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2026.05.26
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カテゴリ:日々のこと



子供の頃、祖母から聞いた話である。

新潟県三条市には、今ではあまり知られていない不思議な昔ばなしが残っている。

その名も「市井(しせい)の火」。

あるいは「火井(かせい)の火」とも呼ばれる話である。

これは、雪深い越後の冬と、人の善意、そして地の底から湧き出す不思議な火が結びついた物語だ。

【貧しい夫婦の大晦日】

むかしむかし。

三条のある村に、貧しい夫婦が暮らしていた。

夫婦は、わずかな暮らしの足しにするため、自分たちで布を織っていた。

大晦日になると、その布を背負い、雪の降る三条の町へ売りに出かけた。

しかし、布は一枚も売れなかった。

重たい雪。

冷たい風。

空腹のまま、夫婦は肩を落として帰り道を歩いていた。

【雪をかぶった六地蔵】

その途中、道ばたに六地蔵が立っていた。

お地蔵さまたちは雪をかぶり、凍えるように立っている。

それを見た夫婦は、

「せめて寒くないように」

と、売れ残った布を地蔵の頭にかけてやった。

自分たちは貧しく、正月の支度もできない。

それでも、人を思いやる気持ちだけは失わなかったのである。

【大晦日の夜】

その夜。

夫婦の家に、六人のお遍路姿の旅人が現れた。

旅人たちは次々に贈り物を置いていく。

正月の餅

正月飾り

黄金

貧しい家にはもったいないほどの品々だった。

夫婦が驚いていると、最後の一人が囲炉裏の前へ進み出た。

そして杖で、囲炉裏を「とん」と突いた。

【地の底から現れた火】

すると――

囲炉裏から、火が現れた。

その火は不思議な火だった。

薪がなくとも消えず、青白く燃え続けたという。

人々はこれを「市井の火」あるいは「火井の火」と呼び、長い年月、大切に守った。

言い伝えによれば、その火は三百年も燃え続けたという。

【明治天皇も見に来た火】

時代が下り、明治時代。

その不思議な火の噂は全国に知られるようになり、北陸巡幸の際には、明治天皇も実際にその火を見に来たと伝えられている。

現在の 三条市 には、「火井」に関する記録や伝承が残されており、地中から天然ガスが噴き出して燃えていたことが確認されている。

つまりこの昔ばなしは、単なる空想ではなく、実際に存在した「燃える井戸」を背景にして生まれた物語なのである。

【越後の土地が生んだ物語】

三条は古くから鍛冶の町として栄えてきた。

火は暮らしを支え、鉄を鍛え、人を生かす力だった。

だからこそ、この土地では、

消えない火

神仏が授ける火

地の底から現れる火

といった話が、人々の信仰と深く結びついていったのだろう。

雪国の静かな夜。
囲炉裏の火を囲みながら、こうした昔ばなしが語り継がれてきた情景が目に浮かぶ。

「市井の火」は、越後の人々のやさしさと祈りが残した物語なのかもしれない。






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最終更新日  2026.05.27 09:35:10
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