交通事故による機能障害の克服~Y君の生きるチカラ~
小学5年生のY君がお母さんに連れられて当院を訪れたのは、昨年の11月が終わろうとしていた頃でした。10月中旬に自転車で走っているところを軽自動車に衝突され、右半身を打撲、右鎖骨骨折。深刻だったのは、3週間ものあいだ意識不明の重体で、脳挫傷による脳内出血が認められたので脳内の出血を抑えるために1週間低体温療法を施されました。その後、画像診断にて脳内出血の形跡は無くなりましたが、意識が回復してからも右半身に運動マヒ、言語機能にも障害が残りました。医師の診断によると、頭部を強打したことよりも、頭部が強い力で瞬間的に回旋状に振られたことによる脳中枢の軸索の損傷であるとのこと。Y君本人はもとより、お母さんの心情は察するに余りあります。少しでも機能回復の手助けになれば、との思いで来院されたのでしょうが、大変に重篤な問題であり、手技療法で回復の見込める症状の範疇を超えていますので、そのことを御了解いただいた上で施術にあたりました。この間、当然ながら病院での検査、リハビリは引き続き行われています。施術は頭蓋部を中心に全身をハンズオンで、頭蓋骨の触診は頭蓋仙骨療法(C・S・T)を用いて行いました。(1回目・平成20年 11/30)歩行に関して、右側に跛行。ベッド上でうつ伏せになったり仰向けになったりの体位変換に時間を要す。言語は言葉はかわせるが、聞き取りにくい。右大腰筋に圧痛。第一頸椎右変位。頭蓋骨、特に蝶形骨の可動性減少が確認される。術後、頭蓋に可動性、現れる。(2回目・12/7)お母さんの話によると、前回の施術後よりよく笑顔が見られるようになったとのこと。ベッド上での体位変換が前回よりもスムーズになっている。頭蓋骨の可動性、前回よりアップしている。(3回目・12/14)ベッド上での体位変換はよりスムーズとなっている。歩行、言語ともに良好な変化が確認される。右側頭骨に圧痛。頭蓋骨の可動性、さらにアップ。(4回目・12/21)右肩甲骨の位置がマイナス3cm。術後、プラスマイナス0cm。(5回目・12/28)右手の握力が当初0.5kgのところ、17kgに回復。仙骨に左捻転変位。術後、改善。(6回目・平成21年 1/11)病院の知能テストにて記憶力、図形認識能力、文章解読力など、問題なし。跛行、大きく改善されおり、外見上はほぼ正常である。言語も当初、聞き取りにくかった言葉が普通に会話できるレベルとなっている。頭蓋骨の可動性、正常といえるレベルにアップしている。(7回目・2/22)右手の握力、23kgに回復。予想以上のY君の回復に、医師も驚いておられるとのこと。これは、以前聞いたことがある東洋オステオパシー学院の卒業生の先生の話ですが、脳全体に梗塞が見つかって、医師もなす術がなく様子を見守っていたという患者さんに対して頭蓋仙骨療法を施したところ、脳梗塞の形跡が跡形もなく消え去って医師も驚いたということがあった、とのことです。これは、頭蓋仙骨療法は頭蓋内の血流を大きく促進させる働きがあり、それによって脳梗塞が解消されたものと考えられます。Y君の場合、中枢系の損傷が回復不能なものであれば、先にあげた経過はあり得ません。しかし、回復するべき余地があっても、それを妨げる要因があるとすれば、それは一刻も早く取り除いておく必要があります。それは、脳中枢の問題である場合、早期に機能回復へ向かわなければ、その後の回復も絶たれる可能性があると思われるからです。この場合、頭蓋骨の可動性減少を放置していたならば、それが頭蓋内の血流の低下を招き、損傷した組織の回復の妨げになっていたかも知れません。いずれにしても、事故による脳内出血の形跡がなくなってから、比較的早期に頭蓋骨の可動性を改善できたのは、実にいいタイミングであったと考えられます。これ以上に時間が経過していたら、この様な経過は無かったかも知れません。いずれにしても、機能回復に向かうかどうかはあくまでも本人の回復力次第で、これは今回のY君の様な重篤なケースでも、ごく一般的な肩こり等の様な症状でも同様です。よく○×といった難治性の症状を自分の技術で治した、あるいは治す、と豪語する治療家の先生がおられますが、私の考えでは、治療家はあくまでも回復のお手伝いをしているに過ぎず、患者さん本人の回復へ向かおうとする意思と、治療する側の適切な働きかけとの、そのどちらが欠けても本人の機能回復能力を引き出すことは出来ません。これは経験上、その様に確信しています。Y君の場合、この様な大変な災難に見舞われながらも、明るく、前向きに進んでいこうとする強さが感じられます。これは、Y君の生きるチカラそのものです。これから先、どこまで回復できるかは本人にも私にもわかりませんが、Y君が希望を捨てずに来院されて来る限り、出来うる精一杯の施術で機能回復に貢献していきたいと考えております。Y君、ファイト!!(この記事は保護者の御了解の上でブログ公開しております。)ハンズオンセラピー・ジョウhttp://www.handson-joe.jp/