美輪明宏さん演じるエディットは、妹分のシモーヌ(新橋耐子さん)と乳飲み子を抱え、
街角で歌い日銭を得る毎日で、いつしかスリの片棒を担がされている。
客が彼女の歌に気をとられているうちに被害に合いそうになっているのを、
合図して助けたところ、スリ連中に袋叩きに。
このあたりの荒んだ感じも、それでいて人を庇い慈しまずにはいられない様子も、
どこにあっても光る人の威容です。
彼女の歌を聴き、高級クラブの舞台歌手に抜擢するルイ・ルプレには山谷初男さん。
美輪さんとは20年ぶりの共演だそう。
エディットにピアフの名前を与え、他にも何人もの歌手を発掘し続けた名伯楽ルプレ。
「彼女は幼い頃からこのパリの街々で喜び、怒り、悲しみ、嘆き、苦しみ、
悩み生きる人間の心を唄ってきました。
彼女には他人の痛みが分る優しい思いやりの心があります。それは愛であります。
(公演パンフレットより)」
(「愛の讃歌」は美輪さんの脚本ならではの愛の言葉が、全編に溢れています。)
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【エディット・ピアフ/愛の讃歌】
この、ピアフ初お目見えのルプレの紹介の台詞のあと、
幕の間から、おずおずと顔を出し、驚いていったんは引っ込み。
足の見える短い裾の、着たきり雀のままで舞台へ臨む。
それでも、唄い始めると我を忘れたように観客とともに情念の世界へ。
「愛の讃歌」が素晴らしいのは、エディット・美輪・ピアフの歌も演技も双方体験できるところ。
いま唄っているのが、女王エディット・ピアフなのか、聖なる怪物・美輪明宏なのか、
幾重にも折り重なった宝玉のような技術と想念の光に圧倒されます。
さて、ルプレはエディットを売り出してまもなく、殺されてしまいます。エディットが
アパルトマンを訪ね、ベッドで座って微動だにしないルプレの第一発見者となったときに
彼が身に着けていて死装束になってしまうのが、フランス人形のような
ロココ調のフリルいっぱいのドレス。
【オーラソーマB67
神聖なる愛/小さきことのなかの愛】
対するピアフは、最初の短いドレス一枚の着たきり雀。
紅く大きな胸リボンに、黒のワンピース。
【オーラソーマB89
エナジーレスキュー】
第一発見者の常として、殺人容疑をかけられ、舞台から締め出されてしまったピアフ。
死に瀕した愛娘の医療費のために、身を売る寸前まで堕ちてしまった彼女を拾い上げたのが、
松林登さんのレーモン・アッソー。
イライザを教育するヒギンズ教授のごとく、自宅にピアフを引き取って
書き取りから、話し方、立ち居振る舞い、そして真の芸術家の心得を叩き込みます。
【ピグマリオン三種】
「一流の唄い手は、涙を流して悲しみや苦しみの歌を唄っても、
皆な頭で、理性と知性で計算された結果でなければならない。(公演パンフレットより)」」
街行く人の感情を取り入れ表わす技は、もって生まれた才能なくしてはできないこと。
その感性に満ちた技術に、知性の幅と理性の舵が加われば。
演出、演技、脚本、衣装、メイク、小道具と隅々にいたるまで、感性、理性を働かせている
美輪芸術も、ここから生まれているのですね。
続きます。
「愛の讃歌」観劇記1
「愛の讃歌」観劇記3
2005年・美輪明宏さん主演・演出「黒蜥蜴」観劇記1-14