2012年03月の記事一覧 | 元SF小説家・春橋哲史のブログ（フクイチ核災害は継続中）

穏やかな顔のロバ

　レッサーパンダやモルモットなど、小さい動物を取り上げることが多かったので、大きめの動物を取り上げます。　上３枚は横浜のズーラシアにいる「モウコノロバ」のミンミンです(オス)。私がこの写真を撮った時は餌を食べていたのですが、冗談のつもりで手を振るとじっと見つめてきて、暫く視線を合わせていました。　モウコノロバが見られるのは、日本でもズーラシアだけだそうです。　その下は夢見ヶ崎動物公園のロバです(オスのドンと、メスのかぐや)。ズーラシアよりも近い距離で見られるのですが、比較にならないほど狭いコーナーで、その点は気の毒です。　ロバの顔は本当に穏やかですね。夢見ヶ崎で、間近で見ていると癒されます。　動物は「想定外だった」とか「直ちに健康に影響はしない」と言わないので、落ち着けます。※４月１２日、モウコノロバの名前等を追加

福島原発事故　独立検証委員会

「福島原発事故　独立検証委員会」（ディスカヴァー・トゥエンティワン　1500円)を読了しました。所謂(いわゆる)、民間事故調報告書です。　一般財団法人「日本再建イニシアティブ」がまとめたものですが、402頁に及ぶ報告書を１週間もかけずに読んだので、私は、頭の中がボロボロになるような思いでした。ここまで頭を使って本を読んだのは久し振りでした。　福島原発事故に関して、包括的な報告書が出たのは初めてですし、今のところは唯一のものです。読むのは社会常識と言っても過言ではないでしょう。冗談抜きで、「日本に居住している人・日本国籍を持っている人」はこの報告書は必読書と言えます。(注・今年６月に国会事故調の報告書・７月には政府事故調の報告書が提出される予定です)　東電と福島県が聞き取りを拒否しているのは残念ですが、菅直人・枝野幸雄・斑目春樹・近藤駿介の各氏を始め、３００人を超える人数から聞き取りを行ったその内容は、圧巻です。　この報告書で批判され、或いは問題提起されているのは、官僚であり、政治であり、電力会社であり、メディアであり、学者であり、国民(有権者)です。つまりは、国のあらゆる層です。この報告書の発表を報道した新聞社は、自らにも問題が提起されていることは都合よく素通り(もっと分かり易く言えば、無視)していましたが、新聞やＴＶを観る・読む時間が有れば、４０２頁に及ぶ報告書を読んだ方が何十倍も役に立ちます。　巻末には、近藤駿介原子力委員長作成の所謂「最悪シナリオ」も添付されており、巻頭の地図や図面と合わせて、資料的な価値も十分です。情報を引用した際には、必ず出典が記載されており、３００人を超えるインタビューの他にも、膨大なサイト・書籍・新聞・雑誌等に当たったことが分かります。よくぞ、これだけのものを半年でまとめ上げたものだと、脱帽です。　個々の内容の紹介は回を改めますが、一般財団法人「日本再建イニシアティブ」の発足経緯について、「船橋洋一　プログラムディレクターからのメッセージ　-『真実、独立、世界』をモットーに」から引用しておきます(報告書９～１５頁)。引用ここから================　(前略)「民間事故調」を立ち上げようと思ったのは、２０１１年３月末でした。(中略)　そのころ、政府が事故調査委員会(事故調)をつくるらしいという情報が流れ始めました。(中略)　政府事故調の報告書をきちんと評価できるだけの真摯な調査・検証が複数必要になる。それに、政府が任命した政府の事故調査委員会の報告書だけでは、その内容がいかに優れていても国民も世界も疑いのまなざしで見る可能性もある。　日本では、政府の災害対策や政策の大きな失敗について、政府や国会が、真実を究明し、そこから教訓を学び、それを国民の前に示し、二度と同じ間違いをくり返さないよう国民的合意をつくることをしてこなかったと思います。　日中戦争にしても太平洋戦争にしても、戦後、政府はそれに関する調査報告書をつくりませんでしたし、国会もその原因と背景を調査し、検証することをしませんでした。それを営々と続けてきたのは民間の研究者でした。　冷戦後の２０年に及ぶデフレと日本の国力の衰えについても、どの政権のどの政策に問題があったのか、政府も国会も徹底糾明をすべきですが、知らぬふりです。　東京電力福島原子力発電所の事故と被害についてだけは、同じことをくり返すわけにはいかない。いても立ってもいられない気持ちでした。(中略)　この構想を進めるにあたって、私は、まっさらから始めようと思いました。　どこかの大学やシンクタンクにアイディアを持ち込むことはしない。いつ、どこから、どんな邪魔がはいるか分からないからです。　調査・検証する対象は、原子力であり電力会社であり原子力産業です。産官学のそれこそ"原子力ムラ"と呼ばれる巨大システムです。政治にも行政にも大学にも法曹界にもメデイアにもその影響力は浸透しています。(中略)　自分たちのシンクタンク(財団)を作り、そこでプロジェクトを動かす方がすっきりする、と私は割り切りました。　プロジェクトの立ち上げは、シンクタンク(財団)の設立を待ってからということで、プロジェクトの発足は少し遅れましたが、近藤正晃ジェームズ氏(Twitter日本代表)と新浪剛史氏(ローソン社長)と３人で賛同人を募り、９月末、一般財団法人「日本再建イニシアティブ」を設立することが出来ました。(後略)===========引用ここまで　船橋氏のメッセージだけで７頁有り、全文を引用したいくらいです。「いても立ってもいられない気持ち」から、財団を立ち上げ、調査委員会を作り上げる氏の行動力には、私は、ただただ感心・感謝の思いです。　この国には、一人称で行動しない「批評屋」が多過ぎます(報道機関はその最たるものでしょうが) 。お金や人脈というものは、社会の発展や市民の幸福の為に、少しでも役立つように遣うべきです。プロジェクトに資金を出した人がいて、協力した学者がいる、インタビューに応じた人もいるということは、この国もまだまだ捨てたものではないという事でしょうか。

