穂史賀雅也 「暗闇にヤギを探して」
[1] 読書日記 <それは、僕の家だった。 猫について歩いていたら、いつのまにか、家についていたのだ。 はっとして、僕は振り返った。 猫はにゃー、と一声鳴くと、 くるりと方向転換してゆっくりとした足取りで去っていった。 僕が猫のことを知っていたように、猫も僕のことを知っていたのかもしれない。 僕が自分の後ろについてきているのは、道に迷ったのだと思い、 僕を家まで案内してくれたのだ。 僕はそう思った> 穂史賀雅也 「暗闇にヤギを探して」(MF文庫J) を読了。 レーベル的にはライトノベル。 ジャンルとしては、児童文学。 主人公の草加合人は高校一年生。 ある朝、学校の机の中に残しておいた数学のノートの記入したはずのページが無くなり、 代わりに「ごめんなさい、おいしかったです」と書かれた便箋が残されているのに気づく。 <「『ごめんなさい、おいしかったです』、か……」 口に出すと、それはとても不思議な言葉だった。 僕はこの手紙を書いたヤギの気持ちを想像してみた。 「ごめんなさい」というからには、 ヤギは僕のノートを食べるつもりじゃなかったんだろう。 なんらかの不可抗力によって、僕のノートを食べてしまったのだ。 だからヤギは「ごめんなさい」という言葉を書いた。 そして僕のノートはヤギにとってとてもおいしかったのだろう。 だから、「おいしかったです」とお礼を書いたのだ。 こう考えると、ヤギはとても誠実で正直な性格のように思えた。 もともと僕はヤギにノートを食べられてしまったことに対して怒っているわけでは なかったのだけれど、この手紙を書いたヤギの心境を思いやるに至って、 ヤギに対して好意のようなものを抱きはじめていた> 少年の初恋と成長の物語。 「ボーイ・ミーツ・ガール」イコール「ボーイ・ミーツ・ワールド」。 ただラストの2ページはテキストの解釈次第では、仮に児童文学としたときの対象には 年齢的なハードルが高すぎるか。自分としては「そうとしか読めない」になるのだけれど も、「そうとは読まない」人も多数いるのだろう。これぞ小説の愉悦。 センスの良い作品。