おとうさん、お帰り。(制作中)

 「ただいまー!」
 ボサボサ頭の男が、玄関から声を上げる。
 程なく、家の奥から、エプロンを付けた男が出てくる。
 「お帰りなさいませ、先生。」
 「うん、五理、ただいま。」
 家の中から出てきた、五理(いつり)と呼ばれた男が、そっと頭を下げる。
 その男には、尻尾(?)が生えていた。
 腰のあたりから二本、両肩の付け根から、それぞれ一本ずつ、そして、頭の後ろ、ちょうど延髄のあたりから一本。それぞれ少しずつ色が違う。
 「そら、お土産だ。」
 そう言って、ボサボサ頭の「先生」、九法耕輝(きゅうほうこうき)が、手に提げていた袋から、「骨」を取り出す。
 瞬間、五理の姿がかき消え、先ほどまでいた場所に、五匹の子犬がちょこんと座っていた。五理の正体である。
 「おお、よしよし、人数分あるからな?焦るなよ?」
 言う間に、子犬達は、そわそわと、尻尾を振る。
 五匹の子犬の一匹ずつの名前を呼びながら、骨を渡して行く。
 「青目。」深い青の目をした仔が、じっと主人を見つめながら小さく返事をする。
 「紅珠。」首に赤い石をぶら下げた仔が、跳ねる様に動きながら、元気に返事する。
 「白雪。」尻尾の先まで真っ白な子が、黒い目をウルウルさせて、甘える様な声を出す。
 「黒髪。」頭から背中に架けて、黒い毛が生えた仔が、うなずく様に頭を下げて返事をする。
 「大地。」細かな文字の書かれた首輪をした仔が、床に伏せながら、低い声で返事をする。
 「よし、良いぞ。」と耕輝が言うのを合図に、五匹が、一斉に、骨をかじる。がりがりと音を立てて、嬉しそうにかじっている。
 尻尾を力一杯振り、頭を顔を口を振り、少しずつ砕いていく。
 「ただいまー」と家に上がると、トテトテと、足音が聞こえる。
 「おとおさん。おかえりなさい。」
 「おおー、純輝(すみてる)、迎えにでてきてくれたのかあ。」
 そう言って、小さな男の子を抱き上げる。
 「息子よ、元気だったか。」
 おどけてそう言うと、純輝は、コクコクと小さな体を揺らすようにうなずく。元気な証拠を見せようとしているようだ。
 「良い子だな。すみてる。」
 撫で撫でしながら、頬ずりして、耕輝が言う。
 「ひげ、いいやあ!」
 ぐいぐいと顔を押してくる息子から、残念そうに顔を離すと、ぎゅっと抱きしめる。腕の中に収まる、小さな命、守るべき物が一杯詰まったような体を抱きしめ、頭を撫でる。耕輝は幸せそうだ。
 「あせくっさいいい!!」
 半分服に押付けられながら、純輝は言う。
 「ごめんごめん。」


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