この広い空のどこかで今日もいい日旅立ち

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  生と性を演じて体現する社会のひずみ！

  全編見事なほど凛とした硬質の画面で、同じナチスを背景としたドイツ映画「善き人のためのソナタ」(2006)と好一対の名品が「題名のない子守歌」(2007)。これがイタリア映画と思えないほど、堂々のドイツ映画の感触ではある。ジュゼッペ・トルナトーレは「記憶の扉」('94)が好きだが、その系列に連なる秀作と言っていいだろう。あれこれ絶賛もしたい作品だが、ことにヒロインを演じるクセニア・ラパポルトがあまりにも見事に素晴らしい。映画のキャッチコピーに『女は哀しみを食べて生きている』とあるが、哀しみなどということばでは洩れ過ぎ失われる、あまりに深く過酷な人生を体現した表現力である。12年間に9回妊娠させられ、その子たちは堕胎も死産もあるかもしれぬが生存もあって行方知らず、その子を探すと以上にナチスの傀儡からつけ狙われていると思しきいま、逃げず屈服せず耐えに耐える人生の拮抗が凄絶を極める。ただ、苦難というだけではない。その境涯によって屑折れても不思議でないその性格さえおのれの生を守るために、バランスにひずみを生じている、そんな女の圧倒されるようなギリギリの存在を示して余すところがない。ロシア出身の女優というが、素晴らしい実力というべきだろう。もちろん周囲の役者陣のバランスも見事なものだが、クセニア・ラパポルト(覚えにくい名だが)「善き人のためのソナタ」のマルチナ・ゲデックとこれも好一対の、ナチスものというジャンルを想定してアンソロジーを組めば、必ず拾いたい仕上がりの最大の要因であることは言うを待たないだろう。トルナトーレとしても最高作に位置づけたい、緊迫の、シニカルにして莞爾たる2時間ではある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  May 6, 2009

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  青春のみが許容できる価値観！

  青春には青春の価値観があって、その刹那性をおとなの価値観で裁断したところで、これほど不毛なこともない。「キャンディ」(2006)にはその刹那的な男女がドラッグにおぼれ、女は娼婦に堕ち、男は働かず盗みを働く。こんな場合ひどい男に捕まったこの美少女にいささかの同情はあれど、男のだらしなさをかばう手立てはない。手立てはただひとつ、青春の刹那性の魅力に尽きるのである。刹那はいけないと云ったって、その刹那ができる意力も体力もその時期にしかない。まさしく青春と刹那性は不即不離で、もはやおとなが同じことをしようとしてもみじめな姿をさらすだけである。そんな刹那の男女が、なおもその刹那を続けていくと、やがて実人生の壁に突き当たり食うにも事欠き、職にも事欠き、女は精神のバランスを崩し、死産も経験する。だが映画が描くのはその悲惨への批判ではなくて、むしろ刹那を全うしていった男女の、刹那と実人生の対峙そのものを、天国、地上、地獄という構成で静かに提示する。珍しくオーストラリアの作品で、まるでオルネラ・ムーティの美少女時代をほうふつとさせるアビー・コーニッシュがなかなかに魅力的。青春の輝きがいつまでも消えないほど、映画の中の不幸もまたはじくほどの魅力がなまなかではない。男は28歳で急逝したヒース・レジャー、その事実を知れば、よりこの役柄は尖鋭ではある。ちょいと見には自堕落男女の顛末記のように見えるが、そう見えながら若さという時期の青春のあくまで刹那の魅力と、その墜落を点綴しながら、ステレオタイプな若者批判を拒絶するかの視座も備えた出色の作品。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  May 3, 2009

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  娼婦と少年、詩の風景としても良き哉。

  本好きのフランソワ・トリュフォーは本を紐解くタッチで映画を造った映画作家でもあり、その愛読書を画面に引用することでも頻繁でした。その同じフランス映画でパトリス・ルコント作品などの脚本を書いてきたセルジュ・フリードマンが、映画を詩のように書いてみたいと思ったに違いないと感じたのが「天使の宿り木」(2004)の、そこはかとないアトモスフィア。ヴァネッサ・パラディの娼婦が同じ娼婦に、わが子を孤児院に迎えに行って引き取ってほしいと頼まれる。ところが引き取ってその母親に渡す前に、その娼婦でもある母親は死んでしまう。ヒモらしき男がその母親が金を隠したとその息子を追っかけ、行きがかりの親切がアダ、宙に浮くその息子をどうするかというてんやわんやをそこはかとない交情で綴っていく、一見すさんだ生活でお疲れの娼婦が捨てるに捨てきれないその少年の純と、娼婦に残る純とが共鳴してゆく詩心が生むファンタジー。寂しいなんぞというのも境涯からいえば当たり前の双方が、そんな感情をおくびに出すも恥ずかしい言わずもがなの境地を互いに感知し合っているのがもう当初の出会いからということでありつつ、いっさいのことばは封じ込められ、それでも相手の感情が手に取るがごとく虹の架け橋、夢のありかともなる背景の風物さえも借りてもたらされるポエジー。おとなになるとついに帰らぬ詩心を、娼婦と少年の、寡黙でいながらすべてを透徹してしまう心の行く立て、それもあまり美し過ぎず、可愛過ぎもせずのこの二人ならばこそ、切実にも奏でられるある種えもいわれぬはかなさ、いとおしき感情、そこが見どころの、マイナスだらけの境涯から醸し出される麗しきフィーチュア。もって瞑すべしではある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Apr 21, 2009

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  端倪！そのことばのままに！

  驚くべきはベルイマン、ビレ・アウグストの「愛の風景」('92)のときもそうだったが今回拝見したリヴ・ウルマン監督作の「不実の愛、かくも燃え」(2000)、双方ともベルイマン脚本とはいえ、徹頭徹尾ベルイマン色、とことんを喋り合いせめぎあう男女関係の筆法は、追随を許さない境地までをイヤでも運んでくれるその極限ではある。指揮者と女優の妻、そして不実の愛とはその妻と演出家との関係。ここまでの修羅場に、淡白な日本人は耐えられるかというほど、粘液質に、抜き差しならないところまでこの3人が互いを追い込みあうのを見ていると、第３者の視点さえ保てないほどの様相を呈する。それこそがベルイマン流なのであるが、まさしく死生観の相違の中で浮かび上がるのは荒涼たる風景、疲労のみなのではある。――が、ハイチャさようならと終わらぬ余韻がこれぞベルイマン。たっぷりと愛憎の極北を味わうと、適当に上手く泳ぐだけが人生の嘘寒さも、同時に照射されてくるわけで、2時間34分と長尺ながら予断を許さない緊迫の進行は、長いばかりが価値と勘違いしている水割り映画も照射する。およそ自らの体験を素材に、しかしこのなまなかではいかないその追いつめ方は、なるほど世界有数の巨匠は自らへの見つめ方も凡百をはるか超えた自己投影を示したのではある。ベルイマン生前の作品であるから、現場へのいくばくかの参加は最低でもあったと思われるけれども、としたってこのリヴ・ウルマンもまたその愛憎の当事者としても重なった時代もあり、ベルイマン宇宙の伝承者にかくも達者な存在がいるとはこれもビレ・アウグストともども驚きではある。さほどに余計余分な解釈を近づけない、彫琢の完成された脚本なのであったのだろうことも想像されはするのだけれども。いつも気構えを要するが、また洗礼を浴びに来たいベルイマン・ワールドではある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Apr 15, 2009

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  アメリカ姉妹の巴里恋愛始末はお粗末！

  ケイト・ハドソン、ナオミ・ワッツ、レスリー・キャロン、 ストッカード・チャニング、グレン・クローズと女優陣を揃え、ジェイムズ・アイヴォリーとくればそこそこ期待するが、「ル・ディヴォース／パリに恋して」(2003)はいささか群衆劇の様相で、米仏の恋愛概念の違いをたどったようにも見えるが、いまひとつ踏み込めきれぬ印象。せいぜいパリの暮らしに岡惚れしたアメリカ娘の青春叙景の域から一歩も出てきてくれないまま巴里恋愛始末が終わる。あれこれ親族が出てくるのも入り乱れてどっちがどっちのどういう関係と目を凝らさないといけないのもしちめんどう。いっそケイト・ハドソンとその相手である中年ジャン=マルク・バールとの交情をじっくり追ってくれる展開の方がどれもこれも拡散の印象を防げた気がする。とはいえ、さほどこの中年にも魅力を覚えんし……。所詮恰好をつけようが米仏それぞれの俗物性だけが後味として残るだけ、それも意図せざるところで肝心の主題が横滑りしたアイヴォリーの失敗作に1本を加えただけなのは残念。この後名品「上海の伯爵夫人」(2005)が来ることを思えば、遙かな出世作「眺めのいい部屋」('86)のみずみずしい筆致がしのばれる風情も見えず、せっかくのお洒落も淘汰してしまう下世話なフォーカスで終了。ケリーバックを無理矢理フワフワ飛ばしたのもなんのこっちゃ、どんなお仕事も脂が乗ってくると、脂が滑るものよ、ということを大いに納得の2時間、自ら脚本も書いてるから御用監督の仕様とも思えんけど、つくづくキャリアにとって不毛の作品。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Apr 10, 2009

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  私設名画座INDEX整備にかかりました。

  映画のカテゴリが現在420、つまりは「最近観た映画」の作品評420本、これを一覧できるシステムを造るというのが従来よりの懸案事項、時間を要するので手控えておりましたが遂にスタートさせました。全部を一遍にというのは無理なのでとりあえず2007年3月まで、ようやくブログに書く調子が定まってきたかというころまでですが、アップいたしました。左カラムの上から3番目「FreepageList」がそれで、映画作品を独断と偏見でジャンル分け、そのジャンルに目星をつけていただき個々の作品へのページリンクが可能、というシステムです。作品は邦題アイウエオ順、その作品名から各ページにジャンプできるわけです。筆者自身が過去に書いたものを探すだけでもメモを頼りに四苦八苦でしたから、読者にとっては過去は不在同然、馴染みの名作、こいつどう評価というような感じで紐解いて、筆者ともどもご活用いただければ幸いです。至近の作品まで到達するには来月まで要するかと思いますが、2008年までを今月中にはＩＮＤＥＸできるところまで、来月中に今年度分もという計画です。遅まきながらの貯まりに溜まった時間を要する作業ですが、筆者にとっても思わず永く続いた足かけ5年目の処女ブログ、17万アクセスももうスグというところまで来ておりますので、改めて見やすい一覧を心がけたわけです。これで他ブログで引用も可能、自家製映画作品辞書という趣です。右も左もわからぬうちに手を染めたブログも、この楽天のほか、seesaa、jugemと運営に至り、少々は勝手知ったる世界となった趣、楽しませていただいておりますが、これも一里塚、たぶん死して宙に浮くまで続けることになろうブログではございます。改めてご愛顧をお願いする次第ではございます。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Apr 7, 2009

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  神との三角関係、憎悪の対象が神！

  グレアム・グリーンの原作はあまりに若き頃に読んだせいか、その宗教の絡みが辛気臭く、あまり面白い小説と感じはしなかったが、長じてその映画化である「情事の終り」('54)の存在を知り、永く機会を探ってきたが未だ見る機会を得ず、ついにそのリメイクである「ことの終わり」('99)の方を先に観ることになってしまった。なにしろ前者はヒロインがデボラ・カー、その愛人がどうも浮気をしているのではないかという疑いを持ち、調べつくすうち相手は神、つまりは神と愛を競うことになる作家のお話だから、現実感を持たせるに気品と美貌に比類なきデボラ以上の逸材はちと思いつかない。だが観れぬとなれば致し方もない。ニール・ジョーダンの作品でもあるし、ということで「ことの終わり」を拝見。ジュリアン・ムーアも頑張っているが、注目はレイフ・ファインズ。出演作品は多岐にわたり名匠たちも使いたくなる役者なのであろうが、ことに記憶に残るのは妹のマーサの監督作「オネーギンの恋文」('99)ジェイムズ・アイヴォリーの「上海の伯爵夫人」(2005)、言ってみればクールと粘液質とも見えかねないその両軸のふり幅を実に巧妙に演じる役者なのである。ここでもその特性を生かし、アフェアの顛末を語るのだが、その憎悪の相手が徐々に神であることが判明するにつれて、愛人を連れ去った神と対峙するにはなるほどこのキャラクターでなければ、この主題も宙に浮いたであろうと感嘆。だがしかし、カソリック圏にない筆者からすれば、神によって引き裂かれる愛の行方も、過剰すぎる意識の顛末ではある。哀れをとどめるのは夫の存在だし、惜しみなく愛は奪うというのは、神よりの視座であることが解る作品なのではある。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Apr 1, 2009

