Beauty Source キレイの魔法

2010/09/25(土)07:16

アントワネットの手紙

アントワネットの文机(32)

アントワネットとフェルゼンが交わした指輪に刻まれた言葉、 「臆病者よ 彼女を見捨てるものは」 「一切が私を御身がもとへ導く」 という言葉についての解釈や、解説について ご訪問者さまから質問をいただきましたので、拙いながらも 手元の資料などを再見して、以下のようにお返事させていただき、 すこし加筆してみました。 寡聞の身ゆえ、錯誤も沢山あるかと思いますが、どうぞご容赦いただいて、 ご興味のある方はよろしかったら、ご覧ください。 ***** はじめまして、お言葉いただきありがとうございます。 ご質問にあった「アントワネットとフェルゼンが交わした指輪に刻まれた言葉」とは 池田理代子さんがベルサイユのばらで描かれていたシーンの台詞のことですね。 「臆病者よ 彼女を見捨てるものは」 「一切が私を御身がもとへ導く」 前の台詞は、フェルゼンが受け取ったアントワネットの手紙に同封された指輪に、 後の台詞は、2人の逢瀬が叶った際、フェルゼンからアントワネットに贈られた指輪に 刻まれていたと、コミックでは描かれています。 コミックは、シュテファン・ツワイク著「マリー・アントワネット」という伝記も 元になっているようですので、手持ちの岩波文庫を久しぶりに開いてみたところ、 訳は違いますけれども、アントワネットの手紙に同封されていた指輪のくだりと、 その言葉に対する解釈が載っていました。 「『意気地なしよ、彼女を見捨つる者は』という文字が、いっさいを この女性のために敢えてせよという、日ごと彼の良心に呼びかける励ましの言葉となる。」 (マリー・アントワネット ツワイク著 高橋禎二・秋山英夫訳) アントワネットの手紙は、逃亡を手助けしたフェルゼンと再び逢うことは絶望的な状況のなかで 届くかどうか分からないままに書かれたもの。 この手紙と指輪を受け取った後、フェルゼンがアントワネットのもとに実際に赴いたのは、 彼の日記にも、スウェーデン国王への報告にも残されている史実のようですが、 本来ならば、それは有り得ないこと。 実際に会うことが絶望的だったからこそ、アントワネットは 本当の胸の内を現した言葉を刻んだ指輪を同封するに至ったのではないかと思われます。 さて、後の台詞のことですが、ツワイクの伝記には、フェルゼンがアントワネットに 指輪を渡したというシーンは、私が読んだところでは見当たりませんでした。 コミックでも、その指輪は、ジャルジェ将軍経由で アントワネットからフェルゼンに返されることになっていますので (もし、愛人と取り沙汰されているフェルゼンからの指輪を手元に置いていたら、 裁判の際など困りますものね)、もしかすると、この辺りは創作なのではないかなと思いながら 念のため、ベルばらよりも後に書かれていますけれども 遠藤周作さんの「王妃・マリー・アントワネット」も開いてみましたら、 同じ台詞と思われる言葉が違う場面、それも再び、 アントワネットのフェルゼン宛の手紙に出てきました。 「『…ああ、わたくしがもし、王妃でなかったならば。ただの貴族の出身だったならば… さまざまな美しい追憶がわたくしのまぶたに浮かびます- 時間がありません。筆を置きます。Tutto a te me guida……』 この最後の行を読み終わった時、フェルセンの手はふるえた。 そこに書かれた伊太利(イタリー)語の言葉が鋭い矢のように彼の心をつらぬいたのだ。 『なべては我をおん身にみちびく』という言葉が。 その短い言葉に王妃の彼に対する最後の愛の告白が 奔(ほとばし)る血のように彩られていた。」                   (遠藤周作著 王妃マリー・アントワネット) フェルゼンの指輪が存在していたかは、分からないのですけれども 「一切が私を御身がもとへ導く」と言う言葉が、 全てを賭けた愛の言葉であることは確かではないかと思われます。 フェルゼンの指輪が創作だったとしてのことですけれども、 愛するもの同士は思いも等しくなってゆくものですから、 本来はアントワネットが手紙に書いた言葉が、 フェルゼンの言葉としても相応しいと稀代の作家が感じ、 有名なシーンのアイテムとして使われたとしても、不思議はないのかもしれません。 *** と、ここまではコメント欄に書かせていただいたものですが、 この後、いま一度、ツワイクの伝記を調べてみましたら、 以下のような内容がありました。すなわち、 ・王妃を救出するためにジャルジェがタンプル獄に忍び込んだ際、 アントワネットはルイ十六世の遺品である指輪と頭髪を 王弟たちに届けるように預けたこと。 ・アントワネットは、恋人に贈った百合花のしるしの (「臆病者よ 彼女を見捨てるものは」と刻印された)指輪とは別に、 フェルセンの紋章を刻した指輪を作っていたこと。 ・アントワネットが作ったフェルセンの紋章の指輪には 「Tutto a te me guida」と銘が入っていて、 彼女は刻銘のついた紋章を熱い蝋に押し付けて、その写しを ジャルジェを通じてフェルセンに送っていること。 「『ここに添えました写しは』と、彼女はジャルジェに書いている。 『昨年の冬ブリュッセルから私を訪れましたあのご承知の人にお渡し下さいませ。 そしてこの格言がいまほどぴったり当てはまったことはない旨、 その方にお伝え下さいませ。』」   (マリー・アントワネット ツワイク著 高橋禎二・秋山英夫訳) ツワイクが伝記にまとめた記述から推測してみると、 「夫の指輪+蝋の刻印→フェルゼンがアントワネットに贈った指輪に刻まれた言葉」 へ転じた、ということになるのでしょうか。 2つの指輪は双方、実はアントワネットが作らせたもの、それでも 物語としては、片方はフェルゼンが作って贈ったとしたほうが シンプルでロマンティック… 作家さんたちの創作過程もうかがえるようで、興味深く思いました。 ***** 読んでいただいてありがとうございました。 ちなみに小学生以来、ジェローデルと、それからダーヴィトのファンです☆ 「アントワネットの文机 の日記」

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