剣持鷹士 「あきらめのよい相談者」
[1] 読書日記 <「だからそういう相談に来る人の場合、問題はその悪口自体じゃないったい。 それはきっかけに過ぎんと。 その前から、当事者同士に何らかの利害の対立、感情の行き違いなんかがあって、 もやもやしていたところに、相手が自分について何らかのコメントをしたと聞く。 普段ならば気にならんのやけど、元々わだかまりがあるもんやから、 それを悪意に解釈して腹を立て、弁護士に相談までする。 そういう構図たい」 「主観的偏見が、客観的正常を異常に歪めてしまうってこと?」 広瀬が小難しくまとめる。 「そうそう。実を言うと、世の中の紛争の大部分はこれなんよね。 離婚だってそうなんで、今までは痴話げんかで終わっとったのに、 ある日突然離婚にまで発展する。 その時のけんかが特別深刻だったわけじゃなくて、 それ以前の溜まりに溜まった感情が、 そのけんかがきっかけに顕在化するせいなんよ。 だから、人の離婚の原因を聞いて、 『その程度のことで』とか 『そういうけんかだったらうちでも毎日してますよ』なんて言うのは、 全くの的はずれたい。 『その程度のこと』をもはや『その程度のこと』と受け止められないくらい 感情が激化していると考えないかんったいね」> 「行列のできる法律相談所」なんていう番組に関心が寄せられる今の時代とこそ、相性 が良いのではなかろうか、と思わせる、 剣持鷹士 「あきらめのよい相談者」(創元推理文庫) を読了(単行本は95年に出版されている)。 ミステリ。 アームチェア・ディテクティブ(参照:「安楽椅子探偵 - Wikipedia」)。 「日常の謎」系(参照:「日常の謎 - Wikipedia」)。 法律事務所でイソ弁を勤める主人公の「僕」の語る奇妙な体験談の謎を、「僕」の親友 であり、司法浪人の女王光輝(めのうみつてる。呼び名は「コーキ」)が論理的に解決し てみせる作品集。 三つの短編と中篇一作を収録。 収録作品 「あきらめのよい相談者」:第1回創元推理短編賞を受賞作品。 「規則正しいエレベーター」:いつも規則正しく二階にとまっているエレベーターの謎。 「詳し過ぎる陳述書」:離婚訴訟における相手の陳述書は、嘘か否か。 「あきらめの悪い相談者」:かっての依頼人が殺人を犯したのをニュースで知った僕。 でも、寝ぼけていたので被害者がわからない。 そこで僕の話を元に、被害者探しをすることに。 本編もさることながら、巽昌章の解説が良い。 個人的に、探偵役の女王光輝の呼び名は「コーキ」よりも、この名前だったら絶対に 「メーテル」でしょう、とか思ったり。 <剣持風梅肉スパゲッティ>のつくりかた 3人前(P.222より) 1) にんにくを4,5片みじん切りにして、たっぷりのオリーブオイルで炒める。 2) 腹をさいて種を除いた鷹の爪も加えるが、これは香りと辛みを少しつける程度で すぐに引き上げる。 3) 炒めたにんにくはオリーブオイルごと耐熱ガラスのボールに空ける。 4) 梅干を10粒ばかり種を取り、ラップに包んで包丁の背で叩き、料理酒で延ばす。 5) 大葉を洗い、キッチンペーパーで水気をふき取り千切りにする。 6) スパゲッティをゆで、湯を切って先程のボールに入れオリーブオイルを絡める。 7) それを皿に分け、中央に料理酒で延ばした梅肉を載せる。 8) 大葉、かつお節、焼いた海苔を順にまわりに散らして完成。 参照作品 パット・マガー 「被害者を捜せ!」(創元推理文庫) パット・マガー 「七人のおば」(創元推理文庫) 関連作品 作者の剣持鷹士は「競作 五十円玉二十枚の謎」(創元推理文庫)の公募企画で 「最優秀賞」を受賞。