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  映画で名品落語を観る、それもフランス映画でなあ！

  フランシス・ヴェベール、はて？と思ったが「Ｍｒ.レディＭｒ.マダム」('78)の脚本家、人情喜劇をやらしたらフランス随一というが、監督作品は初めて観ることとなる。その「奇人たちの晩餐会」('98)、掛け値なし、あれよあれよの面白さ。ちょうど高座の落語をたしなむがごとく、そのテンポ、展開、まことよどみなく話を転がせ、あっという間にＦＩＮマークにたどりつく。落語というからには＜バカ＞が出てくる。しかもこの「奇人たちの晩餐会」はそんな正真正銘の＜バカ＞を集めて名士たちが品評する晩餐会。世間にはどんな＜バカ＞がいるかとメンバーは鵜の目鷹の目。格好のシチュエーションではある。招かれる＜バカ＞も、主催するのが出版社を経営する名士とあって、遂にわが一芸も見出されたかと、いそいそとその首実検に出かける案配。一方その朝、その＜バカ＞をバカにして楽しむ趣味を嫌って妻が家出をしてしまい、そんな時にやって来る＜バカ＞、その応対中にホスト役の名士、重度のぎっくり腰を弾みで生じてしまい、歩行も不能となる。これが弱り目に祟り目の前兆。さすがに友人紹介のメガネどおりのなるほど＜バカ＞と、晩餐会へのお墨付きを与えてグッドバイだったのだが、動けぬホストを見かねて舞い戻り、それからがいよいよてんやわんやの大騒動の疫病神、＜バカ＞をバカにしようと手ぐすねも、すっかり手をこまねく天を仰ぐ悲惨に至るその顛末、これがまるきり落語、本場の本邦落語もびっくりの落語の仕組み、落語のエキスの映画化とでも言ったら少しはその呼吸を感じていただけるだろうか。落語好き必見の名品ではある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Mar 26, 2009

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  女の名にしてエデンは、見果てぬ人の夢の在り処！

  その造る料理は食するすべてを魅了する天才シェフも、コミュニケーション能力はゼロ。女性関係もいっこうに積極的な面は当然のように不得手で思いも前に出てこない。シラノのコック版とでも言えるが、一芸に秀でると、何でも思いのままのような現代とは思えぬようなお話で、むしろその違和感が意外な説得力を持つのがドイツ・スイス合作の「厨房で逢いましょう」(2006)。と書くと、調理人主体の話かと思うとそうではなく、厨房で逢い続けるふたりの、もう一方の主婦、その名が原タイトルの「エデン」、とすればむしろ女の心情こそが主題と思った方がいいだろう。その料理に魅せられ、むしろこちらの方は積極的にその厨房通いをする。互いにまことに寡黙、どちらかというと女の方がリードしながらの流れだが、その寡黙さこそが主題のように思える。夫は休みのたびに友人と賭け事にいそしみ、やや秋風という風でもあるが、その厨房通いの頃から夫婦仲も戻り第二子も誕生、すべてがうまく回転するようではあったが、頻繁すぎる厨房通いの妻のことを友人からも揶揄されたりするうち、徐々に嫉妬の度が高まってくるあたりが世俗に生きる必然とも言えるだろうか。料理を馳走し、その料理を感嘆する、その二人の互いへの思いやりを超えて、むしろ女の思惑が奈辺に在るかと世俗は思うわけで、しかしそこに女のずるさを観てしまっては映画の価値は半減するだろう。むしろそんな心配は無用のこと、と亭主に断言するこのコックの断念や、エデンというこの女の見ている素朴な楽園の夢をそこに見れば、これが現代に対するアンチテーゼのおとぎ話であることが解るだろう。夫が騒ぎ立てて暴力沙汰になり、逃げ惑うコックが隠れた木の上で「いつも逃げていてはダメだ、しっかり話しをしよう」と決意し降りかかろうとして滑り落ち、その夫の上に落下、悲喜劇どちらともとれる夫の死にこの作品の寓話性があり、行方知れずとなるそのコックの店を発見して再会した時の笑顔が写真のラストシーンだが、この満面の微笑こそがエデンの夢の在り処の象徴なのである。故にこそエデンという名なのでもある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Mar 24, 2009

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  夫婦不仲は好きにしてくれ！や。

  数日前ミア・ファーローじゃなくオードリーならと「フォロー・ミー」('72)で記したら、同じ夫婦不仲のお話でずっとその前にオードリーで「いつも２人で」('67)があったとは不明にして知らなかったなあ。こちらはまだ若きアルバート・フィニー共演、やっぱりオードリーが出てるだけでオシャレ度格段にアップやないの。オードリー出演映画としての出来は(オードリー作品は水準も高い)さほどでないにしても、夫婦仲ほどにはうっとおしくはない。いつも２人でいてよくキスもするこのふたり仲がいいのか悪いのか、秋風も感じて改善旅行中、双方浮気あり外泊ありの中でくっついたり離れたり、でも思い出もいっぱいというところをフラッシュバックも多用で延々と終りまで。所詮夫婦仲など他人には無関係、好きにしてくれ！なのではあるが、藤原紀香でもオードリーでも結婚生活となるとなぜか必然に近く秋風も吹く、なのになぜに人は結婚したがるのか、法律に守られないと愛を全うできないのは人間だけなのである。なんちゃって、ことも言えるのだが、まあ犬も食わぬ夫婦不仲、それを何とかしようという他人も現れず、ケンカするほど仲もいい、という一面もあって、なにやらそのまま終わるやはり好きにしてくれ！だった。オードリーだからこそなんとか最後まで観たというドラマの中身で、改めてそのファッショナブルでスリムでしかも決して重くならない明るさの特性を知る作品なのではある。先ごろこの16年後の作品である「ドレッサー」('83)の老優役を観たばかりのアルバート・フィニーもやがて貫禄なのではあるがここではまだ怒れる若者の風情の残滓を留めて、これも見方によっては面白いところではあろうか。――実際、結婚未満くらいの時が、一番いいのよね。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Mar 21, 2009

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  歴史はいつも個人を飲み込む濁流？

  アメリカと戦争をしたことすら知らない若者の存在も脳裏に浮かべて企画されたのだろう「あなたは廣田弘毅を知っていますか？」という終幕に導く城山三郎原作・テレビ朝日開局50周年記念ドラマスペシャル「落日燃ゆ」、名だたる歴史上の人物が登場して、こんな役もやるようになったかとその貫禄にふさわしい俳優もいれば時期尚早にしか見えない貫禄不足もいて、それだけでも面白いが、風貌そっくりさん随一は津川雅彦の扮した吉田茂だろうか。所詮、当時の二重構造のような＜統帥権の独立＞という概念はアメリカ側には理解の外、軍部の独走の歯止めともならなかった内閣の運命は濁流にのまれる小枝の如し、東京裁判の中で軍部と同様の裁断を受ける。きわめて地味な宰相であったらしい廣田弘毅とその家族を中心としてドラマは進行するが、吉田茂との対比もこの人物の肖像を明らかにするに功だが、強権そのものとなった軍部とのやり取りにはもはや人種が違うという趣。過ぎ去りしこの日々を転じて、現代の日本を見てもカタチは異なれども大同小異、進歩しとらんなあといささか天も仰ぎたくなるが……。妻を映じる高橋恵子は関根恵子時代の「遊び」('71)から38年、北大路欣也また「濡れた二人」('68)より41年、子役時代から知らぬではないから半世紀を超えたか、先のＴＶ「華麗なる一族」といい、山村聰や佐分利信の役どころを演じるのを観るとは、うたた今昔。そっくりさん第2位は神山茂の高橋是清か。粛々ととは、よく聞く政治家の言い逃れのことばに聴こえてしまうが、字句通りいかなる抗弁もせず断頭台に消えたという廣田弘毅を知るだけで、現代政治家に飲ませたい爪の垢代わりにもなる人物像ではある。若者とともに現代政治家にも向けられた作品と思えたが、ご本人たちは思わぬだろうなあ、そして歴史の同じ轍を踏まぬとことばでは言うだろうが……。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Mar 18, 2009

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  せっかくの企画もキャスティングでぶち壊し！よくあるなあ。

  イギリスにはこの人ありと、デヴィッド・リーンとともに並び称されたキャロル・リード、その遺作というべき「フォロー・ミー」('72)を観る。これまで敬遠していたのはミア・ファーローが趣味ではなかったから、というに尽きるなあ。ファンには申し訳ないが、どうせなら妹のティサ・ファーロー(「狼は天使の匂い」('72)）の方やし。しかし作品はトポルの奮闘努力のせいもあって、そこそこ観れる。やや秋風の夫婦がトポルの探偵を介入させたおかげで元のアツアツに戻れたかというようなドラマだが、なにせミア・ファーロー、肉感がまるでない上、表情にも起伏なし、せっかく沈んでいた若妻が弾まなければいけないところもまるで能面、「華麗なるギャツビー」('74)とともに二大ミス・キャストと言っておこう。「屋根の上のバイオリン弾き」('71)の名演とは別人の風貌で登場するトポル、こんな尾行は素人芸とその筋には思われようが、ドラマの趣旨を体現して愛のキューピッド役をしっかり果たすが、この相手では糠に釘、としか見えないのが致命傷。幸せの予感で終わるはずも筆者にはちとミア・ファーロー相手では不幸の予感しか味わえぬ、どこまでも嫌いなものは嫌い、ヒロインたるべき華がこの女優には欠けている。その後のウッディ・アレンとの仕事もそれゆえにこそ観る気がせず、しかも別れの騒動もこれまた趣味ではない。というわけで、キャロル・リードの最後を飾るには残念というしかないが、これをもしオードリーがやっていたならもうずーっとおしゃれで心にしみる展開となったであろうと、罪はすべてキャスティング・プロデューサーに在りと思うがどうだろう。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Mar 17, 2009

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  劇場未公開の放映ほどありがたいものはなし！

  ワンコインＤＶＤで買えるものを繰り返し放映してもらってもありがたみはないが、劇場未公開作品の放映はよくぞ！の感激。まだ存分に美女時代のカトリーヌ・ドヌーヴにジーン・ハックマン、マックス・フォン・シドウ、作品は少ないがいずれも水準を保つディック・リチャーズ監督作の「外人部隊フォスター少佐の栄光」('77)が面白い。外人部隊という響きだけでロマンの匂いも感じるのは映画の見過ぎか、実際の外人部隊は犯罪者あるいは犯罪スレスレあるいは世捨て人の寄せ集め、集める側も危険に合ったところで自国人ではないとタカもくくる悲惨な状況、その指揮官を演じるジーン・ハックマンがその状況を踏まえつつも反骨と矜持を失わず戦死するまでをフランス側の施策として向かう考古学者（フォン・シドウ）や隊員との対峙を通して描いている。アラブ人指導者とも意を通じながらその国力をあげての襲撃に全滅に近い終幕の砂漠の戦闘はことに見どころであろう。波上の砂漠に隠れて見えない次々と砂上の陽炎のようの現れ来るアラブ部隊の映像はなかなかのもの、反発していた隊員が隊長の後釜となるのを暗示して終わる。ドヌーヴの扮するピカール夫人はいかにも映画のための彩りではあろうが、それなりの存在感、美貌はこの時34歳、これも見どころではあろう。外人部隊そのものの概念が身近にない日本からみると国家間の政策の犠牲の産物としてのそれがここに在るという感じで、フランスとしてはあまり肯定したくない見地の作品でもあるが、製作国はイギリス、主演俳優は米仏伊瑞とまたがるのも意味深ではある。ある意味公開を見合わせたのは、よそ事としてのモロッコ紛争、長びくアラブ問題、触らぬ神に祟りなしと見えなくもない。「男の出発（たびだち）」('72)という西部劇でスタートしたディック・リチャーズ、外人部隊の砦も騎兵隊の砦と変わらぬように見えるが、これも考証どおりなのかもしれぬが、まあご愛嬌。映画ファンには小道具のイヤリングが変転していくさまこそが面白いけれどね。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Mar 15, 2009

