カテゴリ:瀬尾まいこ
お互いに優しい気持ちを持ってるんだけど、あることで家族崩壊してしまい、皆自分のやりたいことをやって自由に暮らしている風変わりな家族の話。健気に家族を支える主人公佐和子の中学から高校に掛けての成長物語。そして、家族はあることを境にまたひとつに戻っていく。 この物語のキーワードは「食卓」だ。 外部から見るととても上手くいってそうな家族なんだけど、人にはわからない悩みをそれぞれが抱えている。 中学高校とすべてにおいて優等生だった兄が、大学進学よりも農業の道を選ぶ。兄の直ちゃんの姿がとても痛々しかった。父親の弘もまじめで慎み深い中学教師だったが、ある日糸が切れてしまった。自殺を図る。そんな夫をみて、自分が悪かったのではないかと責任を感じ悩み苦しむ母。家族が皆まじめで頑張りすぎているから無理が出ている。もっとのんびりでいいじゃないか。肩の荷をおろしてもっと楽に暮らしてもいいんじゃない? 救世主の出現で、家族は変化していく。真面目すぎる家族に現れた謎キャラ、小林よしこ。彼女のたくましさ・豪快な生き方が兄や佐和子に影響を与える。そしてまっすぐで飾らない大浦君の存在。彼はずっと佐和子を陰で支えてくれる。佐和子とともに伸びようとする馬鹿みたいに単純だけど魅力的な男の子だ。 最後の一章は意外な展開で衝撃だった。あまりの変化に気持ちが付いていかず辛くなっってしまったけど。この家族の窮地を支えるのが、(もちろん家族同士も支えあってるのだけど)大浦君であったり、よしこだったり。家族という時には小さすぎて息の詰まりそうになる単位のガス抜き役ともいえる、この存在が物語の中で効いていた。 今、どこよりも安らげる場所であるはずの家庭で、信じられないような事件が多発してる。妻が夫を兄が妹を、子供が親・兄弟の命を奪ってしまうという背筋がぞっとするような事件が続いている。それも端から見ても特に大きな問題を抱えていそうに見えないごく普通の家庭でだ。 この物語には家族がばらばらになってからも食事風景がたくさん出てくる。食事をしながらいろいろな話をし、家族が心と心を交わす和やかな風景。作る人が食べてくれる人を想いながら愛情込めて作った料理。家族が顔を見合わせながら一緒に食事をする時間は、何よりも大切な心の癒しの時間だと思う。食事は体の栄養を摂るだけでなく、同時に心のビタミンも補給するのだ。 今、個食の時代と言われているそうだ。家族の生活時間が違っていたり、仕事や進学塾の関係でバラバラで食事するらしい。一人の食事はなんとも味気ない。ただ食べて空腹を満たすだけの行為は虚しいと思う。 こんな時代だからこそ、家庭が心の最後のより所であることを願いたいし、家族皆で囲むこんな温かい食卓を大事にしたいと思う。何があっても心で繋がっている、支えあう存在がいるってことは本当に素敵なことだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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