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Beauty Source キレイの魔法

恋愛セミナー85【夢浮橋】

第五十四帖  <夢浮橋 ゆめのうきはし>  あらすじ

薫は寄進を終えてから、横川に着きました。
薫の突然の訪れに戸惑い、懸命にもてなす僧都は、浮舟の話をきいて驚愕し、
今までの全ての経緯を話します。
僧都の話を聞き、浮舟が生きていたことに涙する薫は、尼たちの庵へ行きたいと言います。
「髪を下ろした法師でもこの世への妄執が消えないこともある。女人ならなおのこと。
罪作りなことをしてしまった。」
浮舟を落飾させてしまったのを後悔する僧都。
すぐには山を降りることはできないので、来月、文を届けるとの僧都の言葉に、
薫は待ちきれない思いです。

薫は小君を使いにし、僧都に小野への文を書いてくれるように頼みました。
浮舟への橋渡しなど僧として罪になると躊躇し、薫が直接会いに行くように言う僧都。
「罪などと。私が俗人で今までいたのがおかしいのです。幼い頃から出家を心ざして
いましたが、母宮のためにできないでいるのです。仏が制していることは少しでも
しないつもりで、心は聖にも劣りません。まして重い罪を得るなど有り得ないこと。
私はただ、浮舟の母親の思いを晴らしてあげたいのです。」
「なるほど、それは尊いこと。」薫の言葉に僧都はうなずき、文を小君に渡します。
薫はこのまま小野に寄ることも考えましたが、やはりいったん京に戻ることにしました。

小野にも、薫一行が京に向かうざわめきが聞こえてきます。
薫が女二宮を妻に迎えたことなどの噂をする尼たち。
宇治へ薫が通っていたことを思い出して辛くなった浮舟は、ただ阿弥陀仏にすがって
心を紛らわし、何も言わないようにするのでした。

横川から戻った翌日、薫は早速小君を小野への使いにします。
小君の姉が生きているらしいが、母君にははっきりとわかるまで伝えないようにと言う薫。
美しい浮舟が亡くなったことを悲しんでいた小君は、薫の言葉を嬉しく聞きます。

「昨夜、薫の君の使いがきましたか。事情を聞いて驚いていると女人にお伝えください。」
僧都から文を受け取り、浮舟を問いだたす尼君。
浮舟が何も話さないのをもどかしく思っていると、小君が僧都の文を携えて小野へ到着します。

「入道の姫君に 山より」
明らかに浮舟宛の文を開こうともしないのを見かねて読んでみる尼君。
「薫の君からいきさつを聞かれ、全てお話しました。薫の君のお志の深さにそむき、
尼になられたこと、驚いております。復縁され、薫の君の愛執の罪を晴らして
差し上げますように。出家は一日でも功徳がはかりしれませんので、今後も
仏に頼られるのがよろしいでしょう。私もそちらに伺いますが、まずは小君が
事情を話すと思います。」

「この方は誰なのですか。今になっても私に隔てをおかれるなんて。」
文を読んでも事情がわからず、浮舟に迫る尼君。
小君が懐かしく、母君のことを尋ねたくて涙する浮舟。
面差しの似ている小君が弟であると思い、尼君は部屋に入れようとします。
「隔てをおいて何か話さないことがあるように思われていらっしゃるのが辛いのです。
けれど、本当に何も思い出せません。この方にも見覚えがあるような気もしますが、
私のことは誰にも知られたくはなく、ただお会いしたいのは母君だけ。
僧都が文に書かれた方には一切知られたくないので、どうか私を隠してください。」
尼君は僧都の隠し事など出来ない性格や、薫の身分の高さを言い募り、
浮舟のいい分には賛成せず、小君を招き入れました。