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  丁々発止の名優ふたりと、舞台裏の醍醐味。

  シェイクスピア劇団の座長と、その付き人との2人だけがほぼ延々画面を占領する「ドレッサー」('83)、アルバート・フィニーとトム・コートネイ、その四つ相撲が当初はうっとおしいが、やがて乗せられるのはふたりの迫力というしかない。やや年老いてきたシェイクスピア役者、舞台本番前になると駄々をこねるばかり、マクベスかリア王かセリフのけいこも混同して支離滅裂、メイクもたがえるありさま、もう辞めたいといったその舌も乾かぬうちに死ぬまでやると宣言する按配。そのメイクをふき取り衣装を着せかけ、とにかく本番に間に合わせるべくその暴君をあやしたり正気に返らしたり、あの手この手の付き人。その修羅の本番前の様子がメイン・シーン。その意味では舞台裏をのぞける面白さがあるわけだし、付き人の不在時に、脇の新進女優があいさつにその楽屋を訪ねその早々、鍵をかけなさいと言われるまま鍵をかけると、脚を見せなさいと言う。もっと上まで！　その流れにあわや艶戯本番かと思うと、いきなり抱きあげ数歩のちに抱えきれずその女優の下敷きとなる。あわてて逃げる女優と遭遇した付き人が詰問する。「なにをしていた？」観客の想像にもその女優の予期にも反して、観ていなくてもそのあらましを聞くなり付き人は「何をしようとしていたか私にはワカる。あの人のすべてがわからなくて付き人がつとまるか」というようなことを言い放つ。答えは、才能を図っていたのでも、ましてやベッドインということでもない。コーディリャ役として重さを量っていた、というのである。抱きかかえなければいけないシーンのために軽くなくては身が持たないからである。集約すれば、このあたりがこの作品の面白さだろう。まるで産婆のごとき付き人の丁々発止に、ゴールデングローブ主演男優賞が輝いたのも当然なら、リア王のごとき横暴を極めて急逝するシェイクスピア役者にアカデミー主演男優ノミネートも至極納得の、まさしく舞台劇をよく消化した映画化ではあった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Mar 2, 2009

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  すべて人生は数奇なもの、奇異もまた普遍に至る！

  普通の人の４倍早く歳をとって急速に老人となるのはコッポラの「ジャック」('96)だったが、その逆、老人に生れた男が徐々に若返り、遂には幼児となり死んでいく「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(2008)であるが、突き詰めていくと矛盾も出てくるお話で、所詮絵空事なのではあるが、そこは映画の特性、ややエッセイ風の筆致で、なだらかにその経緯を追う。ブラッド・ピットには「ジョー・ブラックをよろしく」('98)という死神を演じた実績があって、死神らしくないブラッド・ピットが演じることで逆に現世のいのちの輝きが際立ったなかなかの名作で、今度ははてどういう趣向かというところが一種のみどころにはなる。原作がフィッツジェラルドとはいえ短編で、この167分の長尺、仕組み造りには骨も折れた(原作とは別に原案作者＆脚本に「フォレスト・ガンプ 一期一会」のチーム）ろうが、やや距離を置いたかの変転が無理なくは描かれている。ことに柱となる女性デイジー(エル・ファニング→ケイト・ブランシェット)との老人と少女の出会いから、たがいに年を経て双方の年齢が重なるくらいのところで一緒になり、だがその先の年齢の経過を想定してベンジャミンの方から身を引く、そしてさらに二十歳前の青年となってからの再会、そこにもやはり命のはかなさはにじみ、若き身の方にはより思春期の貴重さが知れる善き映画には違いない。これを一篇の詩、ないしは寓話、あるいはファルスとみればよろしいわけだが、それにしては少々長過ぎる。これをさらに編集し直してせいぜい110分前後くらいに仕上げてあれば、さらに観客の想像を飛翔させ得たであろうに、やや具体的に過ぎたきらいもなしとはしないのである。なにも少年をアルツハイマーにすることはなかったなあ、と思うのである。見かけは若くとも積み重なる記憶は途切れ途切れくらいで充分なのではあるし。辻褄より遂にはこれはあくまでポエムとしてこだわって欲しかったきらいもある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Mar 1, 2009

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  孤立無援そして克己心こそ、イーストウッドの主題！

  チケットを買う時に「ブランジェリーナの２本」と言ってみたら、「アンジェリーナ」と聴こえたのかどうか「チェンジリング」はすぐ出てきたが、「もう1本は？」ということになった。もちろん「ベンジャミン・バトン」だが、ブランジェリーナご夫妻、このクラスの共働きだと嬉しいね。そんなわけで「チェンジリング」(2008)をまず堪能した。いやあ、クリント・イーストウッド老いを知らん見事な緊迫のドラマ、いつもながら役者たちが隅々までいい。往年の巨匠たちが60歳前後を境にいささかユルフン気味になることを思えば凄いねえ。78歳、しかも実にここへきてさらに多作ながらこの充実度。実話を掘り出してきた脚本Ｊ・マイケル・ストラジンスキーも凄いが、アンジーもこと映画に関してはオヤジを超えたかもね。時は'28年、恐慌寸前の、組織の腐敗のるつぼとというべきロス警察、わが子の失踪を訴え出た母親にいかに処したか、危うく植物人間どころか死の恐怖までがスレスレ、暗黒時代にようやく見えた曙光、というところだが、その部分部分だけとるとかつて観た名作やＢ級諸作をまさしく吸収した後も見えて、恩師たちも超えていくかという巨匠イーストウッド。子供たちへの残虐な犯罪が軸なので辛く暗いが、人はなんと残酷になれるいきものか、と気の遠くなるような正義の道を歩むヒロイン／クリスティン・コリンズにいつしか依拠して苦難を共に歩む。時代の暗澹をそのまま投影して突き進む中、味方も生まれていくが、その味方さえ当初は疑心で迎えなければならぬほどの孤立無援、ほとんど狂者に見まがうルックスに成り果てながらの克己、この主題、俳優時から一貫するイーストウッドの主題ではあるなあ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Feb 28, 2009

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  日本アカデミー賞の私的見どころ記。

  日本映画をあまり見なくなって久しいけれど、興行収入は記録更新しているという。結構なことだが、映画館に足を運ぶときはどうしても洋画となる。ハズレ率が、単に低いからである。何のハズレかといえば満足感のハズレである。もうひとつの理由は二番館三番館がなくなって久しいからだが、それでも放映の機会には見ないでもない。見てもやはり失望するからまた映画館への道は遠くなる。それでも日本アカデミー賞授賞式の放映はたいがい観ている。作品はほとんど見ていないが、美しい衣装でドレスアップした女優さんが見れるからである。知らない女優さんもいるから、なかにはほほう！と眼を見張ることもある。もうだいぶ以前、柴崎コウにホホウと眼をみはり、数年前には中谷美紀を発見し、ことしは、というわけである。なにしろ作品は観ていないのだからお楽しみはそれだけである。いや、スピーチも、もうひとつのお楽しみかもしれないが、妙味あるスピーチ、これは少ない。「おくりびと」10部門受賞と、ほぼ独占だったのはアカデミー外国語映画賞ノミネートの影響か、それほどに群を抜けたのかこれも観ていないのでわからぬが、ホンチャン・アカデミー賞でも受賞とならばいよいよ本物に近くなって重い腰を上げるかもしれない。それでも情報源のひとつではある。華やかさもだいぶ増してきて、真似こきと酷評を受けた初期を抜けて歴史もできてきているし、それなりにはなってきている。主演女優賞木村多江、助演女優賞余貴美子、前者はまるで知らぬ初お目見え、後者は山田太一ドラマで記憶から蘇ったが、初受賞は初々しい。ことに余貴美子の峻烈に素朴なスピーチはことさら良かった。そこそこ年齢がいってからの受賞らしいスピーチで、これはよろしき。一番美しかったのはやはり檀れい、か。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Feb 21, 2009

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  天国の扉を叩く前には海を観ていなければならない、知ってた？

  ドイツで大当たりをしたという「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」('97)、つまりは天国の扉をノックせよ、とでも言うのだろうが、アイディアが面白いといえば言える着想の映画である。ただし、ベラボーには面白くはない。病室でそれぞれ死期も近い重症患者のふたりが、天国では海が話題になるそうな、俺海を観ていないんだ、俺も、というわけで死ぬ前に海を見に行く話とだけ言えば簡単すぎるが、とにかく近日死ぬことになっている二人だから、何でもできる何でもやれる、そこがミソ。死ぬ気になれば何でもできると言うのは嘘で、死ぬ気になれば死ぬことしか頭に浮かばぬから何にも出来ない。しかし彼らは死ぬ気ではなく、死ぬのだから、生きているあいだ何でもやっちまおう、というわけだ。まあその面白さなのだが、そのアイディアを近々、アレンジして「ヘブンズ・ドア」という日本映画も公開されるそうではある。海に行くために、だから車も盗む、ところが盗んだ車がギャングの車、拳銃を発見し、銀行強盗をしてみたら、車には大金を積んだ鞄も発見、たちまち大金持ち。ギャングにも警察にも追いかっけられる羽目に、というハチャメチャ行程。写真のような逆光の画面が全編を占めて、このラストだけがそうであるなら生きたが、これがまずイマイチの素因、まあＢ級作品のノリ、と言ってしまえばそれまでなのだが、いささかそのノリに軽快さが足りない。それもドイツのコメディ造りということも考えると無理も言えない純朴さ。そのどっちにノルかで、評価も分かれるかも。いずれにせよ牢獄で死なず、海を見れたのだからめでたしめでたし。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Feb 19, 2009

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  画家(芸術家）を観るに特異な目線はすべてを徒にする！

  「モディリアーニ～真実の愛」に続いて「ポロック～２人だけのアトリエ」、そして「クリムト」と、画家の映画を続けて観た。続けたのは口直しという意味もあったが、だんだん毒を食らわば皿まで、という具合にあいなった。どうして画家を描くとこうも特異な目線で映画を造ろうとするのか、筆者にとってはいずれも失敗作、映像とドラマが少しもフィットしてこない、隔離感を携えつつ最後まで観るのがつらかったのである。「モディリアーニ～真実の愛」については既に書いたので繰り返す要もないが、エド・ハリスの初監督作品「ポロック～２人だけのアトリエ」(2000)の方は、まだしもマジメ、だが熱演が必ずしも功を奏さないのは監督を兼任することでさらに大マジメになり過ぎたきらい、どうにもポロックのお守りをするリー・クラズナー同様、しんどいのである。しんどいのを味わされる映画というのはこれもわが趣味ではないので、せめて絢爛と頽廃の世紀末の叙事詩にでもと「クリムト」(2006)に向かったのだが、これまた世紀末のミステリーに迷い込んだ挙句、いつのまにかマルコヴィッチの穴の中を迷走、いっこうに映像の絢爛とドラマとが交錯してこないまま、思わせぶりな、その割には少しも艶麗ではない恋人たちが入れ替わり立ち替わり出現するだけの作品となった。これでは装置としてクリムトを利用したニコラス・ローグの「ジェラシー」('79)にすら、遠く及ばない。文学に淫しただけで映画は立ち上がってこない如く、絵画に淫しただけでも映画は立ちあがらない。そんな当然の帰趨がそこにあるだけで、絢爛に見せて絢爛に映じず、頽廃をなぞっても頽廃どころか淫靡も覗けない。まずは画家に対する目線をシンプルにしないとね。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Feb 15, 2009

