寝覚めのコーヒーを摂ってから、花と本を手に入れに向かう。
夕べ考えた子どもへのプレゼントは、海洋動物の本。
9才と半年の男の子が読むのは、いったいどんなものか、
自分のときのことを思い出しながら選らぶ。
大型の書店であまり専門的にならず、かといって幼稚でもない
ころあいの図鑑を見つけ、包んでもらった。
花はアンクル・ウォルターに決める。
墓所に行ってみると、そこにはすでに白いつる薔薇が生い茂り、
淡い芳香を放っていた。
そればかりではなくて。
かたわらには、彼女が立っていた。
「遅かったのね。」
シャーロットは僕の驚きをよそに言う。
「どうして?」
「あなたが来ることがわかったかってこと?
故郷に帰ってきて、あなたがここにこないわけがないもの。
フランクとサラが待っているというのに。」
久しぶりに会ったシャーロットは、綺麗だった。
短く切り揃えた髪をもともとの色に落ち着かせ、瞳は輝いている。
「この花は君が?」
「そうよ。あなたがNYに行くと知ったときに、ここに来て植えたの。
伯父と従姉が眠っている場所を放っておくのが忍びなくて。
あなたは足繁く通ってくれていたそうだけれど
きっとそれもかなわなくなると思ったから。
誰も来られなくなっても、花は季節の訪れともに咲くものね。」
僕は携えてきた苗を、シャーロットと一緒に植えた。
「こっちの花は、なんて言ったかな?」
「ティア・ドロップ。お店にもよく、飾っていたわね。」
ああ、そうだね。
君はこの白い薔薇が大好きだった。
確か、僕たちの結婚式のブーケにも。
「シャーロット。この間電話したときも、あまり話せなかったから。
いまここで言うけれど。」
「なあに。」
「あれから君は・・・、幸せに?」
「ずっと幸せだったとは、言い難いわよ、もちろん。」
彼女はしゃがんで、五つ葉の枯れたものを探しながら応える。
「すまなかった。何も言わないままに君を行かせてしまって、本当に・・・。」
「あのとき、あなたの言葉をあなたの声で聞いていたら、もっと嘆いていたわね。
真っ直ぐなあなたが口にできたのは全て、私に向けられていない
愛の言葉だもの。」
「・・・。」
「そうなったら、きっとサラのことも、今でも赦せなかったわ。
あなたの言葉を、何度も何度も反芻してね。」
「・・・。」
「何も聞かないままに、あなたたちがどうなったかも知らないままに
町を去ってよかったって思ってる。
夫への献身を振りかざしていた妻が、本当にできた唯一のこと。」
シャーロットは立ち上がり、ゆっくりとこちらを向いた。
「きっとね、彼女とのことをどこかに抱えたままのあなただからこそ
私にはもっと魅力的に映ったのだと思う。
あなたたちの仲はあの町では有名だったし、それを知っていて一緒になったのだもの。
彼女が帰ってきたときに起ることを受け入れる力も、あなたを信じて待ち続ける力も、
あのときの私にはなかったというだけ。」
僕は何も言えずに彼女を見つめる。
「今の私が幸せかどうかについては、心配しないで。
あなたにとってサラが美しく映ったように、
私を美しいと思ってくれる人にも、出会えたから。
ところで、明日の心の準備はできていて、ストレンジャー?」
「あ、そうだね・・・。」
いきなり現実に引き戻されて戸惑う僕に、シャーロットは微笑む。
「とっても賢くて、いい子よ。よろしくね。」
赤い鳥 白い鳥
ともに去った そのあとに
舞い降りるのは
2へ
4へ