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刹那と永遠 - Moment and eternity -

刹那と永遠 - Moment and eternity -

・lunaさんの芝居帳(3)






●#1・「黒蜥蜴」・tpt 2006/12/16ソワレ、12/17 マチネ、処ベニサン・ピット●



※物語のあらすじは、いろいろなブログに書かれています。

お話をご存じない方はそちらをご利用ください。

ここは何処までも私的な感想文です。(あらすじは……本当に書けないんです。)







「捕まったから死ぬのではないわ。」


「わかっている!」



このチバテツ(千葉哲也)さんの強い言葉に

男がこの女にどれだけの愛情を抱いていたか心に響く。





緑川夫人(実は女賊・黒蜥蜴)の香水の匂い

湾曲した背と足を引きずるボイラーマン松吉(実は探偵・明智)が持つランタン
の油の臭い

ここには耳目だけでない臭覚と皮膚を襲う演劇がある。

妙齢が登場すれば爽やかな果実の香りがする。

地を這う者が舞台に立てば黴臭ささが漂う。



想いは募り いっぱい書きたいことはあるのです。

けれど過去を振り返り語ったところで 懐かしむ芝居ばかりになってしまう。



改めてDAVID LEVEAUXと麻実れいの舞台を観て思ったこと

それは演劇を魅せられる私にとって

この時代に生まれて良かったことの一つにtptの存在があるということ。







無限な可能性を秘めた日本人形・(早苗)令嬢でさえも

垢抜けない見合相手を非難し

自由を求め眉目秀麗な青年(黒蜥蜴の忠実な奴隷-雨宮)に見惚れる。

けれどその男が自身にそぐわない男と判明すればスルリとかわし

親鳥の懐に戻り許婚たるものを受け入れる。



黒蜥蜴にゾッコンだった雨宮も

明智が用意した贋早苗と男女の剥製にされるために投檻され

一時のふれあいだけで贋物の恋人から本物の恋を始めてしまう始末。



そんな軽薄な若者たちに比べ

審美眼を持つ宿敵二人の本物の報われぬ愛が終焉する物語はセツナイ。

けれど湿った涙はない、代わりに悲しい美がそこにあるだけ。



御髪が夜会巻の緑川夫人

身体のラインに添うドレスも華奢な指にまとわりつく豪奢な指輪も

総てこだわりの美学であり蜥蜴の皮膚の一部と為す。

ベットにソファーに

床に置いたクッションにしな垂れる姿態は

冷徹(低温)な蜥蜴そのもの、熱き血流るるオンナそのもの。





黒蜥蜴自慢のコレクション生人形に仕立てるため

岩瀬家の珠玉の宝石(早苗-実は明智が仕立てた贋早苗)を誘拐したのち豪華持
船で逃走。



その最中、

誘拐に利用した 人ひとりが入れるトリックした長椅子に明智を閉じ込め

紐を掛けながら、恋の告白をし、その長椅子に接吻を繰り返す黒蜥蜴。



「あなたがこれ以上生きていたら、私が私でなくなるのが怖いの。

そのためにあなたを殺すの。…好きだから殺すの。好きだから…。」



そして甲板から水葬禮と称し長椅子は海の中へ

苛立ちと悲しみ 大人の恋は複雑で厄介。



その後

名探偵明智小五郎は、ボイラーマンに変装し隠れ館に潜入、賊を捕らえ正体を
明かすお馴染みのシーン。

毒を煽り、明智の腕の中に倒れこむ女賊。



事切れる最後の言葉。



「捕まったから死ぬのではないわ。」



「わかっている!」



「あなたに何もかも きかれたから…」



「真実を聴くのは一等辛かった。僕はそういうことになれていない。…しかし
僕も…」





「言わないで。あなたの本物の心を見ないで死にたいから。…でもうれしいわ
。…あなたが生きていて。」



れいさんの素直な声に、女がどれ程この男を恋焦がれていたか心に響く。





「好きよ、あなたが」王妃の声が身体の芯から甦る。12年前が甦る。

手をのばしても触れることも出来ずに逝ってしまった あの二人。……





屍体となった黒蜥蜴の手を握り想いを伝える明智は

また明日から

その時代の多少汚れた善い人(金持ち)の味方となって探偵という生業を続けて
ゆく。



「一家の幸福と繁栄は、みんな明智さん、あなたのおかげだ。この御恩は永く
忘れません。」



「忘れて下さって結構です。

あなたのご一家はますます栄え、次から次へと、贋物の宝石を売り買いして、
この世の春を謳歌なさるでしょう。

それで結構です。そのために私は働いたのです。」



「えっ贋物の宝石だと?」



「ええ、本物の宝石は、もう死んでしまったからです。」



冒頭、生活感の漂う探偵 チバテツさんが 生身のいいオトコにみえる瞬間。





惚れた男の腕の中で



「真実を聴くのは一等辛かった。僕はそういうことになれていない。」



ああ言われてみたい! 男の卑怯さが見えても言われてみたい!



そして、



「言わないで。あなたの本物の心を見ないで死にたいから。…でもうれしいわ
。…あなたが生きていて。」



嗚呼
この身は、あの狭小な空間に融けていた、私の心は未だベニサンピットに潜ん
でいる。





パンフレットを見開くと 絡まる手と手のアップと共に



「心の世界では、あなたが泥棒で、私が探偵だったわ。あなたはとっくに盗ん
でいた。」





私の心は未だ森下の廃工場に潜んでいる。







**************



#1-追加 『明智@千葉哲さんが・・・少しイメージが違うんですが・・・』について

さてチバテツさんの明智役ですが
私も「ああ堤さんが演じてくれれば…」と思いつつ着席したのですが、
終演後はチバテツで正解と思ってしまいました
映像や美輪さんの舞台とは異なり猥雑な明智なのです

堤さんではセンが細すぎる

酸いも甘いも噛み分けた男
探偵という胡散臭い職業を
これまた当時の成り上がった胡散臭いお金持ちが高額で雇う

そんな空気に耐えうる泥臭さと
警察では解決できない事件に挑む高潔な精神をあの至近距離で演じるには
堤さんでは まだ青さを感じてしまうことでしょう

また、黒蜥蜴の審美眼で選ばれた男が
眉目秀麗な男子では何か当たり前すぎる感もあります
能書き垂れてやっぱりビジュアルで選ぶんかぁ みたいな…


私の目から好みではないチバテツさんがちょっとイイ男に見えるのは
そこいらの成金との態度と黒蜥蜴に対して純に反応する違いに
オンナ心が疼くのかなぁと考えます


もし堤さんなら黒蜥蜴は天海祐希さんならバランスが取れるかもしれませんが…
……それでは若いなぁ…もう麻実さんで観ちゃったからなぁ…
麻実さんの大人に負けるなぁ と納得してチバテツさんに軍配を挙げます


第2弾予告-「労M」その後の一考察 です










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