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  イキも良し、流れも良し、破天荒にして正統、ＷＡＯ！

  友人からのお知らせでＵＲＬがあった。日頃日本映画の旧作保存状態を嘆き、現代日本映画のお粗末を嘆いているせいか、フィルムが在るのか無いのか嘆いていていた特二重丸の、わが'73年ベストワン、ツーを飾った名品を知っているせいか、そこに、在るではないか。なにしろＹｏｕｔｕｂｅなのでイマイチ不鮮明、初めて見る方にはあまりお奨めできないが、サワリくらいならその冒頭シーンがいきなり始まるから、その生きの良さの片鱗くらいは味わえるかもしれない。「高校生無頼控／突きのムラマサ」「高校生無頼控／感じるゥ～ムラマサ」が観れる！のである！時間を惜しまず、当然、数珠つなぎの全編を見た。やっぱり劇画の映画化としてこれだけの逸品はそこらにはないデキ、くれぐれもＹｏｕｔｕｂｅの限界も知りつつ、初めての方はそのサワリだけでもご覧になるといい。鮮明封切り映画館で観るとは大違いだが、少なくとも大門正明はこの2作と「遊び」('71)が優れて一等抜けているデキ、次々出てくる女優も、やっぱり輝いているねえ。と、これはもうよく知っている作品を記憶と乱反射させている印象ではあるが……。当時お行儀のいい東宝映画に突如現れた日活映画！という趣、それもその筈、日活出身の江崎実生が東宝に乗り込んで造ったからであるが、突如現れた帰って来た太陽族の趣、でもある。何がいいといって、わがブログ倫規定を逸脱する言葉で端的にいえば、カタチやミエにとらわれず美人と察知すれば、スグ触りまくりいじくりまわす、お上品に言い換えるなら、仲良くなるべく努力する、その破天荒な生きの良さ。突きも感じるゥ～も、そのシンボルが突き、感じるゥ～な～んちゃって。いやあ、再会が嬉しくてねえ、よー眠れた。ニュープリントで2本組みのＤＶＤ、出せいィー！　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Feb 11, 2009

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  三大まぼろしの美女は、ほんとうにまぼろし？

  最近見た映画ではなくて、実は最近見れない映画なんですが、これを作品ごとに言えば多方面にわたり枚挙にいとまもないということになります。しかし女優さんや男優さんに絞れば、簡単です。筆者の場合はより女優さんにその想いがありますので、その今日、遭遇しがたい女優さんに絞ってみますと……。もうズバリ、これはアルレッティ、そしてマリア・カザレスなんですね。もちろん見ることのできるものは観ていて、作品数も少ないせいでもっと見たいというのもあるのですが、アルレッティ（1898/05/15～1992/07/24）の場合は長命（94歳没）の割に作品が少なく（晩年30年近くは失明）名前はいやがうえにも大きく、その観たい作品はフェエデ版ではないシオドマーク版、ロロブリジダと共演の「外人部隊」('53)、カルネ「われら巴里ッ子」('54)がある。おそらくやっぱり最高作は「天井桟敷の人々」('45)であるにしても。もともとその役柄そのものがあこがれに満ち、まぼろしじみたものだったせいもあるけれども、その実像も漏れ聞くだけでもまこと評価の高い人だったらしい、ということもある。マリア・カザレス（1922/11/22～1996/11/22）の場合も、その「天井桟敷」で共演しているその印象から大いに期待したサンセヴェリーナ侯爵夫人を演じた「パルムの僧院」('47)がやはりわがサンセヴェリーナ侯爵夫人の印象を損なわず良かったので、他の作品は何でも観たい。が、未輸入も多く、わが国には知られぬ作品もあるであろう女優なのである。ふたりとも気品もあり、失望を味わえない女優として、垂涎いや増すというところである。これに最近ではたった1本の輸入作品「暗い日曜日」('99)の美女エリカ・マロジャーンを加えると、わが三大まぼろしの美女ということになる。東和が無くなって、ハリウッド偏重の輸入事情の弊害はフランス、スペイン、ハンガリーの美女も堰止めしてしまったというわけです。救世主よ出でよ、というところではあります。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Feb 10, 2009

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  絵画的な映像に、対峙するドラマは俗物の宴！

  モジリアニは、既に「モンパルナスの灯」('58)という名作を知っているので、これを超えられるわけもなし、アンディ・ガルシアがもう既にミス・キャスト、ほとんど期待も出来ぬと、敬遠していた「モディリアーニ　真実の愛」(2004)をやっぱりモジリアニ、見過ごせずようやく観た。ほぼ予想通りモジリアニの映画としては用無しだった。救いは映像が絵画的なこと、ジャンヌ・エビュテルヌを演じるエルザ・ジルベルスタインがところどころ絵画から抜け出たイメージを持っていたこと、この2点――しかし、いかんせんそれが少しもドラマに収れんしていかぬから、ちとお粗末なのである。偶像破壊を目指しているのならそれはそれでやりようもあろうに、ここに出てくる芸術家とみられる面々、どう見ても金満ブクブクの俗物の宴、明日なき命のはずのモジにしたところで設定上そうだというだけで単なる狼藉者、自業自得の死も同情の余地なし。まるでヤクザ路線時代の東映に間違って発注したかと思える内容だが、これが米英独仏伊羅の6カ国合作とは、船頭多くして船山に上るのたぐいか。冒頭にこれはフィクションとの断りも逃げのようにしか見えず、さらに続くジャンヌの真実の愛の自己申告、これまた無くもがなのつけ足し、本編で真実かどうかすぐに明らかになるわい、という感じ。むかし三島由紀夫が自作「剣」の映画化で、その主人公を演じたＴＶ版加藤剛と映画版市川雷蔵を比較し、よく演じているにしても加藤剛には＜或るはかなさ＞が欠けている、と言ったものだが、これと同じことがアンディ・ガルシアとジェラール・フィリップにも言えるわけで、市川雷蔵もジェラール・フィリップも、その早世によってその作品を不朽にした＜或るはかなさ＞が少なからず揺曳していたのである。ここにおける悪役はピカソだが、ピカソを悪役にすればするほどこのモジリアニの俗物性がフィーチュアされるがごとくで、それは同じ悪役でもリノ・ヴァンチュラ演じる画商モレルの、無言で映画の背景を奏でるがごとくの存在感とくらべても明らかだろう。ジャンヌもまた、その姿かたちを超えて、アヌーク・エーメが同じそのはかなさを体現し、殉じていく説得力は、遠く遥かに優ってしまうのである。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Feb 8, 2009

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  遥かなりし山河への想いは果てなく飛んで……

  ロバート・レッドフォードとジェーン・フォンダ、同年生まれ、知ってた？　その共に42歳、映画では既に功成り名遂げていた共演作、盟友シドニー・ポラック作品とあってゆったりと演じているように見えるのが「出逢い」('79)、ロマンスものと見まがうタイトルだが、レッドフォードのロデオ・チャンピオンがコマーシャルに引っ張り出され、少々うんざりしているところで、名馬がＣＭ撮影のために薬物投与でいささか弱っているのを見て、ともに蒸発、その特ダネを追っかけるニュースキャスターがジェーン。それが出逢いではあるけれど、そのあたりは流れの上の刺身のつま程度、見どころはカメラと音楽、ウイリー・ネルソンの歌唱以外の映画デヴュー出演でもあって、自然とカントリー・ソングとの豊かなハーモニーがすべて、と言いたい作品である。乗馬しながらのレッドフォードがもっとも山野の風景にマッチしていた映画とも言えて、追走するパトカー数台と、逃走レースを展開するところなど、舗装された道路では追いつかれそうになりながらも、よく馬の方が得意とする砂地の荒れた道にスクランブルに走ってパトカーが迷走してしまうあたり、いかにも自然回帰の主題にも沿う、白眉のシーンといえるだろう。その後さらにキャリアを他分野で広げていった両人も既に70代、この30年前の作品をこうして観ると、うたた今昔、人に歴史あり、映画に歴史あり、映画人にもまた大いなる歴史あり、ではある。サンダンス・プロを軸にして後進を育成する中で監督業を次々と意義深く達成していったレッドフォード、父ヘンリーへの反発をさえバネにして、ヴァディムのもとからさえ巣立って政治活動に邁進し、この作品の3年後に逝く父ともその1年前に父との共演作をともにして和解を果たし、という思えば忙しくも絶えない幾星霜、そんな観ている者の想いも重なる大いなる自然、ビル群だけの映画では、そうもいくまい。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Feb 7, 2009

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  安らぎあってこそ女の証！

  タイトルからすると大活劇だが、なかみは捕虜生活とも思えぬ極楽浄土、イタリア捕虜生活からナチの方へ移送されてようやく緊張が走り、「脱出大作戦」('68)となるという、ポール・ニューマンとしても軽～い道楽作品。まあそれもこれも紅一点、シルヴァ・コシナのせいと思えば納得しちまおうというシークレット・ポール・ニューマン作品。女盛りシルヴァ・コシナがこのとき35歳、初々しかった「鉄道員」('56)の23歳時、娘役から12年、その色香も存分に開花させて、居るだけで空気も変わる風情。これでは将軍たちともども脱出のための派遣臨時将軍であるニューマンも骨抜き。イタリア将軍ともども拉致されて目も覚める具合。収容所脱出のプロが最後に名人芸を見せ、シルヴァ・コシナともめでたしめでたしだから、なんのこともない作品なれど、所詮御用作品の仕様、腹も立たず久々のシルヴァ・コシナの妖艶にすべてが免じられるであろう作品。数年前フランスＴＶＭのバルザックを描いた作品でドパルデュー＝バルザック、その母＝ジャンヌ・モローという大作で、さらに齢を重ねたヴィルナ・リージが愛人の一人を演じていたが、それと同等の久々のおめもじなれど、つくづくアレコレ美貌も変貌するものよと、改めて感嘆。やはり映画は女が良くなくては始まらぬ、いささかふやけたデキなれど、女良ければすべて良し、くらいに納得させるのが女優の至芸。やっぱり女はイタリアン、と思ったら、シルヴァ・コシナ、実はユーゴ出身。艶笑譚で気を吐いたラウラ・アントネッリもユーゴ、イタリア男が魅きよせるのか、いずれにせよイタリアは美女の集まる美人国には違いない。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Feb 5, 2009

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  渋く着実な映画造りはいつもいぶし銀！

  追悼放映されたポール・ニューマン出演作品は幸い未見のものが多く、中でいちばんごひいきマーティン・リットの「暴行」('63)は、「羅生門」の翻案、それも一度舞台化した戯曲を軸に、さらに映画化という手順で、渋く着実な作風そのままにいぶし銀、 ポール・ニューマンのほかローレンス・ハーヴェイ、エドワード・Ｇ・ロビンソン、クレア・ブルームという面々もそろって、黒白画面が地味ながら艶やか。ドラマも主題も今さらではあるが、中心になる彼らが演じることの楽しみを主眼に置くと、ポール・ニューマンが三船、クレア・ブルームが京マチ子、ローレンス・ハーヴェイが森雅之、エドワード・Ｇ・ロビンソンが志村喬という具合で、それなりの興趣にも導かれる。もともとマーティン・リットはアクターズ・スタジオにおいてポール・ニューマンとは師弟関係、この頃「パリの旅愁」('61)「ハッド」('62)「青年」('62)そしてこの作品と、連続的に師弟コンビ作品が続いている。ポール・ニューマンもメキシコ人の悪名轟く怪盗ということで、まだ初期の役柄の残照をとどめていて、これも懐かしい。最終的には達者すぎるほど達者なエドワード・Ｇ・ロビンソンが一番の座持ちかもしれない。まあ独特の風貌にも利ありだけれども、クレア・ブルームは京マチ子とくらべるは酷、能面じみた表情を良しとせねばならんだろう。リメイク作品としては悲惨を免れたむしろ模範答案くらいには言えるだろう。なによりあざとくないマーティン・リットの作風がこれも功を奏したというところ。見ている作品のほうが多いと思っていても、こうして未見の作品が次々と初見できる時代となっただけに、まるでわが隠し資産の如し。使っても使っても無尽蔵で無くならないあたりは、わが打ち出の小槌、という具合。こうして映画を見ながら絶命ということになるのかもしれんなあ。趣味多彩ではあるけれども、ふるさとはやはり映画だもんね。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Feb 2, 2009

