子午線の祀り
クリスマスイブの今日世田谷パブリックシアターでの「子午線の祀り」を見てきた。平家物語の一の谷の合戦から壇ノ浦までを平家は平知盛、源氏は義経を中心にした話だった。群読といって皆で語りながら普通の芝居を入れてという独特の形式で有名な木下順二さんの戯曲の舞台だ。 実は12年前にもほぼオリジナルな形式でこの舞台を見ている。ただ野村萬斎の知盛の前回を見たかったがチケットが取れなくて断念している。 大きく変わったのは最初の語りが宇野重吉さんの録音でのスピーカーを通してだったのが、近石さんが舞台上でやったこと。前回は天の声みたいだったのが登場人物に近い形になった気がする。出演者も若返ってテンポが速くなった気もした。といっても様式が確立しているので基本的には同じだと思う。 高橋恵子さんの影身の内侍は生身感があって知盛との絡みの場面はつややかだったのでいい感じだった。観世栄夫さんの宗盛は知盛との年齢差がちょっときつかった。義経は戦以外のことは興味がない感じがでていた。さすが前進座の人だけあって立ち振る舞いはきれいだったし、型がみえて現代劇の人との良い意味の違いも出ていた。そういった意味でも、萬斎・知盛と木場・阿波民部の対比は面白かった。この二人の対決があって、源氏の義経との対決があって、表には出てこない後白河法皇との対決、そして人と運命との関係などの重層的な世界が生きてくるのだと思う。 とか何とかいってはいるが、結局は野村萬斎の知盛が一番の興味だったので堪能できたのがよかった。息子が討たれるのをただ見ることしかできず、愛馬の名馬を処分できずに敵に渡し、しかも負け戦という生田の森の戦いから思い悩む姿、後白河法皇に先を越され院宣に対して猛然と三種の神器と帝を報じてどこまでも逃げ延びてみせるといった場面、そしてなにより「見るべき程の事見つ」と自害する場面が印象に残っている。やっぱり所作はきれいだし、雰囲気もすごくあっている気がする。今回見て余計に前回の公演を見ていないのが残念だった。 平家物語の人物の中で知盛が好きになったのはこの作品がきっかけだったか、NHKのドラマの「武蔵坊弁慶」だったかという感じ。もっとも、自害する前、敵にむさくるしいところを見せてはということで、掃除して回ったというので武人としては神経質すぎるのではという人物評めいたものも読んでちょっとおもしろかった。このくだりもきちんと入っていた。 ただこの作品、古典の平家物語のままのところもあってそういう知識がないときつい上に、休憩が入るが4時間と長い、音楽が心情の説明程度なのでものすごく静かなので音を立てられないという見る側もきつい。演じている人もものすごい長台詞が多いので両方とも真剣勝負という感じがする。その分終わったときは演じ手も観客もほっとした空気が出ていておもしろかった。面白かったといえば、カーテンコールで知盛と義経を影身が握手させようとしていたけどうまくいかなかったこともあった。幕日には握手するのだろうか。 平家物語といえば来年の大河ドラマだよ。脇はいい感じだけど、主役はどんなかんじか心配。ちなみに知盛は阿部寛。