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この広い空のどこかで今日もいい日旅立ち

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Apr 14, 2008
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カテゴリ:映画
愛の神、エロス」(2004)のようなオムニバスを撮っても、ソダーバーグやアントニオーニには遥かに水をあけてしまって、エロスどころかその映画感性に万感の想いを覚えるウォン・カーウァイ
その新作の、もったいないことに筆者入れて8人の観客の中で、「マイ・ブルーベリー・ナイツ」(2007)を、舌なめずりするが如くして観る。

シチュエーションもドラマの絡みもきわめて簡素、それでいて、なんと濃密な空気がここには流れていることだろう。ごひいきナタリー・ポートマンがなかなか出てこないくらいが私的不満ではあるけれど、ときとところをわきまえて出てくる5人の役者たちの、役者冥利とでもいうべき熟達のパートを、それぞれが描きこまれてもいない人生背景を滲ませて、燦と輝いている。
デヴィッド・ストラザーンレイチェル・ワイズ、そしてしんがりというべき位置にナタリー。
もちろん、主演というべきはジュード・ロウと映画初出演というノラ・ジョーンズなのだが、この5人がカーウァイ作品独特の空気感の中を、幻の舞踏というべき寸劇じみた風景のなかを泳ぐ。

新作を観て、今一度観たいというくらいの作品に遭遇することはよくあることではない。だが、ウォン・カーウァイ作品にはどうしてもこの空気感に再び浸りたい!という想いを強くさせられる。
ニューヨークに始まり、ニューヨークに終わる。ブルーベリー・パイに始まり、ブルベリー・パイに終わる。
カフェの主人と、振られ女のやけっぱちヒロインが出会い、別に何が始まるというわけでもなく女は旅立つ。そして同じ場所に一年足らずして帰ったヒロインはなぜかカフェ主人とぬくもりの時間を過ごしている。
たったそれだけを描いているだけなのに、豊かすぎるほどの映画の時間が、たっぷりとしたブルーベリー・パイを味わうように含まれていて、その時間との再会をもう楽しみにしている。

クローサー」(2004)でお姫様女優から完璧な脱皮を遂げた若きストリッパーをめくるめく感性で演じて見せたナタリーが、ここでは賭博師、目の配り、口元の動きさえ微妙に演じ分けた、もう臈たけたというくらいの演じっぷりに舌を巻く。
そのヒロインとは遠いところにいるような女性像には何も異性のエピソードはないけれども、失意や絶望や挫折やらが交錯してそこに香り匂い立つ。颯爽としながらどこか寂寥の風景も背後に持つ女性。

いや、振られ女のやけっぱちという素顔は形こそ違えてはいるけれども多かれ少なかれ、ヒロインに限らず、デヴィッド・ストラザーン、レイチェル・ワイズにも感じられて在って、それぞれが、それぞれの都会の憂愁を身の深くに携えている、とはいえるので、ジュード・ロウもまた売れないブルーベリー・パイを造り続けてはいるわけだ。
いわば三人の女と、二人の男の、微妙にすれ違うおしゃれな魅せ方の都会の憂愁物語のなかで、ひっそりと夢想をはぐくむ存在としての人間……映画的快楽にひそむ、幽暗な詩情に浸りながら、ゆくりなく人生の時間を泳ぐウォン・カーウァイの魔法ではあった。
                           Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved





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Last updated  Apr 14, 2008 09:52:06 AM
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