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  名作というヴェールも、仰ぎ見なければこのくらい？

  いま見ることができそうなジャック・フェデー(フェエデという記述もあるが発音はどっち？)もあと「ミモザ館」('34)くらいとなった、未見の「外人部隊」('33)、それだけに期待も大きかったが、期待は下回った。ここまで見た限りスタンバーグには遠く及ばぬ力量か、というところである。なによりまんなかのふたり、 マリー・ベルとピエール・リシャール＝ウィルムに魅力がない。役柄のキャラクターにも魅力がないのが致命傷だろうが、マリー・ベルはことに男を翻弄する魅惑がまるでない。男が身を入れあげて使い込み、死地に向かうその寸前にようやくその酩酊から醒めるほどの女という説得力がおよそないから、同じ外人部隊を背景とした「モロッコ」('30)に遠く及ばないわけだ。ディートリッヒにくらべては形無し、かもしれぬが、くらべるまでもなし。シャルル・ヴァネルとフランソワーズ・ロゼエに支えられて映画の骨格はまだしもというところだが。行き場を失った男たちの吹き溜まりといえば言える外人部隊なのではあろうけれども、その頽廃にも淀みにも描写力に精彩は感じられず、酒場で恋い焦がれたマリー・ベルと瓜二つ(二役)と交情を持つのだが、この男の動向にほとんどシンパシイを持てぬまま、その女のための殺人、あとは自暴自棄としか見えぬ諦念に流れていくだけでは、感興もはなはださびしい。救いが前記の、シャルル・ヴァネルとフランソワーズ・ロゼエの存分には書き込まれてもいない人生を示すがごとくの存在感、これ無くしては見るべきところもほぼ失われるところだったろう。名作というヴェールも、こうして蓋を開ければ、時代に耐え得た作品と色褪せる作品とがあるのは致し方もない。同じ悪女でもベティ・ディヴィスが燦と輝く「痴人の愛」('34)とくらべても遥かなる距離。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Feb 1, 2009

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  ＜愛の讃歌＞も、原題の＜バラ色の人生＞も、やや皮肉の色合い？

  ピアフとは子すずめのことと知ったのが「エデット・ピアフ～愛の賛歌～」(2007)。この映画での評価めざましいマリオン・コティヤールだが、まさにこれまで見た作品とは別人の趣。なりきりの白眉ということだが、映画はとことん暗いなあ。その、とことん暗いのがピアフの生涯の背景であったとしても、伝記映画として昂揚やカタルシスのイマイチというところが最大のネックかもしれない。一瞬、好転するかというボクサーの恋人との挿話も、その飛行機事故で暗転、終始この歌手の悲痛さばかりがクロースアップされる感じ。いささか見ていてつらい。これだけの大スターの出自もフランスらしい(仏英チェコ合作)が、なにせ生涯の愛はこれひとつではなかったはずで、あれこれ差し障りもあるのかもしれぬが、邦題の＜愛の讃歌＞も、原題の＜バラ色の人生＞も、やや皮肉の色合いを帯びてしまうほど、終始このピアフは病身の感じで、これもつらい。男性遍歴ひとつでも、もっと人生を楽しんだ部分があるはずと、思うけどなあ。いやあせっかくのマリオン・コティヤールの入魂も、これがピアフの実像とはとても思えないし、かなり年下の歌手を支援したり愛人にしたり、包容力や広がりもある大歌手なのに、ちーともその部分がお留守、出自と晩年の不幸をアップしただけの印象では、どうもね。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 26, 2009

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  冤罪を晴らす遥かな道のりは耐え難きを耐え忍び難きを忍び！

  最近はすっかり別枠でないと見れなくなってしまったアメリカのＴＶ連続ドラマだが、かつては日本のＴＶを支えるメイン・ドラマで、この元であるデヴィッド・ジャンセンのものも長寿を全うしたそのひとつ、ハリソン・フォードの「逃亡者」('93)としてリメイクのものを、ハイ・ヴィジョン5.1チャンネルで拝見。その長寿を全うしたのも延々捕まりそうになりながら、すり抜けるからこそだったのだが、これは1本の映画で完結なだけ、すっきりメリハリも効いて楽しめる。もうすっかり細かいいきさつも忘れていたが、医師であるハリソン・フォードが新薬の副作用を発見、それをヤバいとみた開発医師と製薬会社がその副作用そのものを抹殺、ハリソン・フォードの妻を殺害、真犯人に仕立て上げ大儲けをたくらむというところで、無理もあるが説得力もないではない。なにしろ追う側がトミー・リー・ジョーンズ、犯人側も社会悪の様相を呈しているからスケール感もあって、有罪の判決のあと護送される車が列車と衝突、命からがら抜け出し、たった一人の冤罪の闘いだから、わが身と思えばさらにスリリング。なにしろこんな役どころなら術中の術のハリソン・フォード、有罪には余計見えず、危機また危機をどうすり抜けるかは面目躍如ではある。トミー・リー・ジョーンズもこの作品でアカデミー助演男優賞を得てその評価を定着させたようだね。いまではもうブランドの立ち居振舞いも、そう思えばまだまだ新鮮で細かいワザが随所に見える点でも、嬉しいね。日本の現代ＴＶもヴァラエティはクレイジー・キャッツの「大人の漫画」程度の枠で十分、アメリカヒットＴＶ連続ドラマを放映してくれたほうがエエと思うけど、少数意見かもな。好きにして。ＴＶにはあまり期待しとらんから。でもドラマの軸がしっかりしとるんは確か、盗んどる脚本家もいっぱいおるやろけどね。実話を大いにアレンジして出来上がっているドラマだけど、冤罪というのは気力も萎えるが、気力だけが基本のき、というのがワカるだけでも殊勲甲かも。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 24, 2009

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  追悼放映をようやく拾う。ありがたきＨＤＤ！

  テネシー・ウィリアムズだから心理的に悩ましいお話は覚悟だったが、このジェラルディン・ペイジとポール・ニューマンの関係、「サンセット大通り」('50)の、グロリア・スワンソンとウィリアム・ホールデンの関係とよく似てる！と思ったのが「渇いた太陽」('62)、違うのはこれにシャーリー・ナイトの結婚したい相手が出ているところ。もちろん出来は「サンセット大通り」に及ぶべくもないのだが、このころ、ハングリーな若者をよく演じることが多かったポール・ニューマン、その名品は「ハスラー」('61)や「ハッド」('62)ということになるだろうが、欠乏感に満ちた青春を投影して、これはこれでそこそこ、シャーリー・ナイトが魅力に欠けるが、オヤジの悪徳政治家エド・ベグリーがその典型を示してこれもそれなり、遂になにもかもかなわぬわびしき青春、こんなものよなあ。ジェラルディン・ペイジもまた、功成り大スターになってはいてももはや容色の下り坂、酒とハシシに未来を憂うる身の上なれど、プライドが邪魔してどっちつかず、これもよくある中年世界、もって他山の石というところに絡むのが出世意欲のエネルギーがまるで満たされないままのポール・ニューマン、可哀そうなくらいだが、「暴力脱獄」('67)を知る身なれば、その不完全燃焼もこれはコレ、そのフィルモグラフィの数々の名作から今振り返ればゆとりで楽しめはする。まあリチャード・ブルックスとしては「熱いトタン屋根の猫」の成功で味をしめたかというところだが、心理的深淵には至らず、週刊誌ネタの貼り付け工事のように見えてしまう。まさにそれなりの面白さというのはそこまでのおもしろさ、この前に見たレース・シーン以外はまるで工夫なしの「レーサー」('69)ほど凡庸ではないというところが救いか。見逃すべくして見逃していたポール・ニューマン二作ではある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 19, 2009

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  プロヴァンス、ああプロヴァンス！

  子供映画は苦手といっても、子供が辛酸を嘗めるたぐいの作品はパスなわけで、すっかり作品世界の家族に共鳴した「プロヴァンス物語／マルセルの夏」なら、また見たい。というわけで続けて「プロヴァンス物語／マルセルのお城」('90)を味わう。製作年度も一緒、出演者もほぼ同じ、二作目はルーチンになりがち、鮮度も落ちるのが相場なれど、これはぶっ続けにつなげて1本にしてもいいくらい、まこと遜色がない。監督も高齢なので母親も死んでしまうことにしておしまいにしてしまったようだけれども（原作どおりなのかもしれぬが）、マルセルのナレーションで統一したのは良しとしても、マルセルのハイティーン時代からビジネスで成功をおさめるその過程も見たくなる終幕ではある。と言いたいくらい、夏だけでなしに毎週末出かけるほど、「マルセルの夏」の地に、家族そろって荷物を抱え10キロ近い距離を行き帰りすることとなったこの作品の軸は、その行き帰りの苦労を先生である父親の教え子が見かねて、その行軍を短縮するすべというべき公有地を横切るキイをゆだねる。同じ役人でもこの教え子と、規則にがんじがらめの役人の対比も面白いが、教師としては職務に影響しかねないルール違反、背に腹は代えられぬ、なにしろ到着まで3分の1の時間となる。その顛末を柱に、この作品もエピソードに事欠かない。マルセルの初恋？というべき相手の登場など、その少女の個性にひきずられるマルセルのさま、その少女も忽然と引っ越してしまうのが残念なくらい、楽しめるところではある。少年時代の印象を綴るがごときで、すべてが深追いのない余韻を残す印象にとどまるのがよろしいわけだが、その意味でも少年の宝というべき母親の、陽炎のようなおぼろげな美しきイメエジは作品のバックボーンとなって大きく定着している。つまりは1作目で父への、2作目で母への、鑽仰を果たしているということで、家族というもののより良きエッセンスとも言うべき名作ではあろうか。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 17, 2009

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  無駄なく無理なく少年の成長がたおやかに描かれる！

  南仏がパリより美しいのはほんとうで、パリから南仏を抜けてマルセーユへのバスから覗き続けたその田園風景といい、売られている果物や野菜の、大きくてカラフルなこと、とにかく絵はがきより美しい記憶で残ったのが南仏なのである。「プロヴァンス物語／マルセルの夏」('90)は、その意味ではまだまだ足りないくらいの南仏の美しさへの目配りではあるが、カラーはあくまで美しく、その家族関係や両親の子供への向い方や、子供が成育していく姿の、自由度といい、その慈しみといい、つくづく羨ましい映画の内容ではある。子供を軸にした映画造りを中心としてきたイブ・ロベールとしてもキャリア充分、その語りにも余裕があり、家族のマルセルの紹介から始まって、母の妹の結婚相手との馴れ初めの挿話や、その新たな姻戚のその家族との交遊、弟の出生と、あざとくは無い自然な時の流れが心地よい。日頃絶対の権威に見えていた父がバカンス先の地で、猟銃の指導を受ける叔父の言いなりになっているのが歯がゆく、微妙な陰影を少年に与えていたり、その田舎の奥地の自然に慣れ親しんでいる現地の少年との接触で価値観の展望を広げたり、ありきたりのようでいながらひと夏の少年の成育を描いて無駄がない。少年ものは弱いのだが、これだけきらびやかな自然に囲まれ、家族もまた理想に近いとなれば、拒否できる理由もない。続編もいずれ見たくもなるこの家族に幸あれ、ではある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 15, 2009

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  野外情景の典雅の趣、感情の馥郁たるリリカルな味わひ。

  ヌウヴェル・ヴァーグは筆者には最初、テクニシャンのゴダールにぞっこんだったが、並走していたトリュフォーと袂を分かち、偏向していったゴダールより、プチブルとゴダールに言われたトリュフォーの方に限りなく依拠していったけれど、そのトリュフォーの早世で、今見るべきヌウヴェル・ヴァーグの武者はこのエリック・ロメールではないかと想わせたのが「グレースと公爵」(2001)である。引用されることも多い「パリところどころ」('65)以外数本しか見ていないこのエリック・ロメール、この作品などもう81歳のときの作品だが、その描写のしぶとさ、さらには野外の絵画的美しさ、しかも舞台はフランス革命を生き抜いた英国人女性が中心、世評はあまり知らぬが、実に典雅にして馥郁たる逸品なのである。ほとんどのドラマ的位置はタイトル通りグレースと公爵が占め、その応接、交情の成行きも面白いが、ひとたび野外にカメラが行くと、泰西名画もかくばかりという趣なのである。つまりは典雅の趣をその野外が受け持ち、革命の進行とともに感情の馥郁たる面が縷々綴られる、観るべきが見れば、嬉しき成立ちの作品なのである。聞けば予想した如く絵画と実写の合成ということなのではあるが、まずはその美術に凱歌を捧げたい。その何処もスチルにして額に入れ居間に飾って少しも遜色ない（2LDKや3LDKでないお屋敷である必要はあるであろうが）泰西名画の雅である。その英国人女性の回顧録が原作であるが、革命側がいささか野卑にしかないので、これではみな王党派になってしまうきらいはあるにしても、生き難き時代を王族や貴族に近しき女性がどう生きたかというその感情の矜持だけは追認し得た映画なのである。これでいよいよバルザックの映画化であるヌーヴェル・ヴァーグ同志でもありカイエ・デュ・シネマ元編集長という経歴も同じのジャック・リヴェット「ランジェ公爵夫人」(2007)を見逃したのが悔やまれる。いま彼らの関心はどこに向かっているのかという興味と、映画界への反攻の烽火でもあったヌウヴェル・ヴァーグの行く末を見届けんがためではある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 12, 2009

