ビール片手に

2008/02/15(金)20:51

いつかパラソルの下で 森絵都

森 絵都(2)

父の1周忌を目前に控えたある日、家庭では異様に厳格だった父の不貞を知り、狼狽する三きょうだいとその母。 亡くなった父の生い立ちや秘められた心の内・本来の姿を見つける為に、出身地である佐渡島への旅に出る。 父親のしつけの呪縛をいまだに引きずり、それぞれの胸に葛藤を持つ主人公と兄・妹。 性格や生活信条、父親との対峙の仕方等、三きょうだいの個性の書き分けが巧妙で、面白くぐいぐい惹きこまれた。 表現力豊かで、会話もユーモラス。何より、文章がさばけている感じ。 家庭では極めて厳格な父の浮気発覚で、混乱する姉妹というstoryは、なんとなく向田邦子の「阿修羅のごとく」を連想させた。 この作品は、今風の恋愛事情も絡めながら、男性・女性側両方の心理描写が巧み(恋人・達郎のキャラも魅力的)で、抜け目なく読ませてくれる。向田作品は三姉妹だったけど、本作は「兄」が一人混じっているので、息子からの父親の行動&心理フォローの部分も補えており、また、不倫相手の女性の手紙が添えられたりして、説得力がある。 佐渡島に渡ってからの物語が、一気に盛り上がり面白かった。 「教育は、三代前から。」とよく言われる。人には、両親、祖父母の代にさかのぼって、調べないと理解できない隠された心理があるという。亡き父の過去を、今更蒸し返すのは、怖いような、でも、覗いてみたいような。あまりにも近すぎて、見えなかった肉親の本当の気持ち。 父に囚われている自分から、自分の弱点までも父のせいにしてるのではないかという気付きに成長する過程。「いつかパラソルの下で」という果たせない夢に、主人公の亡き父への愛執がこもり、胸の奥がキュンとなった。 主人公が、佐渡島の旅で見つけたものが清々しく、心地よい余韻を残してくれた。

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