日本で唯一のシベリアヘラジカ

　今回の写真は、夢見ヶ崎動物公園のシベリアヘラジカです(ボロウとユキの姉妹)。　案内板によると、日本で唯一のシベリアヘラジカとの事で、貴重な生き物なんですね。メスが2頭で、子どもの誕生でも見たいところですが、ワシントン条約の関係で個体の輸入が禁止されているとの事。オスが来る見込みはないそうで、残念ですね。　夏になると、気持ち良さそうに水浴びをして、全く動かないので、見に行くなら、今の季節の方が良いかも知れません。冬の寒い日に、ゴクゴクと水を飲んでは歩き回っていたのが印象的で、本当に、寒い地域の生き物なんですね。

空飛ぶゆうれい船

　日本映画専門チャンネルで、「映画は世界に警鐘を鳴らし続ける」という企画の中で放映された、表題のアニメ映画を観ました。映画のデータは下記。 1969年・東映・カラー・62分　原作：石森章太郎　監督：池田宏　（声）野沢雅子／田中明夫／里見京子／岡田由紀子、他　岩井俊二監督が選んだ作品ですが、選んだ岩井監督も、放映した日本映画専門チャンネルも凄いと思います。この作品は、権力批判であり、資本主義批判であり、消費者批判であり、反戦映画でもあります。東映がこのようなアニメ映画を作っていたとは、意外でした。60年代だからでしょうか？　第二東映も、「第三次世界大戦・四十一時間の恐怖」という、安保体制の批判にまで踏み込んだ反戦・反核映画を作っていますが（何故か、ビデオ・ＤＶＤ未発売）、昔の日本映画から迸ってくる力やメッセージ性は、本当に、観る者を打ちます。このような作品を見ると、政治的に無色透明な映画がひどくつまらなく思えます。「空飛ぶ・・・」で描かれる企業批判や資本主義批判は、今だからこそ、益々重みを増しています。だからこそ、岩井監督もこの作品を選んだのだと思いますが、現代の日本で、このような作品が作れるのでしょうか？　今は、すぐに自主規制してしまい、タブーが多過ぎます。　１・２月の「映画は世界に・・・」の企画はとても良かったです。この時ほど、ＣＳ放送を視聴できる環境にしておいて良かったと思ったことはありませんでした。「空飛ぶ・・・」を観られたのも勿論ですが、それ以上に値千金だったのは、岩井監督と坂本龍一氏、岩井監督と鈴木敏夫氏（スタジオジブリ）の対談が観られたことです。脱・原発、反・原発に関して、クリエーター同士がじっくりと語り合う番組というのは、なかなか観られるものではありません。ＣＭ抜きで放映してくれた日本映画専門チャンネルにも感謝したいです。　それにしても、一般の地上波やＢＳは、つくづく、観る価値がないものですね。

