小峰元 「パスカルの鼻は長かった」
[1] 読書日記 「長門有希の100冊」に入っている未読のミステリでも読んでみるかと、 小峰元 「パスカルの鼻は長かった」(講談社文庫) を読了。 青春推理小説(というジャンルらしい)。 ピカレスク小説。 主人公・小峰元の高校三年の一年間を、片思いの同級生のブルーフィルム騙し撮り事件を 軸に、友情、恋愛、受験、殺人、スター誕生などを盛り込んでまとめた作品。 小見出しも、<四月は立志どき>に始まり、<三月は大願成就>で終わっている。 全く余談ではあるが、「○月は~」というと、どうしても霧舎巧の私立霧舎学園ミステリ 白書シリーズを思い出してしまう。来月久々に、新刊が出るとか……。 閑話休題、同作者の作品を読むのは、「アルキメデスは手を汚さない」「ピタゴラス豆畑 に死す」「パンドラの恋愛能力共通一次テスト」以来で、その間10年近い。 「長門有希の100冊」とか、そういう切っ掛けでもないかぎり、永遠に読むことがなかっ たと思われる。 内容としては、 レストランで、お互いがおごってくれると勘違いして仲間で散々飲み食いした後に、誰も 金の持ち合わせが無いことに気付く。さてどうする? といった部分の解決策や、ブルーフィルム奪還時の窮地の脱出方法は、ミステリとしての 面白みがあったが、殺人事件うんぬんについては、かなり薄口。 どちらかというと、物語やトリックではなく、語り口を楽しむべき小説。 その言い回しや、語り口は、「青春」、「ピカレスク小説」にピタリとあっている。 「高3コース」での連載だったらしく、要所要所に、 <Now,let's come to the point. わからんやつは、国公立受験は諦めるんだな。 マメタンじゃ、全部が中学必修語だぜ> <とにかく見事な、おシリの行列である。 どれもこれも、貧弱なおれのに比べると、 面積にして二倍、体積にして四倍はあるね。 いずれがアヤメ、カキツバタ、じゃなくて、 いずれがスイカか、トウガンか、という絶景だ。 おれはマーク・シート方式の国立大学共通テストを連想したね。 「つぎの(イ)から(ヘ)までのシリのうち、志津子のシリに印をつけよ> <家へ着くやいなや、電話が鳴った。 受話器を取りながら、~するやいなや~した、はas soon asなんだっけ、と考えた> <十二月八日午前十時、絹を裂くような声で、おれは瞑想を破られた。 読者諸君も知っているとおり、十二月八日といえば、 われわれ高三生にとって重大な日である。 “戦争にイクヨーイ(一九四一)”の太平洋戦争勃発の日だなどと、 とぼけたこといっちゃ困るぜ> 他にも、数学、化学、物理に古典などのネタが詰め込まれているのも、特徴的で面白い。