はんぺん

2019/01/02(水)00:47

「使い潰される」高齢労働者。多発する労災、人生を変える悲惨な実情  2018-12-22   今野晴貴(NPO法人POSSE代表)   Yahoo!ニュース

貧困(197)

「使い潰される」高齢労働者。多発する労災、人生を変える悲惨な実情  2018-12-22   今野晴貴(NPO法人POSSE代表)   Yahoo!ニュース  横浜市のビルメンテナンス会社で清掃業務に従事しているパート労働者の女性(69歳)が業務中に首や足の骨を折るという大怪我をし、横浜南労働基準監督署から労災認定されていたことがわかった。12月20日に本人と家族、彼女が加入している個人加盟ユニオン「労災ユニオン」が厚生労働省にて記者会見を行った。   高齢清掃員の怒り「姥捨山に捨てられた」 大ケガで会社は退職要求、労災申請も渋る    今回は、この事故の当事者や労災ユニオンへの取材をもとに、高齢者の労働現場に広がる「使い潰し」の実態について考えていきたい。   政府の高齢者就労推進策で見落とされている「高齢者の使い潰し」    政府は「一億総活躍社会」を提起し、人手不足の解消策として、高齢者の就労促進を強く推し進めている。直近でも、先月11月末に開催された「未来投資会議」において、現行で65歳までとなっている継続雇用年齢を70歳まで引き上げるとともに、年金受給開始年齢の引き上げが議論されている。 つまり、70歳まで働くのが当たり前の社会がすぐそこまで来ているのだ。    こうした中で、内閣府がまとめた『平成30年版高齢社会白書』によると、2017年の労働力人口総数に占める65歳以上の労働者の割合は15年連続で増加し、12、2%に達している。  特に、2011年から2017年までの間では、高年齢者雇用安定法による定年後再雇用が制度化された影響で、8、9%から12、2%に一気に上昇している。    また、同白書の世代別の就業者割合は、男性の場合65~69歳で54.8%、70~74歳で34.2%、女性の場合65~69歳で34.4%、70~74歳でも20.9%となっており、今や60歳代はもちろん、70~74歳の高齢者も、男女ともに2~3割の高齢者が就労している。    しかし、そのような状況下で、高齢労働者の労災は増え続けている。平成元年から同27年までの間に、労働災害全体の件数が減少する中で、60歳以上だけは件数が減少しておらず、全体に占める割合が12%から23%へ増加しているのだ。   (中央労働災害防止協会が昨年作成した『高年齢労働者の活躍促進のための安全衛生対策』の中で、公益財団法人大原記念労働科学研究所の北島洋樹氏が述べている)。    このように、高齢者の就労率の高まりの裏側で、安全衛生の体制は追いついておらず、あたかも「高齢者の使い潰し」とも呼べる過酷な状況が広がっているのである。しかし、このような実情は社会に十分認知されているとは言えないだろう。   「少しでも年金の足しに」と始めた仕事で人生が暗転    次に、今回問題となった労災事件について詳しくみていこう。    69歳のパート労働者Aさんは、横浜市のビルメンテンス会社に雇用され、会社がプロポーザル契約を結んでいる税務大学校東京研修所(千葉県船橋市)で清掃労働者として約3年間働いていた。    労働条件は、1年間の有期雇用、時給は1000円で週5日勤務、労働時間は午前8時半から午後2時半までという内容だった。    清掃の仕事は、若い人は敬遠しがちで高齢者ばかりの人手不足の職場が多く、この職場も例外ではなかった。勤続が長いAさんは、他の従業員や施設の職員とも良好な関係を保ち、現場のリーダーのような役割も担っていたという。    しかし、2018年5月16日の業務中、Aさんは現場の階段から転落し、頭部外傷、頚骨骨折、右大腿骨骨折、歯の損傷等、大怪我を負い、踊り場で気絶をして倒れているところを発見され、救急搬送、入院することになる。非常に重大な被害だ。    最初に家族がAさんを見た時には、Aさんの頭部は「おかしな形」に変形し、それにより顔も大きく変形、顔面は紫色に腫れ上がり、右目は開かず、歯はなくなり、首にはコルセットが付けられていた。そのようなこれまでとは変わり果てたAさんを見て、家族は涙が止まらなかったという。    その後、Aさんは懸命のリハビリの甲斐もあり、今年11月に退院をすることはできたが、今も杖がないと歩くことができない。以前は外出することが大好きだったが、今は通行人との少しの接触でも転倒する危険性があり、ほとんど外出できない。    首や足の痛みは未だ完全には消えず、夜は痛みを紛らわすために睡眠薬を飲んで寝る毎日であり、今後後遺症が残ってしまう可能性も医師からは示唆されている。    元々は、年金だけでは持病持ちの80歳近くになる夫を抱えて生活していくのも不安なため、少しでも生活の足しにと働き始めたAさんだったが、これまでとは全く違う人生を送らざるを得なくなってしまったのである。   労災手続きに対する不誠実な対応    仕事中に大怪我をしたAさんだったが、労働災害保険の手続きはスムーズには進まなかった。Aさんが最初に会社へ労災事故に遭ってしまったことを伝えた際には、会社からは「労災ではなく、民間保険でやるから大丈夫」と言われたという。    会社はAさんの事故の発覚を恐れ、事故を隠そうとしたのだ。    その後、Aさんが深刻な状況で入院しているため、会社は言い逃れができなかったのだろう。