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  あるいはフィルム・ノワール久々の名作の入荷だったか。

  いやあ、本場もんの登場だったね。なんの本場かというと、フィルム・ノワール、邦訳すれば暗黒映画だが、そのまま暗く渋くシャープで、フランス映画ちゃ～んと得意分野、維持してるやん！と嬉しくなるのが「あるいは裏切りという名の犬」(2004)。ジェラール・ドパルデュー悪役こそ適役やないの。どうもやっぱり、善人やるとうっとおしかったもんなあ。それにダニエル・オートゥイユ、苦さを呑み込みながら耐えに耐え、高倉健の役どころ、これもいいねえ。おまけに20代の頃しか知らなかったミレーヌ・ドモンジョが出てるよ。すぐ顔をつぶされて最後の方にようやく癒えた最近の彼女とおめもじ、引退してなかったんやなあ。さすがにお歳も召されたけれど、名前の印象通り、若き頃はふるいつきたいほどのグラマラス、'60年代前後の女優でね。まあ今や忘れられた女優かもしれんけど、忘れん名前やったなあ。ご貫禄の酒場マダムに扮してるねん。キーンと張りつめた画面、展開されたのは警視総監候補のふたりの、いわば血で血を争う地位争い、と言ってもいいと思うが、ドパルデューがとことん汚くて、組織悪の権化のような振る舞いで終始するのもグーなら、総監レースで一歩も二歩もリードしながら、ハメられて獄中の臭い飯、7年後に出所後さらなる大団円、見せるに魅せる、観てると警視庁のお話ではなくギャング同士かと見まがう雲行き、ヴィヴィッドなのは監督も警官出身なら、脚本も実話を、これも元刑事がサジェッションというから、ノワール度もモノホン。まあ政治家がやくざに似るように、警官がやくざに似て不思議でもなんでもない人類の世界ではあるなあ。そのいかにもという説得力に、リリシズムも香る。こんなテイストで一貫する映画造り、ジャック・ベッケルも彷彿とするが、久しぶりに邦題もカタカナでない優れモノ、いささか文学的なのもフランス映画でこそ。巴里に限らず組織で何とかしようというのはもう時代遅れの感覚かもね。それがよーワカるだけでも出色。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 10, 2009

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  海外ブランドがまだわずかだった時代のとびきりのお洒落への憧れ！

  いまなお時代を超えてファッショナブルなシーンには欠かせないオードリー、実は主だったところ以外は未見だったがこの一両年でほぼほとんどを観て、残された作品のひとつが今回の「ティファニーで朝食を」('61)、さすがに愚作のないオードリー、荒唐無稽中心のブレイク・エドワーズ作品もファッショナブルにしてしまった恬淡とした闊達さ。唯一アチャラカじみたキャラクターはミッキー・ルーニー演ずるところの大家さん、ティファニーがまだ日本に出店していない頃の作品だが、しっかりこれは日本人のカリカチュアのように見えるが、メイクも笑わせるが中途半端でない西洋人の見た日本人のありのままかもしれない。存分に映画のアクセントとなっていて殊勲甲。原作が曲者トルーマン・カポーティだからかヒロイン・オードリーの性格づけも気まぐれグローバル風味、思わず飼い猫が結構活躍しているのもその風味を倍加させ、後半気もそぞろの余波からか雨の中、車からオードリーが捨て猫にするハプニングもありながら、すべてお洒落にエンディングも良きかな、軽いがオードリー好きにはこたえられないマンシーニの弾き語りまで満載、人生の折々でもチャンスをしっかりものにしてきたオードリーの魅力はつらつではある。「ローマの休日」('53)で共演のグレゴリー・ペックの言によれば、すでに大スターのペックを一枚タイトルに、新人に過ぎぬオードリーはタイトル後に小さくというスタッフの予定に『それでは俺がトンマに見えるよ』と、並列にさせたとか、かほどに撮影中から共演者にも魅力を放っていたというそれは証左でもあるだろうし、あるいはペックのハリウッド一の紳士という評判を裏づけるエピソードかもしれない。いずれにせよ世紀をまたぐスターは、かくして成るべくして成ってはいるに違いない。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 9, 2009

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  映画の中では、権力と独りで闘うと魅力も溢れる！

  韓国では悪王として名が高い実在の燕山君（ヨンサングン）を取り上げた「王の男」(2006)、本国ではその史実をもとにしたせいか大ヒットを記録という。原タイトルは王と王冠というようなことらしいが、せっかくの公開も邦題はまた意味不明。その王はなるほど、こんな為政者では国民は戦々恐々、近づきたくない存在であることは確か、気に入られた芸人も、いつ斬死になるかわからぬ状況、そこを潔く生きた旅芸人一座のうちの花形と女形を中心に、悪政の中の或る生き方を昇華してみせる。まったく史実を知らぬから、この王も人間、いずれはそんな一面も出てくるかと目を凝らすと、どうやら先王である父親への対抗意識、つまりはエディプス・コンプレックスの持ち主であるらしい。取り巻きが先王の名を口に諫めても逆効果、かえって荒れ狂う按配。とすればもう少し知恵のある取り巻きもいてよさそうなものだが、悪政の傍らには汚職好きの悪大臣、浅薄なれど、これがヒーロー・ヒロインの背景。見どころはその芸人の出し物がことごとく政治の風刺に染められてゆき、自らに関わらぬうちは大いに楽しみ喜んでいた王が、自らが風刺の対象となった寸劇を見せられると怒りに狂い、いよいよ眼つぶしの刑にあった主人公が、その身で綱渡りしながら踊り、王の寵愛めでたき女形(王の男の意味か？)とともに天空高く飛び上がるところで終るラスト・シーンか。げに馬鹿とまともには勝負しても、はかなきことよなあ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 7, 2009

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  貧すれば鈍すの日本映画も、遂に断末魔？の葬送の調べ

  観る気もなかったが、これだけの暴挙をやるからには一分の理もあるかと、後学のために観てみた。リメイクなど少なくともオリジナルを知る者は誰も望まぬ中で、望んでいるのは資産運用をする遺族のみというのも見え見えで、出来上がりもあずかり知らぬのだろうが、まあ造られてしまったのだから仕方が無い。役者はお声がかかれば馳せ参じるのが使命、あれこれ悶着をつける意味もないが、この監督を引き受けるからには、覚悟がいる筈だが、もはや貧すれば鈍すか。森田芳光いよいよ命脈尽きたかというのが、「椿三十郎」(2007)である。いよいよ御用監督となり果てたか。資質はあったけどね。一言で言えば、この作品には一番必要な＜野性＞が無い。三船三十郎が織田お坊ちゃま三十郎に変貌。三十郎に限らず、まあすべてが小ぶり、その癖、なぞらえるだけはなぞらえて、いささかの工夫も新機軸の発見もない。造ることがもともと暴挙なのだから、なにおか言わんやだが、究極の二番煎じとはこんなものか。これを観て「椿三十郎」を観た気になることがいっちゃん恐ろしい。話が面白いだけに話を追うだけの観客は面白いと思うだろうが、待てよ、だ。流石にラストの決闘の血しぶきをなぞらえなかったのは少しは恥も知っていたかと安心したが、とは言え、なにほどのこともない。ホトケ造って魂入れずそのままの迷品。さらに言うなら、既定路線を積み重ねるだけのリメイクでは、伊藤雄之助の絶妙の味も、小林桂樹の飄々たる存在感も醸し出されない。カラーになった分だけ奥行きが無く薄っぺら、それが現代的というならそれもそうではあるが、リメイクの意味も意義もどこにあるの？という感じ。こんなことのすべては、造る前にワカろうものなのになあ。日本映画の葬送曲としてもあまりに軽いし、その鈍感さがクロース・アップされるのが作品の意義か。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 6, 2009

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  お正月にふさわしき初夢映画と認定！

  初夢のような映画を観た。こいつは新年から縁起がいいわい、という嬉しき心映えの作品である。ティム・バートンの「ビッグ・フィッシュ」(2003)である。息子は親父のほら話にいささか食傷の気味もあるが、観客はその嘘かホントか判らぬいくつものエピソードは繰り返されるわけではないから、大いに楽しめ、その夢に酔う。そのおやじをアルバート・フィニー、若き頃の代表作を「トム・ジョーンズの華麗な冒険」 ('63)「土曜の夜と日曜の朝」('60) とするなら、これは晩年の至純の作品ということができるだろうか。その夢あふれる若き時代を演じるのがユアン・マクレガーである。もはや床に伏せること多き老境のそのおやじの回顧録というべき作品だが、こんな一生、あるいはこんな一生を語り聞かせた親父なら疎んじるほうが退屈なのである、とまで言いたい、これはお正月にふさわしき初夢映画と認定。そのエドワード・ブルームのエピソードにも出てくる運命の女がサンドラ・ブルーム、その現在をジェシカ・ラングが演じて糟糠の妻の味わいを見せるのも嬉しきからくり。５メートルもある大男から街を救ったりのちにその大男から救われたり、一度訪問した幻の夢の街が不況で廃墟化したそこを街ごと買い取り再生する話だとか、とにかく一生のうちによくぞ詰め込んだというべき花も実もある一生、しかも遺骸が川に放たれビッグ・フィッシュとして永遠の再生をはたす話なのだから、夢は永遠に継続するわけである。すべてほら話に見えて結構真実の肝は押さえたという、ティム・バートンとしてはともすれば騙され切れない作品も多いが、もっとも騙され上手に導く最高作。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 4, 2009

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  粋さは遠く及ばぬが、お洒落度はソコソコに仕上がった出来の未輸入放映作品

  お正月のＴＶは相も変わらずヴァラエティ、ヴァラエティに恨みはなけれど、ほぼ一年中似たようなメンバーによるいわば仲間内の宴会、趣味ではないのでパスすると観るべきものはやはり映画となるが、放映が極端に無い。番組は見捨て、頼りは録画済みの５００ＧＢということとなる。新年早々一大傑作を観てもあとがつらいし、かといって愚作だと３０分持たずパスだから、思案投げ首ながら選んだ頃合いが未輸入放映の「スティング２」('83)、前作から10年を経て脚本のデヴィッド・Ｓ・ウォード以外はすべて一新してポール・ニューマンもレッドフォードも出ていないが、そこそこお洒落な仕上がりはタイトルからして前作を損なわない期待できる出来。もちろん前作の粋さには遠く及ばないけれども、二番煎じや、似ても似つかぬ出来が多い２作目としてはよろしき按配。ダマす側の中心は「ハスラー」('61)で若きポール・ニューマンをじっくりいなして見せた"ミネソタ・ファッツ"を演じたジャッキー・グリーソン、ダマされる側はロバート・ショウに代わってカール・マルデンと、名バイ・プレイヤーの競演。ボクシングの勝敗を絡ませ、それもプロのボクサーではない詐欺師がボクサーを演ずる上、挙句勝ってしまうという無理はあるが、地味で小振りながら、進行はゆったり堂々、オリバー・リードも相手側にいて、薄手ではないところもそこそこ成功作。新年の映画詣での初作としてはまずはよろしき。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2009 Ryo Izaki,All rights reserved

