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元SF小説家・春橋哲史のブログ（フクイチ核災害は継続中）

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2012年12月の記事

全16件 (16件中 1-16件目)

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今年最後の抗議行動

　選挙も終わり、唖然とする結果になりました。第４６回衆議院選挙の結果や、１１回に渡って「連載」（笑）したヒトラー関連については、また改めて書きます。　１２月２１日に、官邸前行動と自民党本部前抗議行動に行って来ました。仕事の関係で、国会前スピーチエリアに着いたのは１９時半を過ぎていましたが、映画「希望の国」の園監督を生で見られたのは幸運でした。園さんがお招きしている鈴木さんの言葉、簡潔明快ですね。知識人が１００万の言葉を操るより説得力があります。最期の千葉さんのスピーチも心に迫るものが有りました。動画は下に↓。園監督のスピーチは１時間５０分辺りからです。2012/12/21 大飯原発を停止せよ！首相官邸前抗議（ＩＷＪ）http://iwj.co.jp/wj/open/archives/46181　この後、自民党本部前に移動して、抗議行動に参加し、スピーチしました。その時の動画はこちら↓。2012/12/21 自民党本部前抗議行動　http://iwj.co.jp/wj/open/archives/46188　私が出るのは３２分３０秒頃からです。私のスピーチが笑いを取るとは思っていませんでした。予め、考えることを組み立てるのも良いですね。　抗議行動の動画は、最初から最後まで観ることをお勧めします。時間の関係で難しいかも知れませんが、テレビを観ているよりは遥かに有意義な時間です。　２８日は、仕事の関係で参加できず、今年の抗議行動への参加は２１日が最後になりました。また来年、頑張ります。自民党本部前でも言いましたが、「絶対に、絶対に、絶対に」諦めません。　それと、私がお手伝いしているチェルノブイリ子ども基金の２０１３年カレンダーは、完売したそうです。ご購入の皆さん、どうも有難うございました。

2012.12.24

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ヒトラーの権力獲得―民主主義者無き民主主義　その１１

（「その１０」から続く）　全権委任法が成立する前後から、ナチ党には入党希望者が殺到していました。殆どが他党からの寝返りで、後に「３月の陥落者」と呼ばれるようになります。1933年５月までに、ナチ党の党員数は約250万人に膨れ上がりました（31年の末には約50万人でした）。元共産党員だけで構成されたＳＡの部隊も作られた程です。「ナチ化」の波はあらゆる分野に押し寄せ、政党を除けば国内で最も強力な組織を持っている筈の労働組合すら例外では有りませんでした。最大労組である「一般労働組合」のテオドール・ライパート議長は、３月５日の総選挙の結果を踏まえて、吹けば飛ぶような存在でしかなかったナチ系労組の「国家社会主義経営組織細胞」の代表を受け入れると明言します。一方、ヒトラーはメーデーの５月１日を法律で「国民労働の祝日」と定めました。この日を祝日にするという要望は、労組の長年の悲願で、ヒトラーの決定は喜びを以て迎えられました。　労働組合が全面的に協力して開催された５月１日の祭典は、政権にとっては大成功でした。全員が喜んで参加した訳ではないにしても、100万人単位の人々が参加し、経営者・労働者が共に街頭を行進し、社会民主党系の組合員とキリスト教系の組合員が並び、「頭脳労働者」も「肉体労働者」も区別は有りませんでした。「労働に誉れあれ、労働者に誉れあれ」というスローガンの下、テンペルホーフで夜間に開催された中央大会で、ヒトラーは再び、「国民の統合」という幻想を振り撒きました。「職業によって分断され、人為的な階級によって隔てられた数百万の人々、身分による慢心と階級という幻想に囚われ、もはや理解し合えない人々、彼らは互いに歩み寄る道を再び見出さなければならない」。雇用創出と農業の再生を訴えるヒトラーに、国民はまたしても期待を寄せ、歓呼の声を上げます。　フランスの駐ドイツ大使アンドレ・フランソワ＝ポンセの回顧録―「確かにこれは本当に美しく、素晴らしい祭典だ。ドイツ国民と、ドイツに住む外国人もまた、融和と団結の風が第三帝国に吹いているとの印象を共にした」。　しかし、メーデーの祭典も、ヒトラーお得意の騙しの手口でした。翌２日、ＳＡと警官隊が労働組合の事務所を急襲したのです。ライパートを含めて労組の指導者達は収容所に送られ、全事務所は閉鎖、全資産が没収されます。労組は壊滅し、ドイツ国内に存在する労組は、ロベルト・ライが議長を務めるナチ党の「ドイツ労働者戦線」のみとなりました。他の組合の資産・組合員は強制的にここに移されます。この「ドイツ労働者戦線」すらも実質的な機能は失い、宣伝組織となりました。５月19日に労働管理官に関する法律が制定され、賃金問題の調停は、労働省が任命した管理官が行うことになったのです。労働組合は、ストライキを起こすことも無く、ヒトラーの餌食となりました。　支持基盤の中核である労組が壊滅したことで、社会民主党は抜け殻同然になります。党員の転向・国外脱出・予防拘禁によって、実質的には壊滅状態でしたが、労組の壊滅はこの政党に止めを刺しました。国旗団は鉄兜団に加わる事で生き延びようとしており、社会民主党の指導部は国外に脱出して、チェコスロバキアのプラハで亡命組織の設立に取りかかります。この社会民主党を、ヒトラーはもう一度、「見せ掛けの国民統合」の為に利用しました。５月17日の「ドイツに軍備平等権を認めよ」という主旨の政府宣言に賛成するよう強制したのです。そして、６月22日、亡命指導部が国外でヒトラー政権非難の機関紙を発行したことを口実に、社会民主党は禁止され、党の資産は差し押さえられました。　連立与党である国家人民党も、ナチ党への合流が不可避となる流れに抗えませんでした。　党の有力な支持団体である鉄兜団は突撃隊へ合流することで、生き延びるか権力の分け前に預かろうとしており、団長でもあり労働大臣でもあるフランツ・ゼルテがナチ党への入党を表明します。政権発足当初は、経済・農業大臣としてヒトラー首相ですら簡単に手が出せない権限を持っていた筈のフーゲンベルクも、経済大臣としての活動や政策に財界から支持が得られず、自らの政党が切り崩されていったことで、政治的基盤を弱めていきます。党主流派がナチ党との合流路線へと急傾斜していく中、ナチ党への接近に抵抗し、議事堂炎上事件の真相を探ろうとしていた党の国会議員団長エルンスト・オーバーフォーレンは不審死しました。党の国会議員は、ナチ党の議員団に合流することで国会審議への参加を約束され、33年6月27日、フーゲンベルクの閣僚辞任に合わせて、国家人民党は解党します。　1920年代の最盛期には62議席を誇り、首相を出したこともあるブルジョア政党の人民党は３月の総選挙で２議席にまで落ち込んでおり、ナチ党にとって問題ではありませんでした。　中央党の解体には、外部の「餌」が使われました。全権委任法の成立から数日後、ヒトラーは、ローマ教皇庁とドイツ政府との「政教協約（コンコルダート）」締結交渉の為、ヴァチカンへ向かうよう、カース党首に要請したのです。カースはローマへ出発しましたが、この行動は、党内から強い批判を受け、カースは５月６日に党首の職責を放棄することになります。後任となったブリューニンクはユダヤ人の排斥阻止・コンコルダート締結阻止を訴え、ヒトラー政権に立ち向かおうとします。しかし最早、それも不可能な状況になっていました。党の国会議員団は、無所属議員となってナチ党議員団と協力することを強要され、７月５日、中央党も解党に追い込まれます。　カースは２度とドイツに戻らず、1952年にローマで亡くなりました。ブリューニンクはヒトラー政権に監視され、付け狙われますが、翌年５月にスイスに脱出しました。スイスに現れた時、ブリューニンクに元首相の面影は無く、やつれ果て、持ち物はトランク一つだけでした。　ローマ教会とのコンコルダートは33年７月20日に締結されましたが、カトリック教会は政治的に無力になりました。　中央党の解党を待っていたかのように、７月14日（皮肉な事に、フランス革命記念日でした）、ヒトラー政権は「政党新設禁止法」を制定し、ナチ党をドイツ唯一の合法政党とします。ワイマール体制は葬られ、僅か半年の間に、ドイツは民主主義国家から独裁国家へと変貌しました。　ヒトラー政権は、この後、1933年11月に「総選挙」を実施し、議席の９割以上をナチ党が獲得します。　更に、1934年６月末の「長いナイフの夜」と呼ばれるＳＡ粛清を通じて、国軍からの忠誠も獲得し、政治的に脅威になりそうな人物を一掃しました（グレゴール・シュトラッサー、クルト・フォン・シュライヒャー前首相、ナチ党幹部の中で唯一のヒトラーの友人であったエルンスト・レーム突撃隊幕僚長等、分かっているだけで少なくとも200人以上が殺害されました）。ＳＡが粛清された後、ＳＡの配下であったハインリヒ・ヒムラー率いるＳＳ（ナチス親衛隊）がＳＡから独立し、権限と権力を急速に拡大していくようになります。　34年８月２日、ヒンデンブルク大統領が亡くなると、ヒトラーは見せかけの国民投票を提案し、８月20日、大統領の権限を兼ねた「総統兼首相」に就任しました（投票率は96.7％に達しました）。ヒトラーは、首相就任から１年７ヶ月で、「最終目標」を達成したのです。しかも国民は、このプロセスに寧ろ協力すらしました。　政党の崩壊は、指導部の優柔不断や、ヒトラーの嘘や脅しだけではなく、所属している党からナチ党に「寝返る」党員が続出したのも原因でした。国防軍の将校の中には、自発的にナチ党のカギ十字の党員賞を付けて勤務に当たる者もいました。ドイツ工業全国同盟が「非アーリア人」の役員を除名したのも強制された訳ではありません。　著名な憲法学者であったカール・シュミットは、友人でもあったシュライヒャー将軍が粛清された時に何もしないどころか、ヒトラー政権の行動を容認する文章を発表しました。彼に代表される「法律家」達が「法とは権力の手段である」という論理で、ヒトラー政権を擁護し、支援したのも、強制された訳ではありません。　1933年４月25日のヘルマン・ゲーリングのメモ―「むかむかして吐き気を催すばかりだ。周知のように嘗て官僚の60％までもがカール・ゼーヴェリング（注：社会民主党の前プロイセン州内相）の支持者であった私の役所に、僅か数日でハーケンクロイツのバッジが雨後の筍のようにやたらと生えてきた。４日後には、廊下で踵を打ち付けて手を高く掲げるのが日常の風景になってしまった」。　左翼系や、ヒトラー政権に抵抗しようとする知識人や芸術家は亡命するか強制収容所送りとなり、国内で活動を続ける者はゲッベルズ率いる宣伝省の操り人形となって、広告塔として生きることを余儀なくされました。プロパガンダ・ラジオ・新聞・映画・演劇・造形芸術という６つの部局を通じて、ゲッベルズは「文化」を完全に掌握したのです。「お前は無だ。お前の民族こそが全てだ」「一つの民族―、一つの国家―、一人の総統」「ユダヤ人は我らの災厄」。こんなメッセージが、映画・ラジオ・新聞・演劇など、あらゆる手段を駆使して繰り返し流されました。　ドイツ国内を掌握したヒトラーはその「全てか無か」路線を外交に向けることになり、やがてそれが、ドイツと世界を暗黒に引き摺り込んでいきます。軍・国民・財界は、公式には、1944年７月20日のヒトラー暗殺未遂事件まではヒトラーを支え続けます。７月の暗殺事件で軍はヒトラーの信頼を失いますが、ＳＳが軍に取って代わり、ヒトラー政権の崩壊は、1945年４月のソ連軍のベルリン進攻まで待たなければなりませんでした。　ドイツ国民が、強制収容所や民族殺戮の実態を知らされたのは、ドイツ降伏後の事でした。1944年７月の暗殺未遂事件が報じられた後でさえ、ドイツ各地ではヒトラー支持の集会が自然発生的に開かれ、数千人の国民が参加したのです。東西から挟撃されているにも関わらず（東部からはソ連軍が迫り、フランスには連合軍が上陸していました）、世論はこのような状態でした。国内からヒトラー政権を打倒するのは、不可能だったのかも知れません。（完結しました。読んで下さった方、有難うございます）以下の書籍・Ｗｅｂを参考にしました。「ヒトラー・政権掌握の２０ヶ月」（グイド・クノップ著／中央公論社）「ヒトラー独裁への道　ワイマール共和国崩壊まで」（ハインツ・ヘーネ著／朝日新聞社）「ヒトラーとナチ・ドイツ」（石田勇治　著／講談社現代新書）「西洋資料集成」（平凡社）「ヒトラーとナチス第三帝国」（ライフ「第二次世界大戦史」／タイムライフブック）ウィキペディア春橋哲史（ツイッターアカウント：＠haruhasiSF）※14/7/4　カール・シュミットと法律家の一文を加え、構成を一部変更　

