする説)、オラクル的やり方を踏襲しているとする説(一旦引っ込めて、再びオファー、価格を揺さぶる)、ヤフー買収を引っ込めるとそれこそ、追撃すべきライバルのグーグルが益々有利になってしまうから(経営戦略上もっともな理由)、などがあります。(当面)帰ってこないとする説は、敵対的TOBはヤフーのクラウンジュエルである、優秀なエンジニアの離散を招くとする説や、これ以上ヤフーとにらみ合うと、ヤフーがグーグルと提携を結んでしまいかねない、そうすればグーグルが一番得をして、マイクロソフトは得るものがないからだとする説があります。ただし、「ウオールストリートの事情をよく知る人」(誰だ一体)は、マイクロソフトは当面帰ってこないといっているようです。ところで、対岸の火事であるかのような今回の買収劇、米国情報産業勢ぞろいのような感がしますが、日本企業も学ぶべき点はあるのではないでしょうか?ヤフー過去1年間の株価推移なぜ、マイクロソフトが31ドルで提案し、33ドルまで引き上げたのでしょうか?まったくの個人の意見ですが、やはり、10月ごろに32.5ドルをつけており、これを超える金額でないと株主は納得しないだろうし、31ドルは最初からジャブのようだったのかもしれません。また、2月の31ドルという買収提案価格は当初62%74%(記憶ベース)のプレミアムだ、と伝えられていましたが、これもよく見ると、株価は秋ごろの32ドルから急落して19ドル付近まで転げ落ちています。これはヤン氏がCEOに復帰しても大胆なリストラ策を打ち出せず、弱気な発言など市場が期待外れだったことが売り材料だった模様です。したがって、株価下げ局面では、プレミアムの多寡にばかり気をとられていてもいけない、ということでしょうか。一般的には30%程度がプレミアムの相場といわれていますが、傾向を知っておくことは買収にも防衛にも有意義でしょう。これはRioティントがアルキャンをかなりの高値で買収したと市場評価され、買収後株価が急落しました。その価格を元にBHPが買収提案を仕掛けたりしていますので、株価急落局面には要注意であることは間違いありません。「売りドク感」を演出しやすくなります。さらに買収提案を一旦退けてしまうと、その後急降下する株価の維持対策もしっかりしないといけないでしょう。特に今回、37ドルがフェアバリューだといったヤフー側はその株価に近づく具体策を迫られています。日本でもライツプラン等で仮に撃退できたとしても、株価は一旦冷え込むことは十分予想されます(思惑買いが外れる、テーオーシーのような感じ)。まさに、その急落した間隙を縫って、アイカーンのような株主が割って入ったら、その株価急騰策を即実行に移さないと、「一斉口撃」を受けてしまいかねません。もし仮に、ばら色の絵を出して「さえ」おけば大丈夫と思っていればそれは大間違いになりかねません。その「薔薇の絵」の進捗をしつこく突っ込まれる可能性も覚悟しなければなりません。ちなみにリヒテンシュタイン氏はアイカーン氏を師事しているらしいのでご参考までに。さて、ヤフーVSマイクロソフト戦に突如登場したアイカーン氏、引っ掻き回すことは確実でしょう(多分)。***********************************************************まったくの独り言ですが、仮にマイクロソフトとアイカーンに「阿吽の呼吸」があった場合は、どうなるのでしょうか。アイカーンがしつこくヤフーに売却を迫る、そこでマイクロソフトと「友好的に」買収を合意する・・・・。だからマイクロソフトは簡単にWalk Away出来たのか、と。 5月16日未明追記アイカーンは委任状争奪戦に踏み切るべく、取締役候補案をヤフーに提出したそうです。 "It is clear to me that the board of directors of Yahoo has acted irrationally and lost the faith of shareholders and Microsoft". とヤフーの議長宛のレターに記載されているようです。10人全員の役員を取り替えるようです。アイカーンさんの見立てでは、34-45ドルだと「賛成してもいい」らしいです。けどM&Aって1対1の交渉になると圧倒的に買い手有利となるので、マイクロソフトもじっくりいく可能性もあるかもしれません(私論)。元々話題性の多いこの案件、益々ハリウッド化してきました。 

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