第一幕 第二場
(侍従の回想
舞台さらに暗くなってから、ちらちらと花に紛うほどの雪。
花道に先導の時方、浮舟の手を引いた匂宮登場。遅れて周りを気遣いながら侍従登場。
四人は舞台に進み、宇治川の岸辺に着けられた小舟に乗る。
時方が最初に乗り移り、浮舟を抱いた匂宮を助けて乗せ、
最後に時方に手を取られて侍従乗り込む。
小舟は静かに、宇治川の対岸を目指して進む。)
時方 (竿をさし留めて)宇治の川も中ほどまで参りました。こちらに見えますのが
橘の小島でございます。
匂宮 (浮舟に)見てごらん。あんな小さな島に、ほら…はかなげな木だけれど、
枯れ落ちぬ葉に白い雪が積もって…。
千年の先も変わらずに、そなたと共にあの緑の深さを愛でられたら…。
「年経(ふ)とも かはらむものか 橘の
小島のさきに 契る心は」
浮舟 「橘の 小島の色は かはらじを
この浮舟ぞ ゆくへ知られぬ」
わたくしのこの身は、いったいどこまで流れ流れてゆくのでしょう。
匂宮 (浮舟をさらに引き寄せて)初めてそなたを見たときから、私の心は変わらない。
京より遥々と山々を越えて、またこの宇治の川を越えて、さらには薫との友情をも越えて、
こうしてそなたの傍にいるのだ。
侍従 (思わずつぶやいて)ああ、なんとお美しい匂宮さま。いにしえの光る源氏の君も、
かくやと…。
匂宮 (侍従を振り返り)これ、そこな者、わが名を誰にももらしてはならぬ。
侍従 (声をかけられたことに恐縮して)は、はい…
(やがて小舟は対岸に到着。
時方ゆかりの家の準備が整う間、匂宮と浮舟、これまで越えてきた
宇治川の流れを振り返りつつ、静かに舞うなか、舞台暗くなる。
侍従の回想終わり)
続きます。
「源氏物語の日記」