000000 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

ぼちぼち暮らす

ぼちぼち暮らす

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

プロフィール

ぐりとぐらとぐる33

ぐりとぐらとぐる33

カレンダー

バックナンバー

カテゴリ

日記/記事の投稿

コメント新着

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2026.04.29
XML
カテゴリ:日々のこと



八重桜が咲いている。

その花を目にするたび、記憶の奥がわずかに揺れる。実家のそばにあった神社のことだ。
神主の常駐していない小さめの神社だった。
毎年、八重桜が散り際を迎えるころに祭りが開かれていた。
季節の余韻と人の熱気が溶け合う、あの場所の光景である。

境内は朝のうちから静かに準備の気配に満ち、夕刻にはすでに別世界へと変わっていた。
提灯が灯り、夜店が並び、焼きそばや綿菓子の匂いが風に混じる。
その上に、八重桜の重なり合う花びらが、絶え間なく、しかしどこか柔らかく舞い落ちていく。

それは「花吹雪」という言葉では捉えきれないものだった。猛吹雪である。
ひらひらという軽さではなく、層をなした厚みをもつ流れ。
視界の随所でほどけていく花の粒が、灯りに照らされて金や淡い桃色に揺らめく。
どこを見ているのかさえ曖昧になるほどの、過剰な美と賑わいのただ中にいた。

人の声、笑い声、太鼓の響き。
そのあいだを縫うように花びらが降り続ける。現実の輪郭はわずかに滲み、「楽しい」という感覚だけが身体の内側を満たしていく。
あの頃の自分にとって、それは季節のなかに突如として立ち現れる祝祭だった。

しかし今振り返れば、その光景には確かな遠さがある。同じように繰り返されていたはずの時間が、もう二度と同じ形では戻らないことを知ってしまったからだ。

八重桜は今年も咲く。
けれど、その下に確かに存在していたはずの喧騒も、灯りも、花吹雪に包まれるような感覚も、いまでは記憶のなかでしか立ち上がらない。

八重桜を見るたびに思い出すのは、花そのものではなく、そのとき確かにそこに流れていた「時間」なのだろう。
もう帰ることのないふるさとが、花びらのように静かに心へ降り積もっていく。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2026.04.29 07:00:09
コメント(0) | コメントを書く
[日々のこと] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X