2012.12.18

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ヒトラーの権力獲得―民主主義者無き民主主義　その１０

（「その９」から続く）　ヒトラー内閣が国会開会式の名目で、見せかけ（大半の国民は見せかけとは思っていませんでしたが）の国民統合の式典を開催した翌日の３月22日、ミュンヘン近郊のダッハウに有った閉鎖されていた弾薬工場へ100人の「拘禁者」が送られてきました。このダッハウが、最初の強制収容所となります。当初は警察が監視していましたが、４月10日にＳＳ隊員がその応援に呼ばれると、その２日後には最初の虐殺が起きました。　ダッハウの強制収容所はＳＳ警備班の教育収容所となり、モデルとなりました。ヒトラー政権は収容所の存在を隠さず、新聞にも何度も記事にさせます。こうすることで、政敵を閉じ込めつつ、その他大勢の口を噤ませることができたのです。収容された者がどんな仕打ちを受けるのか、誰も訊かず、そこから帰って来ない者も多くいました。アメリカ陸軍がダッハウ強制収容所を解放するのは、開設から12年後の1945年４月29日の事です。　３月21日午後、「ポツダムの日」の式典が終わった後、ナチ党と国家人民党は、共同で「国民と国家の艱難を除去する為の法律」を提出します。所謂、「全権委任法」です。５つの条文から成っていました。「１　ドイツ国の法律は憲法に規定されている手続きによる他、ドイツ国政府によっても制定され得る。（後段略）２　ドイツ国政府によって制定された法律は、ドイツ国会及びドイツ国参議院の制度そのものを対象としない限り、憲法に違反し得る。但し大統領の権限は何ら変わることは無い。３　ドイツ国政府によって制定された法律は、ドイツ国宰相によって作成され、ドイツ国官報にて公布される。それは別段の規定が無い限り、公布の翌日を以てその効力を発生する。（後段略）４　ドイツ国の立法の対象となるようなドイツ国と外国との条約も、本法の有効期間にあっては、立法に関与する諸機関の同意を必要としない。ドイツ国政府は、かかる条約の履行に必要な政令を発布する。５　本法は公布の日を以てその効力を発生する。本法は1937年４月１日を以てその効力を失う。更に本法は現在のドイツ国政府が他の政府に取って代わられたときにもその効力を失う」　憲法のあらゆる規定を回避できるように作られたこの法律が通れば、国会は機能を喪失します。「国会炎上緊急令」によって、ヒトラー内閣は既に事実上の独裁政権でしたが、ヒトラーは無制限の執行権に加えて、無制限の立法権をも求めたのです。　閣内では、パーペンとフーゲンベルクが、立法に関して大統領の関与を残そうと試みましたが、マイスナー大統領府官房長が、この工作を拒否します。ヒンデンブルクは、緊急令への署名も、全権委任法への関与もするつもりはなかったのです。特に、「ポツダムの日」以来、ヒンデンブルクはヒトラーを気に入るようになり、ヒトラーがパーペン抜きで大統領と話すことも珍しくなくなっていきました。結果的に、ヒンデンブルクはこれ以降、1934年に亡くなるまで、軍の出動や緊急令への署名など、憲法に定められた大統領の権限を行使することは有りませんでした。　大統領官邸を味方につけ、閣内の抵抗を抑え込んだヒトラーにとって、乗り越えるべき問題は、ワイマール憲法第７６条に規定された「２つの『３分の２』」でした。「憲法は立法上の方法で変更し得る。但し、ドイツ国議会による憲法変更の決議は、法定議員数の３分の２が出席し、少なくとも出席者の３分の２が同意した際にのみ、それが可能である。（後段略）」　ヒトラーは先ず、法案に反対する政党が欠席戦術を取れないように、議院運営規則の修正案も同時に提出します。「投票や委員会に参加しない議員」は「棄権と見做す」というのがその骨子でした。収容所に拘禁されている共産党議員81人は考慮する必要が無いので（拘禁されていない僅かな議員も、亡命か、地下に潜ることを余儀なくされていました）、議員総数は566人となります。　566人の３分の２は377人です。ナチ党と国家人民党の合計が340人でしたから、残り37人です。120議席を持っている社会民主党がワイマール憲法の死文化を意味する法律に賛成しないのは分かっているので、焦点になるのは、92議席を持っている中央党の動向でした（正確には、中央党とバイエルン人民党の合計）。中央党のルートヴィヒ・カース党首は、ナチ党に、条件付き賛成を提示します。「学校と教育でのキリスト教の影響力の確保」「ドイツ諸州の存続」「大統領の権限の保全」「裁判官の身分不可侵」「諸州が教皇庁と締結した政教条約の維持」等です。　カースは、ヒトラーはどんなことをしてでも自分の要求を実現させる筈であり、敗れるのであれば、積極的に賛成して中央党の条件を少しでも実現した方が良いという立場でした。地方組織ではナチ党への鞍替えが相次いでおり、中央党の要求をナチ党に呑ませる最後のチャンスに見えたのです。これに対して、ブリューニンク元首相がヒトラーとの取引には反対すべきとの立場を取ります。22日夜の協議で、ヒトラーは、中央党の要求を承諾しますが、カースは合意内容を書面にするように要請し、その場では法案への賛否を保留しました。　３月23日、本会議は、ベルリンのクロールオペラ劇場で開催されました。21日の「ポツダムの日」とはガラリと変わり、褐色のＳＡ隊員とナチ党支持者が周囲を取り囲む異様な雰囲気となりました。焼失を免れた議事堂の議員団控室から、オペラ劇場まで100ｍ足らずでしたが、道の両側はＳＡとＳＳの隊員によって塞がれ、野党議員に罵声と野次を飛ばしました。社会民主党の議員２人は、オペラ劇場に着く前に警察に逮捕されます。社会民主党の議員は、この日までに、20人以上が逮捕又は亡命・逃亡を余儀なくされていました。　議場となったオペラ劇場の中には、議院運営規則を破って、ナチ党の党旗であるカギ十字が掲げられ、通路も傍聴席も、ＳＡとＳＳの隊員で埋め尽くされました。「ポツダムの日」の燕尾服姿から一転して褐色のナチ党の制服姿に戻っていたヒトラーが、「全権委任法」の提案理由を演説しました。「失業の解消・民族共同体の再建・農民と中産階級の救済」を訴え、「大統領と教会の地位は不可侵」「（ローマ法王との友好関係は）今後も維持・発展させていく」と語った後、ヒトラーは最期に本性を剥き出しにしました。「政府はまた、拒否回答とそれに伴う抵抗宣言をも断固として受け入れる用意があります。宜しいですか、議員の先生方。ご自分で決めて頂きましょう。戦争か、然らずんば平和かを」。これは他党へのあからさまな挑戦でした。全権委任法を拒否すれば、法律と暴力をフルに使って襲い掛かるぞと脅したのです。与党席と傍聴席からの熱狂的な歓声と拍手に包まれたヒトラーが演壇を降りた後、審議休憩に入り、各会派は、控室で検討を始めました。　中央党では、ブリューニンク元首相や、カトリック系労働組合の幹部を務める議員達が、カースの「条件付き賛成論」に反対していました。「どっちにしてもヒトラーは約束を守らない。終わりを少々延ばすより、名誉の内に滅びた方がましだ」というのです。反対論は少数派でしたが、カースは、中央党との約束を守るようにヒトラーに文書で確約させると述べて、反対派を説得しようとします。　しかし、カースが説得の材料にしようとした文書は、届きませんでした。審議休憩中に、カースがヒトラーの元に出向いて尋ねたところ、ヒトラーは、「署名したものをフリック内相に渡した」と回答します。それでも届かない為、カースがフリック内相に確認したところ、「使いの者に渡した」と回答されました。こうしてカースは、ヒトラー一派にペテンにかけられました。カースが待っていた書類は、最初から作成されていなかったのです｡中央党議員団が予備投票を行った結果、出席議員72人の内、反対すべきとの意思表示をした議員は10人だけでした。こうして、会派全体で法案に賛成することが決定されます。　再開された国会では、会場を取り囲むＳＡの戦闘歌が聞こえてくる中、社会民主党のオットー・ヴェルス党首が、全権委任法への反対演説を行いました。「自由と命は奪えても名誉は奪えない」と述べ、「迫害され、弾圧された人々」への連帯のメッセージを込めて演説を終えます。このヴェルスの演説にいきり立ったヒトラーが演壇に立ち、半ば激昂しながらヴェルスを攻撃しました。「社会民主党には国民や社会の利益を代表する正当性は無く、名誉や正義感を語る資格も無い」「国家社会主義者こそ、社会民主党に迫害されてきた」「賛成を呼び掛けたのは将来の協調を期待しているからだ」「諸君は最早必要ではない」と述べ、こう締めくくります。「ドイツは真に自由になるでありましょう！　だがそれは、諸君らによってではない！」　最初の演説以上の喝采と嵐のような「ハイル！」の声が議場を包み、ヴェルス党首の反対演説は文字通り粉砕されました。この後、社会民主党以外の政党が法案に賛成する旨を言い訳がましく演説し、速やかに採決が行われました。ゲーリング議長が読み上げた出席議員数は共産党の議席が差し引かれた数になっており、法案への賛否は、賛成444、反対94票でした。　結果が読み上げられた途端、議場では歓喜が爆発しました。「ジーク・ハイル！」「ハイル・ヒトラー！」の叫び声がこだまし、席を飛び出して閣僚席に押し寄せたナチ党の議員達は、ナチ党の党歌「ホルスト・ヴェッセルの歌（旗を高く掲げよ）」を大声で合唱し始めます。　法案はその日の内に、州代表で構成される参議院でも可決されました（州政府は事実上解体され、中央政府の支配下にありました）。「全権委任法」の成立によって、ワイマール憲法は完全に死文化されたのです。　ナチ党の機関紙『フェルキッシャー・ベオバハター』は勝鬨を上げました。「歴史的な日。議会政治制は新生ドイツの前に屈服した。偉業はスタートを切った。第三帝国の時代が到来したのだ！」。　全権委任法は、時限立法でしたが、ヒトラーは守るつもりはありませんでした。1937年１月30日に、「全権委任法の延長に関する1937年１月30日の法律」が制定されて、期限が41年４月１日までとされます。更に「国民及び国家の艱難を除去する為の法律の延長に関する1939年１月30日の法律」によって43年５月10日まで延長されました。そして、1943年５月10日には「政府の立法に関するアドルフ・ヒトラーの布告」が出され、政府の持つ立法権は無期限に延長されたのです。（「その１１」へ続く）※書き始めたのは１２／１７ですが、公開は１２／１８※14/7/4　人名の間違いを一部修正し、文章の一部を簡略化

2012.12.17

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ヒトラーの権力獲得―民主主義者無き民主主義　その９

（「その８」から続く）　通行人からの２１時過ぎの第一報で警官隊が、次いで消防隊が国会議事堂に駆け付けましたが、手遅れでした（建物は残りましたが、本会議は開催できなくなりました）。現場で、オランダ人の共産主義者マリアヌ・ヴァン・デア・リュッペが逮捕され、一人で火を点けたと言い張ります。今となっては、国会議事堂炎上事件の真相は藪の中ですが、ヒトラー政権はこの事件を徹底的に利用しました。　現場に先に到着したナチ党の幹部は、ゲーリングでした。そのゲーリングに、プロイセン警官隊の指揮官だったルードヴイッヒ・グラウェルトが、「火災発生の３０分前に、国会議員としては最後に議事堂を出たのが、共産党議員団長のエルンスト・トルクラーだった」という情報を伝えます。グラウェルトが示唆した「共産党陰謀説」に憑りつかれたようになったゲーリングは、後から到着したヒトラーとゲッベルズに、共産党の危険性をまくし立てました。ヒトラーも、本当に信じたのか、利用しようとしたのか分かりませんが、ゲーリングと共に次第に興奮し、共産党の危険性と速やかなる根絶を怒号します。　その夜の内に、燃え残った国会議事堂の一室で会議が開かれ、共産党の国会議員・市議会議員・党役員の全員逮捕と、共産党系の新聞の発禁処分が決定されました。ここでも、元検事で国家人民党系の官僚だったグラウェルトがヒトラー達に「知恵」を付けます。緊急の大量逮捕を合法化できる大統領緊急令を提案したのです。　翌２８日には「国民と国家の防衛の為の大統領緊急令」が布告されました。「国会炎上緊急令」と呼ばれるようになるこの緊急令は、これまでに数多く出された緊急令とは全く異なるものでした。目的は「国家の安全を脅かす共産主義者の暴力行為を防止する」という漠然としたもので、「当分の間」と記されているだけで、緊急令でありながら期限の定めが無く、事実上の恒久法でした。被逮捕者が２４時間以内に判事と面会する権利・弁護士を呼び調書を閲覧する権利・控訴する権利等の人権保護の規定も欠けており、更に、各州政府が「公共の安全と秩序の回復に必要な措置を取れない場合」は中央政府が州政府に介入できると規定されていたのです。憲法に定められた基本的人権の尊重・各州政府の権限を停止させるもので、事実上の「国家非常事態宣言」でした。　２８日、ナチ党の機関紙『フェルキッシャー・ベオバハター（民族観察者）』は「もう我慢ならない！」「今こそ容赦のない強硬措置を」と見出しを掲げ、共産党による武装蜂起計画の指令書が発見されたとでっち上げます。驚くべきことに、この事件の黒幕はゲーリングとヒトラーだという噂が広まったにも関わらず（ゲーリングは国会議長で、議長公邸から議事堂までは地下道で繋がっていました）、多くの人々が住宅街のパトロールを始め、毒が投げ込まれないように水源に見張りを立てました。「赤いテロリスト」に対する恐怖はナチのプロパガンダだけではなく、共産党系の出版物に載る言葉だけ過激なスローガンや、共産党系の自衛組織の暴力によっても、全国に広められていたのです。「国会炎上緊急令」を根拠として、ゲーリング配下のプロイセン警察は、補助警官のＳＡと共に遠慮呵責なく共産主義者に襲い掛かりました。全国の党支部は閉鎖され、ベルリンの共産党本部は占拠、エルンスト・テールマン党首は連行され、左翼系の知識人も拘禁されます。ＳＡとその配下のＳＳは、その暴力性をこの時とばかりに発揮しました。私怨を晴らす為にこの取り締まりを活用した者もおり、拘禁者の銃殺計画を警察が中止させる事さえあったのです。　ルドルフ・ディールス率いるベルリン警視庁ＩＡ課も急速に権限が強化され、「国家秘密警察局（ゲハイムシュタッツポリツァイアムト）」と改称されました。ある郵便局員がこの新しい役所に「ＧＥＳＴＡＰＡ（ゲシュタパ）」という略称を付けた為、この言葉が後に「ＧＥＳＴＡＰＯ（ゲシュタポ）」となります。ゲーリングは、ゲシュタポに事実上のフリーハンドを与え、基本的人権の擁護という枠に捉われずに、共産主義者のみならず、援助・助長する者も逮捕できるようにしました。３月３日付のこの措置で、ゲシュタポによる逮捕者が急増し、既存の留置施設は直ぐに一杯となります。この為に作られたのが臨時の収容施設で、やがて「強制収容所」へと発展していきます。　基本的人権が認められない警察国家に変質しようとしていたにも関わらず、国民の多くが「共産主義者狩り」を支持しました。バイエルン州シュヴァーベン地方の警察のレポート―「（国民は）共産党に対して極めて厳格に対処すること（を望んでいる）」。『ベルリン株式新聞』のコメント―「大統領と政府が全てを取り仕切り、祖国の為に奉仕した。彼らは、飛び掛かろうと鎌首を持ち上げていた蛇を、断固とした力強い一撃で地面に叩きのめした」。『ミースバッハー・アンツァイガー』紙の記事―「（国会炎上緊急令によって）ドイツの病巣、長年に渡ってドイツの血を毒し、汚染してきた潰瘍、ドイツの宿敵であるボルシェヴィズムに打撃を与えることができる」。　バイエルン州シュヴァーベン県知事の報告－「共産主義者にはもっと厳格に対処するよう住民から要請されている」。　パーペン副首相は、これを機に共産党を禁止することを提案しましたが、ヒトラーは、共産党の票が社会民主党に流れるとしてこれを否定し、「合法化されたままの弾圧」を続行しました。敵対政党の選挙活動を暴力と法律で抑え込む一方、「国民宰相」として売り込むヒトラー首相は、毎晩のように演説を繰り返します。投票日前日の最後の集会は全てのラジオ局が中継を強制され、ドイツ全土でＳＡの隊列が通りを練り歩いて、威嚇と宣伝を兼ねました。投票日の３月５日は、「国民覚醒の日」と名付けられ、高齢者や歩行困難な有権者をナチ党の自動車隊が投票所まで「送迎」しました。　この総選挙は８８．８％という驚異的な投票率を記録し、ナチ党は、ワイマール憲法下で最多の得票・最多の議席を獲得します。約１７００万票・得票率４３．９％に達し、議席は１９８から２８８へと跳ね上がりました。とは言え、他の政党はナチ党の洪水のような攻撃によく「持ちこたえ」ました。ナチ党と連立を組む国家人民党は５２議席で変わらず（ナチ党と合わせて過半数）、社会民主党（１２１→１２０）・中央党（９０→９２）も、改選議席と同水準でした。共産党は１００議席から８１議席へと減少しましたが、前回より１１０万票減とは言え、それでも４８０万票を集めたのです。ワイマール共和国の国会議員選挙結果推移（「ヒトラー独裁への道」所収の資料に基づいて、春橋作成／無断転載・引用は御遠慮下さい）　単独過半数を得られなかったとは言え、選挙結果はナチ党の大勝利でした。この結果を受けて、ナチ党の支持者が、投票日の夜にハンブルクで騒ぎを起こします。警察本部長をナチ党員に交代させろと要求したのです。州政府がこれを拒否すると、ＳＡの部隊が市庁舎を占拠し、屋上にカギ十字の旗を掲げました。ここでわざとらしくフリック内相が介入しました。公共の秩序と安寧が脅かされたと称し、国会炎上緊急令を使って警察本部長代行者を任命したのです。州政府は辞職し、ハンブルクは中央政府の管轄下に置かれました。　ハンブルクの「乗っ取り」は、その後のモデルケースとなりました。　ブレーメン、リューベック、ヘッセン、バーデン、ヴュルテンブルク、ザクセン、バイエルンと、各州の政府は３月９日までに次々と倒されていきました。バイエルンでは、バイエルン国民党のハインリヒ・ヘルト州首相が「褐色軍団」との戦いに国軍を動員すべく検討しましたが、ベルリンの軍上層部が「軍は内政に介入すべきではない」と命令して、この動きを抑えました。ヒトラー内閣による州政府の解体は、選挙後、１週間もしない内に完了したのです。　　州政府の「乗っ取り」と並行して、ヒトラー内閣は、新しい国会の開会式を、ポツダムの教会で行うべく、準備を進めていました。ポツダムは、１８世紀にフリードリッヒ・ウィルヘルム１世が王宮を建造して以来、プロイセン王の居城だった都市で、歴代の王もこの地の守備隊付属の教会に埋葬されています。この都市で式典を行うことで、プロイセン＝ドイツ帝国時代の代弁者を自任しているヒンデンブルクや彼を支持している保守層の共感と感激を呼ぶ狙いがありました。　更に、ヒトラー内閣は開会式の日付を３月２１日の春分の日と決定します。この日は、ビスマルク体制下で第一回帝政議会が招集されて統一ドイツの達成を祝った日でした。式次第も、プロイセンの王家や帝政時代の宰相の伝統を踏まえたものにされます。３月１４日に「国民啓蒙宣伝相」に任命されたヨーゼフ・ゲッベルズの腕の見せ所でした。「ポツダムの日」と名付けられた２１日には、数十万の人々がポツダムに繰り出しました。街を飾る旗はカギ十字よりも黒白赤の帝政旗が優勢で、見かける服装もＳＡの褐色の制服ではなく帝政時代の軍服が優勢でした。全国へのラジオ中継が行われる中、正午きっかりにポツダム衛戍教会の鐘が鳴り響き、陸軍元帥の軍服のヒンデンブルク大統領と燕尾服のヒトラー首相が教会へと上る階段で合流し、首相が大統領に歩み寄って深々とお辞儀をし、握手を交わしました。４３歳の首相と８５歳の大統領が握手をするこの場面は、「古き偉大さと若き力のシンボルが結婚する」と題されて絵葉書にもなり、ナチ党がプロパガンダにフルに使うことになります。　教会の中の式典では、ヒンデンブルクが「全国民の一体化」「利己心と党派間の口論からの解放」を呼び掛ける演説を行い、これにヒトラーが国の衰退を憂いてみせ、「国家の再興の為、偏狭なる党派的思考を越えて、国家の再興を断固としてやり遂げる」旨の演説で応えました。その後、歴代プロイセン王の眠る地下墓所で追悼の花輪を捧げたヒンデンブルクは、式典後に行われたパレードを最後まで観閲しました。大統領が行進する隊列に元帥杖を上げ下げして敬礼する間中、ヒトラーは大統領の背後に下がっていました。　この日のゲッベルズの日記―「最期には誰もが深く感動していた・・・私は（教会の中で）ヒンデンブルクの近くに座っていた。彼の目に涙が浮かぶのが見えた」。　大統領の涙に象徴されるように、「ポツダムの日」の式典はヒトラーとナチ党にとって大成功でした。まるで、保守派による「ヒトラー飼い馴らし計画」が順調に進んでいるように見えたのです。国民の多くは、階級・階層・党派を統合する新しい国家・新しい民族共同体が始まったかと錯覚しました。　３月２２日付の『ベルリン株式新聞』の記事―「昨日は国民的熱狂が怒涛のようにドイツ全土を席捲した。これに逆らう幾つかの政党が築いたダムは決壊し、これまで頑なに閉ざされていた扉は打ち破られた」。　作家のエーリヒ・エーベルマイヤーの文―「誰一人として、感動から逃れられなかった。父でさえ深く感銘を受けていた。母は涙ぐんでいた・・・ヒトラーが成長したことは否定できない。過激な扇動政治家が、真の政治家へと成長しているように見える」。　国民の統合を呼びかけるこの式典に、社会民主党の議員団が招待されなかったことや、当選した共産党の議員が収容所に拘禁されていることを問題視し、声高に叫ぶ者は誰もいませんでした。フリック内相は３月１１日に、共産党議員の扱いについて説明しています。「（共産党の議員は）強制収容所で、緊急且つ有益な作業に（ついている）」。（「その１０」へ続く）※書き始めたのは１２／１４ですが、公開は１２／１７※2017/12/29　グラフを追加

