カテゴリ:絲山秋子
「女に対してすることは、三つしかないのよ。」そうクレアはある時いった。 「女を愛するか、女のために苦しむか、女を文学に変えてしまうか、それだけなのよ。」 ~ ロレンス・ダレル 「ジュスティーヌ」 「袋小路の男」 「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」の三篇収録されている。 まず、「袋小路の男」。 袋小路に住む、つかみどころのない男 小田切孝に、高校時代に憧れ惚れてしまった主人公日向子の一人称、恋物語。 「あなたは、・・・」「あなたは、・・・」と繰り返し出て来るフレーズの魔力に、やられてしまう。 自分も一緒に一途な片思いをしているような、また過去の似たような経験を蘇らせる感じになる。 日向子からすると、小田切は確信犯的に思わせぶりの態度をとりつづけるが、最後の一線は越えさせてくれないもどかしさがある。 でも、男を袋小路には追い詰めることはしない、という女の強さ、気高さ、潔さ、そして、切なさ。 続編の「小田切孝の言い分」では、男の側からの視点が、多少の温度差の違いを持って描かれている。男女の立場の違い、考え方・発想の相違が、両方読むことによって、浮き上がってくる。 あぶりだし、みたいに。 なんだか、読んでいてまどろっこしいような、逆にそれが、妙に心地良いようなへんてこな感じ。ふたりの姿に何を見出すかは、銘々に委ねられているように感じる。川端康成賞受賞作。 女性と男性との物事の見方は、確かに微妙に違うんだろうな。 同じであっても、面白くもなんともないし。。。違うことに、互いに魅力を感じつつ、しかし、時にはそれが溝になったりもする。 なんとも、不思議な関係。 最後の数行で、暖かく心地よい余韻を残しながら、エンディングを迎える。 「アーリオ オーリオ」は、中学生の美由と叔父の哲の、手紙のやり取りを描いた爽やかな小説。 携帯のメールでもなく、あえて手紙。 書いた日と受け取る日に時間の差が発生する手紙という手段。 それを星の光に見立てて、自分の想いを綴る、無垢な少女の姿に、心が澄まされる。 昼下がり涼しい縁側近くの畳の上で昼寝をするみたいに穏やかで気持ちよく、爽やかなお話でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 15, 2007 02:53:12 PM
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