ズーラシアのスマトラトラ

　寒い週末ですね。　前回は、余りに落ち込む話題だったので、動物の話題に戻りましょう。　今回の写真は、よこはま動物園ズーラシアにいたスマトラトラのランです。ズーラシアは面積としては日本最大級の動物園で、動物の本来の生息環境の再現に最大限の配慮をしているのが特徴です。(http://www2.zoorasia.org/) 　このズーラシアに、開園以来いたスマトラトラのラン(メス)が、2月に大阪の動物園に移動してしまいました。ガラス越しに、間近に見ることも出来たので、その写真も含めて掲載します。　ズーラシアはレストランも有り、本当に広い動物園で、一日でもいられそうな所です。野毛山や夢見ヶ崎とは比べ物になりません(比較するのがそもそもおかしいかも知れませんが)。移動するだけでも大変ですが、それだけに、グループや家族連れで行けば、丸一日楽しめるでしょう。　トラ以外の写真は、機会を改めます。

IBMとホロコースト

　先日、「IBMとホロコースト~ナチスと手を結んだ大企業」(柏書房、エドウィン・ブラック著、482頁、2001年11月初版)を読了しました。　初めて知る事実ばかりで、衝撃的な内容でした。ドイツ第三帝国は、IBM(インターナショナル・ビジネス・マシーンズ社)のパンチカードシステム「デホマク」があってこそ、ユダヤ人の登録や、列車の効率的な運用、物資・在庫のリアルタイムでの把握が可能でした。パンチカードによる登録と選別のシステムが無ければ、第三帝国によるホロコーストや侵略戦争は、起きていたにせよ、規模がもっと小さくなっていたと思われます。第三帝国は、それほどまでに、パンチカードシステムに依存していました。　ポーランドで連行されたホロコーストの生存者を両親に持つ著者の、執念とも言える調査は、IBMの協力を全く得られませんでしたが、2万件の文書を繙(ひもと)いた成果はこの大著に見事に結実しています。　本書は、IBM発展史でもあり、第二次世界大戦前後の経済史でもあり、IBM社長となるトーマス・J・ワトソンの立志伝でもあり、そして、技術面から見たホロコースト史と言えます。　私は、最初、この本を見付けた時に、ファシズムの典型である第三帝国と、自由資本主義社会の大企業が手を結び、巨額の契約を取り交わしていたとは、俄かには信じられませんでした。ですが、事実は小説よりも奇なり。　冒頭、「この本を読むであろう、娘レイチェルに―　そして、この本を読むことのない600万人に。」という文章がついていますが、読了した後で600万人という数字を考える時、この大量殺戮に技術的サポートを与えた企業が存在したこと、そして、そのサポートによって巨額の利益を上げていたことに、慄然とした思いを禁じ得ません。歴史の暗部だとか、企業の闇といった言葉では語れないほどの重い事実・重い歴史です。「序」は、「本書を読むのは、非常に不快な経験となるだろう。書くのも非常に不快な作業であった」という文章から始まります。その通りで、私が読んだノンフィクションの中で、これ程までに胸が悪くなるような本は他にありませんでした。　SSの特別行動隊は、ユダヤ人達をシナゴーグに閉じ込めて火を放ったり、壕の傍に並ばせたユダヤ人達を流れ作業的に射殺するという方式でいちどきに数十~数百人を「処分」していましたが、そのような手法より効率の良い「処分」方法をどうして考え付けたのか?　