この広い空のどこかで今日もいい日旅立ち

低予算の割には技巧を凝らし、スターらしいスターも出ていない割にはそこそこ退屈もせず、有名になったコミック作家を描いている割にはたいしてきらびやかな人生でもない、その原作者自身も出演してモノ申す、地味だが視点風景がこんなアメリカも、という実直さ。
「アメリカン・スプレンダー」(2003)は、そんな映画。コミック風・グラフィティというべき格好。

そんな映画と云ってもどんな映画なの？だろうが、有名になるとたいがいまず儲かるという風に思うが、これがそうではない。街角でかつての同級生と出くわし、私なんて平凡で、面白くもおかしくもない人生を送っているのと、あこがれの眼でそう言われても、成功者であるこのコミック作家はあんまりその成功実感が無く、あいもかわらず病院の書類整理係を続け、あんまり富とは縁のなさそうな雑然とした自宅に過ごしている。

せいぜいその有名なためだろう、読者の女性を呼び寄せると、これがそのまま同棲結婚の道で、すったもんだはあれどもわびしき独身から脱出ではある。しかし、生活が一変するほどその女性もとびきりの美人どころかコミック作家同様地味で生活感も似通い、故にこそウマも合ったんだろうが、展開は大きくドラマ仕立てになることはない。
延々たるスケッチ生活情景。こんな生活なら不況にも恐慌にも強かろうというような、これがアメリカ？　夢壊れるアメリカかもしれないが、これもアメリカ、という説得力はなかなか。

主演はよく見かける名バイプレーヤー、ポール・ジアマッティ。監督はこれが処女作？シャリ・スプリンガー・バーマン＆ロバート・プルチーニ夫妻。
まあアメリカでは有名コミックらしいこの原作を知らずとも、この地味さ加減を愉しみ味わう心さえあれば夫婦愛あり友情あり、ささやかな心映えも生まれるという、これはそんな映画。
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