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マンハッタン狩猟蟹の逃げ場

2007年07月06日
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カテゴリ:2007年07月読書
[1] 読書日記


  高橋源一郎に、

   <ぼくは、町田康の小説デビュー作となった『くっすん大黒』を読んで、
    強烈なショックを受けて以来、この、規格外れの怪物の書く作品を、
    複雑な思いで読んでいた。
    「複雑な思い」をした理由は簡単だ。
    「こんな小説をぼくも書きたかった!」と思ったからだ。
    「こんな小説を、ぼくも、どこかで思いついていた」ような気がしたからだ。
    「でも、こんな小説、絶対に書けない!」と思って泣きたくなったからだ。
    しかし、同時に「まだまだだ」と思っていた(思おうとしていた、が正解か)。
    「ガンガン書いているだけじゃないか、確かに勢いはすごいが、
    深い考えがあって書いているかどうかわからないじゃないか」
    とも思った(思おうとした、だな)。
    その淡い期待(?)が裏切られる日が来た。
    ある雑誌で、この『パンク侍、斬られて候』の連載が始まり、それを読んだのだ


  と巻末の解説で誉めちぎ倒されている、

   町田康 「パンク侍、斬られて候」(角川文庫)

   

  を読了。
  読み終わってすぐにもう一度読み、これまた読了。
  すぐにもう一度読む予定。

  時代小説?
  現代小説。

  何が? 何処が? という域を超えて、全てが、とにかく面白い。

   <「で? その掛十之進という者はいかなる素姓の者じゃ」
    「は。素姓はしかと知れませぬが相当の人物と見ました」
    「うむ。
     相当の人物。
     大したものだ。
     最近ではもうそこいら中に相当の人物が溢れている。
     みんな一廉のものだ。
     家中は相当の人物で溢れておる。
     相当の人物しかいないといっても過言ではない。
     しかしこれは実は困ったものでなあ。
     相当の人物は相当偉いから相当の仕事を与えねばならぬ。
     ところが家中の御役には相当の仕事というのはない。
     どれもこれも取るに足らぬくだらぬ仕事ばかりだ。
     というかそういうくだらない仕事が集まって実に大変な仕事になっているのだが
     家中の相当な人物どもはこれに気がつかない。
     例えばついこないだも僕は部下の勘定方の若いものに書類の作成を依頼した。
     ところが彼は仏頂面をして、
     僕はこんな仕事をするために家督を継いだのではありません。
     かなんか言ってふくれるのじゃ。
     やむなく儂が自分で書類を届けてきた。
     或いは藩財政逼迫の折から儂は民間に見習えということで
     城下の商家に若侍を研修に出す制度を拵えたがこれも、
     僕には武士のプライドがありますからそんなことはできません、
     などと吐かしおって、
     しかもその顔つきを見ていると、
     そういうことを出頭家老に向かって言うヒロイックなボク、
     に酔っているような様子で実にもう大した人物だ。
     或いはとにかく偉い奴もいる。
     といって実際に偉い訳ではない。
     実はアホなのだ。
     しかし組織というのは不可解なもので
     そういうアホが責任ある地位についてしまうこともままある。
     ところがアホは組織の間違いによってではなく
     自分が偉いから責任ある地位につけたのだと思いこむ。
     これは様々の混乱を招く。
     アホはアホなので儂の指示を理解できない。
     理解できないなら聞きにくればよいのだが、
     アホは自分が賢いと思っているから聞きには来ない。
     で、どうするかというと自分勝手な間違った解釈で仕事を進める。
     途中でそれを知った儂はそんなことを進めるととんでもないことになるから
     中止するように指示するのだけれども
     アホは自分が偉いと思っているから、
     この偉い私のプランを中止することなどということは出来ない。
     この偉いオレがせっかく考えたというのに
     出頭家老ごときがなにをいっても無駄だ、
     などと「偉いオレ」に固執するあまり間違ったプランをそのまま進行してしまう。
     もちろん職責上そんなことを捨て置く訳にはいかず、
     当人を呼んで厳命するのだけれども、
     そもそもアホなのをもっぱら自分の幻想によって無理矢理偉いことにしているから
     現実に対する不随意な防衛反応のようなものが異様に発達していて、
     自らに都合の悪い議論になると突如として耳が聞こえなくなって
     反応をしなくなる。
     おそ松くんに出ている旗坊のような顔をして黙っているだけになってしまう。
     或いはそこまでいかなくともこっちが何かいう度に横を向いて、
     はっ、くはっ、などと嘲笑したり、
     ことさら、この人はなにを気違いじみたことを言っているのだ。
     シュール過ぎて理解できない、
     という具合に目をまん丸に見開いて口をぽかんと開けてみせる。
     しかしそれとて自説を曲げたくないが相手を論破できないので
     やむなくそうして見せた田舎芝居で、
     心底驚いているわけではなく、
     アホにそういうクサイ芝居をやられるだけで疲れるのだけれども、
     とにかくいずれにしても話にならぬからしょうがない、
     その部署のまだ話の分かる若い者に直接指示を出して
     事態の収拾を図ろうとすると、
     アホはこのオレの顔を潰したと遺恨に思って様々の陰湿な工作をして、
     またこういう奸智だけはどういう訳か長けていて、
     プロジェクトが善き方向に進むのを妨げる。
     ならいっそのこと、
     そんなアホは降格して別のものを責任者に据えればよいようなものだが、
     組織というものは難しいものでなかなかそういう訳にもいかず、
     ほとほと疲れ果てて庭を眺めながら茶を飲んでおったところへその方が参って
     また難しい問題を持ち込んで、
     掛十之進という素性の知れぬものを召抱えよと言ってきたという訳で
     そのうえにこうして四百字詰め原稿用紙四枚分も喋ってしまったので
     儂はほとほと疲れてしまったのだが、
     まあ腹ふり党なるものが御領内に入り込んでおるというのは由々しき事態である。
     まあ疲れてはいるがしょうがない儂がその掛なる者に直々に会うてみよう」






最終更新日  2007年07月06日 22時53分42秒
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