刹那と永遠 - Moment and eternity -

2005/01/07(金)18:32

「ソナチネ」~「死」への練習曲~

ナウ・シネマ・パラダイス(370)

hakapyonアカデミー・深夜の新春映画鑑賞会。 本日の上映作品;「ソナチネ」(北野武監督・1993年) キタノフィルムの中では「キッズリターン」と並んで好きな作品。何度かみたことはあるのだが、中古でビデオが販売されていたので思わず買ってしまったほど。 でも、ストーリーはほとんど覚えていない(笑 作品全体に漂う雰囲気が好きなのだ。 昔の記憶をたどりながら観ていたら、人相悪いオヤジがでてくるでてくる。北野武を始め、大杉漣・寺島進・渡辺哲。役者に演技よりも「顔つき」を求めるキタノフィルムらしい渋い人選。(ちなみに北野作品では、巨悪ほど温和な顔をしている傾向がある) 大杉さんや寺島さんはいまやSABUフィルムのイメージが強いのだが、なあんだ、既に93年の時点でhakapyonはこの人たちと出逢っていたのか。そして「お気に入り」のカテゴリーに入れていた訳か。 このオヤジドモが沖縄を舞台にドンパチを始める。 SABU作品といい「インファナル・アフェア」といい、hakapyonはヤクザが出てくる殺伐とした系統の作品が好きだなあ(笑)でも色気がない訳ではないのだ。これらの作品からはオヤジーズのヤバイフェロモンがむんむん漂ってくる。 ヤクザの組長・村川を演じる北野さんがめちゃめちゃカッコイイ。助走をまったくせずにいきなり棒高跳びでバーを跳びこえるような演技(演技なのか?)が怖い。 大杉漣さんが若い。なのに渋い。 我が家に8人居る大杉漣の中では「ポストマン・ブルース」の「エースのジョー」こと小林常夫が最強だと思っていたが、この「ソナチネ」の片桐のカッコよさも双璧である。「派手だよ。似合わねえよ」と言われていた赤のアロハと緑のパンツは補色配色(笑)翌日はしっかり地味なグレイの上下に着替えていたのも見逃せないところ。 寺島さんも若い。勝村政信さんは今と変わらない(笑 この二人のやりとりがとてもいい。微笑ましい。 言い尽くされた感があるが、「キタノ・ブルー」が美しい。 青色が好きなhakapyonがキタノフィルムに惹かれる大きな要因はこれだと思う。ブルーイッシュな画面から漂う寂寥感。強い日差しが振り注ぐ、沖縄の海を撮ってもその印象は変わらない。そして血の赤。赤と青のコントラスト。色彩の美しさ、画面の余白の多さは絵画的でもある。 静止画も美しいが、動き出してもキタノフィルムは美しい。 無駄なものを殺ぎ落としたテンポの良さ。ストイックさ。残酷さの裏側にある静寂。これらの寡黙な映像に久石譲の音楽が代弁者の如く響いてくる。 沖縄の真っ青な海をバックに大の大人が「遊ぶ」シーンがとても好きだ。ついさっき人の命を奪った拳銃が遊び道具になっている。中でも寺島さんと勝村さんの「人間紙相撲」の場面はあまりに素晴らしく、気が付いたら観ながら泣いていた。 そう、hakapyonの「ソナチネ」のツボはここ。 この場面は「hakapyoが今まで観た映画のお気に入リシーン」ベスト5に入る。 ちなみにその他の4つは  1)「ポストマンブルース」のラスト、2)「蒲田行進曲」のラスト、3)「ニューシネマパラダイス」のラスト、4)「マイライフアズアドッグ」のラストである。「ソナチネ」と「ポストマン~」「蒲田行進曲」は演出にやられてる。「ニューシネマ~」と「マイライフ~」はただただ泣けた。 しかもこの名シーン、画面に映っているのが、北野武・大杉漣・寺島進・勝村政信なのだ。(あとひとり、女優(国舞亜矢←何処へいった)が居るがこの際無視)う~~~ん、今思えば夢のような面子(笑)昔は勝っちゃんくらいしか知らなくて、げらげら笑いながら見ていたけれど、こうやって見返すと…本当に美しいシーンだ。 そしてこのシーンの後にちょこっと挿入される、大杉さんが「人間紙相撲」を真似るシーンがいいんだまた… 「キッズリターン」でシンジがボクシングのトレーニングをしているのを見て、シャドウボクシングの真似をする浮浪者を描いていたように、北野監督は台詞ではなくこういうちょっとしたリフレインの画で憧れや興味を表現する。シャイで繊細な表現が心を打つ。 それにしても。 滑稽なほどに人が死んでいく。 「たけしのお笑いウルトラクイズ」や「熱湯コマーシャル」の延長に「死」があるカンジ。監督本人も言っていたが、この時、武さんは死にたくて死にたくて仕方なかったんだろうな。それは精一杯生きてきた反動なのかもしれないけれど。 「ソナチネ」は北野監督が奏でる、自身の「死」への練習曲だ。 この作品の後、彼は実際に生死を彷徨う事故を経験する。 そして「キッズリターン」で「まだ始まってもいねえよ」と見事に再生するのである。 まるで生まれ変わった子供のように。

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