2008/09/14(日)23:07
人くい鬼モーリス。
人食い鬼モーリス / 松尾由美 著 なんと言っても装丁が美しい。表紙だけでなく、見開き、目次、本文。
いたるところが美しいのである。うっとりするのだが、読んだことのない松尾由美作品、
恋愛小説のイメージがある作者(読んだことないくせに)。
手に取るまで、少し時間がかかった。ティーンズ向けを意識してか、文体は軽妙、テンポもいい。
台詞回しは若干、大人向け?
だけど、その台詞にいちいち、受けてみたりと、
楽しいのである。
が、タイトルにもあるように「人くい鬼」なのである。
人を食っちゃうのだが、
「生きてる人」でなく、「死んで間もない人」の魂を食っちゃうのである。
もちろん、自ら手を下すことはない。
死んでいればいいってもんでもなく、やはり、怖いし不気味なのである。
当然、主人公も怖いし、びっくりする。
だけど、「彼(?)」と接するうち、何かが変わる。そもそも、主人公の彼女は女子高校生で、
10歳の少女の家庭教師(話し相手)として、避暑地へバイトへやってくる。
家庭教師とは名ばかり、実のところは少女が隠している「人くい鬼」の
情報共有者、いざと言う時の協力者。
当然、彼女は動揺し、拒否したい気持ちになるのだが、
事件が起き、それを許さなかった。人くい鬼が死んだ人を食っちゃうことに疑問を持たない少女。
「死んじゃってるんだし」
そのことに違和感を感じ、少女に説こうとするのだが、通じない。
背景にあるのは、彼女の生い立ち。
さらには、彼女の母、祖父の生い立ちまでさかのぼる。
「死」の概念、残されたものの感じる「死」とはあまりにもかけ離れている。 事件の2件目は、なんと、殺人事件が起きるのだが、主人公たちは、
殺人を犯した人がいて、その死体を「人くい鬼」がいただいちゃったと思いこむ。
しかし、行動するうちに、果たしてそうだろうか?
もしかして、「人くい」じゃなくて「人食い」、
死んだ人を作るために、殺してしまったのではないだろうか?
そんな疑念さえ湧いてくる。ってなドキドキ感で、後半は一気に読んでしまった。
オトナの事情とかそういったものも、見え隠れするのだが、
それは、ティーンズ向けなので、
ドロドロの部分はなくても、よろしい、なのである。ファンタジーでもあり、ミステリーでもあり。
哲学的でもあり、コミカルでもあり。
松尾由美入門書としてはナイスな一冊であった。
次に進むかどうかは謎であるが。