2012.12.14

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ヒトラーの権力獲得―民主主義者無き民主主義　その８

（「その７」から続く）　ヒトラー内閣の閣僚は、大半がパーペンとフーゲンベルクによって選ばれた人物で、ナチ党は首相を含めて僅か３ポストでした。主な顔触れは次のようになります。首相―アドルフ・ヒトラー（ナチ党）、内務相―ウィルヘルム・フリック（ナチ党）航空相（新設）兼無任所相兼プロイセン州内務相―ヘルマン・ゲーリング（ナチ党）副首相兼プロイセン州全権委員―フランツ・フォン・パーペン（元首相）農相兼経済相―アルフレート・フーゲンベルク（国家人民党党首）外相―コンスタンティン・フォン・ノイラート男爵（留任）雇用創出全権委員―ギュンター・ゲーレケ（留任）交通相―パウル・フォン・エルツ＝リューベナッハ男爵（留任）蔵相―ルッツ・シュヴェリン・フォン・クロジック伯爵（留任）国防相―ヴェルナー・フォン・ブロンベルク　この陣容を見て、多くの人が油断しました。実権はヒトラーではなく、パーペンとフーゲンベルクが握っていると思われたのです。パーペン達も、自分達保守派の「ヒトラー飼い馴らし計画」が順調な滑り出しを見せたと思っていました。特に、経済政策に関してある程度の裁量権を認められたフーゲンベルクは「経済の独裁者」とも言え、その権限は、ヒトラー首相ですら手が出せないほど強力でした。　中央党の青年組織の機関紙はヒトラー内閣の誕生に関して、こう書いています。「フーゲンベルクが政権掌握。国民よ、警戒せよ！」。　社会民主党の機関紙『前進（フォアベルツ）』の１月３０日付夕刊には、「反動主義者達は最後のカードを出してきた」「紳士クラブ内閣、ヒトラー」という見出しが躍りました。　ベルリン駐在のチェコスロバキア外交官のカミル・ホフマンの日記―「要するに、ナチの政府ではない。ヒトラーの名を冠していても、革命政府ではない。第三帝国ではない。辛うじて２と２分の１帝国と言えようか」。　１９３２年５月にブリューニンク内閣が退陣して以来、１年の間に総選挙が２回行われ、首相は３回も交代したのです。国民にとって、ヒトラーは１年間で４人目の首相であり、首相の交代劇は珍しい事ではなくなっていました。ドイツ共産党ですら、ヒトラーは１年も持たないと見ていたのです。　とは言え、「反動勢力とナチスの連合」は民主主義を信奉している社会民主党の党員達にとっては、由々しき問題でした。社会民主党の党本部には、支部や労組、国旗団から、抗議デモ・ゼネストの実施要請が相次ぎます。　ドイツ共産党からは、反ヒトラーのゼネストを共同で実施する旨が提案されましたが、社会民主党が、共産党に対して「社会民主党への批判を中止して欲しい」という条件を提示し、共産党がこれを断った為に、両党の共同行動は実行されませんでした。両党は以前から反目し、お互いにナチ党以上に危険だと批判し合ってきました。ヒトラー内閣が誕生しても、長年の不信感・憎悪を乗り越えられなかったのです。　社会民主党独自のデモ行進・ゼネストの計画も、保養地から帰国したウェルス党首によって止められました。警察も軍もヒトラー内閣の手にあり、この状況で決起しても、勝目は無く、無責任であるというのがその理由です。　反ヒトラー側が油断し、或いは内輪揉めや準備不足によって行動を起こさなかった代わりに、行動したのは、ナチ党と右翼団体でした。フリック内相が官庁街でのデモ行進を解禁し、鉄兜団やナチ党員、そこに一般の市民数千人が加わって、ヒトラーの首相就任を祝うデモ行進を行ったのです。夜のベルリンは何万というデモ隊の持つ松明に彩られ、ホテル「カイザーホーフ」の周辺もデモ隊と人垣で埋め尽くされました。仕掛けたのはゲッベルズで、後に彼は、この何十倍・何百倍もの規模でその手腕を発揮することになります。　祝福ムードと華々しさの陰で、早くもヒトラー内閣の「先制攻撃」が始まっていました。１月３０日の夜には、ドイツ共産党の機関紙『赤旗（ローテ・ファーネ）』が発禁処分となり、シュパンダウでは、ヒトラー支持者と共産党員の銃撃戦が展開された後、警察は共産党員ばかり６０人以上を逮捕します。大半の都市では共産党の集会が禁止され、ＳＡは政敵の集会や事務所を襲撃し、シュターフェルト市では社会民主党の市長が射殺されました。この殺人を非難した社会民主党の『前進』は発禁処分となります。　ヒトラーは、首相に就任した翌日から、国会の解散と総選挙を目論みました。　ヒトラーは、いつまでも、パーペン達保守勢力に「首根っこを押さえられている」つもりはなかったのです。警察の指揮権を得た今、扇動と暴力と公権力を使えば、選挙で勝利出来る筈で、そうなれば、パーペン達の軛を外すこともできます。１月３１日、ヒトラーは中央党のカース党首と会談しますが、この中で「連立に参加するには、１年間の国会停止に同意するのが条件だ」と告げました。中央党が断るのを知っていての無茶な申し出でした。中央党が連立に参加すれば、ヒトラー内閣は自動的に国会で過半数を占め、総選挙を行う口実が無くなります。ヒトラーは中央党が連立に加わらないように仕向けたのです。　フーゲンベルクも中央党の政権参加は反対していましたが、さりとて、総選挙にも賛成していませんでした。ナチ党が勝利するのがほぼ分かっており、連立内での自らの立場が弱くなると踏んでいたのです。そこでフーゲンベルクは、２月１日の閣議で、政党禁止令を敷いて共産党の議席を無効にすることを提案しますが、ヒトラーは「政党禁止令はこれまでの例から見ても、無意味で、徒労に終わる事が多い。それに、共産党を支持する６００万人の活動を禁止するのは不可能だ」としてフーゲンベルクの提案を却下しました。政党の禁止が「不可能」でない事は、後にヒトラー自身が立証しますが、フーゲンベルクに味方する閣僚はおらず、閣議は、大統領に国会の解散を提案することを決定しました。大統領は解散令に署名し、投票日は３月５日と決められます。　同じ日、ヒトラー首相は融和的且つ穏健的なラジオ演説を行いました。経済的繁栄と失業の解消を訴え、ヒンデンブルク大統領を称えたのです。しかも、演説には疑似宗教的な文言や言い回しが多用され、「アーメン」の一言で演説が締めくくられた為、熱心なキリスト教徒ほど、感激し、感動しました。これでまた多くの国民がヒトラーを油断し、又は期待するようになります。　その一方で、２月３日に、軍の高官達を秘密裏に訪問したヒトラーは、国内の「平和主義・反戦主義」（ヒトラー言うところの「マルクス主義」）を粉砕し、軍事力を以てドイツ民族の生存権拡大という目標を達成するとぶち上げます。そして、軍は国の支柱であると持ち上げ、ヒトラーに好奇と懐疑の眼差しを向けていた高級将校達の心を掴みます。当時は、エルンスト・レーム率いるＳＡが、軍にとって代わるのではないかと思われていましたが、ヒトラーはこれを否定し、将校達を安心させたのです。　この日、ゲッベルズは、日記にこう書きました。「選挙戦は実に楽になった。何故ならば、国家の所有するあらゆる手段を我々の選挙戦に利用できるからだ。放送も新聞も、我々の意のままである。一つ、政治扇動（アジテーション）の傑作をご覧に入れよう」。　２月４日、ヒトラー内閣は「ドイツ国民防衛の為の大統領緊急令」を出します。国家機密の漏洩・叛逆罪、又は治安への破壊活動の嫌疑をかけられた者は３ヶ月以上の禁固刑に処することが可能となり、ストライキ・政治集会・デモを禁止し、印刷物の応酬や配布禁止を可能とするものでした。ＳＡや鉄兜団はこの処置の対象外とされ、プロイセン州内相であったゲーリングは、この緊急令を契機としてナチ党とＳＡに対する警察の監視を中止させます。　２月１０日夜、ヒトラー首相は、ベルリンのスポーツ宮殿で初めての公式の演説に臨みました。　立錐の余地のないほど観客に埋まった会場で、ヒトラーは過去１４年間の政治的・経済的混乱を引き起こした人々の責任を糾弾し、ドイツの経済を立て直し、生活を立て直すことを約束し、国民の統合と、党派政治からの訣別を訴えます。そして、こうも叫んだのです。「ドイツ国民よ、我々に４年の猶予を与えよ。然る後に我々を裁き、判決を下し給え！」。ヒトラーが、国民からの裁きを受けるつもりなど無かったのは、後の展開から明らかですが、国民政党の見本のような演説に、人々は熱狂しました。更に、ゲッベルズが、全国ネットのラジオとニュース映画を使って、ヒトラーの演説を嘗てないほどの規模で全国に広めたのです。翌日から、ナチ党には入党申し込みが殺到し、党は、事務処理能力がパンクして、申し込みを一時制限せざるを得なくなりました。　ヒトラーがその弁舌によって大半の国民を魅了している間にも、ＳＡのテロ攻撃が全土で荒れ狂います。中央党の支持者にＳＡの襲撃班が襲い掛かった事から発砲事件へと発展し、又、別の場所では中央党の元閣僚が襲われ、社会民主党のデモ隊に爆発物が投げ込まれる事も有りました。社会民主党や共産党には更に容赦なく、候補者や政治家が何人もテロの犠牲となりました。　プロイセン州内相のゲーリングも、２月４日の緊急令を使って「合法的」なテロ行為や選挙妨害を行いました。ベルリンの共産党本部は、二度に渡って家宅捜索され、社会民主党系の新聞も当たり前のように発禁処分とします。中央党の選挙ポスターや宣伝物を押収し、左翼政党の集会も解散させました。新聞の発禁処分は国事裁判所で無効とされましたが、ゲーリングは意に介しませんでした。　その一方で、ナチ党の宣伝部隊は何らの妨害も受けずにマルクス主義の危険性を声高に叫び、人目を引く派手なパレードを行い、スピーカ―付きの宣伝車を走らせ、飛行機まで使って何万枚というビラを散布します。挙句の果て、ゲーリングは２月２２日にＳＡをプロイセン州の「補助警官」に任命するという挙に出ました。「国民は自らの手で自らを防衛しなければならない」。ゲーリングはそう嘯きます　そして、２月２７日、この選挙とヒトラー内閣の性格を決定づける事件が起きました。この日の夜、国会議事堂が炎上したのです。（「その９」へ続く）※　書き始めたのは１２／１３ですが、公開は１２／１５春橋哲史（ツイッターアカウント：haruhasiSF)