チェコスロバキアのズデーテン地方がドイツに併合された途端、間髪を入れずにユダヤ人狩りが始まりましたが、どうして、そんな素早く、個人情報をリストにできたのか? 　SSの経済部局は、大は軍需工場から小は農場主に至るまで、強制収容所の囚人を労働力として有償で貸し出し、莫大な利益を上げましたが、必要な所に必要な労働力を必要な時期にだけ提供するという事が、どうして可能だったのか? ドイツ帝国が管理する資材や在庫の目録は古くても１０日前のものでしたが、コンピューターの無い時代に、どうして、事実上リアルタイムの把握が可能だったのか? 　ガス室へ送り込むユダヤ人を乗せた列車は正確に運行され、必要な貨車を必要な所に送り込めましたが、どうしてそのような運行が可能だったのか? これらの疑問とそれに対する答えは、本書の内容の一端でしかありません。胸が悪くなる事は間違いないと思いますが、このブログのこの文章に辿り着いた方には、是非とも、「全てを」読んで貰いたい本です。「全てを」とカギ括弧付きにしたのは、「序」に次のような文章が有るからです。「私としては、すべてを状況の流れのなかでとらえてもらいたい。本書を飛ばし読みすることは、不完全で間違った結論を導くことにしかならないだろう。だからもし、あなたがこの本を、斜め読みしたり任意の章だけ読んだりしようと思うのなら、どうか一切読まないで頂きたい。間違えないでほしい。IBMが存在しなくてもホロコーストはやはり起こっただろう」(本書　18頁)　改めて、読後の感想ですが、現在のIBMはPC部門を切り離し(レノボに売却済)、世界最大のソフトウェアサービス会社となっています。電車の電光掲示板等には、「世界をもっとスマートに、IBMがお手伝いします」「ビジネスをもっとスマートに、IBMがお手伝いします」というフレーズで宣伝を流していますが、私の頭の中には、この本を読んだ後、こんなフレーズが浮かんできました。「ホロコーストをもっとスマートに」「侵略戦争をもっとスマートに」「強制労働をもっとスマートに」「・・・IBMがお手伝いします」。　IBMが行ったのは、つまるところ、そういうことなのです。第三帝国が敗北しても、IBMは戦犯として裁かれることなく、現在に至っています。ここが、胸の一番悪くなる点です。私も過去に、IBMのPCやソフトを購入したことは有りますが、本書のことをもっと早く知っていたら、絶対に買わなかったでしょう。　巻末の解説は、原著やドイツ語版・フランス語版も読んだ上で書かれており、膨大な出典一覧も記載されています。この本に対する、柏書房の丁寧さと熱心さが伝わってくるようです。　本書は、調査型ジャーナリズムの一つの見本と言っても過言ではないでしょう。改めて書きますが、是非とも、多くの方に読んで貰いたい本です。

モルモット

　久し振りの更新になりました。気付いたら、2週間近くの放置になっていました。　以前にもチラリと書きましたが、モルモットの写真です。上3枚が夢見ヶ崎動物公園で、その下は野毛山動物公園です。夢見ヶ崎では見るだけですが、野毛山では、「なかよし広場」で実際に膝に載せたり抱き上げたりできるので、とても癒されます。　夢見ヶ崎では見るだけですが、檻の前に来ると「キュウキュウ」と啼き声が聞こえ、そこかしこでチョコマカと動き回っている様子は壮観ですらあります。