小君は確かに姉がいると聞いてきたのに、他人行儀な扱いをされるのが不満で、
薫の文の返事をもらってすぐに帰ろうとしています。
またも浮舟が読もうとしないのを、無理に開いて差し出す尼君。
「聞いたことがないほど罪の重いあなたの心は僧都のことを思って許します。
今はあの夢のような出来事をお話したいと心が急くのがもどかしく、人目にもどう映っているかと。
『仏道修行の師と思い訪ねてきた道が思わぬ惑いの山に入ってしまいました。』
この人を覚えていますか。あなたの形見にしているのですよ。」

浮舟は尼になった姿を知られるのが辛くてたまらず伏してしまいます。
尼君が返事を書くようにすすめても、今日は書けないと文を返す浮舟。
「物の怪が憑いていつもお加減が悪く、尼になったのも懇意の方が
いるのではないかと心配しておりました。本当に申し訳なく思っております。
今日もまた心惑っておられるようで。」
小君はなんとかひと言でも浮舟の言葉を聞きたいと思いますが、何もなく、
姿を見ることもできないまま京に戻ります。

薫は小君の帰京を苛立ちながら待っていましたが、何の手ごたえもなく戻ってきたので、
がっかりします。
すでに他の男性に囲われているのではないかなどと、自分がかつて宇治に放っておいたことから
思い合わせている薫なのでした。

恋愛セミナー85

1 薫と浮舟  恋の終着駅

俗と聖が入れ替わり、入り混じる。
そんな瞬間をまざまざと見せてくれる帖です。

薫に訪ねられた僧都は、ひたすら保身にまわっているように見えます。
出家をさせた本人が、薫を止めることもせず、恋の橋渡しをしている。
薫の仏への帰依や愛人として遇するつもりはないことを聞き、
納得した風を見せても、文にはしっかり「愛執の罪を晴らすように。」と書く。
薫の思惑など見抜いているのです。

僧都が浮舟にすすめているのは「還俗」といって、出家した人がもとに戻ること。
中途半端な気持ち、この世を完全に手放すことができずに出家する例が
かなり多かったのでしょう。

源氏が世を捨てるのも、たくさんの関係者や身分や財産など、全てをきちんと
処理し、手放すために相当な時間がかかりました。
寺の準備を始めてから20年ほどかかっていますが、紫の上を亡くしたために
決心がついたようなもの。

薫が話していることとは裏腹に、この世を捨てる状況も、決心もできていないことが、
たくさんの出家者をみてきた僧都には手にとるようにわかったに違いありません。
この世の栄光も、恋も、全てを味わい尽くしてからでないと手放せない。
今だ己が本当は聖なる存在で、俗には、はからずも片足を入れているだけ、などと
言い訳している薫に、自分が俗にまみれていることを自覚し、痛い思いをもっとせよと、
そうでなくては、本当に、世を手放すことなどできはしないと。
世間ずれした尼君の兄ということもあり、一見、俗なる聖職者ともとれる僧都は、
同じ男性である薫に、そう伝えているように思えます。

そして浮舟。
小君の訪れに涙しても、薫本人への思いは断ち切ろうとしています。
出家すれば完全に俗との縁がなくなるわけではないという現実を、中将とのことで
思い知っている浮舟。
周囲から、散々さとされ、引き合わせられようとしても、自らは決して会おうせず
強情にさえとれるその姿は、あの大姫を彷彿とさせます。

二つの激しい恋の渦に巻き込まれ、二度も身を捨て、聖なるものと俗なる
ものの交差する場所から、人生の裏の裏まで見尽くした、人形・浮舟。
自ら聖なるものになろうと思っていたわけではない浮舟が、
己を聖なるものと思い込んでいた薫より、はるかに先んじようとしている。
人形として薫の前に現われた浮舟が、薫が求めたとおり、大姫のように仰ぐべき
存在になろうとする萌芽が見えます。

かつて藤壺の人形として用意された紫の上が源氏を越えていったように、
そして、源氏も紫の上を仰ぐ己を受け入れたように。
薫が人間として立ち上がった浮舟を、またはもっと大いなる存在を受け入れる日は
やってくるのでしょうか。


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