2012.12.13

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ヒトラーの権力獲得―民主主義者無き民主主義　その７

（「その６」から続く）　１月９日、パーペンはシュライヒャー首相に呼び出されます。４日にシュレーダー男爵邸前で張り込んでいたのは、シュライヒャーの歯科の主治医であるヘルムート・エルブレヒターが派遣したヨハンセン予備役大尉でした。エルブレヒターは患者の１人からケルン会談の情報を仕入れていて、シュライヒャーに警告したのですが、聞き入れられなかったので、「証拠」を掴もうとヨハンセンを派遣していたのです。シュライヒャーに呼び出されたパーペンは、指摘された疑惑を否定し、自分の野望はおくびにも出さず、「自由な意見交換であった」「ヒトラーとの良好な関係はシュライヒャーの利益にもなる」事を滔々と説明しました。　会談の内容が不確かであった為、シュライヒャーもそれ以上は追求できませんでした。　パーペンはシュライヒャーとの話が終わると、首相公邸の裏庭から大統領官邸に向かい、ヒンデンブルクに「ヒトラーが首相就任を諦めた」と報告します。大統領は「私的且つ極秘」に、ヒトラーとの接触を続けるよう、パーペンに要請します。首相を解任したとはいえ、ヒンデンブルクのパーペンへの信頼は他の政治家より抜きん出ていました。　　１月１０日、パーペンとヒトラーは再度、会談します。２回目の会談を仲介したのは、元軽騎兵将校で当時はワインとシャンペンの輸入商をしていたヨアヒム・フォン・リッベントロップでした。　この会談で、ヒトラーは、首相職への野望を剥き出しにし、前回とは正反対に全権を要求します。パーペンは、前回の会談以上のことは大統領に取り次げないと説明しましたが、ヒトラーは引き下がらず、話し合いは暗礁に乗り上げます。それでも両者は１２日に３度目の会談を行うことで一致しました。が、ヒトラーは１２日の会談を延期します。当時行われていたリッペ州議会選挙に全力投球し、勝利を収めてから態勢を立て直す腹積もりでした。　１月４日のパーペンとの最初の会談が終わった直後から、ヒトラーはリッペ州に入って演説を繰り返していました。１０日間で１６の選挙拠点を回り、褐色の宣伝部隊は家々を一軒一軒訪問して支持を訴えました。有権者総数１０万人足らず・議員定数２１人の小さな州で、４万８０００冊のパンフレットが配布され、ヒトラー以外の党幹部も次々と現地に入りました。１９３２年１１月の総選挙で得票率を減少させて以来、ザクセン・チューリンゲン・ブレーメンと、ナチ党は地方選挙でも軒並み敗北しており、例え小州であっても、ヒトラーとナチ党にとっては、勝利が必要だったのです。　リッペ州の州議会選挙は１月１５日に行われ、ナチ党は前回選挙に約６０００票を上乗せして、得票率３９．５％を達成しました。前回の総選挙の得票率を５ポイント上回ったのです。これは、他の右派政党の票を横取りした結果で、社会民主党も票を伸ばしていたのですが、ヒトラーは「自分の指揮でこの勝利を手にできたのだ」と見せかけ、党内に自らの絶対的な独裁権を確立しようと図ります。１月１６日にワイマールで開かれた全国大管区指導者会議で、３時間に及ぶ演説を行ったヒトラーは、シュトラッサ―とその一派を徹底的に糾弾しました。反主流派のナチ党左派は粉砕され、党内はヒトラーを中心に一枚岩となります。　文字通り、体勢を立て直したヒトラーは、１月１７日、ワンフロアーを貸切にしてあるベルリンのホテル「カイザーホーフ」に入ります。　その日の内に、ヒトラーは、国家人民党党首のアルフレート・フーゲンベルクと会談しました。シュライヒャーに政権入りを断られたフーゲンベルクは、反シュライヒャー側に転じ、結果的にヒトラーに引き寄せらたのです。政治家としては先輩格であるフーゲンベルクに対し、ヒトラーは自信満々に自らの首相就任を要求します。その上で、フーゲンベルクにも閣僚の椅子を用意することを明言しました。この会談で、フーゲンベルクは「ヒトラーを操るのは難しくない」と感じたようです。　１月１８日、ヒトラーとパーペンの３回目の会談が行われます。両者の遣り取りは２回目と同様で、膠着状態となりましたが、互いに、交渉打ち切りは宣言しませんでした。この時点で、両者とも暗黙の了解に達していたと言えます。問題は「ポストとその配分」に移っていたのです。膠着状態を打破すべく、リッベントロップが、一つの提案をしました。次回の会談に、大統領の側近であるオットー・マイスナー官房長とオスカール・フォン・ヒンデンブルク大佐（大統領の息子）にも同席して貰い、ヒトラーの印象を直に確認して貰ってはどうかというのです。　２人が加わる件について大統領から許可を得たパーペンは、１月２２日夜、リッベントロップの別荘でヒトラーと４回目の会談に臨みました。席上、ヒトラーは、マイスナーとオスカールに対して、「自分は大統領に忠実な首相として就任したい」「閣僚にはブルジョア政党からも多数起用する」旨を明言します。更にヒトラーは、２時間に渡ってオスカールと２人だけで密談しました。この密談で何が話し合われたのか、オスカールが父親にこれ以後どのような助言をしたのか、全ては歴史の闇の中ですが、会談からの帰り道にオスカールがマイスナーに語った言葉は示唆的です。「我々はあのヒトラーから逃げ回れないと思うよ」。　シュライヒャー首相にとって、状況は絶望的になりつつありました。　１月末には国会が召集される予定で、不信任案が提出されれば、可決は必至です。そこで１月２３日、シュライヒャーはヒンデンブルク大統領に、国会解散の許可と総選挙延期の為の非常事態宣言の許可を求めます。皮肉な事に、パーペンが政権末期に試みた手法を、シュライヒャーが用いようとしたのです。ヒンデンブルク大統領は、憲法違反の非常事態宣言は出せないとし、シュライヒャーの申し出を拒絶しました。２６日に、シュライヒャーは改めて要請しますが、大統領の回答は同じでした。陸軍統帥部長クルト・フォン・ハマーシュタイン＝エクヴォルト上級大将のとりなしも効果が無く、逆に、大統領はシュライヒャーの要請は受け入れられないことを文書でハッキリと回答したのです。　１月２７日、ヒトラーはホテル「カイザーホーフ」で、パーペン仲介の下、フーゲンベルクと会談しました。この時、ヒトラーは、プロイセン州内相のポストを要求します。ヒトラーとナチ党に最大州の警察指揮権を委ねる事の危険性を察知したフーゲンベルクはこれに反対しますが、ヒトラーが会談打ち切りの脅しをかけると、仲介役のパーペンがヒトラー側に着きました。フーゲンベルクの抵抗を抑え、ヒトラーの要求が通ります。　１月２８日、国会対策が行き詰っていたシュライヒャー首相は、自分と全閣僚の辞表を大統領に提出しました。連隊勤務時代に上官と部下として出会って以来、ヒンデンブルクの信頼を得てきたのが自慢でしたが、安定政権を作るのに失敗し、今やその信頼も失われていました。しかもこの時、シュライヒャーは知りませんでしたが、大統領は首相としてのシュライヒャーだけではなく、国防相としての彼も切り捨てようとしていたのです。後任の国防相には、シュライヒャーの政敵であるヴェルナー・フォン・ブロンベルク陸軍少将が内定しており、ブロンベルクは翌２９日に、滞在先のジュネーブからベルリンへ出頭せよとの電報を受けます。　シュライヒャーは、大統領が再度、パーペンを首相に任命するものと思っていました。社会民主党も同様で、「パーペン＝フーゲンベルク内閣」の成立を阻止すべく、１０万人規模のデモ行進を行います。シュライヒャーがヒンデンブルクを捕える為に国軍がクーデターを起こすという噂が飛び交う中（実際には、シュライヒャーは、ヒトラーへ人を遣わせてパーペンへの疑心暗鬼を呼び覚まそうと、最後の努力をしていました）、大統領も、パーペンも、フーゲンベルクも、「ヒトラー抜き」を検討しますが、パーペン＝フーゲンベルク内閣を作ったところで、ナチ党と社会民主党・共産党の左右両側からの攻撃を受けて、長くは持たないだろうという観測が大勢を占めました。１月２９日の午後遅くになり、翌３０日１１時から、ヒトラーの首相就任の宣誓式を行う事が決定されます。　運命の１月３０日は、午前８時、スイスからの夜行列車がベルリンに到着し、ブロンベルク少将がホームに降りた時から始まりました。駅には、ヒンデンブルク大統領の使いと、ハマーシュタイン＝エクヴォルト統帥部長の使いが来ていましたが、ブロンベルクは、最高司令官である大統領の呼び出しを優先して大統領官邸へ向かいます。到着して初めて、ブロンベルクは自分が新しい国防相になることを知りました。国軍クーデターの噂に悩まされていたヒンデンブルクは、軍に対するシュライヒャーの命令権を完全に剥奪する為、内閣が発足していないにも関わらず、ブロンベルクの就任宣誓式を行います。これは明白な憲法違反でした。ヒトラー内閣の発足に先んじて、国防相が憲法違反の手続きで任命されたことは、まるで「その後」の暗示のようです。　１０時半頃、ヒトラーはホテル「カイザーホーフ」をメルセデスのオープンカーで出発し、内務省でパーペン達と合流します。その後、パーペンが、ヒトラーや閣僚候補者達を首相官邸から大統領府のマイスナー官房長のオフィスへと案内しました。ここで、一悶着が起きます。ヒトラーが、内閣発足後の国会解散に同意して欲しいと要求したのです。国家人民党の敗北を予感したフーゲンベルクはこれを拒否し、ヒトラーと口論になります。ヒトラーは選挙の結果に関わらず、選挙後の閣僚構成は変更しないと確約しますが、口論は収まりません。マイスナーが堪り兼ねて注意しました。「皆さん、大統領閣下による宣誓は１１時に定められておりました。もう１１時１５分ですぞ。これ以上、大統領閣下をお待たせすることは許されません！」。口論はフーゲンブルクが押し切られた形で終わり、一同は大統領接見室に向かいました。　ヒトラーは大統領の前で宣誓しました。「私はドイツ国民の福利の為、全力を尽くし、共和国の憲法と法規を順守し、私に課せられた義務を良心にかけて果たし、且つ、私の任務を不偏不党、合法的に履行することを誓います」。宣誓の後、ヒトラーは「大統領の忠実な協力者として仕える」「大統領緊急令に頼らなくて済むように国会で過半数を得る為に努力する」旨の短い演説を行います。残る閣僚達に宣誓させた後、ヒンデンブルク大統領は簡潔な言葉で締め括りました。「さて諸君、神と共に前進を！」。　１２時４０分、大統領府の公式声明が発表され、ヒトラーが首相に任命されたことが国民に伝えられました。ドイツは、知らずの内に、暗黒へと足を踏み入れたのです。（「その８」へ続く）※　書き始めたのは１２／１２ですが、公開は１２／１３※１／２３　一部の文言を変更春橋哲史（ツイッターアカウント：haruhasiSF)