  Jan 2, 2009

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  オリンピック開会式のエポック・メイキング＝北京！

  恒例の大掃除も、ほぼ終わって、今年最後のブログに向かいます。まあ、ほぼというところがミソで、やり残しをいくつか残すことになるのも、これも恒例。気分はもうお正月の、ようやくゆったり、この後、届いたおせちと手料理の試食会をこれも勝手気まま飲みながら、というところまで来ました。とはいってもわが家のオーナーですから、時に昼寝もあれば、映画もあるわけです。ここらあたりが妻帯疑似オーナー（？）とは違うところかもしれません。閑話休題。最後にふさわしい番組というのが正しいのでしょうが、映像エイジとしてはこれも映画、ＮＨＫＢＳ２の「チャン･イーモウ・北京オリンピックを語る」。開会式のＤＶＤでも出ないかと思っていましたが、インタビューもさることながら、再びあの開会式にまみえることができました。口パクとかＣＧとか長過ぎるとか、あれこれ不評もかまびすしい開会式でしたが、筆者はそれらすべてを含めても開会式の傑作、さすがチャン・イーモウと、再見を心待ちにもしていました。チャン・イーモウのキャリアが総合的に集約されたエポックともなる開会式と、讃辞以外はありません。これだけ壮大な行事を任されて、この成果は余人のできることではありません。結果良ければの、その結果が見事、堪能たしました。新しいことの礎を造るような仕事はいつも賛否両論、毀誉褒貶はつきもの、あのエッフェル塔だっていかほど当初は美観を損ねると言われたものでしょうか。今や美観そのもの、市川崑の映画「東京オリンピック」('65)もまた公開当時の賛否はすさまじいほどのものでした。インタビューによればまずＣＧ＜あしあと花火＞は、27の場所で実際に打ち上げられたもの、ただし中継ではそのスピードに追い付けないであろうことを想定して、練習のとき撮影したものを提供したということ。＜口パク＞については、二人の少女を実に長きにわたり朝から晩まで、時には居眠りしているところを起こして練習を続けた、そのどちらかをあなたは切れますか、片方はめっぽうお芝居がうまく、片方はめっぽう歌がうまいんですよ。私にはどちらかをクビにすることなどできません。(インタビュアーは俳優・香川照之）あの人海戦術が一糸乱れず進行したのは練習ももちろん、その時それぞれがイヤホンで支持を受けていたのです。自分以外の周りを見ることのできない状況でそれは必然です。人があれだけ多くまとまって行為をすることで何らかの力が生まれるのです。その力がものごとを動かします。印象的だったのはチャン・イーモウが最年長の映画学校の生徒であったことと、「私を中国一の映画監督ということはできませんが、中国一の勤勉な監督であることは自負できるでしょう」ということば、なるほどその結果を観る至福がここに在るという、絢爛たる絵巻でありました。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 31, 2008

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  Ｂ級映画のノリでてきぱき、有能でこそのＢ級映画や。

  マイケル・Ｊ・フォックス、自らパーキンソン氏病であることを公表、療養しながらマイケル・J・フォックス財団を設立し、パーキンソン病の研究に多額の寄付ということだが、それは'98年、「バラ色の選択」('93)の頃は元気はつらつ。ホテルのコンシェルジェの役で、てきぱき有能ぶりを示してテンポ良く、どうということはないお話ながら、目をつけたかわいこチャンにてんで相手にもされず、あろうことかその彼女を美人局まがいに富豪のためにセッティングを日夜仰せつかって、八面六臂、それもこれもホテル経営の夢去りがたく夢のホテル設計図をその富豪に託しているからだが、はてホテルか彼女か、バラ色の選択はどっち？というわけ。結構飽きずに見れるのは手際も良く趣向も凝らすそのテンポ、「アダムス・ファミリー」「メン・イン・ブラック」シリーズで商業的にも成功したバリー・ソネンフェルド、さすがではある。中途半端なゲイジュツより、手際よき商業ではある。日本にも20世紀にはゴマンといたんだけどねえ。成瀬巳喜男だって実は早撮りの名手だったんだからねえ。ゲイジュツの前にみな職人だったのよ。わが肉活の前の日活、いやいや肉活になったって、そうそうたる名手が目白押しやったんよ。井田探とか、曽根中生とか、知ってはる？Ｂ級映画でも技術がＡ級でこそなんよねえ。技術がＤ級だからＢ級映画も仕上がらんのよ。その点、そこそこ納得の仕上がりが、ハッピーエンディングではあってもどちらへ振り子が揺れてもハッピーエンディングの妙味なきお話だけど、トントントンと、そのゆくたてがよどみなくお上手。プロの最低ラインがこのくらいではあってほしいねん。ひどい時はよくこんなホンに金出すのがいるなあ、寄ってたかって鈍感の総集会を見せられたんではこりゃたまらん、というわけですよ。お金取るならこれくらい、基本ラインをプロは見といてね。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 28, 2008

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  その名だけで、作品が別格となった劇作家の映画作品。

  25日、ハロルド・ピンター氏、逝く。享年78歳。その名があると、興味を魅かれて拾いものをした映画作品も一再ではないし、何といってもジョセフ・ロージーとのコンビでの、「召使」('63)「できごと」('67)「恋」('71)は、映画史にも残る仕上がりであった。赤狩りでハリウッドを追われたロージーとのコンビは、赤狩りそのものの不条理もさることながら、この解答を明確に示さない、事象を縷々と語るだけの作劇は、大いに新たな訴求力を映画にもたらし、ロージーの一時代をさらに骨太にするものでもあった。ピンターの名前が脚本にあるというだけでＴＶ深夜放映で拾ったポール・シュレイダーの「迷宮のヴェニス」('90)もまた惨劇が次々と起こる中に、独特のヴェニスの風合いを閉じ込め、きわめて魅力に満ちた作品であった。俳優としてのピンターを観ることはできなかったが、その風貌からしても性格俳優というような存在感のある、これも独特の地平を保っていたことは想像に難くない。筆者などには、大いにカッコイイ、その存在のありようだった。これからも見逃しているピンターの名で、その作品を拾うことだろう。幅広いその興味のありようこそがその魅力でもあったし、その興味のありようの道筋にこそさらにまた魅惑も高まる存在だった。合掌。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 27, 2008

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  確かにＴＶドラマのほうが日本映画より安心して見れはする！

  日頃ＴＶドラマを見る習慣を失っているけれども、緒形拳氏の遺作となれば心してと、録画しながらではあるが、ようやく「風のガーデン」を観了した。死を予期しながらの死のドラマであるだけに、鬼気迫るということもできようが、倉本聡独特の書割の上に成り立つドラマでもあるだけに、そこまで悲壮感も匂わぬのも救いか。いずれにせよ見事な死への道筋ではある。ドラマはしかし中井貴一が軸となり、その誘惑に負け続けたという麻酔科医の女道楽を背景に、これまた死への道筋を追うということだから、臨場感はそれなりではある。がしかし、女たちが群れ集うがごとき道楽もの、好色漢にはいささかも中井貴一が見えてこない違和感は最後まで気になり、ドラマの奥行きをすぼませてもいるような気もして、気になると、その女性関係はみな綺麗ごとにしか見えてこないから、看護婦長も、歌手も床屋の女主人も、平面の中を行き来する点景人物にしか過ぎなくなる。もとより一族再会を企図した倉本ドラマからいえばそれも余分な気がかりかもしれぬし、そう意識を変えてしまえば、緒形拳、黒木メイサ、神木隆之介との親子関係のドラマとしての細部はこしらえものではあってもいかにもそれぞれが生きて臨場感は持ち得た。ことに黒木メイサはかつて山口百恵が持ち得ていたような、芯の張りつめたような、凛とした青春のみが生む個性で、これでは人気も沸騰しようかというところではある。こうして時々発見する新進女優ではあるが、その彼女たちがさらに飛躍すべき本編というべき映画が続かないうらみは延々と持続している。それを見越してかどうかは知らぬが、この黒木メイサ、舞台を軸足にして活動というからある種賢明ではある。いつのまにかトウのたった元女優のＴＶタレントだけにはなってほしくないものではある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 24, 2008

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  諸般の事情は汲まないで観れば明らかな愚作テイスト。

  イシュトバン・サボーという名前だけに魅かれて観たが、「メフィスト」('81)や「太陽の雫」('99)の骨太な作風とは一変、ハリウッドでタガが緩んだかとしか思えぬのが「華麗なる恋の舞台で」(2004)。酷評に過ぎるのは承知だが、期待が大きいだけにこれは落胆。ゴールデングローブのコメディ・ミュージカル部門で女優賞を受けているアネット・ベニングと、曲者俳優ジェレミー・アイアンズをもってしても、ドラマは一向に盛り上がらない。女性群に少々評判もよいのはその恋のさや当てが身につまされるからかもしれぬ。とは思うが、その恋の対象が大女優が懸想するような魅力に溢れていないのが当方には難点の最大。ようやく終盤の舞台でその恋のあれこれの尾ひれをぶっちぎる、その大団円こそが見どころとも言えばいえるが、いかんせん恋愛に含蓄も大人の風合いもないとなれば、少々シラケ鳥は飛ぶなあ。まあ基本的に題材がイシュトバン・サボーの、似ても似つかぬ場違いなものだったというに過ぎないだろうが、キャリアに傷がつく出来ではある。まあそこまでの映画作家だったのかもしれぬが、落差は大きい。1本だけでも、感嘆すべき力量を示した映画作家が、一向にその鮮度を垣間見せることなく終わる作品を造るというのはママあることでサボーばかりではないが、作品数も少なく、年齢的にも、「メフィスト」と「太陽の雫」の作者としてのみ定着させておこうと、改めて思った次第。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 23, 2008

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  4度の映画化は、この役者でこのリメイクをということかも。

  元々はブロードウェイの舞台劇、それをまずはルイス・マイルストンが「犯罪都市」('33)として、次が今回拝見したハワード・ホークスの「ヒズ・ガール・フライデー」('40)、そして、先頃観ることができたビリー・ワイルダー「フロント・ページ」('74)と、さらには「スイッチング・チャンネル」('88)というのまである。主演者だけを観ても、アドルフ・マンジュー、ケイリー・グラント、ジャック・レモン、バート・レイノルズと、連なる。いかに魅力的な原作(ベン・ヘクト＆チャールズ・マッカーサー）かということだが、トーキー間もないころの初映画化作品は、めくるめくセリフの多さだから、ある種大冒険であっただろう。このハワード・ホークス版で言うと一番の違いはロザリンド・ラッセルの役柄、ビリー・ワイルダー版ではスーザン・サランドンの演じたと言ってもいいが、まだ新進女優時代でさしたる活躍の場も無くジャック・レモンの婚約者というおとなしげな役どころだったが、ビジネスガールを演じて随一という当時の評判ロザリンド・ラッセル、喰わせ者の新聞記者ケイリー・グラントの元部下元妻、しかも婚約者ラルフ・べラミーをひきつれて別れの挨拶というところから始まる。よってメインはこの元夫婦の丁々発止の掛け合いが目玉ともなっている。「赤ちゃん教育」('38)ではキャサリン・ヘップバーンに引きづられるような役柄だったのが、ここでは生き馬の目を抜くがごとき策謀も渦巻く新聞記者の世界を舞台に、リーダーシップよろしく喰わせ者で喰えない男を、ケーリー・グラントがこれまた軽快に演じているのはお見事。脱走死刑囚を発見して特ダネにすべくやっきとなるこの元夫婦のてんやわんやは、ふたりの持ち味で趣を変えた面白さだ。婚約そっちのけでふつうの生活に戻りたかったはずのロザリンド・ラッセルが職業病というべき姿に戻って、いやはやの不況に強いというスクリューボール・コメディ絶好調のこの作品、少々は元気になれるかもしれない。ヒッチコックでよく見るケイリー・グラントはそれもその筈、一度引退したのを「泥棒成金」('54)のとき口説かれてカムバック、そのとぼけたような風合いはサスペンスの中の絶妙の＜間＞を生んでいたように思う。なかなか同様のキャラクターを見つけるに難しく、やはりそのキャリアをさかのぼると得難いスターであったなあと、改めて感嘆。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 18, 2008

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  古くならないのがコメディセンス、ウソもホントに捲き込むスクリューボール！

