ほしおさなえ 「ヘビイチゴ・サナトリウム」
[1] 読書日記 個人的には、今年の夏もよく動き回った方という印象があるので、その夏休みの最後を 締めくくるべく、明日から旅行に出かけることにした。 そのこととは何の脈絡もないのだけれども、 ほしおさなえ 「ヘビイチゴ・サナトリウム」(東京創元社・ミステリフロンティア) を読了。 (文庫も出ているようなので、上の写真は文庫版のものを採用) <「辻褄っていうのは、まちがってても合うんだよ」 「え?」 「内部で矛盾がないことイコール真実ってわけじゃない。 そんなのあたりまえのことだろう? たいていのことは、 まちがった前提からでも辻褄が合うように話を組み立てられるんだ。 たとえば宇宙は三角形だとかさ。 人間はずっとそうやって勘違いの歴史を歩んできたんじゃないか。 いい加減に学んでほしいよ、まったく」> 【目次】(文庫版ではなく、私が読んだ単行本版の方の目次) プロローグ 第一章 幽霊 第二章 鍵のかかった部屋 第三章 アルファベット・ビスケット 第四章 遺書 エピローグ 探偵小説と「自分と他人の境界のくずれ」 / 笠井潔 【ジャンル】 学園ミステリ。 巻末の笠井潔いわく、 <物語の前半、 サスペンス小説的な雰囲気で二つの謎を追求する『ヘビイチゴ・サナトリウム』は、 後半で一転、 密室殺人を焦点とした本格ミステリに変貌する> <二〇世紀小説としての探偵小説の精髄を、作者は的確に捉えている> とのこと。 【簡単な内容説明】 中高一貫の女子校で起きた連続墜死事件。 高三美術部員の二件の墜死から、間を置かずに起こった男性国語教師の墜死。 はたして、彼らの死の真相とは? 男性教師の書いた新人文学賞受賞原稿に、自殺した女生徒の登場する官能小説の原稿、 そしてP・オースターの小説『鍵のかかった部屋』に、ネット・サイト『ヘビイチゴ・ サナトリウム』……と、謎を深めるべく様々なテキストが、物語内を錯綜する。 【感想・印象】 折原一の作品をはじめ、様々なテキストが作中内を入り乱れる作品が好きなので、 物語であり、構成は結構好き。 探偵役として動く、墜死した女生徒の後輩と、同じく墜死した国語教師の同僚が、 被害者に対する覗き見趣味的好奇心だけで事件を調査する様子は、結構うっとうしい。 逆に言えば、調査に乗り出す動機があまりに軽すぎて、読んでいる側としては感情移 入もできず、彼らの新たな発見も、推理も、それほど感動に結びつかない。 実際はそんなに数はないのだろうが、新本格以降のミステリにおいて、女子校という 舞台は、雪の山荘や嵐の孤島などのクローズド・サークルに次いで、事件が起こっている イメージがある。 東野圭吾「放課後」、綾辻行人「緋色の囁き」、乾くるみ「Jの神話」、京極夏彦「絡 新婦の理」、西澤保彦「猟死の果て」etc、etc。 【作中登場書籍】 ポール・オースター「幽霊たち」 ポール・オースター「鍵のかかった部屋」 ポール・オースター「シティ・オブ・グラス」