2012.12.12

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ヒトラーの権力獲得―民主主義者無き民主主義　その６

（「その５」から続く）　パーペンは、１１月１７日には首相職を辞任しなければなりませんでしたが、本人は選挙結果に煩わされずに、政権を維持するつもりでした。そこで、またもや国会無視の計画を練ります。招集される国会の即時解散、国家非常事態の宣言（＝陸軍の出動）、国会の多数派の決定を矯正できる第一院の新設、などです。　ところが、シュライヒャーは、パーペンの権力欲に愛想を尽かします。閣議でパーペンが孤立しているのは明らかだった為、パーペンを追い詰めることは可能に見えました。そこでシュライヒャーは、自分の味方を探し始めます。彼の構想は、各党の党内勢力を分断してシュライヒャーに好意的な「第三勢力」を作った上で、その勢力を軍が支援する大統領制内閣によって掌握する、というのが骨子でした。　１１月２３日、シュライヒャーはヒトラーと会談して協力を求めましたが、ヒトラーはこれを断ります。しかし、シュライヒャーは悲観しませんでした。ナチ党の全国組織指導者のシュトラッサ―が、党の主導権を手に入れようとしているのを察知していたからです。　１１月２８日、労働組合総同盟のテオドール・ライパート議長と、ウィルヘルム・エッカルト副議長がシュライヒャーと会談し、２人は、協力の見返りに、週４０時間労働制の導入・雇用創出計画の財源確保・労使賃金協定の不可侵性の尊重、等を条件として提示します。シュライヒャーはこれを全面的に受け入れ、労働相にも労組に友好的な人物を据えることを約束します。　ナチ党内部では、シュトラッサーがヒトラーと協議した結果、ある合意が成立しました。「シュトラッサーがシュライヒャー内閣の副首相として入閣し、他のナチ党員も何人か入閣する」「ヒトラーは党の全権を掌握したまま名誉党首に相当する地位に就き、青少年運動の指導を担当する」「党系列の出版社はヒトラーに譲られる」などです。シュライヒャーは、ヒトラーとシュトラッサーの合意内容を確認しようと、ヒトラーをベルリンへ呼びます。しかし、ベルリンへ向かったヒトラーをゲーリングが止め、１１月３０日に予定されていたシュライヒャーとの会談を中止するよう懇請しました。ヒトラーはゲーリングの説得で、シュトラッサーとの合意を破棄することにし、シュライヒャーとの会談も中止しました。　１２月１日夜、ヒンデンブルク大統領がパーペンとシュライヒャーを呼び出し、今後の方針を尋ねました。シュライヒャーはナチ党の党内情勢がハッキリするまで待つことを進言しますが、大統領はパーペンの案に同意します。パーペンは喜んで計画の実行に取り掛かりましたが、パーペンの計画を潰そうとしていたシュライヒャーは、自分に同調する何人かの閣僚から、閣議の開催要求を出させます。　１２月２日に開かれた閣議では、ノイラート外相・クロージック蔵相などが大統領の決定への異論を唱え、閣僚の大半がパーペンの首相再任に反対しました。更に、オイゲン・オット大佐が、非常事態宣言に基づく陸軍の出動について「治安維持ではなく、一部階級の利益保護の為という扇動が起こるだろうから、同意できない」と説明し、閣僚の大半もこれに納得します。遂にパーペンも自らの進退を大統領に委ねるべく、大統領官邸に向かいました。軍の最高司令官でもあるヒンデンブルクは「内乱の責任は負えない」と話して非常事態の宣言を否定し、パーペンを解任します。そしてその場で、シュライヒャーを後任の首相に指名しました。パーペンはシュライヒャーの裏切りを根に持ち、これ以後、自らの首相復帰を狙い続けることになります。　１２月３日、首相に就任したシュライヒャーは早速、動き始めました。ライパート達との約束に従って労働相には労組に受けの良いフリードリッヒ・ジールを起用し、憲法違反の計画すら辞さなかったガイル内相も更迭します。冬季の失業手当も引き上げ、更に、鉄兜団や国旗団（社会民主党の自衛組織）の非主流派、ナチ党左派とも接触し、雇用創出計画への協力を求めます。様々な雇用創出計画の中で採用されたのは、全国町村協議会議長のギュンター・ゲーレケの提案でした。即ち、閣僚級の全権委員（ライヒスコミッサール）を頂点とする中央雇用創出機関を設立し、多年次計画を作成する。その計画に従って公共事業を地方自治体に配分して失業者を救済し、自治体にも財政支援を行う、というものです。　シュライヒャーは提案者のゲーレケを雇用機関のトップに据え、その私的顧問に、ＳＡの高級幹部５人、更に労働組合総同盟からも出向者が加わります。しかし、１２月４日に、副首相として入閣する旨を約束したシュトラッサーはヒトラーを説得できず、その約束は果たされませんでした。１２月８日、ワイマールで開かれたナチ党全国指導者会議でヒトラーとシュトラッサーが激論となり、遂に、ナチ党のナンバー２であった全国組織指導者のグレゴール・シュトラッサーは精根尽き果てて党の全役職を返上します。　こうして、シュトラッサーは表舞台から消えたものの、シュライヒャーの情報網には、ナチ党内部が動揺し、ヒトラーの強気は表面的という情報が寄せられていました。現に、シュトラッサーがいなくなっても、ＳＡの幹部が政府の雇用創出計画に協力しているのです。これとは別にシュライヒャーが呼びかけたキリスト教系労組との話し合いも進展しており、「労組と政党の分派の横断」という戦略は上手くいっているように見えました。　ナチ党がその絶頂期を過ぎたと見做していたのは、シュライヒャーだけではありませんでした。社会民主党の機関誌『前進（フェアヴェルツ）』の１９３３年新年号のタイトルは「ヒトラーの擡頭と没落」でしたし、リベラル紙『フランクフルター・ツァイトゥング』は年頭の社説に「民主主義に対するナチズムの猛攻は撃退された」と書きました。風刺誌『ジンプリチシズム』も、１９３３年１月１日号でこう書いています。「ヒトラーはおしまいだ／この『フューラー』の時は過ぎた！」。ナチ党のプロパガンダ部長であるヨーゼフ・ゲッベルズすら、１９３３年の年明けに、日記にこう記しています。「新年！　多難な年になりそうだ」。　シュライヒャー内閣への攻撃は、社会民主党から始まりました。党首のウェルスを始め、幹部達は、労組が内閣と「交渉ごっこ」をしていることに腹を立てていたのです。社会民主党は内閣発足当初から対決を宣言しており、ナチ党が退潮傾向に入った今、民主主義を脅かしているのは大統領内閣の性格を持つ反動的なシュライヒャー内閣だと考えていました。しかもシュライヒャーはプロイセン州のブラウン内閣をクーデター的に崩壊させた張本人であり、そういう意味でも、許してはおけなかったのです。この社会民主党の態度は、党内の左派が共産党に接近するのを阻止する狙いがあったにせよ、的外れだったと言えます。シュライヒャーは議会に足場を持っていないのですから、労組が内閣に協力していることを交渉のカードに使い、社会民主党の政策をシュライヒャー内閣に要求することも出来たでしょう。　しかし、社会民主党はシュライヒャー内閣と対決の道を選びます。先ず、国旗団の幹部を呼び出して、軍や内閣に協力しないように要求します。幹部の一人は、シュライヒャー内閣での地位を得る為に脱退しましたが、国旗団も、結局は上部組織である社会民主党の方針に従います。更に、１９３３年１月６日、社会民主党の幹部会に出席した労働組合総同盟のライパート議長が激しく批判されます。長時間の説得の末、ライパートも、シュライヒャー内閣との関係を改めることを約束せざるを得ませんでした。　国内最大労組からの協力が得られなくなったことは、シュライヒャーの政権構想の空中分解を意味しました。それでもシュライヒャーは、雇用創出計画の実行に望みをかけます。ゲーレケ達が立案した内容は、道路工事・土地改良・運河掘削・郊外ニュータウンの建設が骨子であり、１０ヵ月間の計画期間中に合計５億マルクを投入するものでした。高速自動車道（アウトバーン）の建設を含むこの計画は、後にヒトラー内閣が実行して、経済対策として大いに成果を上げます。シュライヒャーがその成果を手にしていれば、国民の支持を得て、内閣を存続させられたかも知れません。しかし、本人も気づかない内に、シュライヒャーの退陣は間近に迫っていました。　シュライヒャー内閣退陣の引き金となったのは、嘗ての友人であり、首相職への返り咲きだけを考えている権力欲の塊のようなパーペンでした。内閣総辞職後も、ウィルヘルム街の首相公邸に居座り続けていたパーペンは、ケルンの銀行家クルト・フォン・シュレーダー男爵の仲介で、ヒトラーとの会談の段取りを付けます。シュレーダーが仲介の労を取った裏には、可能ならシュライヒャー内閣を倒して、計画経済的な、社会主義の匂いのする経済政策を葬ろうという狙いがありました。　１９３３年１月４日、ヒトラーはルドルフ・ヘスとハインリヒ・ヒムラーを伴ってケルンのシュレーダー男爵宅に向かいます。邸宅の入口では、何故か１人のカメラマンが待ち構えていて、ヒトラー一行を写真に撮りますが、シュレーダーはその場では騒ぎを起こすことを避け、ヒトラー達を邸内に迎え入れます。続いてパーペンが到着し、両者は２時間に渡って話し合いました。　席上、ヒトラーは「公職からの社会民主党員・共産党員・ユダヤ人の追放の必要性」を強調します。対するパーペンは、首相返り咲きという自分の狙いを直接は話さず、シュライヒャーとヒトラーの和解を勧めました。その上で、ヒトラーとシュライヒャーの両頭政治を検討してはどうかと提案したのです。ヒトラーはこの言葉に反応し、国防相のポストを要求します。第一ラウンドはパーペンの勝ちでした。言葉だけを聞けば、ヒトラーが首相就任を諦めたように受け取れるからです。（「その７」へ続く）※　書き始めたのは１２／１１ですが、公開は１２／１２※　１／２３　一部文言を変更春橋哲史（ツイッターアカウント：haruhasiSF)

2012.12.11

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ヒトラーの権力獲得―民主主義者無き民主主義　その５

（「その４」から続く）　３２年７月の総選挙の直後に動いたのが中央党でした。中央党は、裏切り者のパーペンを何としても首相の座から引きずり下ろそうとしており、８月２日、ナチ党との連立を検討することを決定します。　一方のヒトラーも、この日、滞在先のテーゲルン湖畔で、首相の座を狙うことを明言しました。突然、「私は首相にならねばならん。一刻の猶予も許されん」と叫んだのです。それまで、ナチ党の内部では、党首であるヒトラーは大統領に、ナンバー２であるグレゴール・シュトラッサ―は首相にというのが暗黙の了解でしたが、大統領選でヒンデンブルクに敗れたヒトラーは目標を切り替えたものと思われます。　シュトラッサ―からの使者でヒトラーの突然の表明を知らされたシュライヒャーは驚きつつも、８月５日、ベルリンでヒトラーとの会談に臨みます。この会談で、ヒトラーは強気に出ました。自分の首相就任に加えて、内務・農業・教育・司法・航空の５閣僚のポストを割り当てるように要求したのです。ヒトラーの決意が固い事を知ったシュライヒャーはシュトラッサ―と会談し、「ヒトラー内閣」の組閣名簿をまとめた上で、８月１０日、ヒンデンブルク大統領にその構想を説明します。しかし、伍長上がりのヒトラーを侮蔑し、ＳＡが全国で起こしている暴力沙汰にも苛立っていたヒンデンブルク大統領は、シュライヒャーの提案を一蹴しました。　シュライヒャーから大統領の意向を聞かされたシュトラッサ―は、８月１１日にキームゼーで開かれたナチ党指導者会議で、大統領への要求は行き過ぎだったと述べ、ゲーリングなどの他の幹部も、これに賛同します。しかしヒトラーは反対意見を一顧だにしませんでした。このヒトラーを喜ばせるような情報が、大統領府官房長のオットー・マイスナーから入ります。大統領は決定を延期しており、まだ何も決まっていないと言うのです。更に、パーペン首相から会見の申し入れがあり、ヒトラーは再び、ベルリンに向かいました。　８月１３日、首相府でヒトラーと会談したパーペンは、ヒトラーに副首相としての入閣を要請しました。その上で、ヒンデンブルク大統領が貴方のことを信頼するようになれば、首相職を譲るとまで誓ってみせます。しかしヒトラーは、「自分が首相になるか、ナチ党がパーペン内閣の最も手強い野党になるかのどちらかだ」と、パーペンの要請を頑として断りました。パーペンは、次善の策としてヒトラーに大統領との会見を提案します。マイスナー官房長からの情報を信じていたヒトラーはこの提案に同意します。　しかし、ヒンデンブルクとヒトラーの会談は波乱の連続でした。パーペン内閣への支持と入閣の意志を質問されたヒトラーはそれを拒否し、逆に、大統領に対して「政府並びに国家指導の為の権限」を要求します。この要求をヒンデンブルクが断ると、ヒトラーは、パーペンに言ったのと同じように、ナチ党は野党に留まると応酬しました。ＳＡの暴力行為を苦々しく思っていたヒンデンブルクが、野党にも騎士道精神が必要と説くと、ヒトラーは法律を順守すると誓いますが、耳の遠くなっていたヒンデンブルクはヒトラーが暴力を仄めかしているように聞こえ、ヒトラーを一喝します。　一致点を見出せず、ヒトラーとヒンデンブルクの会談は決裂しますが、これで、シュライヒャーはヒトラーを罠にかけられました。会談後に大統領側から発表された声明は、ヒトラーが小物に見えるように細工され、しかも、ヒトラーとナチ党が事前にパーペン内閣支持を表明していながら、その約束を守っていない事を大統領が遺憾に思っている、という内容だったのです。怒ったヒトラーは、マイスナーとシュライヒャーに対して声明の訂正を要求しますが時すでに遅く、「ヒトラーは約束破りの権力亡者」という世論が一人歩きを始めます。　しかし、パーペンやシュライヒャーが、ヒトラーを「封じ込めた」と思ったのは早計でした。中央党とナチ党の連立協議が加速しており、８月２３日には、中央党のブリューニンク前首相とナチ党のシュトラッサーがベルリンで会談します。両党は「首班はヒトラー」「閣僚の割り振りは両党同数」「パーペン内閣の提案する大統領緊急令には全て反対する」「新しい国会の議長にはナチ党のヘルマン・ゲーリングを推す」等で合意しました。　突如として現れた「黒褐色連合」（黒は中央党、褐色はナチ党）に慌てたのがパーペンでした。両党が手を結べば国会で絶対多数を握り、パーペンが退陣に追い込まれるのは確実です。そこでパーペンは、ガイル内相が提案した方法を実行しようとしました。即ち、ナチ党と中央党の機先を制して国会を解散し、解散後の総選挙は「適当な時期まで」延期するというのです。ワイマール憲法第２５条では、国会解散後の総選挙は６０日以内と定められていましたから、明らかに憲法違反の計画でした。　８月３０日、パーペンは、自分の計画に必要な２つの大統領緊急令の書類を用意し、ノイデックに滞在中のヒンデンブルク大統領を訪れます。１つは国会解散の命令書で、この時点では解散理由は空白でした。必要に迫られた時に適当な解散理由を書き込むつもりでした。もう１つの大統領緊急令は、プロイセン州で黒褐色連立内閣が成立する可能性に備えたもので、プロイセン警察の指揮権を中央政府に移すというものでした。パーペンの説得を受けたヒンデンブルクは、２つの緊急令に署名します。　９月１２日、ゲーリングが議長となった新たな国会が開会されました。ところが、冒頭に共産党がパーペン内閣不信任案を提出したことで、各党の思惑が狂わされます。不信任案は優先して審議されるという規則が有り、しかもヒトラーが、事も有ろうに共産党が出した不信任案に賛成するよう、中央党を説得にかかったのです。パーペンは、用意していた解散命令書を提示して国会を解散させるつもりでしたが、間の抜けた事に、パーペンはその命令書を首相府に忘れてきていました。マイスナーが書類を取ってくる間にも議事は進行し、しかもゲーリング議長は、届いた書類を振り回して発言するパーペンに気付かないふりをします。不信任案が採決され、パーペンは赤っ恥をかかされました。５１２対４２。不信任案は圧倒的多数で可決されたのです。　ともかくも、国会解散を果たしたパーペンは、総選挙を延期し、国会抜きで政権を担当する計画を実行しようとしますが、閣議で思わぬ抵抗に遭います。４人の閣僚が選挙延期に明確に反対し、別の２人も態度を明らかにしなかったのです。しかも、ナチ党と中央党が大統領を憲法違反で告訴するらしいという情報が入り、パーペンの「選挙棚上げ計画」は放棄を余儀なくされました。已む無くパーペンは、次回選挙の投票日を１１月６日と決定します。前回の選挙から４ヶ月も経ない内に再度、選挙が行われることになったのです。　ナチ党では、党首のヒトラーが、議席を伸ばせると楽観視していましたが、グレゴール・シュトラッサーはそうではありませんでした。３月の大統領選挙、４月のプロイセン州議会選挙、７月末の総選挙、そして今度の総選挙と、選挙戦が度重なったことで、ナチ党の組織には疲れが見え始めており、相変わらずのＳＡの暴力も有権者に嫌悪され始めていたのです。更に、ナチ党内部に入った亀裂も、少なからず影響していました。ヒトラーが８月１３日のヒンデンブルクとの会談で自説を曲げず、政権に加わらなかったことで、ヒトラー党首の「全てか無か」路線を疑問視する声も党内に広がりつつありました。　選挙結果は、シュトラッサーの懸念通りでした。ナチ党は第一党は維持したものの、約１１７０万票・得票率約３３．１％へと下降し、議席数は２３０から１９６へと減少したのです。それだけではなく、議会内の第二党・第三党であった社会民主党（１３３→１２１）と中央党（９９→９０）も揃って議席を減らしたのが、この選挙の最大の特徴でした。ナチ党を離れた票は別の右派政党へと流れて、国家人民党（３８→５２）・人民党（７→１１）とも議席を増やしました。そして、ドイツ共産党（８９→１００）が第三党に躍進したのです。「黒褐色連合」で過半数を得られなくなり、ヒトラーの戦略は、袋小路に入りました。この選挙で状況は何も変わらず、却って、各党とも決め手を欠く有様となったのです。首相職争奪の醜悪な戦いは、この後、急展開を見せます。結果的には、１９３２年１１月の総選挙が、ワイマール憲法下で行われた、最後の自由な選挙となりました。（「その６」へ続く）※　１２／１０に書き始めましたが、公開は１２／１１春橋哲史（ツイッターアカウント：haruhasiSF)

