広大な池に龍頭鷁首の船を浮かべるといった
目を見張るような壮麗なセットを使って盛大に表現された女楽で
源氏の丹精した琴を披露することができた女三宮。
源氏物語 下の巻(
若菜下~
横笛のあたりまで)
明石の女御、秋好中宮という身分高き顔ぶれに加え
常陸宮の姫である末摘花や明石の女御の後見となった明石の上が
紫の上よりも上座についているといった説明も加えられます。
原作では、末摘花は六条院には迎えられていませんし、
式部卿宮の娘である紫の上が受領階級出身の明石の上よりも
下座になるといったことはあり得ないように思うのですが、
彼女の絶望感を表現するためにドラマティックな表現がなされたのでしょう。
女楽が終わった後、紫の上は吐血し、二条院へ移ります。
狼狽した源氏は、当然ながら六条院にいる女三宮のもとへ通うのは間遠になってしまい、
その間隙を縫って現われるのが、夕霧の幼馴染で従兄にあたる柏木。
彼はもともと、女三宮を正妻として迎えたいと願っていたのですが
朱雀院秘蔵の皇女をいただくには官位が伴っていなかったため叶わず
代わりに女御より一段身分の低い更衣の生んだ女二宮を妻として迎えています。
このあたり、ドラマでは紫式部の解説のみが流れますけれども
源氏その人も、母親が更衣だったために帝に上れなかったという経緯があり
女御と更衣の差は歴然としていた模様。よって女御から生まれた女三宮は
姉の女二宮より重んじられていて、柏木は諦められない要因になっているのでしょう。
源氏物語の恋愛テーマの大きな要素は、この「身代わりの恋」。
個人的には「人形の恋」と呼んでいますけれども、
母恋しの末に愛する藤壺を得られず紫の上をさらい、今また女三宮を迎えた源氏と
意中の女三宮を得られず代わりに姉を迎えても、未練を残す柏木と
もっと先の帖で現われる、宇治の大君、中の君、浮舟の間を漂流する
薫とは
すべて目の前にいる相手を人形のように、意中の恋人に重ねて彷徨い続ける…
そこに物語を貫く悲劇の一端があるように思います。
さて、源氏が通わなくなってしまったのを嘆き、柏木をけしかける形になってしまうのが
女三宮付きのもみじ(東てる美さん)、原作では小侍従にあたる女房。
話をするだけという柏木を、とうとう寝所に入れてしまうのですが、
当然のことながら関係を持ってしまい、女三宮は懐妊、
久しぶりに様子を見にやってきた源氏にも、すぐに事が露見してしまいます。
ここでも場面の入れ替えがあり、ドラマの春の風に巻上げられた御簾の向こう側に
初めて女三宮を見て忘れられなくなるという柏木の語りは、原作では
野分の過ぎた後の風のために、紫の上を夕霧が見てしまうというくだりに。また
柏木の文を女三宮が柱の隙間に差し込み、落ちてしまったのを源氏が発見するというシーンは
原作では有名な
真木柱の帖、髭黒の正妻の娘が家を去るときに文を残すという場面。
どちらも捨てがたい、美しいモチーフを盛り込みたかったのでしょう。
柏木の文によって懐妊の理由を知った源氏のありさまから、語らずとも
真相を読み取ってしまう紫の上。彼女は藤壺への源氏の思いも察していて
身代わりとしての自分の立場をさらに危うくした女三宮の悲劇にも
人形同士といったような、同情的になれる境地に達していました。
源氏に文を見られたことで、宮中にも出仕できなくなった柏木は
朱雀院の宴にようやく足を運んだところで、源氏から
「笛の音が乱れていた」というひと言を浴びせられ、そのまま
床について食が細くなり、帰らぬ人に。
「老いると涙が止まらないものでね、柏木が私を見て笑っているけれど、
若さだって一時のもの。老いは誰にでもやってくるのですよ」
こういった言葉によって酔った源氏に絡まれるのが
原作のシーン。
どう言ったとしても、すでに心弱りしていた柏木にとって
源氏の言動は決定的な打撃になり得るわけですが、
まったく同じことを父・桐壷の帝に対して行っていた源氏が、
出家したいと言いつつ新しい妻を迎え、いまだに生き永らえているところをみると
本当に強かな男と言えるかもしれません。
柏木が笛を吹いていたというくだりは、続く
横笛の帖での
女三宮への形見を連想させるものでもあって。
原作では女二宮の母から夕霧に笛が贈られたのを、柏木が夢に現われて嘆き
さらに源氏がその笛を預かって伝えられるべき人に伝えるといった長々としたくだりは
ドラマではシンプルに、柏木が死の床で夕霧に直接、
笛を女三宮に渡すように託していました。
女二宮に関する物語は、源氏の息子の呼び名となった
夕霧という長い帖に描かれているのですけれども、番組内では割愛。
その後、成長した薫の行状が語られる
宇治十帖を見る上で、
兄である夕霧と女二宮の恋は比較対象としてとても面白く、
柏木の子供であると目されている薫は、実はやはり
源氏の血を引いているのではないかとも思わせる余幅になっているので
機会があれば、ぜひ原作を参照していただければと思います。
続きます。
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