翠 の 風

2007/03/16(金)22:32

「涙の射殺魔・永山則夫事件 六〇年代の少年犯罪」

今日読み終えた本(156)

題名:「涙の射殺魔・永山則夫事件 六〇年代の少年犯罪」 著者:朝倉喬司 発行:新風舎文庫 頁数:268 読みやすさ:2/5 おすすめ度:4/5  凶悪な少年犯罪が半ばあたりまえのようになってしまった現在ですが、その 草分け的な事件でもある連続射殺事件を追ったルポでした。1ヶ月ほどの間 に4人の人間を次々とピストルで射殺するというショッキングな事件でした。  ときは1969年、まさに日本が高度成長のまっただ中で、社会全体が“スピー ド”を追い求めていた時期、彼は反対方向に向かって“スピード”を上げてしま ったのかもしれません。不遇な幼年期を過ごした彼は、青森から集団就職で 上京し、歪んだ心のやりどころもなく、社会から、そして自分からも逃走をし続 けたあげくの凶悪犯罪となってしまいました。  一方で彼は服役中に「無知の涙」や「木橋」など、文芸的にも優れた作品を 執筆したり、マルクスの「資本論」を読破して傾注したり、なにかと話題が多い 人物でもありました。もしかすると、服役することでやっと自分の“居場所”みた いなものを見つけたのかもしれません。  彼はその著書の中で、自分の犯罪は自分に貧困や無学をもたらした社会が 原因であるかのような主張をしているようですが、その罪の深さの前には何を 言っても言い訳でしかないでしょう。(という私もその著書を実際読んだわけで はないのでこれにコメントする資格はないのでありますが・・・そのうち読んで みたいとは思います)  今、なぜ「永山則夫」なのか?ということを不思議に思いましたが、現代の少 年凶悪犯罪との背景や時代のコントラストを所々に差し挟んであり、今このル ポをあえて出す著者の意図もその辺にあるのかな、という印象を受けました。  このように内容自体はとても深く、興味を持って読んでいたのですが、文章 がとっても哲学的で難解な言葉が多く、うんざりするところが非常に多かった のがしんどかったです。  ところで、永山則夫というと、三上寛の唄「ピストル魔の少年」という曲を思い 出します。唸るような、呼びかけるような、悲しい声が心に響きます。(ちなみ にこの曲は「要注意歌謡曲」の指定を受けていて、放送では流れていないと思 われます)  三上寛は青森出身のシンガーで、貧困層や労働者をテーマに、過激な歌詞 と情念あふれる唄でフォーク界でも一目置かれる存在ではありましたが、その 過激さゆえにメディアに乗る機会も少なかったように思います。  それにしても、この著者朝倉喬司氏といい、三上寛氏といい、“凶悪犯”永山 則夫に対して、何か哀れみというか、愛情というか、暖かいまなざしを投げか けているように思います。それだけ永山則夫という存在は、一つの時代の申し 子的な、どこか人の心をかき乱す「何か」を持っているような気がしました。  なお、1997年8月1日、東京拘置所において永山の死刑が執行されました。  享年48歳。    ピストル魔の少年  作詞・作曲 三上寛    セリフ    「殺人や暴行が犯罪だってのは、ありゃ体制の冗談だ    永山則夫はもしかしたら、冗談を言っていたのに違いない」    ♪    ピストル魔の少年よ、ぼくの友達よ    誰があんなに君を悲しくさせてしまったのか    誰があんなに君を淋しくさせてしまったのか    引き金を引く時に、涙が出たか    赤い血を見た時に、おふくろ思ったか    ピストル魔の少年よ、ぼくの友達よ    ぼくも君と同じ青森、同じ夢を見た    見えない故郷は東京にあったか    アメリカ製のハンカチか、新宿のジャズ喫茶か    ピストル魔の少年よ、ぼくの友達よ    誰がこんなに君を苦しめ、君を追い込んだ    誰がこんなに君を苦しめ、君を追い込んだ

続きを読む

総合記事ランキング

もっと見る