第一幕 第三場
(舞台は第一場と同じ)
時方 侍従どの、侍従どの…。
侍従 (まだ夢見ごこちで)はい…。
時方 とにかく、浮舟さまは匂宮さまの方にお心を決められたのでしょうな。
匂宮さまは、薫の大将さまに先立って、浮舟さまを都に迎えようと
お住まいを整えておられるのですぞ。よもや…。
侍従 (我にかえって)決めるも何も…。深窓の姫君のお心は…そばにいる女房次第…。
いえ、物語にもありますように、一度目は、周りの者も油断して
お通ししてしまった男君から逃れられない女君でも、
二度目は、何としてでもお拒みになることはできるはず…。
右近さんも私も、匂宮さまの立派さ、美しさに気圧されていたとはいえ、
お仕えする主の真の心に添わないことは、決していたしませぬ。
匂宮さまをお逢わせいたしましたのも、浮舟さまのお言葉のうちにある
真の心を汲みとってのこと。
時方 真の心…。
侍従 薫の君、匂宮さま双方から御文がきましても、先にお読みになるのは匂宮さまの方。
これまで頂いた御文も、繰り返しご覧になるのは匂宮さまの方。お返事申し上げるのも…。
時方 それでは…。
侍従 あとは浮舟さまみずからが、真の心にお気づきになること…
(侍従、時方のもとを辞して、宇治の山荘に戻ってゆく。)
続きます。
「源氏物語の日記」