2012.12.10

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ヒトラーの権力獲得―民主主義者無き民主主義　その４

（「その３」からの続き）　１９３２年５月２８日にシュライヒャーと会談し、ブリューニンクの後任を打診されたパーペンは、すっかりその気になりましたが、大きな問題が有りました。中央党に属しているパーペンが、同じ中央党のブリューニンクを追い落とす事になるのです。５月３１日、中央党党首のルードヴィヒ・カースから、シュライヒャーの申し出を断るように言われて一度は受け入れたパーペンでしたが、日付の変わらない内にカースとの約束を覆します。結局パーペンは、除名処分となる前に脱党して無所属となりましたが、これ以後、パーペンは中央党から徹底的に目の敵にされます。　ヒンデンブルク大統領の指名を受けて、パーペンは６月１日に首相に就任しますが、閣僚名簿はシュライヒャーが作成したものが元になっていて、シュライヒャー自身が国防相として入閣します。その他の面々は、外相―コンスタンティン・ノイラート男爵、内相―ウィルヘルム・ガイル男爵農相―マグヌス・ブラウン男爵蔵相―ルッツ・シュヴェリン・フォン・クロージック伯爵経済相―ヘルマン・ヴァルムポルト（ブリューニンク内閣から留任）司法相―フランツ・ギュルトナー（ナチ党初期からのヒトラーの支援者）　という陣容で、世間からは「男爵内閣」と呼ばれるようになります。　　６月３日の初閣議で、パーペン内閣はヒンデンブルク大統領へ議会の解散を提案することを決定し、大統領はこれを受け入れます。投票日は７月３１日と定められました。　６月４日、パーペンは施政方針演説を出版物として配布するという異例の形で発表しました。その中でパーペンは、無神論やマルクス主義の拡大を嘆いてみせ、国家の福祉化を否定し、民族主義者の統合と、「自己以外には責任を負わない」大統領に率いられた階層国家の創設、貴族院制度の復活を主張します。大半の政党、労働組合、関連の自衛組織は、パーペンの主張を前近代的・反動的と一斉に批判し、内閣は発足早々、政治的に孤立することになりました。悪い事には、ナチ党がパーペン内閣を支持しているという事情までもが社会民主党の機関紙「前進（フォアヴェルフ）」にすっぱ抜かれます。　政治的に孤立したパーペン内閣にとって、ナチ党との友好関係は益々貴重なものとなります。ガイル内相は抵抗しましたが、シュライヒャーとパーペンの圧力で、ＳＡ禁止令は６月１６日に撤廃されました。ＳＡは大手を振って街頭に飛び出し、忽ち、共和国派・共産党の若者や自衛組織と衝突しました。ナチ党のＳＡ、ドイツ共産党系の「反ファシズム闘争同盟」等、左右両勢力のテロは日常茶飯事となり、死傷者が続出します。１９３２年６月中旬からの１ヶ月で、プロイセン州内だけで街頭のテロ行為による犠牲者は、死者９９人・負傷１１２５人に上りました。　この不穏な空気の背景には、経済状況が有りました。公式には約６１０万人とされていた失業者数は実質的には約８００万人を超え、その半数近くが都市部に居住していたのです。　プロイセン警察は街頭の暴力を取り締まろうと懸命でした。暴力の激化がＳＡ禁止令の解除がきっかけであることは明らかでしたが、パーペン内閣の関心は街角の暴力ではなく、「赤いプロイセン」のオットー・ブラウン首相を如何にして倒すかということでした。社会民主党の大物であり、州首相として最長の在任記録を誇るブラウンを倒せば、社会民主党に打撃を与え、最大の州であるプロイセン州を中央政府の意向に従わせることができます。　しかし、当時６０歳のブラウンの、往年の気力・活力は最早失われていました。夫人が全身麻痺の病気となり、ブラウン自身も患っていたからです。そしてブラウンは、州副首相兼厚生相の中央党員、ハインリヒ・ヒルトジーファーに首相の職務を託し、自宅に引きこもってしまいます。彼は殆ど感情を見せず、寝たきりとなり、議会にも出られない状態でした。　この頃、パーペン首相は、スイスのローザンヌで開かれた賠償会議に出席します。前任のブリューニンクが、自国の経済を徹底的に痛めつけてまで得ようとした、「連合国への賠償金支払い義務の軽減」という果実を、パーペンはこの会議で簡単に獲得できました。　パーペンは７月１０日に帰国し、この時、中央政府がプロイセン州に介入する口実となる事件が半ばでっち上げられていました。事の発端は、プロイセン州内務省次官のヴィルヘルム・アベックが、独断でドイツ共産党の幹部党員と会談し、「社会民主党とプロイセン州政府の施設へのテロ攻撃を控えて欲しい」「ナチズムに対する共同の闘いの為に、共産党と社会民主党の話し合いが必要」と要請したことでした。　この会談を仲介したプロイセン州内務省参事官兼同省警察局極左担当課長のルドルフ・ディールス（先走りますが、ディールスは後に国家秘密警察［通称：ゲシュタポ］の初代長官となります）が、会談後にその内容を同僚に漏らしてしまったのです。ここから、伝言ゲームが始まり、尾ひれがついていきます。最終的には、アベック次官がドイツ共産党に反ファシズム戦線への参加を呼びかけ、共産党と社会民主党の合同を提案したという、途方もない話に膨れ上がっていました。　シュライヒャーとパーペンにとって、真相は二の次でした。パーペンは７月１１日午後に閣議を開き、次のように決定します。　大統領緊急令によってプロイセン州政府を解任し、中央政府が任命する共和国全権委員（ライヒスコミッサール）によって統治するというのです。　翌１２日、パーペン内閣は、密かに、国防軍第３軍管区（ベルリン）の司令官ゲルト・フォン・ルントシュテット中将に首都と周辺地域を占拠し、プロイセン州警察部隊が抵抗した場合にはそれを制圧するよう命令します。７月１３日には、ヒンデンブルク大統領が、パーペンの持参した大統領緊急令に署名しました。　一方、プロイセン側も、中央政府の不穏な動きを察知し、違法な武器の所持を取り締まり、許可済みのデモであっても、必要によって禁止する処置を取ります。更に、プロイセン警察８万人を動員して、中央政府に抵抗することを検討しました。プロイセン側の動きを知ったパーペン内閣は、全面衝突を避ける為、一度は、プロイセンへの介入を断念しますが、７月１７日、プロイセン州ハンブルク市のアルトナで、大規模な流血事件が起こりました。　後に「血の日曜日事件」と呼ばれるようになるアルトナでの流血沙汰は、約７０００人のナチ党員が、共産党員の多い労働者街に殴り込みをかけたのが発端でした。どちらが先かは分かりませんが、ナチの隊列と周囲の住宅街の間で銃撃戦となったのです。１７時頃に始まった戦闘は夜になっても続き、アルトナ警察はハンブルク警察の応援を得て漸く鎮圧しました。死者は１７人、負傷者は１００人以上でした。　事前に禁止できた筈のデモを中止させなかった―、地元の警察の手に負えなかった―、鎮圧に時間がかかり過ぎた―など、中央政府からプロイセン州政府への言いがかりの口実は幾らでもありました。パーペンは、ヒンデンブルクが署名した大統領緊急令の日付欄に「７月２０日」と書き込み、プロイセン州のヒルトジーファー首相代理に、蔵相・内相と共に７月２０日午前１０時に首相府に出頭するよう通告します。　奇妙な事に、ヒルトジーファーらプロイセン州政府の首脳達は、情報を集めたものの、殆ど対抗手段を取ることなく、指定の日時に首相府へ到着しました。３人を前にしたパーペンは、「プロイセン州の公共の秩序と治安が危機に瀕している」「大統領はパーペン自身をプロイセン州の共和国全権委員に任命した」「自分は全権委員並びにプロイセン州内相代行として、エッセン市長のフランツ・ブラハトを任命した」ことを通告しました。この時点で、形式的にはプロイセン州首相であったブラウンが解任されたことになります。「赤いプロイセン」に対する中央政府のクーデターは呆気なく成功しました。一方的な通告を受けた３人は「流血を避ける」「緊急令は合法である」という理由で引き下がりました。社会民主党党首のオットー・ヴェルスは、７月１６日に決定していた「議会外での抵抗活動は行わない」という方針を覆さず、国旗団が大規模デモやゼネストを求めても、労働組合や社会民主党の幹部はこれを聞き入れませんでした。「現下の政治勢力のバランスを見れば、実力行使は無責任である」「ドイツの労働者階級の回答は、７月３１日の総選挙で示されるだろう」－これが、正当な選挙で樹立された自党の政権をクーデターで倒された社会民主党の対応でした。　社会民主党が最大の牙城であるプロイセン州の政権を失ったこの頃、ナチ党の選挙活動はフル回転で続けられていました。幹部の演説を録音したレコードを流し、ラジオを通じて宣伝し、飛行機での移動はヒトラーに１５日間で５０都市での遊説を可能にさせ、「ドイツ全土を飛ぶ我らが指導者（フューラー）！」という宣伝文句が繰り返されます。この時、ヒトラーの遊説に飛行機を提供したのが、ルフトハンザ航空です。　１９３２年７月３１日の総選挙で、ナチ党は大勝利を収めました。前回１９３０年９月１４日の結果を大きく越え、約１３８０万票・得票率３７．４％で獲得議席２３０議席と、倍以上の躍進を遂げたのです。それまで第一党の座を維持してきた社会民主党は１４３議席から１３３議席へと減らして第二党に転落し、人民党は３０議席から７議席へと激減しました。国家人民党は何とか踏みとどまり（４１→３８）、共産党（７７→８９）と中央党（８７→９９）は議席を増やしました。　この選挙直後から、民主主義とはかけ離れた、醜悪な首相職争奪戦が始まります。（「その５」へ続く）※　書き始めたのは１２／９ですが、公開は１２／１１※　１／２３　一部の文言を変更春橋哲史（ツイッターアカウント：haruhasiSF)

2012.12.09

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ヒトラーの権力獲得―民主主義者無き民主主義　その３

（「その２」からの続き）　３０年９月の総選挙後に外相兼務となったブリューニンク首相は、不況を外交に利用しました。「ドイツ経済が崩壊寸前で、世界経済に悪影響を及ぼしかねない、従って、第一次大戦の賠償金は支払えない」－このような筋書きで、戦勝国と交渉するつもりでした。国民は彼に「飢餓宰相」という綽名を付けます。状況は、ブリューニンクの思う方向に進みました。１９３１年６月２０日、アメリカ合衆国のハーバート・フーヴァー大統領がモラトリアム（支払い猶予）を発表し、２週間後にはフランスも続きます。ドイツ国内ではダナート銀行が取り付け騒ぎで窓口を閉鎖し、ライン農業銀行が支払い不能を宣言、更に、北ドイツ梳毛（そもう）紡績会社が倒産します。　この間、ブリューニンク内閣への国内の不満は徐々に高まっていきました。総選挙からほぼ１年後の１９３１年１０月の右翼の示威集会には、ナチ党・国家人民党・鉄兜団・ドイツ経済民族党・国立銀行前総裁のヒャマール・シャハト、帝政時代の将軍達、ホーエンツォレルン家の前皇太子など、穏健右翼から極右までが集結しました。ナチ党の党員数は鰻上りで、議会で表立った対立を控えていた社会民主党も不満と疲れの色を濃くします。そして、１９３２年の３月に、失業者数は約６１０万人に達しました。　３１年春に、クルト・フォン・シュライヒャーの元へ、ＳＡ幕僚長のエルンスト・レームが面会を申し込んできます。この後、レームは、ヒトラーの代理人とも言えるヘルマン・ゲーリングを伴って度々シュライヒャーとの面談に臨み、共に帝政時代の軍人だったシュライヒャーとレームは意気投合しました。　レームはＳＡをドイツ陸軍のスタイルで掌握しており、服務規定や使用する旗まで、ドイツ陸軍と瓜二つでした。豊富な情報源を持っていたシュライヒャーも、各種の情報を総合し、レームがドイツ陸軍の協力者になり得ると判断します。シュライヒャーがＳＡに期待したのは、人材の供給源としてでした。ドイツ軍の計画では、ポーランドとの紛争に備えて、東部に国境防衛団という民兵組織を新設する予定で、その民兵の補給源として、ＳＡはうってつけでした。　ドイツ陸軍とＳＡの話し合いは急テンポで進み、陸軍のフォン・ハマーシュタイン・エクヴォルト将軍がヒトラーと面談するようになります。年が変わる頃には、ウィルヘルム・グレーナー国防相兼内相もヒトラーと面談しました。こうして１９３２年２月には、シュライヒャーを始めとする陸軍首脳部は新たな政治的陰謀を巡らせ始めます。それは、社会民主党との協調を止めないブリューニンク内閣を退陣させて、右派政権を作り、ナチ党を入閣させることで彼らを支配下に置き、ＳＡを人材供給源として使う－というものでした。　シュライヒャーの計画は一度は動き始めたものの、ヒトラーが主要閣僚を含む多くのポストを要求してきたことで、頓挫します。ヒンデンブルクはヒトラーを嫌っており、ヒトラーとナチ党に多くを与えるつもりはありませんでした。ブリューニンク首相も、大統領の反ヒトラー感情を利用してこの計画を潰しにかかります。３２年３月には大統領選が予定されており、保守・ブルジョア層が一致して推せる候補者はヒンデンブルクしかおらず、再選を目指して選挙戦を戦う為には、シュライヒャーやブリューニンクが一致する必要が有りました。　大統領選は決選投票の末、ヒンデンブルクがヒトラーに勝利します。この選挙戦が、ブリューニンク内閣総辞職の引き金となります。　大統領選の最中、ヒトラーが敗北した場合には、ＳＡが実力で権力奪取を計るらしいという噂が流れた為、グレーナー内相がプロイセン州のカール・ゼーヴェリング内相に警戒するように通報しました。プロイセン警察は３月１７日にナチ党大管区とＳＡの本部を占拠して証拠物件を押収しますが、その中に、ヒトラーが当選した際にはＳＡの一部部隊が実力行使するという計画書が含まれていたのです。これを受け、グレーナー内相は、１９３２年４月１１日にＳＡを活動禁止処分にしました。　ところが、シュライヒャーを始めとする軍の幹部達はこれを不服として、禁止処分を撤回するか、共和国派の国旗団（社会民主党系の自衛組織）も禁止しないと不公平であると、ヒンデンブルクに訴えます。更には、内相が一方の勢力に加担したとの書簡を公開し、グレーナー包囲網を敷いていきました。シュライヒャーの策謀であるこれらの工作の目的は、ＳＡを活用するという構想を台無しにしようとしたグレーナーを排除することでした。グレーナーは国会でナチ党議員に集中攻撃を受け、５月１１日には、シュライヒャーが「グレーナーが辞任しないのなら、私及び国防省幹部は即刻退官する」と首相官邸に告げます。翌日に、グレーナーは辞任します。　グレーナー追い落としと並行して、シュライヒャーは新しい構想を練りました。ＳＡ・鉄兜団・国旗団などの準軍事組織を、国防省が統括する民兵組織に統合し、その上でナチ党を政権に参加させるというものです。主だった将軍達の了解を得ると、シュライヒャーは、ＳＡの禁止令解除を餌として、再び、ヒトラーに接近しました。大統領選に敗北して意気消沈していたヒトラーはシュライヒャーの話に飛びつきます。シュライヒャーとヒトラーの会談には、大統領府の人間も参加し、５月７日に合意が成立しました。具体的には、ブリューニンク内閣を退陣させ、ナチ党が容認できる人物を後継の首相とする。但し、その内閣は暫定的なもので、総選挙後に本格政権を作る。その政権には、複数のナチ党員が入閣する、というものです。　更に、ブリューニンク内閣と社会民主党の協調を弱める事態が起きます。１９３２年４月２４日のプロイセン州議会選挙でナチ党が１６２議席を獲得して第一党となり、社会民主党（９３議席）と中央党（６７議席）が過半数を失ったのです（他は、共産党５７議席、国家人民党３１議席、その他９議席）。ナチ党を始めとする右派は過半数に足りなかった為、ブラウンを州首相の座から引きずり下ろすことは出来ませんでしたが、議会の多数派を失ったことで、州政府は議案を通せなくなります。ブリューニンク首相が４月３０日に、ナチ党との連立には反対である旨を中央党首脳部に伝えた事も（言い換えるなら、プロイセン州での社会民主党と中央党の連立政権は維持するということになります）、社会民主党のブラウンを嫌悪している軍部を反ブリューニンク側に駆り立てることになりました。　シュライヒャーはこの状況を大いに利用して、新たな首相候補を探し、陸軍大学の同窓生であり、中央党の国会議員でもある、フランツ・フォン・パーペンをヒンデンブルクに勧めることにしました。　超保守的な社会で育ち、１９２１年にプロイセン州議会議員として政治家のキャリアをスタートさせたパーペンは、社会民主党の統治を根絶することこそ、重要と考えている人物でした。中央党に属していながら、プロイセン州での自党と社会民主党の連立を解消させようと工作し、１９２５年の大統領選挙では、中央党から出馬したマルクスではなく、ヒンデンブルクを支援したりもしたのです。こうした経緯から、ヒンデンブルクはパーペンに好意的でした。　更にパーペンは、１９３２年４月１５日付の機関誌「円環（リンク）」に、「右翼という有能な勢力を国家の側に引き寄せることが急務である」「共和国とプロイセン州が異なる勢力によって二元的に統治されるべきではない」という主旨の政治論文を発表し、しかも、大統領官邸に出向いて、この論文をヒンデンブルクの前で読み上げてもいました。パーペンの見解は、右翼政党・財界・大統領府・軍部からも歓迎されており、シュライヒャーにとっては、ブリューニンクの後任として最適でした。　こうなると、ブリューニンク首相は外堀を埋められたも同然です。５月２９日、休暇先のノイデックからベルリンの大統領官邸に戻ったヒンデンブルクは、ブリューニンクに「内閣が不人気すぎるので、退陣するよう」告げます。翌３０日に、ハインリッヒ・ブリューニンク内閣は総辞職しました。（「その４」へ続く）※　１２／８から書き始めましたが、公開は１２／１０※　１２／２４　一部に年号を挿入※　１／２３　一部文章を追加春橋哲史（ツイッターアカウント：haruhasiSF)

