腑抜けども、悲しみの愛を見せろ 本谷有希子
この作品は、既に映画化されているが、未だ観ていない。図書館の棚の隅にぽつんとあり何故か目に付いたので、興味本位で読んでみた。初めて読む作家(劇団主宰者で戯曲作家らしい)なので、先入観無しに読み始めた。まず、驚いたのは、異様に濃すぎる情景描写と話の展開が見えない、もたつきがちな出だし。書き慣れた小説家なら、無駄な表現を省き、最も簡潔で効果的な言い回しで、読者の想像力を湧き立たせ、一気にstoryに引っ張り込むが、そんな事は一切念頭に置いてないような文章だった。しばらく読んで、これは戯曲風というか、劇作家風の書き方なんだと気がついた。役者の表情演技、舞台美術や小道具等、すべて頭に浮かぶイメージを文字にしてしまってる感じと言うか。少々肩凝りながらも我慢して読み進めると、だんだんそのペースに慣れてくる。50ページ程読んで、ようやく面白くなってきた。自分の才能を信じて疑わない自意識過剰な女優志望の姉と、その姉を冷酷に見つめる屈折した性格の妹、家族を守りきることしか眼中になく不器用で世間知らずな兄、生まれつき幸薄く不思議な思考回路を持つ兄嫁、片田舎に住む家族の崩壊する様を描いている。皆、キャラが濃厚で息苦しい。登場人物の行動や視野が狭すぎて、閉塞感がある。小説では、ブラックユーモアで乗り切る作風でもなかった。映画ではこの辺りを、どんな風に処理しているのだろう?作中、過去に受けた屈辱を晴らす為に、姉が妹に復習する場面がある。お風呂に熱湯を注ぎ、妹が茹りながらも必死で耐えるシーン。取りようによっては戦慄の場面なのだが、違和感というか不思議に感じた。「手元にある風呂の栓を、妹が自分で抜いたらいいのに?」と思ってしまったのは、私だけだろうか?個性的な作りで、全体的には面白く読んだけど、登場人物には少々感情移入しにくかった。情景の切り取り方や表現法では、感心するところも多い。夜中の台所で、テーブルの下に身を隠す妹の目線で、姉の足と兄の足が交錯するシーン等、視覚的に捉え、読者が見えない部分の想像を掻き立てられて、面白く読めた。若い作家なので、今後の作品にも期待したい。この作品は小説として読むより、きっと芝居や映画で観た方がより楽しめるのだろう。暇があったら、DVDレンタルで観てみよう。