愛犬の老後・介護




北海道盲導犬協会《老犬ホーム》の辻さんは
この13年に70~80頭の盲導犬を看取ったそうです。
(動物奇想○○で何度か紹介された女性なんですけど、わかるかしら?)
老犬ホームでのお仕事は大変ではなく毎日が楽しいそうです。

12歳を定年に仕事を引退する盲導犬たちは、全員がこの老犬ホームに入るのではなくて
最近では札幌市内で30余軒の希望者に、元気な老犬が委託され
最高齢はなんと17歳で歩ける老犬もいるそうです。
もちろん老犬は《時間と気持ちに余裕のある家庭》に引き取られます。

《その後》を知りたいからと、ユーザーの強い希望で老犬ホームにいる15歳のおばあちゃん
ほか14歳のおばあちゃんと16歳のおじいちゃん
計3頭がこの辻さん他、ボランティアの方々の手で余生を穏やかにすごしています。

盲導犬を《12歳定年》と決めた理由はいろいろありますが、
ユーザーに「もう定年の歳(さようなら)が近づいた」と心の準備をしてもらうこと
老犬たちが第二の人生を迎えることで
《人から犬たちへのねぎらいの場》をつくり
必ず人のいるところで、暖かく送ってあげることなど

「『ああ、あのとき、ああすればよかった‥』という後悔を残さないように
毎日を大切に生きようと思っています」

《やさしい時間》を用意する、静かで・飾り気のない辻さんという女性のお話しを聞いていると
『犬ってやっぱり、こういう存在の人に安らぎを感じるのだろうなぁ』
『老犬だったらこの女性(ひと)に看取ってもらいたいなぁ』

‥なんて、自分も一瞬優しくなりました。

さて《老犬ホーム》にいる3頭の犬たちはそれぞれに病気を持ち、闘病生活をしています。
食道拡張症といって、食道の弛みが原因で食べたものが胃に運ばれなかったり
食の変化ですぐにおなかをこわしたり、目の中にいぼができたり‥エトセトラ

老犬になると病気は勿論ですが、日々の生活から変化を察知する事ができるそうです。
呼吸・食の変化、散歩の拒否、睡眠時間の増加、車に乗れなくなる、人が恋しくなる(分離不安)
様々な要求による夜鳴き、徘徊、痴呆

そういったことをひとつづつ見つけて
工夫しながら、個性にあった方法を探してあげること。

・床擦れ防止
・カロリー補給
(サプリメント)
・排便場所の設備
・滑らない床の工夫
・段差のない居住空間
・症状にあった介助用の洋服
・食生活にあったボウルの位置(高さ)

・車椅子は前足の元気な若い犬に向いている
・夜中の徘徊に気づくためには、首輪に鈴をつける
・人の与える道具(服)による二次的な症状に気をつける
(老犬になると抵抗力が弱り、擦り傷や湿疹が悪化する)
・疣や良性の脂肪腫、歯石などは身体の負担を考慮の上、事前除去
・寝たきりの老犬に食事を与える時は、必ず伏せの体勢に起こしてから与える
(寝たままで食事を与えると、肺炎を起こしやすくなるのだそうです)

また、介護に必要な環境について
・家族の協力(ひとりで背負わない)
・自分が健康でいること(不眠対策他)
・話し相手をつくること(カウンセリング)
・老犬の介護の中に《楽しみ》をみつけること

「いつも近くにいて、安心感をあたえてあげることが大切です。」
「希望する事は、できるだけかなえてあげたいと思っています。」

安楽死の話もありました。

選択する時期がとても難しいこと
苦しんでいる老犬への安楽死という選択が間違いではないこと

《老犬ホーム》で仕事をしていて一番辛かったことは
「安楽死の時期について、獣医師の判断と自分の判断が異なっていた時」
経験を積むにつれ、信頼できる獣医師の判断が一番正しいと思うようになり
今では《その時》にあまり差がなくなってきたというお話し。

簡単ではないだろう仕事を
盲導犬とかつてのユーザーとのパイプ役になれる素晴しい仕事だと
辻さんは美しい表情で、静かなお話しでした。

盲導犬になれなかった5歳のデモンストレーション犬(♀)が
1時間の講演の間、彼女の足元でくつろいでいたが
途中で起き上がって、ふらふらっと聴講者のもとへ歩いてきたり(笑)

その時の彼女と犬とのやりとりを見ていても《以心伝心》が印象的でした。



© Rakuten Group, Inc.