
♪ 絶対に居ないと困るカミさんの居ない一夜のこの解放感
指定より少し早めに病院へ。時間なりしもまだ部屋に、退院の人いるらしいき。春まだき5階の病棟4人部屋、供に手術を控えしの、二人の患者通されぬ。
目的の午後の手術の時間まで、することも無くうろうろと。やがて時計は11時半、Cafeで昼食エビ天丼をつっつきながら持ち込みし、本など読んで1時間、時をつぶして過したり。
いつぞやは著作の本を読みあげて、手紙に感想書きし折「ヤマトシジミの食卓」も読んでみたいと書き添えしなり。図書館で借りて読めばと思いしも、書かかずおけば催促を、したかのごとくその本が送られてきて恐縮す。
2011年に日本児童文学者協会賞を受賞して、第57回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書にも選ばれぬ。そんな児童文学者・吉田道子さんの優良本を、読むは縁(えにし)の京なれば、都のなせるわざならん。
上製本の丸背本、少年年少女向けなればあっという間に読み終えぬ。そろそろ手術の時間かと519を覗きしも、妻は居らざりベッドには虚無広がりて静かなり。
しからばと「食堂・デイルーム」に腰を据え、妻が用意の退屈しのぎ、漢字ナンクロして過ごす。難易度は★★★なるも糸口の、掴めぬままに吾の名を呼ぶ声のして、顔を上げれば、車いすにて戻り来ぬ。担当の整形外科医が、レントゲンの画像を見せつつ告げるなり。「手術が無事に終わりました」骨の上に金属だけがくっきりと、白く輝やき放つなり。
時は2時前、カミさんの左手まったく動かざり。感覚の無き左腕、包帯の上に被せた網の端を、支柱に吊られて痛々し。痛いかもと言われていれば「麻酔が覚めていくのが怖い」、憔悴しきった顔が哀れ。
看護師に「もう帰っても良いです」と言われ頷き付き添いの、我も潮時思いおり。麻酔が覚める4~5時間、待ってはおれず帰りきぬ。
晩飯は好きなペペロンチーノなり。慣れた手つきでいそいそと、調理をすればその前に飲みだしている赤ワイン、酔いが回ってウキウキと、エゴにまみれて過ぎゆきぬ。
絶対に居ないと困るカミさんの、居ない一夜のエアーポケット。この解放感はなんだろう。
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