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ビール片手に

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安部公房

August 24, 2007
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カテゴリ:安部公房


安部公房の最後の小説「カンガルーノート」を読んだ。

世界的にも著名で、数々の文学・芸術活動で活躍した安部公房も、この作品を描く頃は高齢に達し、健康を崩しがちだったようだ。入退院を繰り返し、著者も病院のベッドで「我が身に迫り来る死」について否が応でも、考えさせられ、その微妙な心理状態を、この作品に反映したのではないかと思われる内容だった。

豊かな想像力、人間への鋭い洞察力を小説の土台にしっかりと構えながらも、人生の最後に必ず迎える死の世界への旅立ちを、幻想的に、しかもユーモラスに描いている。

ある日突然、貝割れ大根が足のすねに生え始め主人公の男は、その治療にかかった病院のベッド上で様々な幻覚を観るが、不本意ながらベッドごと(それを乗り物にして)行く宛てのない旅に出さされる。
本人は全く行く先が分らないというものの、それは暗黙に死への旅立ちを意味するようにも感じた。そして、その主人公に、安部公房は自身の姿を投影したように思える。

賽の河原で出会う老人達、子鬼達の合唱、ミス採血娘のドラキュラの娘や亡くなった母を彷彿とさせる老女との出会い等、旅の途中で出会う数々の摩訶不思議な体験は、死を身近に意識したものでないと見ない幻想・幻聴だと思う。

私は、まだ四十代で自分の人生の終結を身近に感じることは、さすがにまだ無いのだけれど、この小説を、もっと高齢になって読み返した時に、また別の見解が出来そうな気がした。

「有袋類と言うのは、結局のところ、真獣類の不器用な模倣なんじゃないでしょうか。その不器用さが、一種の愛嬌になって。身につまされるというか.....」
カンガルーという有袋類の動物と真獣類の比較描写には、著者自身が感じる「生へのもどかしさ・歯がゆさ」が顕著に現れる。自分の人生を振り返り、死を間近に感じるからこそ鮮やかに芽生える生への執着・もっと器用に生きられたのではないかという遣り残し・無念に似た感情を生じたのであろう。

そして最終項で、冷静に現実を捉える自分と、反対にそれに怯える自分を客観的に描きだし、読者は息を飲むような見事な仕掛けに驚愕する。この文章を練りだした安部公房氏の当時の心境を思うと、胸が一杯になる。死を身近に感じた彼自身の姿が、飾ることなくそのまま曝け出されて、圧倒される。常に冷静なスタンスで書いてきた著者の感情が、ここで一気に露呈し、昇華していくような意味深いエンディングである。

登場人物もstoryも、確かに夢のように幻想的な世界である。
しかし、もしかしたら誰もが「病やそれに続く避けられない死」とはじめて対峙した時、この小説のような幻覚・幻聴を体験しながら、黄泉の国へ旅立つのではないかと感じた。

全てを理解するのは難しいけれど、死に向かう人の心理を漠然と掴み取るような不思議な感覚が、後に残った。

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Last updated  October 3, 2007 08:04:06 AM
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August 5, 2007
カテゴリ:安部公房


安部公房の「砂の女」読了。
砂の世界に閉じ込められてしまった、ある男の不条理な生涯を、描いた作品。

~教師である主人公の男が、日常生活の一時の逃避や、些細な功名心の為に出掛けた昆虫採集の旅路中、砂丘地帯のとある集落に迷い込んでしまう。そこで、一夜の宿として彼に宛がわれた家は、奇妙にも砂の穴の底に建てられた家であった。そこに住む女は、家を守るために、夜毎降り積もる砂を取り除く作業を行っている。男は、周囲の状況から、自分がこの砂の世界に閉じ込められ逃げられない状況に陥れられたことに気付き、愕然とする。~

世界各国で翻訳され、いまだに人気の高い作品というのが、よく分かった。
資本主義国だけでなく、共産主義社会での人気が、特に高いというのも頷ける。

囚われの身となって、村社会の為に自己の利益や夢などかなぐり捨て、がむしゃらに働くことのみ強要される男の世界は、共産主義社会における底辺の労働者の姿を彷彿させる。
与えられた仕事(ここでは、砂の掻き出し作業を意味する)をこなす代わりに、最低限の生活の保障は与えられる。しかし、個人の欲望や夢・自由はないに等しい生活。村社会の連帯意識は強固で、夜逃げも許されない世界だ。
そんな中で、男は、逃げ出すためにあらゆる工夫と努力をする。
砂の家に住む女とのやりとりや、砂にまみれた厳しい暮らしぶり、村の人々との関係は、とても奇妙。泥沼にはまりこんで、もがけばもがく程、抜け出せないような窮屈な世界である。

繊細で硬質な文章の中に、ちりばめられた主人公の回想・妄想・挿話が、豊かで独創的な想像力でもって描かれる。パンチが効いていて興味深い。自分の人生をどう捉え、これから生きていくべきか、読者なりに嫌でも考えさせられる内容になっている。
主人公が逃げ出したいと思っている砂の世界も、彼が逃亡し帰りたいと願う世界もたいして違いがないことに、徐々に気付かされる。

常に流動し定まることを知らない砂の性質・描写は、論理的かつ視覚的で、あまりに見事で圧倒された。読者は、砂で口の中までジャリジャリするような違和感を感じながら、閉じ込められた男の不条理と恐怖を体験させられる。

最後の2・3ページで男の選んだ道が、読者に分かるようになっている。彼の選択が、また一層興味深い。

罰がなければ、逃げるたのしみもない~
~鳥のように飛び立ちたいと願う自由もあれば、巣ごもって、誰からも邪魔されまいと思う自由もある。


初めて読んだ安部公房作品だったが、読みやすく面白くて一気に読んでしまった。他の作品ももっと読んでみたいと思う。

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Last updated  August 5, 2007 03:16:28 PM
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