労災の療養補償給付(治療費に対する給付)について会社も手続きをした。    しかし、休業補償給付(休業していることによる賃金補償)の申請に関しては、再三、家族が労災手続きに必要な書類を送付するよう会社へ依頼をしても3ヶ月も放置されたうえ、社長から家族へ「なんで私がやらなきゃいけないの!」などと威圧され、電話で怒鳴られるようになった。    さらには、会社は入院中のAさんに対して、「会社を辞めるように」と連絡をしてきたという。まだベッドから十分動くこともできないAさんに対してである。これまで会社のために頑張って働いてきたAさんはこの仕打ちを受け、悔しさから涙が止まらなかったという。    会社のこのような行動は、違法な「労災隠し」が目的だと考えられる    ブラック企業では、労災保険の保険料の増加や、労災認定後の損害賠償請求の回避、企業イメージの低下などの理由から、労災申請をさせない、労災申請に協力をしないなどの「労災隠し」をすることがある。    今回のAさんの場合、会社は適切に労災申請の手続きができるよう協力をすることが法律上義務付けられているにも関わらず、それを明らかに怠っている。    また、労働基準法では、労災で休業中に解雇はできないと定められているが、今回会社は「会社を辞めるように」と通知しており、これは明らかな違法行為である。   「姥捨山に捨てられた」当事者たちの想い    これは、Aさんとその家族が記者会見で訴えたメッセージである。高齢労働者の「使い潰し」に対する憤りが胸を打つ。   【被害者】  私は、労災被災当時68歳という年齢になるまで子育てや親の介護をしながら、精一杯社会で働いてきました。  定年後だいぶ経ち心臓と脚の悪い80歳近くになる夫の面倒を見ながら、少しでも年金の足しになるようにと毎日朝早くから一生懸命働いてきました。    しかし、労災に遭ったことで会社からは疎まれ、手術後まだ入院中のベットの上から動けない時点で、会社から電話一本で会社を辞めるように言われました。  まるで、それは「姥捨て山」に捨てられたような、とてもつらく、とても情けなく、屈辱的な、それまで生きてきた人生を否定されたような思いで、ただただ涙が止まりませんでした。    現在も多く社会で懸命に働く高齢の労働者の方に、私のような思いは決してしてほしくないです。   【被害者の娘】  母は、この年齢で余りに不幸すぎる労災事故に遭い大怪我を負い、身体の自由が利かなくなるまで、私たち家族のため、社会のために懸命に働き、生きてきてくれました。  母には、身体が動くうちは元気に社会や会社に貢献していたいという強い責任感もあったと想います。    高齢者雇用をしている会社が全てがそうだとは決して思いませんが「高齢者なら勤務できるあても少なく、低賃金で使い捨てにできる会社にとって便利な存在」として、高齢者の労働力を都合よく利用し、いざ労災に遭えば、会社のお荷物として切り捨てるのは、社会で何十年も働き、家族のために尽くしてきた高齢の労働者に対しての尊厳を余りに冒涜した態度です。    私たちの、父や母たちの世代の方々は敬われることが当然であり、心無い会社に使い捨てにされるような存在では決してありません。   政府は、一億総活躍時代という聞こえのいいスローガンを掲げ、高齢者の労働力を利用拡大していく政策を今後も進めていくと思います。   それであるならば、まずは母のように低賃金かつ法律も遵守されていない劣悪な労働環境に置かれている上、使い捨てにされる多くの高齢の労働者の方々の労働環境の改善を進めることが、何よりも優先されるべきでありませんか?   ユニオンとの出会いと今後の交渉    事故後、Aさんと家族は、このまま会社とやりとりするのは限界だと感じ、労働相談窓口を探して、労災ユニオンへたどり着いた。    Aさんはユニオンへ労働相談をしたことで、定時より前に来て働いたり、残業した分の賃金が支払われていないこと、不当に社会保険に加入していなかったことなども知った。    現在は、労災の発生原因や今後の再発防止、労災事故発生による慰謝料支払い、不当解雇の撤回、未払い賃金の清算、社会保険への加入等をめぐって、Aさんは組合員の仲間とともに団体交渉を進めている。    交渉の中では、会社がAさんらへ必要な安全教育をしていないなどの不備があったことが明らかになった。また、不当解雇の撤回や社会保険への遡っての加入などはすでに勝ち取ることができたという。    労災は自分の注意が不足していて起きてしまったのだから、仕方がないだろうなどと自分を責めて、労災申請を思いとどまってしまっている方は非常に多い。また、労災申請を妨害する違法なブラック会社が跋扈しているのが現実だ。    厚生労働省も後を絶たないこの問題に対し、「「労災かくし」は犯罪です」と啓発活動を行っているほどだ。    労働災害の被害、さらには「労災隠し」の二次被害にあってしまったとき、泣き寝入りをするのではなく、ぜひ、早めに専門窓口へ相談をしてほしい。特に、今回の事例に見られるように、ユニオンによる団体交渉は有効な解決方法になる。    尚、労災ユニオンでは、高齢労働者の労災問題に関するホットラインも以下の日程で開催するという(相談無料・秘密厳守)。ぜひ、小さな悩みでも相談を寄せてみてほしい。

続きを読む

このブログでよく読まれている記事

もっと見る

総合記事ランキング

もっと見る