(9)iPS細胞とSTAP細胞【その2】■兵庫)iPS初臨床/神戸市に追い風 -asahi.com 2014年9月13日10時50分 神戸を再生医療の世界的な拠点に――。 iPS細胞(人工多能性幹細胞)の初手術の舞台になった神戸市の医療産業都市には、iPS細胞を使った創薬など再生医療関連の企業 が続々と進出している。 理化学研究所のSTAP細胞問題に揺れたが、世界が注目する今回の手術は、神戸市にとっても「追い風」(市幹部)だ。 手術が行われたのは医療産業都市の中核になる先端医療センター病院。 使われた細胞は、隣接する理研の発生・再生科学総合研究セン ターでつくられた。 神戸市は、今回の成果を後押しするため「神戸アイセンター(仮称)」を新設する。 目の再生医療の拠点にしたい考えだ。 細胞の作製から治療、リハビリまで実施できる施設にするため、病床は30床設け、細胞を培養する専用のクリーンルーム、研究所、企 業の拠点などが一つの建物に入る。来年中に着工し2017年春の開業を目指す。 産業界の動きも活発だ。 製薬大手の大日本住友製薬(大阪市)とバイオベンチャーのヘリオス(東京都)は、再生医療の研究所を神戸に設置。 今年2月には共同で新会社「サイレジェン」を医療産業都市内に設立した。 今回の手術を含めた臨床研究の成果を活用し、iPS細胞を使った新薬を開発、4年後の販売開始を目指している。 このほか、できた細胞の質の評価や、細胞の輸送など、関連企業の集積も進む。 8月には初めて、こうした企業22社の幹部が集まる勉強会が開かれ、産業化への課題を話し合った。 臨床研究を率いる理研の高橋政代氏は12日の会見で 「医療産業都市をつくろうという皆さんの厚いサポートを受けて進められた」 と話した。 神戸市の久元喜造市長は 「加齢黄斑変性の本格的な治療法の確立に、神戸発の新しい医療技術が貢献することを期待している」 とコメントした。 (下司 佳代子) ■ iPS、初の臨床手術 理研など、目の難病患者に移植 -asahi.com 2014年9月13日05時00分 理化学研究所などのチームは12日、目の難病患者の皮膚から作製したiPS細胞を網膜の組織に変化させ、患者に移植する手術を実 施したと発表した。 手術は成功したといい、患者の容体も安定している。 2007年にヒトでiPS細胞が作製されてから、実際に患者の体に移植したのは世界で初めて。 ▼2面=実用化へ一歩、36面=期待の声 ■安全性、数年かけて確認 今回は治療効果より、安全性の確認を目的とした臨床研究で、計6人に行う予定。 再生医療の臨床応用に向けた大きな一歩となる。 理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の高橋政代プロジェクトリーダーを中心に研究を進め、先端医療振興財団(同)の先 端医療センター病院が手術を実施した。 理研などによると、手術を受けたのは、兵庫県在住で、失明の恐れもある目の難病「加齢黄斑変性」の70代女性。 視力の低下で矯正しても0.1にいかない状態だった。 手術計画は、昨年7月に厚生労働省が承認。 チームは、昨年11月に患者の皮膚の細胞を採取してiPS細胞を作製し、さらに網膜色素上皮という細胞のシートを10カ月かけて用 意した。 この日の手術で、網膜の下にある傷んだ細胞と不要な血管を取り除いたうえで、縦3ミリ、横1.3ミリのシートを右目に移植。 シートは目的の場所に置くことができ、女性は7日間程度で退院できる見通しだという。 今後は最低4年間は、シートや眼球の状態などを定期的に調べて安全性を確認する。 さらに、視力の変化や病気の進行抑制なども評価する。 iPS細胞はがん化したり目的外の細胞になったりするリスクがあるため、チームはがん化にかかわる遺伝子を使わない作製方法を採 用。 遺伝子に異常がないことも確認した。 分析に協力した京都大の山中伸弥教授は 「いまの科学レベルではこれ以上リスクを小さくできない、というところまで小さくなったと考えている」 と自信を見せる。 手術後も、シートに問題が起きていないか調べ、患者のがん検査も定期的に実施。異常が見つかった場合は、レーザーで焼いたりシー トを取り除いたりするという。 手術後の記者会見で、執刀した先端医療センター病院の栗本康夫・眼科統括部長は 「ひとつのステップに過ぎないが、患者がよい経過を得られるよう最善を尽くしたい」 と語った。 ◆キーワード <加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)> 年をとるにつれ、目の網膜の中心部にある「黄斑」に異常が出る病気。網膜の下の色素上皮という組織が傷み、ものがゆがんで見えた り、最悪の場合失明したりする。 日本人に多い型では、50歳以上の有病率は1%程度、患者数は推定約70万人。 〈+d〉デジタル版に会見要旨 ■STAP問題でセンターの解体求める -NHK 2014年6月12日 21時37分 STAP細胞の問題で、理化学研究所の改革委員会は12日、研究不正の再発防止のための提言をまとめました。 論文の発表に至るまでの経緯は極めてずさんで、問題が起きた研究センターには、不正を誘発する構造的な欠陥があるとして組織の解 体を求めるとともに、理化学研究所に対し、STAP細胞そのものがねつ造ではなかったか確かめるよう提言しています。 STAP細胞の問題を受けて、ことし4月に設置された理化学研究所の外部の有識者で作る改革委員会は12日、最後の会合を開き、 研究不正の再発防止に向けた提言をまとめました。 その中では、論文を執筆した小保方晴子研究ユニットリーダーが採用された経緯について、 「必要なプロセスをことごとく省略する異例ずくめのもので、日本の代表的な研究機関としてにわかには信じがたいずさんさだ。 iPS細胞研究をりょうがする成果を得たいためだった可能性が極めて高い」 と厳しく指摘しています。 そのうえで、問題が起きた「発生・再生科学総合研究センター」には、 「研究不正行為を誘発したり抑止できなかったりする構造的な欠陥があった」 として、組織を早急に解体し、新たに立ち上げる場合はトップを交代して体制を抜本的に見直すべきだとしています。 また提言は、理化学研究所本体についても、 「事実の解明に対する積極性を欠き、問題をわい小化しようとしている」 などと厳しく批判しています。 そして新たに見つかった疑義についても十分な調査を行うよう要請するとともに、STAP細胞そのものが本当に存在するのか、それ ともねつ造だったのかを確かめるため、熟練した研究者の監視のもとで小保方リーダーに再現実験を行わせるよう求めています。 さらに提言は 「理化学研究所が改革を十分に実行しないのではないかと危惧を感じている」 として、外部の有識者による監視委員会の設置も求めました。 提言は最後、 「日本の代表的な研究機関である理化学研究所が問題を真摯(しんし)に総括し、再発防止策を実行することができるのか国内外から 注目されている。 研究不正を巡る不祥事は科学者みずからによって解明されなければならない。 理化学研究所が日本のリーダーとして範を示すことが期待される」 と結ばれています。 改革委員会がまとめた提言について、理化学研究所の野依理事長は 「提言については、私自身を本部長とする研究不正再発防止改革推進本部で、高い規範を再生するための糧として真摯(しんし)に受 け止め、内容をしっかりと吟味したうえで研究不正を抑止するため実効性ある計画を策定し、早急に実行に移していきます」 とするコメントを発表しました。 理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーの代理人を務める三木秀夫弁護士は12日夜、大阪市内で報道関係者の取材に応じ、 「非常に厳しい内容で、特に小保方氏本人に対する指摘については非常に厳しく真摯(しんし)に受け止めなければいけないと認識 している」 と述べました。 その一方で、小保方リーダーとはまだ連絡が取れていないということで、提言の詳しい内容や今後の対応については明言を避けました。 理化学研究所とは 理化学研究所は、大正6年に設立された自然科学系の総合研究所で、平成15年に文部科学省が所管する独立行政法人となりました。 国から配分された資金で研究活動に取り組んでいて、今年度は研究費や人件費、施設の運営費などとして834億円余りの予算が計上 されています。 本部のある埼玉県和光市など国内の9か所に拠点を構え、常勤と非常勤合わせて2800人余りの研究者が在籍しています。 理化学研究所のトップは、平成13年にノーベル化学賞を受賞した野依良治理事長で、この10年余り理事長を務めています。 組織運営は野依理事長と5人の理事で作る理事会が担っていて、理事の内訳は文部科学省出身が2人、元の研究者が2人、研究所の事 務職出身が1人となっています。 5人の理事は研究、人事、経営企画、コンプライアンスなどそれぞれ担当を持ち、研究不正が起きた場合の対応は、ふだん研究そのも のを担当する川合眞紀理事が総括することになっています。 