2022.01.27

■ 「草枕」には滋養がある

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カテゴリ:読書

♪ バーチャルのショップ立ち上げ視界なき海へそーっと笹船を出す


「草枕」の冒頭部分は、“智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。” と、七五調でリズムよくシビアな世相描写から始まって、ググーっと襟元を掴まれる。
 異国の文化に接したことで必然的に持って生まれた才能が湧きあがって、至高の日本文学をものにすることになったのでしょう。

 初の小説「吾輩は猫である」の翌年に「坊っちやん」を出し、その5か月後に6冊目の本として出版された。日本語の最も特徴的な韻律を、いつか使いたいと思っていたのだろうか。

 次へ進むと七五調はなくなって、“住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれて、画ができる。”と、有無を言わせぬ説得口調になって迫って来る。
 私は漱石の本の中で「草枕」が一番好きだけれども、その「智と情と意」について難解な言葉を駆使して続けられる文章は一度読んだだけでは理解できない。そこがまた噛めば噛むほどに味が出てくるスルメの様で、飽きてしまうということがない。

 そんな「草枕」が頭の中に住み着いていて、脈絡なくこんな文章に引っかかったりする。



「私は貝になりたい」というフランキー堺主演の映画があったけれど、「カタツムリになる」というのも良いかもしれない。
「殻に身を潜めて、やかましい連中を黙殺できるし、蹴飛ばされてもすぐまた地面にそっと密着できる」というところで、安倍元総理を思い浮かべてしまったのは脳のいたずらでしょうか。

「草枕」では、シェレーの雲雀の詩を思い出して暗唱したその詩が紹介され、その訳がこれまた七五調になっている。
「前をみては、後えを見ては、物欲しと、あこがるるかなわれ。腹からの、笑といえど、苦しみの、そこにあるべし。うつくしき、極みの歌に、悲しさの、極みの想、籠るとぞ知れ」こうしないと詩にならない。
 カール・ブッセ「山のかなた」の上田敏訳も七五調で、そのリズムは演歌にも交通安全標語にも受け継がれていく。

 フランシス・ポンジュの「確実でもの静かなこの前進の態度以上に美しいものはない」、これを七五調にアレンジしてみると、「確実にしてもの静か この前進の態度こそ 生きるにまさる美はなかり」

 ああ、またあの難解な文章を読みたくなった。





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最終更新日  2022.01.27 08:47:49
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