  あらゆる映画のエキスが詰まっている映画の'30年代だが、元祖スクリューボール・コメディといわれる「赤ちゃん教育」('38)はようやくおめもじ。果たしていま観てこの面白さを存分に味わえるか、いささか疑問の部分もあるが、そこはそれ、乗せられてみようということもあり、この一気呵成のスクリューボールの駆け込みを体験した。赤ちゃんと言ったって、実は豹の赤ちゃん、これをボールの軸にして、転がり続けているあいだに、結婚間近のケイリー・グラントが迷惑お騒がせウーマンと呼ぶべきキャサリン・ヘップバーンに遭遇して、その豹の赤ちゃんを媒介に、一時は留置場のお世話にもなる案配。どうしてそうなるの？　というところがスクリューボル・コメディのスクリューボール・コメディたる所以。なんのことはない婚約者にも振られて、行き着くはそのお騒がせキャサリンとめでたしめでたしのエンディング。ケイリー35歳、キャサリン32歳の作。そのラストの高みから手を伸ばしキャサリンを救う姿を観ていると、同じケイリー・グラントがラシュモア山でマリー・エヴァ・セイントを救う「北北西に進路を取れ」('59)のラスト・シーンも思い出され、おそらくヒッチコックの頭の片隅にはこの作品ののラストをアレンジするたくらみもあったかと、わがスクリューボールも回転する。強引、牽強付会の展開と冷めて観てしまえばそれだけの作品でも、個々のシーンのアイディア溢れるハチャメチャはまさしく笑いのアヴァンギャルド、男性路線のハワード・ホークスのコメディセンスを学ぶにも格好。そのエネルギッシュにこそ拍手かもね。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 16, 2008

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  たった一人の討ち入りに、赤穂浪士が駆けつけた！

  ときは元禄14年12月14日、となれば赤穂浪士――なんと数々の赤穂浪士を観てきたことだろう。一時期は毎年のこの時期定番、オールスターキャストで組んだ忠臣蔵を新作で迎えるのが映画界の習わしだった。東映が一番多かったような気もするが、その習慣が血の中に埋め込まれているのか、この時期となるとわが赤穂浪士の血が騒ぐ。風誘う花よりもなお我はまた……というわけである。そこで探しだしたのがＶＨＳではあるが「薄桜記」('59)、義士外伝・堀部安兵衛の巻という趣であるが安兵衛演じる勝新太郎の映画であるよりは、市川雷蔵の丹下典膳という剣士が雷蔵らしき孤影の蔭をいっぱいに塗り込めた、ある種耽美の映像。それも安兵衛が見染めた女が典膳と一緒になるといういささかひねったからくりで、にもかかわらず、両者の互いに見せる友情というか見識もなかなかのもの、終局すさまじき純愛に殉じていく夫婦愛も出色なら、片腕をもぎ取られ、短銃で撃ち抜かれた体をかばいながらの決闘シーンもありきたりでないすぐれもの。五味康祐得意の荒唐無稽の創作人物を伊藤大輔脚本＋森一生監督が華も実もある人物像に昇華、雷蔵前期の代表作のひとつであるだろう。溝口健二亡きあと市川菎をエースとして、増村保造がデヴューして年3.4作を常態としていた大映にあって、なお中堅にこの森一生(脚本増村保造の「ある殺し屋」('67)という名作もある！）や池広一夫、三隅研次までいたことを考えると、現代日本映画でこの中の一人とでも比肩できる映画作家がいるだろうか。裏方の充実をともなう撮影所システムが崩壊したせいもあるだろうけれども、お寒いところではないだろうか。雷蔵のように早世したスターはそれだけでスターとしての天寿を全うしたと言えるし、「剣」('64)という三島由紀夫の早世の哲学を映画化した名作もある。生きながらえて役柄を変え、キャラクターを変えて生き延びる役者人生もひとつのありようだろうが、雷蔵のようなひっそりとした見定めたような孤影の印象は当然薄まっていくだろう。まこと天の思し召しは気まぐれでありながら必然なものなのかもしれない。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 15, 2008

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  ～少し愛して、ながく愛して～の含蓄。

  垂涎の「スタイル・オブ・市川菎」が届き、その収録の内、ＣＭ集を一気に観た。なんといっても白眉は、～少し愛して、ながく愛して～の大原麗子。当時より、彼女の代表作と断言してはばからなかったが、この女っぽさはたまらない。ＣＭを代表作と呼べばその女優を貶めているように聞こえるかもしれないが、とんでもない。やりようではここまでのドラマを示す媒体なのだから見事に一ジャンルである。ここには女性の女性らしい美点の多くが、ふくよかに横溢して、ヘタなドラマなど、この６０秒足らずのＣＭの足元にも寄れないだろう。女のやわらかさ、優しさ、可愛さ、しなやかさ、或いは天衣無縫を、そしてその美しさを典雅に示したこのＣＭを観て、こんな恋人がいれば、いっさいの辛き出来事も吹っ飛ぶだろうなあと、身を寄せた男たちも雨後のタケノコだったろう。加賀まりこ、三浦布美子のものも素晴らしいが、見通すとやはり市川菎が女をとらえて、その女性的資質をフィーチュアする名人であったなあと、改めて感じるのである。女性が美しくなった時代ではあるけれども、女性の美しさは反比例するように目減りしている時代に、ドラマこそ女の美しさを抽出していくべきとも思うが、いっこうにその造り手が現れてこないのは、女を描ける映画作家が払底しているせいだろうと、また想ったのである。所詮女がワカらなければ男だって描けまい。描くのが苦手と、描けないというのは違うのである。男を描いている目線の彼方に女も透けて見えるのである。透けて見えた女が空疎であれば、もはや人間などとても描けまい。この大原麗子を観ていると、つくづく、女の感情、女のふり幅、女の肉体の発することばに、あえかな文化を感じてしまうのである。やっぱり最後の巨匠といわれる所以ではある。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 9, 2008

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  技術があっても面白くならない典型的失敗作の例。

  香港の高倉健という認識で筆者の覚えも高いアンディ・ラウだから食指も動いた「イエスタデイ、ワンスモア」(2004)は、アンディ・ラウも、サミー・チェンも悪くないけれども、面白くない。最初から最後まで出来レースを出来レースのままに見せられる後追いの映像をテンポだけはよく見せられる感じで、メリハリ盛り上がりともに終始、平板なまま。どうもタイトルからして「華麗なる賭け」('68)を参考にして粋とかっこよさをアレンジしたいところなのだろうが、その「華麗なる賭け」のリメイクである「トーマス・クラウン・アフェアー」('99)と同じ失敗をこそ踏襲したおもむき。これだから表面だけのリメイクはかなわない。「華麗なる賭け」の素晴らしさは、時代をとらえ、男の夢想をとらえ、女の時代の幕開けを示したからこその、颯爽たる映画の息遣いも生まれたのに、リメイクは同じミシェル・ルグランのテーマ＜風のささやき＞まで使いつつも、これも嘘っぽさが前面に出て、何のためのリメイクかということだが、これまたほぼ同工異曲の失敗を踏襲。ちょうど惚れ過ぎた女に、その惚れぶりが地に足がつかぬのを見透かされたごとき案配。映画がわからぬ映画監督も困るが、映画の心がどう宿るかということもわからぬのもさらに困る。しらけ鳥がここかしこ跳んで、それもいささか居心地悪くバツ悪そうな姿で飛ぶのは、観る側にしてもやっぱり困る。（コレ、この作品より近頃の日本映画にこそ言いたいことなんだけど、作品名指しだと差しさわりもあるし、外国映画に借りて言っておこう！）ほんとうのオリジナリティがないと、口直しが必要な作品がさらに欲しくなるのも映画詣でのいっちゃん辛いところとなる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 7, 2008

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  いま観ても青春の必然は明確に刻印された一名作。

  思春期に観た作品を改めてみるのはいささか恐ろしい部分もあって、先延ばしにしていたけれども、よおし！と一気観、存外楽しめてホッ、である。吉永小百合デヴュー4年目、でありながらこの時既に出演作品40本を超えた映画隆盛期の名作「泥だらけの純情」('63)、まだ緩んでしまう前の中平康監督作品。写真の、裸電球、カーテンさえない窓、家具ひとつない６畳ひと間が、ふたりがいる空間のもの淋しさを見よ、というところである。吉永小百合のいつも彼方を遠望するような面持ちさえが時代の想いに通低して、それぞれの＜想い＞だけが柱の青春期だったのである。次の年には東京オリンピック、そして所得倍増時代になだれ込んでゆくわけだが、現代のカムフラージュされた格差社会とは明らかに違う明確な貧富の差がくっきりの格差社会の中の、大使令嬢とチンピラやくざの純愛、いささか荒唐無稽でありながら、しっかりその蓋然性を埋め込みながらの遂には心中への道行き、なだらかな説得は殊勲甲であろう。母親に細川ちか子、やくざの兄貴分に小池朝雄と、そのそれぞれがまた微妙な距離でこの純愛成立に現実感を与える。現代の不況さえものの数ではないほどの貧しき時代にこそ生まれる夢想が育む浜田光夫＋吉永小百合コンビの最高作とも言っていいかもしれない。存外その行く末も見定めながらの現実認識も携えた心中への流れなのである。果たしてこの作品が現代でどうとらえられるか、知りたいものではある。或いは現代にこのお話をそのまま持ってくるのは、まさしく無理だから、いかような修正と、徹底した換骨奪胎を必要として、それを考えるだけで映画脚本の修練になるかもしれない。事実、さらに8年後、原作は違えど、ふつうの女の子とチンピラやくざの青春彷徨をあくなき生命感でたどったのが「遊び」('71)の成果である。青春を極めて行けばおとな社会との断絶は必至で、極めて行く青春は死に至る病であるとも言えて、半死半生の上実人生というおとな社会にウンザリというスタートをするのはまれなことではないだろう。スンナリ行けるのは極めないからこその在りようで、生還したものも、人は傷跡を消失したかのように、その後も生きていく。時代との軋轢を正面衝突のように味わうのが青春で、その衝突を回避すべく生活の知恵を積んでいくのが俗世に処す人の在り様とも言えるわけである。 　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 6, 2008

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  アメリカにおける忠臣蔵みたいなもの？

  アメリカ建国200年記念を謳った超大作、真珠湾攻撃に成功してさらに地の利を拡大しようかというミッドウェイ海戦、当初の計画では圧倒的に有利であったと言うが、無線を傍受されることにより、無残な敗北に傾斜する日本軍を追い詰める勝利の分水嶺ともなった闘い。参戦した人々もまた当然いまは無く、この主だった出演スターであるチャールトン・ヘストン、ヘンリー・フォンダ、三船敏郎、ジェームズ・コバーン、グレン・フォードといった面々も既に鬼籍に入った「ミッドウェイ」('76)。ドラマの部分はあっさりしたものだが、行方知らずの闘いがアメリカ有利になる様相を描いて、アメリカにしてこの勝利なかりせば、という想いもあるのだろう、その誇りかな軌跡が点綴される。ヘンリー・フォンダなど伝記を読むと、戦時原爆投下も事前に知る位置にあったというし、それぞれ参戦への想いはその出演の中でさまざまであったろう。幾度も演じた山本五十六を三船敏郎がここでも演じる。海戦そのものが主役で、スターも並べただけでさしたる見せ場も無い感じで、三船もまた手慣れたところではあっただろう。しかも日本軍も全て英語という違和感は大いにあって、なんじゃこれはでもあるが、アメリカ寄りにならない工夫もこらし、およそこんなものだったかもしれないと、史実の結果を知る観客は想うだろう。 無線が傍受されず、計画通りことがはずんだらという、タラレバもしてみたくはあるが、もともと無謀すぎる国力の差、実際アメリカが恐れたように日本軍唯一の勝利への道筋だったのだろう。その意味では勇壮ばかりではない歴史的意味を感じさせる建国記念作品ではあり、それなり日本に気も使った出来ではある。いずれにせよ戦争はやると決めたものが参戦しないのだから、将棋の駒となるやらされるものはたまったものではないわけだ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Copyright (C) 2008 Ryo Izaki,All rights reserved

  Dec 2, 2008

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