しかしSTAP細胞の問題を受けて、ことし4月に設置された理化学研究所の外部の有識者で作る改革委員会の議論では、理事の役割 やその資質を問題視する意見が相次ぎました。 特に問題となったのが、5人の理事のなかにSTAP細胞のような生命科学の研究に詳しい理事が1人もいなかったことです。 改革委員会は 「研究の7割を占める生命科学を専門とする理事がいないのは普通の常識では考えられない。 もっと適材適所の理事体制を作るべきだ」 と指摘しています。 また、研究不正問題に責任を持って取り組む理事を新たに置くべきだという指摘や、経営に関する第三者の意見を定期的に聞くために 新たに「経営会議」を設置すべきだという意見が出されていました。 さらに改革委員会はSTAP細胞の問題が起きた「発生・再生科学総合研究センター」の組織運営についても議論を進めてきました。 「発生・再生科学総合研究センター」は平成12年に神戸市に設立された研究拠点で、再生医療の実現に向けた研究などに取り組んで います。 組織のトップは、「カドヘリン」と呼ばれる分子の研究で世界的に知られる竹市雅俊センター長です。 そして、竹市センター長のもとで今回のSTAP細胞の論文を発表したのが、笹井芳樹副センター長と小保方晴子研究ユニットリーダ ーらの研究グループです。 改革委員会は 「研究不正の再発を防止するためには、組織と個人の責任を明確にしなければならない」 などとして、組織のトップである竹市センター長や、STAP細胞の論文に著者として大きく関与した笹井副センター長ら幹部を交代 させ、組織を大幅に刷新するよう求める方針を示しています。 改革委員会 6人の外部委員で構成 理化学研究所の、外部の有識者で作る改革委員会は、ことし4月初め、STAP細胞の論文にねつ造や改ざんの不正が認定されたこと を受けて設置されました。 正式には、「研究不正再発防止のための改革委員会」という名で、大学教授や弁護士、公認会計士など、6人の外部委員で構成されて います。 委員長は新構造材料技術研究組合の岸輝雄理事長が務めています。 この改革委員会の役割は、第三者の視点から改革に向けた提言をまとめ、理化学研究所の野依良治理事長に提出することです。 提言は当初、議論の開始から1か月程度をめどにまとめられる予定でした。 しかし、理化学研究所を「特定国立研究開発法人」に指定する法案の今の国会への提出が見送られたことから、拙速に結論を出すこと を避け、2か月余りにわたって議論が続けられてきました。 この間、STAP細胞の論文を巡っては、新たな疑義が次々と明らかになりました。 先月21日には、不正と認定された2つの画像以外にも、複数の画像やグラフに疑義があるとする調査内容の文書を、研究所内のチー ムがまとめていたことが分かり、改革委員会は研究所に対し、この件の調査を求めました。 しかし、研究所は一部の著者から論文を取り下げる意向が示されていることを理由に、現在も調査を行っていません。 また、今月3日には、STAP細胞を培養してできたという細胞を詳しく分析したところ、この細胞は、実験に使っていないはずの別 の種類のマウスの細胞だった疑いが強いとする研究結果を、国内の複数の研究チームがまとめていたことも分かりました。 この件についても、改革委員会は調査が必要だとしていますが、研究所は調査しない方針を示しています。 こうした理化学研究所の姿勢について、改革委員会の岸委員長は今月2日の記者会見で、 「内容に区切りがついていないときは、調査は継続しなければならない。 中途半端にトカゲのしっぽを切って逃げるようなことをすると、いちばん損するのは理研そのものではないか」 などと述べ、厳しく批判していました。 (了) ■山中教授:「iPS細胞にがん化リスクなど三つ誤解ある」 -毎日新聞 2014年02月10日 21時14分(最終更新 02月10日 22時40分) ◇STAP細胞の開発に絡み、会見 iPS細胞(人工多能性幹細胞)を開発した京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授は10日、京都市内で記者会見し、理化学研究所などの研究 チームによるSTAP細胞(刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得細胞)の開発に絡み、 「一般の人や報道は、iPS細胞の方ががん化のリスクが高く、作製が難しいなどと三つの誤解をしている」 と指摘した。 