お眠り私の魂 朔立木
一般人が知りえない裁判官の実態を暴く、架空の小説。法律家と二足の草鞋を履く、覆面作家である著者の文壇デビュー作。例えばここに、ある好色な裁判官が、いたとしよう。彼が、職務中にこっそり隠れて書いている複数の交際女性宛て書簡を、暴露することで、この小説は、展開する。読者は、彼のプライバシーてんこ盛りの手紙を読むことで、裁判官という特殊な職務に就く人種の傾向と素性を、徐々につかんでいく形である。職務上、厳しく行動制限されている裁判官達の、閉鎖的で異様な生活実態が、浮き彫りになる。出世の為に、上か横しか見ない「ヒラメ裁判官」と言われる、彼らの頭の中身とは?最高裁事務当局の好む裁判をしないと、すぐさま左遷、出世コースからはじかれ、コースから外れた人間への、あからさまな給与差別や、根深いイジメが行われる世界。赴任先の裁判官官舎では、夫人同士が、夫の昇進や役職により格付けされる事情。人を裁くという特殊な職務の性質上、ストレスを抱え、心を病む裁判官が多い実態等。恐らく、脚色の為に、デフォルメした表現も、盛り込まれているのかもしれない。しかし、その部分を差し引きながら、読み進めるうちに、こみ上げて来る心境は、複雑だった。裁判所において、人が人を裁く仕事。何よりも、公明正大さが、求められる職務である。しかし、(小説では)その裏側で、国側有利の判決を外部から見えない部分で操作誘導されるなど、驚愕の事実が潜む可能性を示唆する。判決により、今後の人生が大きく左右される人間が、多くいるのに。日本には、最高裁判所裁判官国民審査があり、国民投票により裁判官を罷免できる制度があるが、国民審査で罷免が不罷免を上回らない(過半数以上)限り、罷免されることはない。よって、余程でない限り、裁判官は罷免されにくい状態になっている。情けない話だが、私は、裁判官国民審査時、発表される裁判官の名前を見ても、全くの知識不足で、どんな裁判をしどんな判決を下した人物なのかも、よくわからなかった。いい加減に「×」をつける事もできないし、公布資料を読んだりネットで調べてみるが、裁判官の過去の判決記録を見ても、素人には内容を充分に理解しがたく、これをどう判断していいかも分からなかった。仕方なく無記入で出してしまっている。(無記入は、全員信任になってしまう。)刑事訴訟では、有罪率は99.89%で、異常に高く(冤罪が絶対ないとは言い切れない)、国を相手とする住民訴訟の住民側敗訴率も、異様に高いのが、この国の現状。その裏に潜む数々の問題点を提示しつつ、著者は、国民にも司法側にも、意識変革の必要性があることを、小説でもって、教えてくれる。女性へのくどき文句が、手紙の大部分を占め、少々うざったい感じもあったが、骨の部分は、興味をそそられ、面白く読める本だった。