2012.12.08

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ヒトラーの権力獲得―民主主義者無き民主主義　その２

（「その１」からの続き）　　ブリューニンクが議会の解散を決定した頃は、１９２９年の世界大恐慌の影響も有り、ドイツ経済が果てしのない下り坂を歩んでいるとしか思えない状態でした。約２１００万人の就業者の内、約３００万人が失業し（失業率約１４％）、銀行利子は１２％の高率。工業生産高は１９２８年の３分の２に落ち込み、加工業の１６％が操業を停止していました。ベルリンの公益質屋の利用者は１９２５年の１０万人から１７万人に増え、定員を超過した無料宿泊所の前の路上は入り切れない人で溢れ、警官隊とのいざこざが絶えませんでした。駅の待合室や、安映画館、街頭や公園には、失業者がたむろし、職を持つ者と持たぬ者の間に、見えない敵意が飛び交っているような雰囲気でした。　この不況と不穏な空気を利用して勢力を伸ばそうとしていたのが、国家社会主義ドイツ労働者党でした（略称は「ＮＳＤＡＰ」とするべきですが、以後は「ナチス」と略称。元々は政敵が蔑称として使っていたものですが、本項では通称として使います）。　それまで、ドイツ国内には利益政党や階級政党しか存在しませんでしたが、ナチ党は初めて出現した国民政党でした。「労働者階級の救済・保護」を掲げつつ、「既得権益の保護・私有財産の保護」を掲げ、都市部の青年層の要求を受け入れつつ、農村の利益を代弁しようとしました。消費者の利益保護を謳いつつ、大規模小売店の規制強化を訴えて中小自営業者の支持を得ようとするなど、良く言えば融通無碍、悪く言えば好い加減でした。　ミュンヘン現代史研究所長のマルティン・プローザットが要約しています。「社会の枠組みを変えないで、従来の社会構成を存続させると同時に、現状を打破して、落ちぶれた中産階級を以前の地位に戻すような変革をする、という二枚看板を掲げた。それは、国民の広範な層が望むところだった」　当時のナチ党が勢力を拡大していく手段として見逃せないのが、若者、殊に学生への浸透でした。　あるナチ党大管区指導者の言葉－。「上級学校の高学年に宣伝活動の的を絞れば、その学校の若者達はあっさりとこちらになびく」。　若者達はナチ党の自衛組織であるＳＡ（突撃隊）を模範として行動し、暴力と暴言が彼らの武器となりました。共和国派の教師の授業をボイコットし、同調しない学生を襲撃し、教室を荒らすことも躊躇しませんでした。各地の大学では、ナチ党の学生組織が流血沙汰や暴力事件を引き起こしていました。　ヘッセン州内務省で過激派を監視していたバッハ参事官の分析－「ナチ党は、まず何よりも、青年達の政党であることに特徴がある。青年は元来、過激運動や反権力運動に傾斜しがちだが、そのことはナチ党入党者の大多数が３０歳未満であることからも証明されている」。　ＳＡは労働者の町やスラム街に実力部隊を派遣し、ドイツ共産党と暴力沙汰を起こすようになります。重軽傷者や死者が相次ぎ、１９２９年以降は特に顕著でした。　この情勢下で、ナチ党は勢力を拡大していきます。党員数は、１９２８年３月に８万５４６４人、１年後には１２万１１７８人、その１年後には２０万７６２４人、１９３１年末にはほぼ５０万人に達しています。　しかも、１９２９年の半ばに、ナチ党党首のアドルフ・ヒトラーは、アルフレード・フーゲンベルク（国家人民党党首。大富豪であり、メデイア王でもあった）の影響を強く受けている鉄兜団との抗争を避け、ドイツ共産党と社会主義インターナショナルへの攻撃を強化するように指示を出しています。暴力の矛先を限定することで、多数派を安心（＝油断）させ、選挙での票を獲得し易くしようという狙いがありました。　このような社会情勢とナチ党の勢いが加速し始めた時期に行われたのが、１９３０年９月１４日の総選挙でした。ナチ党宣伝部長であるグレゴール・シュトラッサーの手腕も有り、党は大勝利しました。　　前回、１９２８年５月２０日の総選挙では、約８１万票・得票率２．８％で、１２議席獲得でしかなかったナチ党が、約６４０万票・得票率１８．３％に跳ね上がり、１０７議席を獲得したのです。社会民主党は１０議席減らしつつも、第一党を維持し（１５３→１４３）、カトリック教会に基盤を置く中央党は議席を増やしながらも（７８→８７）、第二党の座をナチ党に明け渡します。そして、ドイツ共産党も中央党に次ぐ議席を獲得しました（５４→７７）。打撃を受けたのはブルジョア政党で、人民党・国家人民党とも、改選前のほぼ３分の１を失いました（人民党４５→３０／国家人民党7３→４１）。　この結果は、政界にパニックに近い衝撃を与えます。褐色軍団（ＳＡのシャツの色。元々は、オーストリア税関にあった余り物を流用）が既成政党の票を食い荒らしてここまで躍進するとは誰も予想していませんでした。　この時、陸軍にあって、ナチ党躍進に祝意を表したのが、ウルム駐屯の第５砲兵連隊の連隊長、ルードヴィッヒ・ベック大佐です。ベック大佐は、嘗て、３人の中尉がナチ党の宣伝文書を将校に配布して反逆罪で起訴された際に、３人の逮捕命令に抗議した筋金入りのナチシンパでした（後にベックは、ヒトラー政権誕生後に陸軍参謀総長に任じられますが、ヒトラーと対立。抗議の為に辞任し、１９４４年７月のヒトラー暗殺の陰謀に加担して処刑されます）。　とは言え、勝利したナチ党も内部が盤石ではありませんでした。８月末に、ＳＡ司令官代理のヴァルター・シュテンネスが、ＳＡの指導者を選挙の候補者とするよう要求し、選挙戦をボイコットする構えを見せたのです。ヒトラーの説得で騒ぎは収まりましたが、この一件で、ヒトラーはＳＡ最高司令官のプフェッファー・フォン・ザロモンを解任し、南アメリカのボリビアで軍事顧問をしていたエルンスト・レームを呼び寄せて後任に据えます、取り敢えずヒトラーは、党内の掌握に力を入れる必要に迫られていました。　　時系列は前後しますが、１９３１年４月には、このシュテンネスが再び、ヒトラーの党運営を不満として北部及び東部ドイツのＳＡを率いて反乱を起こします。レームはこの鎮圧に当たりますが、ＳＡの配下にある、ハインリッヒ・ヒムラー率いるＳＳ（親衛隊）が、いち早く制圧に成功しました。実際に鎮圧の指揮に当たったＳＳベルリン地区隊長クルト・ダリューゲへ、ヒトラーは感謝の意味を込めてこう書き送っています。「ＳＳ隊員よ、忠誠こそ、汝の名誉」。　総選挙の後、ブリューニンク首相は、ナチ党のハンブルク大管区の指導者であるアルベルト・クレプスを仲介役として、ヒトラーと接触を図ります。しかし、シュトラッサ―の邸宅で行われた話し合いで、ヒトラーは選挙戦の勝利者を気取って演説したものの、政権入りの気配は見せず、閣内に取り込もうというブリューニンクの意図は失敗しました。ブリューニンクが、ナチ党内部の抗争を正確に把握していれば、結果は違ったかも知れません。　ブルジョア政党が敗北し、ナチ党にも協力を断られたとなると、ブリューニンク首相に残された道は、オットー・ブラウンとの関係を修復し、再度、社会民主党と協調する事でした。ブラウンの側も、中央党と社会民主党の連立政権を作り、プロイセン州首相である自分が中央政府の副首相に就任するという連立構想を持ち出してきます。この構想が実現すれば、議会に多数を占める政権が誕生し、中央政府とプロイセン州政府との関係も円滑になると思われましたが、ヒンデンブルク大統領はこの案を一蹴します。社会民主党とは手を組まないという大統領の意向は不変でした。　連立政権構想は潰されたものの、ブラウンは、社会民主党の国会議員団に対して、ブリューニンク内閣とは対立しないように要請し、議員団もそれを受け入れます。社会民主党は、内閣不信任案を否決するのに協力し、大統領の緊急令を失効しないようにするなど、一定の範囲内でブリューニンク内閣に協力しました。　議会運営に目途をつけたブリューニンクにとって、喫緊の課題は経済危機でした。　１９３１年初頭にかけて、失業者は400万人にも達し、工業生産額は好況時のほぼ半額、ドイツ製品は海外での競争力を無くし、公務員への給与の支払いに立ち往生している赤字の自治体が続出していました。ブリューニンク内閣は物価統制令を出して、物価を統制令実施前の価格の最下限に固定し、金利も大統領緊急令で引き下げました。物価・金利とも、監視官が目を光らせることになり、合わせて、緊縮と増税が相次いで打ち出されます。　緊縮は－　賃金と給与を平均１７％削減。公務員給与の引き下げ。障碍者や傷痍軍人の年金の引き下げ。既婚女性への失業保険の支払い停止。児童手当の減額。生活保護の削減と、受給者の年齢引き上げ、等。　増税は－　所得税・売上税の増税。砂糖・ビール消費税の増税。ミネラルウォーター税・独身税・百貨店税の新設、等。　これらの施策は、ドイツ国内の不況を深刻化させるだけでした。消費者は売上税分を負担できず、事業者が負担しました。消費者がお金を遣わない為に内需は寧ろ縮小し、それが失業者の増加・手当の増加という悪循環に繋がります。当時は、「赤字財政支出」という方法は用いられておらず、ドイツ国立銀行総裁のハンス・ルターにしてから、「超デフレ政策によってデフレを退治する」という案を信じていました。（「その３」へ続く）※　書き始めたのは１２／８ですが、公開は１２／９※　１／２３　一部の文言を変更春橋哲史（ツイッターアカウント：haruhasiSF)

2012.12.08

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自民党本部前での抗議スピーチ

　選挙戦たけなわです。　１１月３０日と、１２月７日に、原発再稼動の抗議行動に行って来ました。　３０日には国会議事堂前のスピーチコーナーで、神奈川１０区の前議員と立候補予定者に個人として質問したことと、みんなの党の候補者から回答が来た旨を話しました。　私が話している時の動画は見付けられませんでしたが、ＩＷＪりのサイトに、当日の様子が動画で載っています。国会正門前にドラム隊が合流した時には、私もその場にいました。賑やかなシュプレヒコールで楽しかったです。パレードのノリですね。息長く続けるには、こういうノリが大事だと思います。121130 大飯原発を停止せよ！首相官邸前抗（ＩＷＪ）http://iwj.co.jp/wj/open/archives/42743　１２月７日は仕事の都合で、国会議事堂前に到着したのが１９時３５分頃でしたが、たまたま、宇都宮さんのスピーチの途中で、盛り上がっていたところでした。その後、東京８区で衆院選候補者の応援のボランティアを行っているという女性がスピーチし、「ウルトラマンタロウが・・・」と話していたのには笑いました。公職選挙法を摺り抜ける方法は色々とあるものです。　その後、締めのコールに参加してから、自民党本部前に移動。２０時半頃、私もここでスピーチしました。自民党本部に向かって、思いの丈を叩き付けたつもりです。この時の動画は下記のリンクに。私が出るのは３８分３０秒辺りからです。2012/12/07 自民党本部前抗議行動（ＩＷＪ）http://iwj.co.jp/wj/open/archives/43741　この日の自民党前抗議は70人を超えて過去最高だったそうです。「自民党粉砕！」「甘利を落とせ！」「晋三落とせ！」のコールは私も大いに楽しみました（締めのコールは５７分頃～）。　他の方のスピーチ、主催者の方のスピーチも聞かせます。政治家の演説より、有権者の生の声が響きますね。※１２／２４　動画の紹介の文章の一部を変更　

