ビール片手に

2007/07/16(月)19:51

死にぞこないの青 乙一

乙一(1)

乙一の初期の作品。 学級担任の羽田先生に、些細なことで目をつけられたことをきっかけに、クラスのスケープゴードにされてしまい、皆から徐々に孤立していくマサオ。学級内で起こる悪い出来事は、全て都合よくマサオのせいにされ、先生も友達も誰も助けてくれない四面楚歌状態に落とし入れられる。 窮地に立たされ、やり場のない憤りを感じる彼の前に、ある日、肌の色が青く不気味で奇妙な姿の少年が現れた。その少年「アオ」は、マサオに復讐するように、ほのめかすようになる。 主人公のマサオは、小学校5年生。 小学校が舞台である。教育の現場で、実際にあってはならないような悲惨なイジメの様子が、リアルな子供の心理描写を添えて描かれるだけに、読んでいて胸がしめつけられるように苦しくなった。 正義であるはずの先生が、イジメを先導し、それに何の違和感も持たずに追随するクラスメート達。子供にとって、学校という場所は100%全てであって、他に逃げ場所がないだけに、ここで疎外されるということは、残酷すぎる話で身の置き所がない。健気にも、母親に心配を掛けたくないという気持ちから、極限までイジメの事実を隠し、耐えようとするマサオ。 イジメを受けるマサオの心理状態により添いながらも、一歩離れたところで、大人として保護者の立場からも、なんとかならないのか?というヤキモキするような憤りを感じつつ、事態を見つめる自分がいた。 自己保身や世間からの評価の為に、人を陥れることも厭わない、病んだ心を持つ大人は確かに存在する。 子供の世界は、無邪気だけれど、同時に残酷な部分も併せ持つ。それに模範であるはずの学級担任が、悪意を持って間違ったベクトルを仕向けると、いとも簡単に手なずいてしまう怖さ。子供を洗脳し、都合よく操る恐ろしさ。 人間の心理の闇の深さに、震え上がる。普段は姿を潜めていても、人間誰にも、こんな負の心理が、密かに存在しているのかもしれない。 追い詰められて臨界状態に達するマサオの心理描写は見事で、グイグイと引き込まれる。読むのは辛くてしんどいのだけど、次の展開が気になって辞められなくなる。抑圧された負の感情が、活火山の噴火のごとく一気に噴出す瞬間は息を飲んだ。「アオ」はマサオの中で育った幻覚だったのか? 最後はどんな落ちで締めくくるのか、途中で急に気になりだす。ラストはちょっと救いがあるような感じで、ホッと胸をなでおろした。読後感はずっしりと重く、胸に鉛を抱いたよう。

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