第二話 邂逅俺と梨花が神社に来てから、もう一週間経った。 梨花の容態は、とりあえず命には別状は無いとのことだが、まだ目を覚まさなかった。 そしてこの一週間、俺は龍二さんと共に生存者を救出していた。 しかしあるのは、凍りついた死体と山賊・・・ 原型を留めている建物もほとんどなく、今日なんか氷が溶け始めたらしく、何処へ行っても死の臭いが鼻にまとわりつく。 「薫君、そろそろ休憩したらどうだい?朝から動きっぱなしだろ?」 「そうですね………」 正直な話、生きている人はいないだろう。 それに、そろそろ訓練の時間だ。 「氷翠」 「うむ」 「やっぱやるの?」 「面倒なら止めても構わん。その代わり貴様の心臓をもらう」 「そんな無茶な」 「どうした!集中が乱れているぞ!」 「ぐっ………!」 あれから、この力を手に入れてから、僕は氷翠と共に訓練を続けている。 また襲撃を受けても、自分と周りの人間を守れるようにだ。 ちなみに、『氷翠』というのは俺が契約精霊に付けた名前だ。 「ふん、好きなように呼べ」 という一言しか言わなかったが、本人もなかなか気に入っているようだ。 「何度も言っているだろう!!イメージしろ!」 氷翠の指導はスパルタだ。 「私とお前は一つだ。私の目はお前の目。私の手はお前の手。私の心臓はお前の心臓。」 氷翠はゆっくりと、流れるように唱える。その言葉の音が、空気に乗って俺の中へ入ってくる。 イメージの輪郭がはっきりしてくると、力を込めた手の周りに氷ができ始める。 「………ふむ。まぁいいだろう」 氷翠の嘆息が聞こえる。俺は手の力を抜き、息を切らせながら地面に座った。 「何だよ………その溜め息は」 「最初から何でも出来るとは思っておらん。」 「ひでぇ言い方。」 「………」 急に氷翠が黙り込む。それと同時に感じた。いや、少し前から感じてはいた。 氷翠の反応の後、急激に強くなっただけだ。この重圧が。 「ぐっ………」 上からのしかかられているような感覚。それは段々と強くなってくる。 「客のようだな。」 氷翠の声からは、何の感情も無いような鋭い冷たさが感じられた。 「大葉龍二さん、ですよね?」 「そうですが………どのようなご用件ですか?」 何とか立ち上がり鳥居の所まで行くと、龍二さんを見つけた。どうやら誰かと話しているようだ。 龍二さんは警戒しているようで、剣を構えている。 「私と一緒に来ていただきたい。」 話し相手は何人かの男たちだった。真っ赤な服に身を包んだ集団だ。 しかしその先頭にたつ男は、黒いシャツ、黒いジーパン、黒い靴、黒い髪、黒い目。全身が黒だった。 右手首には黒いリストバンド、左腕には黒い鎖が絡まっている。 龍二さんの髪や目も黒だが、少し違う。果ての無い闇のような、引きずり込まれそうな黒だ。 「私の名前は霜條昴。紅蓮発条(ぐれんぜんまい)の者です。」 「………なるほど。………私を紅蓮発条に引き戻そうという訳ですか。」 「理解が早くて助かります。ここにいる怪我人などの治療は、紅蓮発条が引き継ぎます。」 男の後ろで控えていた赤服集団が神社の中へと入っていく。 龍二さんは剣を鞘に収めた。 「……逃げても、無駄なんでしょう?」 「おそらく。」 「分かりました。怪我人の治療の方は信用出来そうですから。では少し荷物を整理して」 「無駄ですよ。」 それは一瞬の事だった。 龍二さんは黒服に背を向けて歩き出したのだが、黒服の男は龍二さんの前に立ちはだかる。 動きが全く見えなかった。しかも龍二さんの腰にあった剣も取られている。 「彼らにも来てもらいます。逃がすことは許しません。」 「何の、話ですか?」 生温かい風が吹く。 「私の目的は、能力者の連行。よって、暁薫、暁梨花の両名にもついて来てもらいます。」 ←第一話 第三話→ ジャンル別一覧
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