2012.12.08

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ヒトラーの権力獲得―民主主義者無き民主主義　その１

　総選挙は激戦となっています。マスゴミは「誰それがどこそこで～を言った・～をした」「～区では誰それが有利」と書くネタには困らないのでしょうが、そんなミクロの話より、もっと重大な問題があるでしょう。　今回の選挙は、「愛国心」「国防」を訴える政党・候補者が多くなったのも、一つの特徴です。嘗て、ドイツ第三帝国を誕生させ、独裁者となったアドルフ・ヒトラーの主張の一つも、「ドイツの統合」「ドイツの復活」でした。選挙を通じて合法的に首相の座に就いたヒトラーの軌跡を辿る事は、民主主義を考える上で、必要不可欠と思います。　数回に分けて、主として「ヒトラー・政権掌握の２０ヶ月」（グイド・クノップ著／中央公論社）と「ヒトラー独裁への道　ワイマール共和国崩壊まで」（ハインツ・ヘーネ著／朝日新聞社）を元に、ヒトラーの全権獲得までの経緯を追ってみます。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝　ヒトラー政権への道は、１９３０年３月２７日に、社会民主党のヘルマン・ミュラーを首班とする連立内閣が倒れた時から始まっていたと言えます。この日を境に、比較第一党の座を占めていた社会民主党はその後、二度と政権に手をかけることは無く、やがて、その比較第一党の座も、国家社会主義ドイツ労働者党（通称「ナチス」）に奪われ、最後には解体の憂き目を見ることになります。　しかし、この時、僅か１２議席に過ぎなかったナチスと、その党首であるアドルフ・ヒトラーを危険と見做す者はいませんでした。　ミュラー内閣の倒壊に至るまでには複雑な経緯がありますが、直接の理由はパウル・モルデンハウアー蔵相（人民党）の提示した財政再建策でした。１９２９年１０月の、ニューヨーク・ウォール街に端を発した大恐慌の荒波に呑み込まれたドイツでは、失業者が増大し、失業保険が巨額の赤字に陥りました。モルデンハウアー蔵相は、この穴埋めの為に、ドイツ国鉄の政府保有株の売却と、失業保険の料率を３．５％から４％に引き上げるという案を内閣に提示します。　１９３０年３月５日、全閣僚がこの案に賛成して閣議決定されますが、モルデンバウアーの出身政党である人民党が「資本家にとっても負担増となる失業保険料の料率引き上げは認めない」と強硬に主張したことで、各党間の調整は暗礁に乗り上げます。中央党国会議員団長のハインリッヒ・ブリューニンクが奔走し、３月２７日に「失業保険の赤字は政府が補填するが、保険料の料率引き上げは当分行わない」という妥協案が成立しますが、社会民主党左派の議員、ルドルフ・ヴェッセルとその一派が、この妥協案に強硬に反対を唱えました。反対の趣旨は、「何れは料率は引き上げられ、労働者階級が獲得した成果を放棄することになる」というもので、数時間の激論の挙句、採決が行われます。この結果、社会民主党議員のほぼ全員が妥協案反対に回り、社会民主党の閣僚は閣内に留まれなくなりました。社会民主党の議員団は、自党の首相と閣僚を見捨てた訳です。　退陣したミュラーの後継として、バウル・フォン・ヒンデンブルク大統領が任命したのは、中央党のブリューニンクでした。元々、ヒンデンブルク大統領は、労働者階級の政党である社会民主党に好感を持っておらず、中道政党が社会民主党の言いなりになっているように見える事についても同様でした。　その大統領に、ブリューニンクを売り込んだのが、国防省官房長のクルト・フォン・シュライヒャー陸軍少将です。豊富な人脈と情報網を持つシュライヒャーの言葉は大統領に響いたようで、ヒンデンブルク大統領は大統領府官房長のオットー・マイスナーと、息子のオスカールに「お前達はシュライヒャー将軍を頼りにすると良い。彼は賢明な男だ。政治から実に多くのことを学んでいる」とまで語っています。　シュライヒャーがブリューニンクを売り込んだのは、陸軍の為でもありました。当時のドイツ軍は第一次大戦の講和条約であるヴェルサイユ条約によって、１０万人規模に制限されていましたが、軍は軍備拡張の計画を持っており、「議会や政党のゴタゴタ」に邪魔されたくないという思惑がありました。シュライヒャーのこの思惑と、政党に不信感を持っている大統領の意向が一致したのです。　一方、ブリューニンク首相もシュライヒャーの狙いには気付いていました。議会や政党を無視して物事を進めようとすれば（ワイマール憲法第４８条に定められた大統領の非常時大権を使えば、議会の多数派を無視することは可能でした）、大統領の権限と権威に全面的に従うことになり、必然的に、大統領の側近に政治を牛耳られかねません。【注：第４８条（抜粋／参考にしたサイト）　ドイツ国内において、公共の安全および秩序に著しい障害が生じ、またはそのおそれがあるときは、大統領は、公共の安全および秩序を回復させるために必要な措置をとることができ、必要な場合には、武装兵力を用いて介入することができる。この目的のために、大統領は一時的に人身の自由・住居の不可侵・『信書・郵便・電信電話の秘密』・意見表明の自由・集会の権利・結社の権利・所有権の保障（の）全部または一部を停止することができる　大統領は、この条文の規定に基づき発せられた総ての措置を、直ちに、国会に対して通知しなければならない。　これらの措置は、国会の要求がある場合には、廃止されなければならない　（後略）】　そこでブリューニンクは、国会内の第一党である社会民主党と、個別案件ごとに連携しようとします。パイプ役となったのは、プロイセンの州政府首相オットー・ブラウンでした。プロイセン州は社会民主党と中央党の連立政権であり、社会民主党にとって中央党との連携は必須でした。社会民主党としても、ドイツ最大の州であるプロイセン州の政権を失うことはできず、両者とも互いを必要としていたのです。　ところが、ブリューニンクと社会民主党との「協調」を心よしとしない大統領官邸内の一派は、ブリューニンクとブラウンのパイプを断ち切ろうと、一計を案じます。　ヴェルサイユ条約によってプロイセン州内のラインラントとウェストファーレン地方では軍事訓練が禁止されていたこと、国粋派の民間軍事団体「鉄兜団」がその地域で武器使用の訓練を行っていたこと、ヒンデンブルク大統領が鉄兜団の名誉会員でもあったことが利用されます。　ブラウン首相がヴェルサイユ条約に従って「鉄兜団」の訓練を禁止していたので、大統領が鉄兜団の活動禁止を解除するように指示したのです。ブラウンがこれを拒絶すると、オスカールは父親に、ブラウン宛の公式書簡を発送するよう勧めました。　その書簡はヒンデンブルク大統領が「鉄兜団の活動禁止令は違憲である」ことを断定したものだったので、ブリューニンクは法律に則っての副署を留保し、書簡を大統領官邸に送り返しました。ここから、展開は泥沼の様相を呈していきます。　書簡が送り返された翌日には、大統領官邸によって全てが新聞に暴露されます。これは、ブリューニンクが大統領からの援助を当てにできなくなったことを意味し、やむを得ずブリューニンクは、プロイセン州の中央党を連立から離脱させるという脅しを使わざるを得なくなりました。プロイセン州の政権維持を優先した社会民主党は鉄兜団の問題でブラウンに譲歩させ、国会でも、折から審議中だった財政再建法案にも「反対しない」方針を決めます。しかし、「鉄兜団の活動禁止について、ブラウンを困らせるような要求をしたのはブリューニンクである」という噂が何処からか広まり、社会民主党は態度を硬化させます。この結果、１９３０年７月１６日、財政再建法案は国会で否決され、ブリューニンク首相は、これ以後、議会で多数の賛成を得る見込みが無くなります。　ブリューニンクにとって最後の手段は、ワイマール憲法第４８条に定められた大統領の非常時大権によって、財政再建法を施行することでした。この緊急令は１７日に出されますが、１８日には、社会民主党が緊急令の事後評決を求める動議を提出し、８票差で可決されます。緊急令は失効し、議会は解散されました。ブリューニンク内閣は、投票日を９月１４日と決定します。（「その２」へ続く）※　書き始めたのは１２／６ですが、公開は１２／９※　１／２３　数字を全角に改める。春橋哲史

2012.12.06

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日本共産党への要望－衆院選東京８区

　今回の衆院選で、自分の住んでいる神奈川１０区以外でどうしても気になるのが東京８区です。山本太郎さんには、是非、当選して欲しい。先程、どうしても黙っていられず、日本共産党中央委員会宛に下記のメールを送りました。「（挨拶文は略）　貴党の官邸前行動への毎回の参加とアピールは私も承知しており、この度の総選挙でも、脱原発を掲げる貴党の健闘と躍進を願っております。　貴党は２９９の選挙区で候補者を擁立なさいました。死票が多くなる小選挙区主体の選挙制度の下、比例票掘り起こしの為に全国で候補者をを擁立せざるを得なかった貴党の事情は十分に理解していますが、無理を承知で、一つだけお願いがあります。　衆院選東京８区の上保まさたけさんの立候補を取り下げて頂きたいのです。上保さんもこれまで準備してこられたのでしょうし、当然、小選挙区での当選を目指して選挙運動をしておられるのであろうことは承知していますが、東京８区には山本太郎さんが立候補しており、このままでは、「脱・原発」を求める票は貴党の上保さんと山本太郎さんに分散し、対立候補である自民・民主を利するだけとなります。　他の選挙区でも、脱原発を掲げる政党・候補者と競い合っている所は有るでしょうし、山本太郎さんだけ、特別扱いはできないというのは十分に分かります。ですが、山本太郎さんは、３．１１以来、これまで積み上げてきたご自身のキャリアを擲ち、仕事が減り、収入も減るのを覚悟で脱・原発実現の為に奔走してこられました。貴党の候補者もそれは同じだというのは分かります。無理に無理を重ねてのお願いは承知していますが、東京８区だけは、貴党の立候補を辞退して頂きたいのです。　山本太郎さんへの表立った支援が難しいのであれば、自主投票でも構いません。票の分散だけは避けて欲しいのです。　嘗て、川田悦子さんが衆院選に立候補した際、貴党は、立候補を辞退し、結果的に川田さんが当選できる状況を作って下さいました。それまでの準備を殆ど無にするような事だったでしょうから、貴党としても無理に無理を重ねての選択だったと思います。どうか、その時の勇断を、是非、もう一度、お願い致します。他の選挙区でも取り下げて下さいとは言いません。東京８区だけで結構です。　貴党の勇断に期待いたします。　乱文・雑文失礼致しました。（私の個人情報は略）」　返事が来るのかどうか、東京８区の上保さんが立候補を辞退するのかどうかは分かりませんが、有権者として、政治家や政党に意見や質問を投げかけていくのは当たり前です。　私も、無理を言っているのは分かるのですが、要望せずにはいられませんでした。　その他、総選挙関連のＷｅｂ記事へリンクを貼っておきます。２０１２年衆院選：山本太郎氏を日本未来の党が支持、嘉田代表も駆け付ける（オルタナ）　http://www.alterna.co.jp/10216【衆院選・東京８区】　石原親子と戦う山本太郎候補（田中龍作ジャーナル）　http://tanakaryusaku.jp/2012/12/0005757新党　今はひとり　http://imahahitori.jimdo.com/選挙情勢報道　「猛追、激しく追う」は5～9ポイント差ある（週刊ポスト）　http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121204-00000017-pseven-soci

2012.12.05

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いよいよ公示　各党公約へのリンク集

　第46回衆議院選挙が公示されました。　１２政党が入り乱れていますが、政策・主張を知るのに役立つように、各党の公約が掲載されているサイトへの直リンクを貼っておきます。五十音順です。今回の衆院選の公約をサイトに掲載していない政党に関しては、政策集へのリンクとしています。　毎回の事ですが、マスゴミ報道の聞きかじりで知ったつもり・分かっているつもりになるのは止めましょう。余計なフィルターを通さず、自分の目で読んだ方が確実です。公明党（代表　山口那津男）　http://www.komei.or.jp/normal 重点政策　manifesto２０１２　http://www.komei.or.jp/campaign/nipponsaiken/manifesto/ 国民新党（代表　自見庄三郎）　http://kokumin.or.jp/index.php/front/index２０１２政策集　日本再起動　http://kokumin.or.jp/index.php/pages/display/2 社会民主党（党首　福島瑞穂）　http://www5.sdp.or.jp/選挙公約　http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/2012/manifesto2012_00.htm 自由民主党（総裁　安倍晋三）　http://www.jimin.jp/政権公約　http://special.jimin.jp/political_promise/index.html?tg=revi 新党改革（代表　舛添要一）　http://shintokaikaku.jp/約束２０１２　http://shintokaikaku.jp/manifesto2012.html 新党大地（代表　鈴木宗男）　http://www.daichi.gr.jp/基本理念・綱領　http://www.daichi.gr.jp/about.html 新党日本（代表　田中康夫）　http://www.nippon-dream.com/２０１２年度版マニフェスト　http://www.nippon-dream.com/?p=9877 日本維新の会（代表　石原慎太郎）　http://j-ishin.jp/骨太２０１３～２０１６　http://j-ishin.jp/pdf/honebuto.pdf 日本共産党（委員長　志位和夫）　http://www.jcp.or.jp/２０１２総選挙政策　http://www.jcp.or.jp/web_policy/html/2012-senkyo.html 日本未来の党（代表　嘉田由紀子）　http://www.nippon-mirai.jp/未来への約束　http://www.nippon-mirai.jp/promise/index.html 民主党（代表　野田佳彦）　http://www.dpj.or.jp/special政権政策　Ｍａｎｉｆｅｓｔｏ　http://www.dpj.or.jp/special/manifesto みんなの党（代表　渡辺喜美）　http://www.your-party.jp/アジェンダ２０１２　http://www.your-party.jp/policy/manifest.html※12/6　誤字を修正

2012.12.05

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ニコニコ動画と日本記者クラブ―２つの公開討論会

　いよいよ、衆院選の告示が明日に迫りました。　ニコニコ動画と、日本記者クラブで公開討論会が行われたので、リンクを貼っておきます（ニコニコ動画の分は再掲となります）。「朝までナントカ」と違って、発言時間が公平に管理されているので、安心して観られます。　出席した党首の発言について批評を始めると切りがないので、差し控えます。　皆さん、とにかく観ましょう。以前も書きましたが、「マスゴミ」のまとめた「要旨」を読んで知った気になるなんて、以ての外です。「マスゴミ」は都合よく取り上げ、都合よく省略し、都合よく解説します。「マスゴミ」に触れる時間が有るのなら、討論会の視聴が優先です。【フルオープン】ネット党首討論会（ニコニコ動画／１時間４２分）http://live.nicovideo.jp/watch/lv116879569党首討論会（日本記者クラブ／第一部・１時間７分＋第二部・１時間２６分）http://www.jnpc.or.jp/※12/6　助詞を一部修正

2012.12.03

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