山中教授が誤解だと指摘したのは ▽iPS細胞はSTAP細胞よりがん化のリスクが高い ▽iPS細胞の作製効率は0.1%、STAP細胞は30% ▽iPS細胞の作製はSTAP細胞より難しい −−の3点。 がん化については、マウスのiPS細胞作製を発表した2006年当初は染色体に遺伝子を取り込ませる方法やがん遺伝子を使い、がん化の頻度 は高かったが、現在はいずれも使っていないと説明。 効率についても、当初は約0.1%だったが、09年に20%に上昇させることに成功したと話し、STAP細胞は、酸に浸した後に生き残った細胞が 約30%の確率で多能性を獲得するため、約10%とするのが正しく、このうち増殖する細胞になるのは1〜2割程度だと指摘した。 作製の難しさは 「iPS細胞は世界中の誰でもどこでもできる簡単な技術で、(別の万能細胞の)ES細胞(胚性幹細胞)の培養法などが応用できたため世界中で急 速に普及した」 と説明。 STAP細胞について 「ES細胞やiPS細胞との互換性がないと、積み重ねられた研究成果が利用できない」 と指摘した。【根本毅、堀智行】 (了) ■STAP細胞が映す、科学立国の期待と課題 若き女性科学者の研究成果は日本に何をもたらすか - 東洋経済オンライン(2014年2月7日09時00分) 元記事 1月29日、理化学研究所の発表に、日本中が「ノーベル賞級の発見」と色めき立った。リンパ球などの体細胞に強い刺激を与えると、細胞分化の記 憶を消して初期化され、万能細胞である多能性細胞に変化する原理(刺激惹起性多能性獲得細胞=STAP細胞)を発見し、その論文が英国のネイ チャー誌に掲載されると発表した。これまでの細胞分化や動物発生に関する常識を覆す、画期的な研究だ。 2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授が発見したiPS細胞は、ヒトの皮膚細胞に4つの遺伝子を導入することによ り、いろいろな細胞に分化する以前の、未分化の多能性細胞を作る。この遺伝子導入が複雑で難しいのだが、STAP細胞ではこれが不要だ。 研究グループは理研と若山照彦・山梨大学教授、ハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授といった実績のある研究者との共同研究となるが、 論文の筆頭者はわずか30歳の女性研究者、小保方晴子博士(理研・細胞リプログラミング研究ユニットリーダー)だ。 論文掲載まで何度も実験を重ねた ネイチャー誌は、米国のサイエンス誌と並んで世界で最も権威ある科学系の学術誌だ。掲載される論文は、その分野専門の科学者による厳しい査 読を経るため、掲載されること自体が非常な名誉であり、その論文が世界的に認められたとみなされる。小保方博士自身も査読の段階で幾度も却 下されたが、あきらめずに追加の実験を行ったという。その粘り強い努力が実り、ついに掲載に至った。 だが、この論文はまだ試験管内実験レベルでの成功。ハーバード大でサルへの実験が行われ、ある程度成功を収めているというが、ヒトへの応用 にはまだまだ時間がかかる。また、この原理のメカニズムの解明も必要だ。長期的に成すべき研究テーマは数多い。 一方で、論文の掲載後は世界中の研究者の検証を受ける。こういった手続きを経て、初めて評価が確定することになる。ネイチャー誌への論文掲 載はスタート地点であって、本当の評価はこれからだ。 さらに、2013年に東北大学の出澤真理教授のグループが骨髄や皮膚などの生体内に存在する多能性幹細胞を取り出す技術で国内特許を取得す るなど、近似する研究を進めている研究者も世界中にいる。 必要なのは若い研究者の長期的な育成 日本人の科学系ノーベル賞受賞者のほとんどが、受賞理由となった研究論文を発表したのは30~40歳代だ。なかでも1949年に物理学賞を受賞し た湯川秀樹博士の中間子理論や2002年に化学賞を受賞した田中耕一氏の研究は、いずれも28歳の時と最も若い。61歳の時の研究が受賞対象と なったニュートリノの小柴昌俊博士は例外的存在だ。 今回の発表を機に、博士のプライバシーに関する取材が殺到し、研究に支障を来たすまでになっている。分子生物学の研究は日進月歩であり、世 界との強豪も厳しい。時間ばかりでなく、研究資金獲得という障壁もある。 科学立国を目指す日本がまず成すべきことは、科学者個人に対するのぞき趣味を排すると同時に、目先の研究成果に一喜一憂することなく、長い 目で若い研究者を育てていく姿勢だろう。 (了) |