ドッグトレーニングバイブル・序章



博士「どうしてイヌはいたずらをするのかな?」

愛犬「は? いたずら? ボクたちイヌは、すごく模範的に行動しているつもりなんだけどね。」



「そうか、言い直そう。 じゃあ、もうちょっと細かく聞こうか。
 どうしてイヌはいろいろ追いかけたり、噛んだり、穴を掘ったり、
 歯をむきだしてうなったり、空咬みしたり、吠えたり、
 咬みついたりするんだろう?」

「基本的には、それはボクたちがイヌだからだと思うね。
 だって、ボクたちが空を飛んだり、クロスワードを溶いたり、骨を冷蔵庫に入れたり、
 モーとかニャーとか泣いたり、弁護士を雇って裁判をおこしたりしたら、
 博士だってびっくりするだろ?」



「分った分った。
 つまりイヌがすることは全部、イヌとして自然な行動で、ごく当たり前の、
 しなければならないことなんだ。だから、行動自体が異常なわけじゃなくて、 
 ただ家の中でするのは適切じゃないだけなんだね。」

「うん、そうとも言えるし、そうでないとも言える。見方しだいだと思うね。
 ボクたちイヌが、自分の行動が不適切だと思ってるとは限らないし、
 NYで暮らしている友だちなんて、フカフカのカ-ペットが家の中でいちばんのトイレだと思ってるよ。
 そこでオシッコをするのがサイコーなんだって。
 ジャックラッセルのじいさんは、耕したばかりの花壇が、穴掘りには理想的な土質なんだって、
嬉しそうに話してたしね。」



「そうか。間違っていたらそう言ってほしいんだが‥つまり君が言いたいのは
 イヌの行動は完全に正常で自然だと‥。」

「それに必要なんだ!」



「それに野生の環境では必要な行動だと‥。」

「家でも!」



「‥家でも必要な行動だ、と。」

「だから、そうされて困るんなら、変わりにどうしたらいいのか、
 指示してもらわないといけないんだ。そうでないと‥。」



「そうでないと?」

「‥そうでないと、どうしても勝手なことをして、時間をつぶす《作業療法》を考えるしかなくなるのさ。」



「それが《いたずら》ってことになるんだね?」

「その通り! それで、ルールを破ったと言って罰を受ける。
 そんなルールがあることさえ知らないのに。」



「フェアじゃないね。」

「ま、嬉しくはないね。
 (マラミュートという犬種は、辛口な皮肉を遠まわしに表現することで知られている。)」



「ふーむ。 君たちは、悪いことをした覚えはないと、ご主人に説明しようと思わないのかい?」

「もちろん、ご主人が帰ってくるたびにするさ。」



「で?」

「玄関まで走って行って出迎えると、罰を受けるんだ。」



「それはたぶん、うるさくまとわりつかれて、前足をかけられたり、なめられたり、
 飛びつかれたりするのが嫌なんじゃないかな。その代わりにオスワリをして‥」

「なるほどね! それは考えつかなかったな‥。
 でも、子どものころは、ボクたちが全身でじゃれると、ご主人は喜んだけどな。」



「いや、私が言いたいのはね、オスワリをしてご主人とじっくり話をしたらどうかということなんだけど。」

「ダメダメ、ご主人は話を聞かないよ。 ボクたちがオスワリをしたらいつも
『ツケ、オスワリ、ツケ、オスワリ』って言い始めて、グルっと回ってもとのところに戻ってくる。
 意味わからないんだよ。」



「お願いしてみたことは?」

「いつでもやってるさ。 でも、卑屈に振舞うと必ず裏目に出るんだな。
 ボクたちがわざといたずらしているって、考えるみたい。 だからまた罰が厳しくなる。」



「怒ったことは?」

「怒ったら、殺されちゃうよ。」



「なんとまあ! そんなに困っているペットたちのために、私に何かできることはあるかね。」

「そうだな。手始めに、人間向けの子イヌのトレーニング・ガイドを出すなんてどう?」



「任せておいてくれ!」


イアン・ダンバー著『ドッグトレーニング バイブル』より抜粋。
注)博士の愛犬はアラスカン・マラミュート


▼∵▼ソーダ ソーダ♪

切手切手切手


© Rakuten Group, Inc.