死神ごっこ(途中ですが、読めます)

 死神ごっこ

 そも、浄化役とは、死神にも例えられる物。
 死者を弔う代わりに、黄泉へと連れ行き、心穏やかならざる者は、一所に集め、行いを正す。死者を導く仕事もまた、浄化役の仕事の内。
 暗く、寒い冥界では、家族のぬくもり無しでは、凍えて過ごす事になる。
 しかし、家族を持たざる者もいる。
 浄化役のほぼ全ての者は、家族を持たず。
 もはや、浄化役になった時点で、家族とは二度と会わぬと誓った者もいる。
 家族を、闇に引きずり込まれ、失い、浄化役としての復讐を望む者もいる。
 現世に残った家族のため、拳を振るい、剣を振るい、自身の存在を賭け、世の害悪を滅ぼさむとする者もいる。

 それで、浄化役「マコト」の話でもしてみます。

 (1)
 マコトが、蝋燭の火を、じっと見つめている。
 わずかに光で照らされた部屋には、何もない。
 ただ、燭台と、マコトが、畳の上に有るだけ。
 そっと、その行為を恐れるように、マコトが目を閉じる。
 かすかに、息が震える。
 閉め切った雨戸、閉め切った窓、閉め切った障子、閉め切った襖。
 それらが冷たい風を止めきれず、部屋の中に漏らす。
 マコトの息が、深くなる、闇に浮かんだ顔が、少しづつ、穏やかになる。
 一息、また一息、また一息、また一息、吸い込み、吐く。
 マコトの耳には、炎が呼吸するような、蝋と芯が燃える音、外を強く冷たい風が吹く音、カラスが、誰かを呼ぶような、悲しい声、彷徨うような、小鳥のさえずり、何処かで、木々が葉を揺らし、互いに話すような、響き、古い自転車の叫ぶようなブレーキ、自動車達が鳴らす、分けることの出来ない、遠い音、誰かの笑い声、誰か赤ん坊が無く声、おそらく、車の音と同じような距離から届く、金属を溶接する音、意識を近くに呼び戻す様に、時折揺れる雨戸の音、それに追従するような、ガラス窓の揺れる音、木枠の揺れる音、襖の少し傾く音、・・・・・・。
 無数の音が聞こえる。

 煩わしくも、愛しい音達。

 遠くに聞こえる音から、近く、家の中の音まで、耳に聞こえる音に意識を集中させ、頭の中を空っぽにする。
 自らの呼吸の音。しかし、心音は聞こえない。
 心臓など、無い。
 それが頭によぎり、マコトは、目を開ける。
 集中力が足りない。
 目の前で揺らぐ蝋燭は、身をくゆらせて、笑うように燃える。
 蝋燭の火を手の一振りで消し、部屋を閉ざす物を開けていく。
 雨戸を開けると、朝の冷たい空気が、流れ込む。
 朝は明けたばかりだが、さっき、既に工場が動いているような音がしていた。気のせいだろうか?それとも、聞き間違いだろうか?確かめる気も無く。
 力を抜く様に、空気を吐く。腹に力を入れ、吐き出す。
 胸一杯に空気を吸い込み、吐く。吐き出す。
 飲み込む様に、吸う。吸い込む。
 寒いが、良い空気だ。
 冬は終わり、春が来る。
 冥界の春は、人の心が、生み出す。気温が上がり、季節は動く。
 そう言う場所だ。

 (2)


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