自らを省みない人達

一般財団法人日本再建イニシアティブの福島原発事故独立検証委員会から、調査・検証報告書が発表されました。内容については、3月11日に発売予定の書籍を読むことにしますが、2月28日の日本記者クラブでの記者会見後、多くの新聞の社説がこの報告書を取り上げていました。　私は新聞を購読していないので(するつもりも有りません)、スマホのアブリ「社説リーダー」でこれらの社説を読んだのですが、砂を噛んでいるような虚しい文章の羅列でした。下記に一部を引用します(全文の引用は字数の関係でできません)。「政府や国会も、指摘をきちんと受け止め、原子力の安全規制見直しに生かすべきだ」(2月29日・朝日新聞「民間事故調－原子力規制に生かせ」)「事故報告書から浮かび上がったのは日本政府の危機管理の脆さだ。事故を危機への備えにどう生かすのかが問われている」「政府は国際社会が見ていることを肝に銘じるべきだ」(2月29日・中日新聞及び東京新聞「民間事故調　危機に備えぬ国の脆さ」)「産業界、官僚、政治家、学者らが密接に結び付いた『原子力村』は長年にわたって自ら『安全神話』を構築し、備えてしかるべき対策を怠った。責任は極めて重大だ」「政府は泥縄式対応と決別するためにも、『原子力村』を解体し、脱原発の道筋を早急に示すべきだ」(2月29日・琉球新報「原発事故初期対応　今も変わらぬ泥縄式対応」)「二つの調査委員会が、ともに政府の責任を厳しく問うていることを、首相官邸はじめ、政府関係者は重く受け止めなければならない」「今後、原発の安全性向上や事故対応に取り組むには、政府の自覚が大切、という指摘は重い」(3月1日・読売新聞「民間原発事故調　重い教訓を規制改革に生かせ」)「今求められているのは、きちんとした検証を踏まえた上で新たな危機管理体制を迅速に構築することだ。人材の確保・育成も欠かせない」(3月1日・毎日新聞「原発事故調　危機管理の徹底検証を」)「さまざまな検証結果は今後の原子力規制や危機対応に生かさなければならない。同時に事故を招いた不作為や責任放棄がしっかり断罪されなければ、社会の土壌は変わらず、再び別の大事故を招く」(3月2日・福島民報「原発事故検証　責任うやむやにするな」)「希薄な当事者意識や不作為、責任転嫁といった体質も、危機管理体制の再構築と併せて直ちに是正するのは当然である。国民も自らの安全のためには国の改善対策を厳しく監視しなければならない」(3月2日・秋田魁新報「民間事故調報告　原発対応の徹底検証を」)「指摘に真摯に向き合い、危機管理の再構築に生かす姿勢を関係者には求めたい」「原子力ムラの構造的問題を掘り下げ、事故原因の徹底究明を図る必要がある」「政府、国会の両事故調のまとめと合わせて内容を精査し、万全な危機対応が可能な組織づくりを推進してほしい」(3月2日・神奈川新聞「民間事故調　指摘に向き合う姿勢を」)「政府はこの経験から教訓をくみ取り、原子力災害にとどまらず、危機対応全般について能力の向上や組織見直しにつなげるべきだ」(3月2日・日本経済新聞「『官』の劣化問うた民間事故調」)「4月からは、原子力規制庁が経済産業省原子力安全・保安院に代わって発足する方向だ。事故調から多くを学んでほしい」(3月3日・産経新聞「原発事故調　国会の強い権限を生かせ」)「政府は官邸の役割、専門機関との連携などについて反省しなければならない。もちんろ、それは原発以外の危機管理にも当てはまる」「地震国日本は、原発危機と背中合わせにあることを肝に銘じ、二度と失態を繰り返してはならない」(3月3日・岩手日報「民間事故調報告　官邸主導の危うさ露呈」)　これらの社説に共通しているのは、政府や国会という他者を批判し、何らかの行動を求めている点です。ですが、新聞自身はこれまでに何をしてきたのでしょうか?　又、これから、何をするのでしょうか?　全ての社説が、「二人称・三人称」で書かれ、新聞自身が何をしてきたのか、何をするのかという「一人称」が欠落しているのです。　