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Beauty Source キレイの魔法

エリック1874『真実』

エリック 1874  真実

ジェイムズの持ってきたデッサンはなかなかよくできていた。
顔全てを覆うものと、上半面を隠すだけのもの。
額に浮かぶように走らせたケルト文字も気が利いている。
私は二、三のデッサンの狂いを直して紙片を返し、
自分の持っている仮面のひとつを渡し型を取るように指示した。
グスタフの分は昨夜取っておいたものを取り出して確認する。
デスマスクには気が早いが、これがかわりになるだろう。
素材をいくつか指定して、謝肉祭に間に合うように注文を出す。

「あの、ひとつ質問があるんですが。」
ジェイムズがおずおずと言った。
「だんなさまは、いつもその仮面をつけているんですか?」
「そうだ。」
声音がやや無愛想になる。
仮面のことを指摘されると、やはり心が波立つのを抑えられないが、
少年はかまわず嬉しげな応えを返してきた。
「よかった。僕もそうなんです。いえ、いつも身につけていたいんですけど
母に取り上げられることもあって。今日は大事なお客さまの家をお訪ねするからって。」
「それで?」
「僕が住みたいのは、誰もがいつも仮面をつけている場所なんです。
いいえ、僕には、いまでも誰もが仮面をつけているように見える。
人によっては、その姿が骸骨にもみえるんです。
この小さな町で、僕は周りにいる人も、周りにいるものも、全部そんな風に見えて。
絵にも描いてきました。
鏡を見るとき、仮面をつけていないと自分と気づかないくらいです。」

「君には、立派な顔があるだろう?」
「この顔なんか、なんの役にも立ちはしません。いいえ、そりゃいまはここにありますよ。
僕の骨に張りついてくれています。でも・・・。」
「いつも骸骨で遊んでいる君には、肉より骨の方が親しいというわけか。」
「この小さな町にいるからこそ、そんな風に思うのかと。
でも、あなたに海辺で出会った時、この世界全てが、そうなんじゃないかって。」
「・・・。」
「あなたはパリからやってきたそうですね。都会にゆけば、
あなたのような方がたくさんいらっしゃるんでしょうか?
その、単に仮面をつけているというだけでなく・・・。」
「嘘が本当になり、本当がもっと真実になる。
悪しきものも善人になり、善人はその偽りの皮を脱いで本当の姿に戻る世界。」
「ああ、そうなんです!」

「それは、君が実際にみて確かめるべきことだな。
私は人付き合いはあまりしていないのでね。これからはもっと・・・。」
「あなたに会うには、どうしたらいいんですか?その、パリにお戻りになってからは?」
「そんなことより、早く帰って仮面を仕上げてきたまえ。
出来映えによっては、パリに帰ってからも君に仕事を依頼するから。」
「わかりました。ええ、びっくりするほど素晴らしいものをお目にかけますよ。」

少年は意気揚揚と帰ってゆく。
まったくこの町は、寡黙なグスタフに雄弁さを与え、
年端もゆかぬ少年にまだ見なくてよいものまで見せてしまうものらしい。
なぜか、笑いがこみ上げてきた。
私は上機嫌になり、謝肉祭で使う音楽を五線譜に落し始める。
緋色と純白のローブを纏った二対の骸骨が、運命の輪の上で踊り始めた。

2005.10.04


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