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結局・・あの同じテーマソングを、何十回も繰り返し聞かされました。
そうなんです。 同じ曲ばかりなのです。 延々と続く、ミッションインポシブル。 ちょっとした拷問です。 寝付いたのは喧騒が終わった夜半過ぎ・・。 僕は睡眠不足のまま、初めての配達業務を行う羽目になりました。 仕事が終わるや否や、僕は例の前の住人の元へ出向き 昨日の言葉の真意を小一時間ばかり問いただします。 「やっぱりか・・初日から大変だったね。」 そう僕の一夜を労いながら、彼は自分の身に降りかかった 忌まわしき記憶を語り始めました。 彼から得た情報によって、僕はトンでもない状況に 置かれていることを始めて知ることになります。 まず、僕の部屋の左隣には、右だか左だかの 活動員だったオヤジさんが住んでいて 部屋の床の間には日本刀が飾られているとのこと・・。 お酒を飲むと暴れ出すらしいのです。 ・・日本刀で? それだけでも恐怖に駆られるには十分の要素だとは思いましたが 彼が言うことには、まだ「マシ」だそうです。 問題は、右隣のミッションインポシブルが 延々リピートで流されていたた部屋。 そこには「頭のおかしな女」が生息して彼自身も 住んでいた一年間、苦痛にひたすら耐えていたそうです・・。 余り思い出したくないという彼に深追いは出来ませんでしたが 時折、遠い目をする疲れた表情が嫌な想像ばかりを掻き立ててくれます。 「注意しようにも、相手がアレじゃあね・・。」 確かに、音が筒抜けの木造住宅に住みながら あの音量で同じ曲を繰り返し聴き続ける人間なんて 何処か「欠落」しているのは想像に易いことでした。 下手に争いになるわけにはいきません。 最悪の場合、死に繋がる可能性も無きにしもあらずです。 彼は硬直する僕の肩をたたいて「頑張れよ」と励ましてくれましたが 彼の話す痛々しい姿を見た後では、正直、自身なんてありませんでした。 その夜のこと・・。 「彼女」との第一次遭遇。 近くのコンビニで必要最低限の雑貨を買い 部屋に戻ろうと、とぼとぼ歩いていました。 体はくたくたに疲れていましたが、再びあの部屋で一夜を過ごさなければいけないと 思うと自然と足取りは重くなってしまいます。 ウチのアパートのすぐ前にある銭湯では 僕の気持ちなんて知る由も無い暖簾が 春先の温かい風を受けながら趣き良く揺れ まるで手招きでもしているようでした。 すでに、販売所でシャワーは浴びていましたが 部屋に帰りたくない僕は 「ココで時間を潰すのも悪くないな・・。」 なんて考えていました・・銭湯で何時間も居座るわけにもいかないのに。 重いため息を吐き出しながら、ぼんやりと暖簾を眺めていた 僕の前をふいに影が横切ります。 バスローブ姿の女・・。 「???」 時間はまだ7時を回ったばかり。 人の往来も少なくない状況で、何故にバスローブ? (と言うか天下の往来でバスローブなんて着てる人を僕は始めてみました。) その女は、頭にタオルを巻いたまま サンダルを鳴らして僕の進行方向へ歩き出します。 「もしや・・。」 と危機感を募らせながら、曲がった交差点。 その女はあの廃屋アパートに消えて行きました・・。 奴です。 昨日、同じ曲を何度もリピートで聞かせてくれた「隣の女」です。 このとき初めて彼女を肉眼で確認したのですが 僕の第一印象は「魚」 大海原を悠々と泳ぐ海水魚とは違う 泥濘とした沼地に生息していそうなヌシ的なイメージ。 円筒形に丸みを帯びたフォルムをした顔の両対には 明らかに正気とは違う光を秘めた瞳。 僕は他人様を容姿で判断するほど、愚かではありませんが 昨日のプチ拷問の印象も手伝って 嫌悪感で吐き気を催すほどでした・・・。 重い足取りに更に枷が掛かります。 おそらく彼女は僕の常識の範疇を越えてしまっています。 しばらく途方に暮れていましたが いつまでも廃屋の前でこうしているわけにもいかず 彼女に出くわさない様に細心の注意を払いながら 逃げ込むように、自分の部屋に飛び込みました。 今日も、あの音楽地獄は続くのでしょうか・・。 気が気ではありません。 紛らわせようとして点けたテレビ。 途端に流れる大音量の笑い声。 昨日の洗礼の最中に、仕方なくあげたボリュームが其の儘だったようです。 あわててテレビのコントローラを手に音量を下げました。 ・・と同時に揺れる部屋。 誰かが壁を殴っています。 不安定に立てられたCDケースが棚からこぼれ床にその身を投げます。 その方向は・・言わずもかな右隣の女の部屋。 続いて僕の耳に届く壁越しのくぐもった叫び声・・。 「うるせーんだよ!馬鹿野郎!!」 ・・・勘弁してください! ・・・また、続きます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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