原子力技術そのものの危険性や、管理体制が杜撰で好い加減なものであること、被爆労働者の存在、農地や漁業権を買収する際の札束で頬を叩くようなやりかたなど、原発の問題点や危険性は、広瀬隆氏・小出裕章氏・広河隆一氏・樋口健二氏・鎌田慧氏などによって多くの本や写真集が出版され、指摘されています。たんぽぽ舎や原子力資料情報室という民間団体も情報を収集し、発信してきました。　新聞は、それらの指摘や発信を、どれだけ取り上げてきたのでしょう?　3.11の後も、「ヤクザと原発」(鈴木俊彦著、文藝春秋)という本が出ていますが、新聞はこの問題を追及したのでしょうか? 下記に紹介する記事は2003年6月付でスペインの新聞「エル・ムンド」に掲載された記事です(和訳は美浜の会)。http://www.jca.apc.org/mihama/rosai/elmundo030608.htm　スペインの新聞が取材できるのに、日本の新聞社全てが取材できなかった、或いは知らなかったとでも言うつもりでしょうか?　　原子力ムラの解体や、危機管理体制の見直しは確かに大事です。否定はしません。ですが、新聞は、原子力ムラから、広告費という形でお金を貰っているのではないでしょうか? 他者を批判したり改善を求めるのなら、自分達が、これまでに、電力会社或いは電力関係の団体から、どれだけの広告料を得てきたのか、公開する気はないのでしょうか? 　更に、「今後は原子力推進の広告は受けない」と宣言するつもりは? 　　大震災発生後の官房長官の記者会見からは、記者クラブ所属以外の報道機関やフリーランスが排除されましたが、その記者クラブを運営しているのは「大手」の報道機関でしょう。記者クラブの運営は省みないのでしょうか?(記者クラブの問題については「一億総洗脳化の真実　国家の恥」[上杉隆著・ビジネス社]を参照するのが最適です)　3月12日から、原子力資料情報室は福島原発の事故について、ほぼ連日記者会見を開きましたが、新聞は、政府や東電の記者会見の詳報は載せても、原子力資料情報室の記者会見の詳報は載せませんでした。必然的に、そこで語られた可能性・警告・提言も取り上げられませんでした。当時から発せられていた警告や危険性を無視したのは政府だけではないでしょう。　新聞は、自分だけは都合の良い立場に身を置いて、他者を批評していますが、言葉ではどんなことも言えるし、書けるものです。大事なのは、言葉ではなく、行動でしょう。言葉は、行動の後追いに過ぎません。立派な宣言や格好の良い言葉を発したり書いたりするだけで世の中が変わったり、危険が回避できるなら、こんなに簡単な事はないのです(そもそも、そんなに簡単に世の中が変わるのなら、調査委員会など不要でしょう)。　私自身、3.11の後、原発に反対の意思を持ちながら、選挙での投票以外に行動していなかった事実と向き合わざるを得なくなりました。　無理をせず、出来る範囲からと思い、たまたまテレビを買い換えることになったので、LEDバックライトのPCの液晶モニターを選びました。これで、100W近かった使用電力は50W台半ばにまで低下し、更に、電力の契約内容を30A(アンペア)から15Aに変更して、東京電力への支払いを減らせました。元々、エアコンは使用していません。　　行動としてこれで十分と言い張るつもりは有りませんが、「省電力での暮らし」「電力会社への支払いを少しでも減らす」という視点から考えると、消費者としてできることは意外にあるものですね。　個人としてできることが有るのですから、個人とは比較にならないくらいの影響力や資金を持っている新聞社にできることはもっと有るでしょう(社屋の省エネ化はどうなっているのか?)。にも関わらず、自らの行動を省みない、都合の良い態度には呆れるばかりです。　今回、改めて各社の社説を読んでみて、「とても、新聞にお金は払えない・払いたくない」という思いを益々強くしました。自らを省みない・省みられない人達のお給料の元になるだけです。　多くの方が新聞の購読を中止し、新聞社がバタバタ倒産する時代が、早く来て欲しいものです。